アラン・アークス
番外編は思い付いたエピソードごとに書いているだけなので、時系列は滅茶苦茶です。
色々とあって子供ができました。
いや、実際には色々って言葉では表せない大変なことがあったんだけどね。エリアナさんの『マリッジブルー事件』、カタリナの『聖女なのに非処女って大丈夫?事件』、キリエちゃんの『見た目が子供なんですけど事件』、ヒルダの『昔の婚約者が取り戻しに来た事件』。
それだけじゃなく結婚式の式場を決めたり、お客さんはどれくらい呼ぶのかとかスゲェ揉めたのを覚えてる。実際にはエリアナさんとエリアナさんのお母さんが、親子で『私の考えた最高の結婚式』を押し付け合ってだけなんだけどね。
ちなみに、そうして揉めてる間に俺の童貞はメイド長に奪われました。しばらく戦いが無かったせいで、勘が鈍っていたのか、酒に睡眠薬を盛られていたのに気付かず、起きたら鎖に繋がれてベッドの上。
『一度も経験が無いから、踏み切れないのです』
そんなことをメイド長に言われて、俺の初めては蹂躙されました。
まぁ、歳は三十とかだけど美人だから、許そうと思う。ただ、俺は今後一生、初体験の話をする時は、年増に鎖に繋がれて奪われたって言わないといけないので、その点は結構ツラかったりする。
そんな風に色々ありつつも結婚式は無事に済み、その後の初夜も、まぁ何とかなったよ。
男っていう生き物がそもそもそういう物なのか、それとも俺がお猿さんなのか分からんけど、一回経験すると躊躇が無くなるもんなのか、俺はお嫁さん達と爛れた生活を送ってみたりしつつ、気合と根性で真っ当な生活を送れるように努力したり、それが出来なくて帝国の方に自分を見つめなおす旅に出たり——
まぁ、色々あったけどもヤることはヤっていたんで、そうなれば子供ができるのは自然の摂理。そうして俺とエリアナさんの間に子供ができました。
俺は親になるってことがどういうことなのか、その時は良く分かってなかったから、まぁ何とかなるだろうって楽天的な気分で俺とエリアナさんの子供の誕生を無邪気に祝ってました。
俺とエリアナさんの間に生まれたのは男の子で名前はアラン・アークス。
俺の初めての子供でアークス王家の第一王子ってことになるから、次の王様だねってエリアナさんと能天気に話しつつ、お腹が膨らみつつあったカタリナやヒルダの子供は男の子かな? 女の子かな?って楽しい気分で話していましたし、俺以外のヴェルマー王国人も世継ぎが生まれたって祝賀ムードだったね。
—―で、生まれたアランだけど、俺は別に才能が無くても良いかなぁって思っていたし、駄目なら駄目でも幸せに生きれる程度の手助けはしようって思っていたんだけど、その心配は無くてスゲー優秀でした。
エリアナさん譲りの美貌と知性に俺の腕力を受け継いでいたアランは神童と呼ばれていました。
5歳にして大人が舌を巻くほどの知能と弁舌の巧みさ、ヴェルマー人に必須の腕っぷしの強さも7歳頃には喧嘩を売って来たゴロツキを殴り殺せる程度に達していた。
ただまぁ、そんなアランにもちょっと問題はあって……自分の子供に問題があるとは思いたくないけど、ちょっと凶暴かなぁって思ったり思わなかったり……
頭も良いし口も上手いのに、話が通じないと見るや速攻で殺しにかかるのはパパとしてはどうかと思ったんだよね。ちょっと口論になったからって、相手の頭を落ちていた石でかち割るのは駄目だと思うんだ。
「なんですか、父上」
どうにも乱暴さが収まらないアランに対して、俺はアランを呼びつけ言ったんだ。
「少し二人で出かけないか?」
父と子の二人きりでちょっと旅でもすれば何か理解し合う切っ掛けみたいなのが掴めるかなぁって思ってアランを誘って俺は旅に出ました。
その時の俺は息子が何を考えてるか分からなかったから、ちょっとおかしくなってたのかもしれないね。
当時、友好関係を結んでいた獣人の国の王様が言っていた『獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすものだ』っていうは何を真に受けてしまって、アランを連れてガルデナ山脈に旅立ってしまったんだよね。
だって、ヴェルマー王国で千尋の谷って言える場所はガルデナ山脈しかなかったからさぁ。
—―で、旅をしながらアランと話していると、アランの中には抑え切れない暴力への渇望があるみたいなことが分かった。
まぁ、俺もたまに人間をぶち殺したいって気分になることはあるし、分かる気もするんで、ちょっとアドバイスをしてみたりして親子関係を再構築したりした。ついでにアランから俺のようになりたいっていう夢を聞いたりしてさ。ちょっとパパとしては感動したんだよね。息子の目標になってるとか親としては嬉しいもんだって理解したね。
そういう親子の交流をしながら、俺たちはガルデナ山脈を旅して、ついに千尋の谷って言えるような場所に辿り着いた。だけども、ちょっと谷を見下ろして思ったね。
『ここに突き落とした普通に死ぬんじゃね?』
底が見えない谷に息子を突き落とすとか正気じゃねぇよ。
俺は獅子とかいう動物は頭がおかしいんだなって理解して落とすのを諦めて、別の突き落とす場所を探し、近くに小さい穴あったんで、そこにアランを突き落とそうと思ったんだけど——
「あばよ、親父」
俺が突き落とすより先にアランが俺を谷に突き落としました。
スゲェよな、この時のアランは何歳だと思います? 7歳ですよ、7歳。
俺のようになりたいっていうのは王様になりたいってことだし、手っ取り早く俺をぶっ殺そうと思ってたんだろうね。
ぶっちゃけ、パパとしては誇らしかったりもするんだ。どこの世界の7歳がこんなことできます? 世界に神童は数いれども俺の息子程の奴は中々いないだろう。
「なめるなよ、息子」
素晴らしい息子に俺はちょっと本気を見せてやろうと思い、谷底へ真っ逆さまに落ちる中で谷の壁面に手を伸ばして、落下しきるのを防ぎ、そのまま壁面を登って息子の元に戻る。
「詰めが甘い」
アランは俺が戻ってくるとは想像もしていなかったようで、移動せずにその場に座って休憩をしており、戻ってきた俺を見て驚愕の表情を浮かべていた。そんなアランに対して、俺はお返しに谷底へ投げ飛ばしてやった。
俺が投げ飛ばすとアランは帰ってくることはなく、谷から這い上がってくることも無かった。
流石にマズいかなぁと思いつつも、まぁ大丈夫かなぁって気もしたんで、俺は自分の城に帰りました。
城に帰るとエリアナさんにマジギレされた。
事情をほどほどに説明し、嘘をついてジーク君が修行をつけてるって言ったら信じてくれたんで助かった。
もしかしたら帰ってこないかもしれないけど、そしたらマズいよなぁって思いつつ、アランを谷に投げ飛ばしてから5年後、アランは無事に帰ってきました。
帰ってくるまでに相当な修羅場を潜って来たのか12歳にして詰めの甘さなんて微塵も感じられないほどの、凄まじい戦士になってくれていたんで、俺の教育方針も間違っていなかったかな。
王の子であるアランが5年間も放浪していたんだから、俺の臣下も自分の子を放浪させるべきっていう空気が当時のヴェルマーの貴族の間では生まれて、10歳以上の貴族家の男子は最高5年の間、家族の支援を受けず、自分の力だけを頼みに放浪をしなければいけない風習が生まれたりもしました。
まぁ、それはどうでも良いけど、帰ってきたアランは別人のように穏やかになっていました。まぁ、穏やかなふりだけどね。
ただまぁ、そういうふりができる程度には人間ができたので父親としては言うことは無いかな。
それから数年はアランも特に何か事件を起こすことも無く、当時はエルフやドワーフなんかの亜人との小競り合いがあったので、それに加わったりして、敵の首を数十個、俺の前に積み上げたりしてくれました。
アランが15歳になった時に、俺は見聞を広めるようにってことで、アドラ王国――当時は既に共和国へ留学させたりもしたんだけど、案の定トラブルを起こし、留学先を数か月で退学。その後は俺に内緒でイグニス帝国を旅したり、東の群島諸国を回っていたみたい。
そしてそんな旅を終えて帰ってきた頃には色々な経験を積んで心境の変化もあったのかアランも立派な大人になっており、本格化しつつあった亜人戦争では俺の代わりにヴェルマー王国を率いてエルフとドワーフの連合を打ち破ってくれた。
俺の前にエルフとドワーフの将軍の首を並べたアランに俺は望みを聞く。勝利に貢献してくれたんだから、相応の物は用意しないとなぁって思っていんだけど、アランの望みはというと——
「俺と戦ってくれ。親父殿」
俺との決闘がアランの望みでした。
で、その結果はというと——まぁ、それは良いじゃない。別に勝敗なんてどうでも良いだろ? いい年こいて自分が一番強くなきゃ我慢できないってのもカッコ悪いし、それに張り合う相手が息子だぜ? 自分の息子相手に絶対に負けないって意地を張れるかって話さ。
勝敗についてだって、その時の俺は歳を取ったなぁって実感できるくらいに衰えが見えていたのに対し、アランは全盛期だった。その情報があれば充分だろ? ついでに、決闘の後でアランがヴェルマー王になったってことも付け加えれば、勝敗をハッキリ語る必要も無いと思わないか?
それが良いことなのかは良く分からんけど、俺の子供たちはアラン以外はみんな権力に対して欲が無かったし、アランほど優秀でも無かったから、アラン以外を王に推す声も無かったしアランが王になることに対して誰も異論を挟まなかった。
親父としては息子が無事に跡を継いでくれただけで、特に言うことは無い。
出来事だけを羅列すると、とんでもない息子だったけど、可愛げもある奴だった。
何かあると、すぐに俺に自分の成果とか活躍を自慢しに来るし、基本的には甘えん坊だった。無茶をやっても俺に許してもらえるって心の底から信じていたし、何をやっても俺なら何とかなるだろうっていう根拠のない信頼があった。でもまぁ、親と子ってのはそんなもんなんじゃないかな。
まぁこんな風に、色々とあって子供が出来て、子供が生まれてからも色々あったっていうそれだけの話さ。
アランは俺の跡を継いでヴェルマー王国を繁栄に導き、俺はそのおかげで隠居生活に入ることも出来た。もっとも、本格的に隠居できるようになるのは、もっと先の話になるんですけどね。
誤字報告に感謝。
新作もよろしく。




