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魔法使いが足りない

 また退屈になりました。


 最近、ジーク君が俺の修行を受けようとしません。いつのまにか冒険者になっていて、修行よりも魔物を狩って、お金を稼ぐことを優先しているようです。


『修行より実戦が大事だと思うんです。いえ、その、魔物とか人間相手に戦ってる方が死の危険を感じなくて済むというわけではなくてですね。いや、楽なほうに逃げようとしているわけでは無いんです、本当に――』


 なんか、ジーク君が色々と言っていました。まぁ、強制ではないからいいんだけどね。弟子になりたいっていってたのは彼だし、やめたいって言うなら、やめてもいいんだけどね。

 でも、せっかく、俺がやっていた修行メニューを本格的にやらせていこうと思ったのにな。出鼻を挫かれたのは悲しいなぁ、機会があったらやらせるんで別に構わないけど。


 まぁ、そういうわけで、ジーク君の相手が出来なくなったので、仕方なく真面目に仕事をします。つっても、上がってきた報告を適当に読んでるだけですが。


『聖神教会革新派が、魔物製品は邪悪な存在である魔物を用いているため、それらを用いることは、神を冒涜する行いであると布告。市民に魔物製品を用いることの自粛を要請しています』


『一般食肉を取り扱っている業者が魔物肉の危険性を指摘。冒険者ギルドは即刻、取扱いを止めるようにと、食肉業者組合からの要請が来ています』


『魔石を使った魔法道具が普及し始めたことにより、魔法道具を作成することができる古式魔法使いの価値が上昇した結果、新式魔法使いが自分たちの権威が脅かされると危機感を覚えている模様』


『エダ村に先住していた村民からの反発が日増しに強まっています。数では魔物製品の製造に携わる新村民の方が多いものの、このままでは、いずれ暴動が起こる可能性が高い』


 探知一号が色々と持ってきてくれた情報なんかを見てみましたけど。良く分かりませんね。全部、無視して良いんじゃないかな。今の所は何かされたわけじゃないし、放っておいても良いと思うんだけど。

 それに危ない感じになったら、冒険者に守ってもらえばいいし、何とかしてもらえばいいんじゃないかな。こっちも人数増えてきたし大丈夫だよね。


『魔物の死体や魔石を直接届けるためエダ村を訪れる冒険者が増加、それによって宿泊施設が不足している』


 ああ、これは何とかしないといけないね。大きい宿泊施設を作ろうか。それと訓練場も作ってみたいな。俺もいっぱい弟子を取ってみたいし。うーん、冒険者ってみんな武装してるから重いし、半端な建物だとすぐ傷むから頑丈な建物が良いよね。砦みたいな感じの建物が良いかな。

 そうなると、予算がなぁ。どうするかね。魔法道具を増産してみようかしら。というわけで、魔法道具製造担当のオリアスさんを呼びましょう。


「現状、増産は無理だ」


 オリアスさんは開口一番そう言いました。

 無理は嘘つきの言葉だと俺は思うぞ。まずはやってみよう。出来るまでやり続けるんだよ。途中でやめてしまうから無理になるんだ。死ぬまで頑張ってみよう。死ぬまで頑張ってみて、駄目だったら俺も謝るよ。でも、死ぬまでやってできたなら無理じゃなかったわけだから、無理っていうのは嘘だったってことになるよな。無理っていうのは基本的に嘘つきの言葉なんだよ。

 ジーク君も俺の修行に対して『無理』とか、すぐに言うけど、最後までこなせるからな。追い込みかけりゃいくらでも、やれるんだよ人間て。

 でもまぁ、オリアスさんにも言い分はあるんだろう。少しは聞いてやろうかな


「理由を聞いても良いか?」

「まず、単純に人が足りない。魔法道具を作れる魔法使いが足りないってことだ。次に、質が足りない。これは魔法道具を新しく設計できるセンスの奴がいないってことだ」

「お前じゃ駄目なのか?」

「一人じゃ限界もある。というか限界だ。俺も他の魔法使いも魔法道具の製造で疲労がピークに達していて、どうにもならなくなってきている。増産どころか、今のペースで作り続けるのも無理に近い」


 だから、無理っていうんじゃねぇよ。頑張れよ。できるって、やれるって。死ぬ気になれば何でもできる。無理は嘘つきの言葉。これが、冒険者ギルドの合言葉な。


「なんとか、古式魔法使いを確保したいんだけどな。俺の方はどうにも。アロルドの伝手で集められないか?」

「無理だな。知り合いがいない」


 お前ねぇ、俺の交友関係ってたいしたことないんですよ。無理に決まってるじゃないですか。一週間合わないだけで、兄貴の顔も忘れるような男が伝手を持てるとでも? 無理です、無理無理、無理に決まってるじゃないですか。俺って、実は身体を動かす方が得意なタイプなんだよ。恥ずかしいから黙ってるけど。


「というわけで、現状は増産は無理だ。なんとかするためには、魔法使いを集めなきゃならん。まぁ、俺が魔法を教えている奴らもいるし、いずれ魔法使いも増えるだろうから、そのうち解決する問題だが」

「そうか、じゃあ今すぐの増産は諦めるしかないな」


 というわけで、魔法道具増産で大儲けは駄目そうです。無理はいけないよね。でも、帰りがけにオリアスさんが何か言っていました。


「はぁ、師匠とキリエがいりゃあな――」


 独り言キモイです。ヤメテクダサイ。俺の部屋でため息すんのもヤメテ、部屋の空気が淀みそうだから。はぁ、部屋の空気悪くなって居心地悪いし、俺もどっか遊びに行くかな。遊んでても、お金入る身分だし良いよね。


 というわけで、久しぶりに王都を散策してみました。いやぁ、空気が悪い悪い。下町の方はマシだけど。中心部に行くにつれてどんよりしてるね。なんか景気悪い感じかな。

 俺は元の値段は知らないけど、物価が高くなっているとか聞こえてくるね。王国南部が荒れていて南部の産物が届きにくくなっているせいだとか。あんな田舎の産物がそんなに価値があるわけはないと思うので、そういうことを言っている人には『商人が不正に値を釣り上げている』って、俺の予想を伝えておいた。まぁ実際は分からんけど。


 特にすることもなく、色々と街を散策していた俺だけど。ちょっと足を止めました。何故かっていうと、トラブルが起きていたからです。


「こっちへ来い!」

「大人しくしろ!」


 なんか白昼堂々、男たちが女の子を攫おうとしてますよ。その人らを中心に野次馬が輪を作っていますが、なんで女の子を助けないんですかね? 俺は助けますよ。普通助けるでしょ。女の子が悪いのかもしれないけど、その時は御免、俺が代わりに女の子を懲らしめるので、許してって感じで、石を拾って投げました。

 石は直撃、男の一人が倒れたので、女の子と男の間に飛び込んで、もう一人男を殴り倒します。一発で倒れるとか根性が無いな。なんか別の男が魔法を発動しようとしてので、魔法を撃たれる前に距離を詰めて、やっぱり殴り倒しておく。


「アロルド・アークス! 貴様、どういうつもりだ!」


 残った男の一人が、俺の名前を呼びましたが、知らない人ですね。俺と同じくらいの歳頃だと思うんですけど、そういう歳頃で知り合いとなると、学園にいた頃の人しかいないんですけどね。良く分かりませんが、多分知らない人でしょう。


「どういうつもりだと言われてもな。真昼間から女を攫おうとしている、馬鹿どもをとっちめただけだが?」


 なんか、すごく睨まれてます。まぁ、女の子と仲良くしたかったのかもしれないけど、乱暴なことはしては駄目だと思うよ。次、頑張ってということで。


「まぁ、今日は見逃してやる。次はちゃんと女性の口説き方を学んでから来るんだな。また恥をかきたくはないだろう?」

「貴様っ……!」


 やっぱり睨んでますね。どこのどなたさんなんでしょうか? 人の顔を憶えられないんだよな、俺って。


「く、憶えておけ!」

「ああ、頑張って憶えておくよ。他に重要なことがなければだがな」


 うん、ホントに頑張って憶えておくから。でも、俺も色々あるから忘れてしまうかもしれないけど、その時は許してね。おや、なんか帰って行きますね。さようなら。最後まで、俺を睨んでいましたがなんなんでしょうね。怖いなぁ。


「あの……ありがとう……」


 あら、お嬢さん。無事でしたか。元気そうで何よりです。しかし、魔法使いみたいな格好している子だな。なんか貧相な体格だし、あんまり関心が湧かないな。


「別にたいしたことはしていない。女性が暴漢に絡まれていたら助けるのが筋だろう?」


 普通はそうするよね? なんで周りの野次馬はやらなかったんだろうね。おや、野次馬さんたちがそそくさと逃げていきますね。まぁ、たいしたことじゃないから別に良いけど。


「でも、あの人たちは……」

「それも含めてたいしたことではないつもりだ。あの程度ならなんとかなるだろうし、取り立てて騒ぐようなことでもないだろう」


 まぁ、雑魚だったし、大騒ぎすることじゃないよね。アレだったら、百人ぐらい相手にしても平気そう。まぁ、それは良いとして、なんなんですかね、この貧相さんは、辛気臭いなぁ。関わらんといた方が良かったかな。


「……あの、私の名前はキリエ……、名乗ってなかったから。その……」


 え、なんで名乗ってんの? 名前を教えて欲しいとか、俺一言も言ってないよね。ちょっと、怖いんだけど。え、これって俺も名乗らないといけない系ですか? 初対面の人に個人情報晒すの? すっごく、不安なんだけど。というか、怖いんだけど。何を狙ってんの、この貧相さん?


「アロルド、ありがとう……」


 あ、俺の名前知っていたんですか。じゃあ、名乗らなくていいか、安心安心。あれ、でも初対面のはずなのに、なんで俺の名前知ってんだ、こいつ。え、良く考えると怖くない?


 もしかして、俺はこの貧相さんを助けるべきじゃなかったのかもしれない。何か嫌な予感がするぞ。これから、事件が起きそうだっていう嫌な予感が。





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