終わった後の話
セイリオスを倒して帰った俺を待っていたのは労いの言葉ではなく、お叱りの言葉でした。
どうして一人で勝手にいなくなったのかってをみんなに本気で責められました。いや、でもさぁ、最近なんだか、俺に仕事をさせてくれないじゃない?
俺がセイリオスを殺しに行くって言っても行かせてくれなかっただろうし、仮に行くことが出来たとしても一人では行かせてくれなかっただろうしさ。
俺と一対一って状況じゃなければセイリオスは逃げたと思うんだ。俺の他に何人もいるんだったら、自分に言い訳が出来るから逃げることも優先できるだろうけど、弟の俺と一対一という状況だったら、自分を納得できる言い訳も思いつかないし、兄としての意地もあるから逃げたりできないと思うんだ。
というわけで、俺が一人で行く以外にセイリオスを止める手立ては無かったと思うんだが、どうでしょうか?
とりあえず、セイリオスをぶっ殺してきたってことを伝えたら許してもらえました。
死体は置いてきたままなので、回収してきてって命令も出して後はお任せ。セイリオスの死体に関しては俺の管轄外ってことでよろしくしておきました。
まぁ、一応あれでも兄上なわけだし、死体を見ていて気分がいいもんでもないし、俺はもう関わりたくないって思ったりしてます。セイリオスの死体をどう扱うかは、それに関しての責任を放棄した俺が口出しすることじゃないけど、何かするなら俺の見えない所でやって欲しいね。
「逆賊セイリオス・アークスは死んだ!」
ウーゼル殿下が何やら騒いでいたけど、俺はもう知りません。
話を聞く限りでは民衆、兵士、貴族の前にセイリオスの死体を晒して、その上で首を斬り落としたとか。
ついでに全ての黒幕がセイリオスだったってことも暴露していたんで、凄い歓声だったようです。
セイリオスが黒幕だったってことの証拠は帝国の皇女のライレーリアちゃんが話してくれました。ライレーリアちゃんも騙されていたみたいだね。
伝聞調なのは、俺が詳しく知りたいとも思わなかったからです。俺としてはセイリオスの話はもういいよって感じで、あんまり知りたい話じゃなかったから、ちゃんと聞いてませんでした。
ライレーリアちゃんの話が出たから、ライレーリアちゃんの処遇についても触れておくけど、あの子に関してはノールに一任してるんで俺は知らない。まぁ、帝国に送り返すとか連れて帰るとか、そんな感じだろう。
ライレーリアちゃんの気持ちはともかく、ノールとしては妹に憎しみなんかは無いし、妹の命を奪うのに抵抗があるみたいだから、そういう気持ちは尊重してあげないとね。
片方に歩み寄る姿勢がある以上、ウチの兄弟よりはマトモな結末になるんじゃないかなって思います。
そうそう大事なことを忘れていた。
王城は普通に制圧できたんで、王都アドラスティアは奪還できました。
そんでもって王城は今現在、俺の城です。だって、制圧したのは俺の軍ですし、当然だよね。
でもまぁ、中には俺がセイリオスの弟で帝国に手を貸したアークス家ってことで文句をつけて、俺を処罰しようとする人たちもいたけれど、そういう人たちに関してはグレアムさんとかが説得してくれたようです。
そんなわけで色々と揉めることはあったりしたけど、最終的にはみんなが俺に従い、そうこうしている内に戦勝の宴会をすることになりました。
「国王陛下の御来場……」
玉座の間を一時改装した宴会場にアドラ王国の王様が入ってくるけど、王様が来るってことを伝える先触れの人は元気が無い。ついでに言うと、王様もうなだれた様子で宴会場に入ってくる。
「盛大に迎えてやれ」
宴会場いる奴らが、王様を無視していたので、俺はもうちょっと歓迎するように言いました。すると、宴会場にいる全員が床から立ち上がり、王様に大きな拍手をして出迎える。
ちなみに、どうして床から立ち上がったかと言うと、今回の戦いに貢献してくれたドラケン族とハイアン人は床に座って食事をするらしいから、その流儀に則ったためです。なので、宴会場には椅子は無くて床に腰を下ろしているし、机も無くて床の上に料理が乗った皿が所狭しと並んでいる感じです。
『品が無い』
そんなことを言う人がいたけど、その人は戦で活躍していたわけではないから、宴会の参加資格がないんで、好きに言わせておきました。役立たずに発言権が無いわけではないけど、発言を受け入れてもらえる率は減るよね。
やっぱり、多少は貢献して貰わないと、それなりの処遇をできないわけで、そういうわけで宴会に参加してるのはヴェルマーの兵士と東部から来てくれたドラケン族とハイアン人が殆どです。だって活躍してくれたの彼らくらいだしさ。
「だからさぁ、野菜はいらねぇって言ってるじゃん。知ってるか? 野菜を食うと糞が出やすくなるんだぞ、俺が糞をしたら困るのはキミだって分かってんだろ?」
一応、リギエルも貢献してくれたので待遇は良くしています。そのリギエルだけど、犬の餌をいれるような皿に宴会の料理を雑に乗せた物に顔を突っ込んで食事しています。この犬野郎、メシを食う時に絶対に手を使わなくて、犬みたいに更に頭を突っ込んで食うんだよね。
ちなみに、そのザマにいらついて蹴っ飛ばすと喜びます。それと首に紐をつけて散歩させると喜ぶんで変態だと思います。
そんな変態でも軍を率いる人材としては最高なんで俺の側近という扱いで上座に座っていて、宴会場に入ってくる王様を見下ろす側です。
玉座の間の奥側——ようするに玉座が置かれる場所が、この宴会場では上座に当たるわけなんだけど、宴会をする都合上、玉座は取り外し、玉座のあった場所にクッションとか絨毯とかをひいて俺はその上に寝転がりながら、薄着の女の子からお酌を受けている状況で、王様が俺の近くまで来るのを待っています。
時々、女の子が体を密着させてくるけど、あんまり興味が無いんで無視。俺は婚約者がいますし、誘惑はされません。ただまぁ、女の子の体の柔らかさは堪能しますがね。
「もう少し人を斬っておきたかったなぁ」
俺のそばで胡坐をかいて酒をあおっているグレアムさんがオリアスさんと話している。
「俺はさっさと帰って研究をしてぇなぁ」
マイス平原の戦いでは活躍した二人だけど、王都を攻略するときにはあんまり働けなかったみたいです。でもまぁ、長い付き合いだし、色々と頼りになるんで俺の側近って感じで近くに座ってもらってます。
その二人の近くにヨゥドリも座っているけど、ヨゥドリの近くには文官っぽい人達や給仕の人達が集まってヨゥドリに指図を受けている。荒事よりも、執事みたいな仕事をしてる方が合ってるようだね。
様子を眺めていたら、ヨゥドリと目が合ったので、ちょっと来いって手招きをする。俺が呼ぶと何を置いても真っ先に駆けつけてくれます。
「何か?」
「ジークはどうした?」
小耳に挟んだんだけど、ノール達が城に乗り込む前にジーク君はセイリオスと戦っていたみたい。
その時に怪我したらしいけど、無事なんだろうか気になったんで聞いてみたんだけど——
「旅立ちました」
あ、死んじゃったんですか。
「本人が言うには大口を叩いて出て行ったのに、結果的には助けてもらい、そのうえ治療までしてもらうなど、閣下に合わせる顔が無いとのこと」
あ、生きてるのね。なら安心です。
「自分の不甲斐なさを痛感したらしく修行の旅に出ると言っていました。いつか閣下より強くなって帰ってくるとも」
別に気にしなくても良いのにな。ところで、ヨゥドリは引き留めたりしなかったんですかね?
もしかして、喜んで旅立ちを見送ったりしてません? ジーク君とヨゥドリは仲が悪いし——
「一応、引き留めましたが、意志は固く。とりあえず路銀を多めに渡し、それとヴェルマー候の関係者であるということを証明できるものも渡し、旅に困らないようにはしましたが……」
それなら良いか。気付いたけど、ちょっと怖い顔になってたかも、俺。
ジーク君だって、良いお年頃なんだし、そんなに心配するのも失礼だよね。
俺は旅の無事を祈るくらいでいいかもな。帰ってきたら盛大に迎えてやるだけでも充分だと思うんだ。
「遅れてすまない」
ヨゥドリと話していたらノールがやって来て、俺の隣に座る。
それを見たヨゥドリが俺に頭を下げて立ち去っていった。別に気を遣わなくても良いのにね。
「どうした?」
「妹と話していた」
女の子がノールの杯に酒を注ぎ、ノールに体を寄せる。
傭兵なのか、皇子なのか、結局どっちなんだか良く分かんないけど、とりあえず皇子ってことになってるらしいから、この場においては俺の次くらいに偉いんで、女の子たちも頑張って接待しようとするよね。でも、ノールはいらないようで女の子に対して、必要ないというしぐさをする。
こういう場に呼ばれる人達だから、空気は読めるんで、俺達のそばから女の子が離れて、俺とノールの二人きりになる。
「何を話した?」
「特には何も」
ふーん。
まぁ、そんなもんか。
「強いて言えば妹が私に抱いていた思いを全てぶつけられたよ」
特に何も無くないじゃん。大事件じゃん。
そういうところで特に何もって言うのが問題なんじゃないですかね。
「それで私も色々と思う所があってだな——」
ふんふん、それで?
「私は皇帝を目指すことを決めた」
はぁ、そうですか。
そもそも皇帝ってなろうと思ってなれるものなんですかね?
俺は帝国のそういう仕組みを知らないから、何とも言えないんだけど。
「私は私自身の生き方に不満は無いが、そんな私に不満を持っている者もいたことを思い知った。誰かに期待されているのなら、その期待に応えてやることも、才や力を持つ者の責務なのではないかと考えたんだ」
ライレーリアちゃんが期待してたとか、そんな話なんかね?
頼りにならないクソみたいな兄貴だったから、そんな兄貴にデカい顔をさせておけねぇって、一人でエキサイトして、王国に攻め込んで自分の方が兄貴より上だって証明したかったとかそういうことなんだろうか?
それを知って、ノールは自分もちょっとしっかりしないとなぁって思って皇帝を目指すとかそういう話なんだと思うけど、これで正解だろうか?
「そうか」
とりあえず、良いじゃないって感じで頷いておきました。
皇帝だとかの話は他所の国の問題なんで、俺には直接は関係ないし、真剣に考えることじゃないね。でも、実はそうもいかない問題だったらしく、頷いた俺を見てノールは満足げな表情を浮かべ——
「――そういうわけで、私が皇帝になる際には手助けをしてほしい」
え、なんで?
「よもや、断るようなことはしないだろう? 私だって手を貸したのだから、今度はそちらが借りを返す番だ」
あぁ、そうね。
今回の戦ではノールにも世話になってるし、それなら仕方ない。受けた恩は返すのが人として正しいからね。
「任せておけ」
「助かる」
困った時は助け合いさ。麗しい人と人の絆って奴だね。
現実には色々と考えないといけない問題もあるのかもしれないけど、そういうのはそういうことを気にしていないと生きていけない人達に任せて、俺は勝手にやらせてもらいましょう。
「なに? なんか悪だくみをしてるのか?」
酒に酔ったリギエルが四つん這いで俺達のもとに這いよってくる。
「ノールが皇帝を目指すらしい」
隠すようなことでもないかなと思ったので、俺は普通にリギエルに話しました。
リギエルは別段、驚く様子も無く、俺の言葉を聞いても平然としながら、ノールに訊ねる。
「傭兵はいるか?」
「勿論だ。リギエル殿には最初から頼むつもりだったからな」
ノールとリギエルの二人が手を組んで皇帝を目指すのか。なんだか楽しそうで良いね。既にノールとリギエルは二人で内緒話をしながら、今後の計画を練っているし、上手くいくんではなかろうか。
それに対して、俺はどうすっかなぁって感じです。
俺は今後の計画とかいう物は何も無いんだよね。とりあえず、自分の領地を発展させるくらいしかやることが残されてないんだよな。それだけだと地味な気もするし、いっそ——
「俺も皇帝でも目指してみるか」
俺が呟くと、俺の近くにいた奴らの視線が俺に集まる。
グレアムさんにオリアスさん、ヨゥドリにノールにリギエル。
全員が期待の眼差しで俺を見る。でも悪いけど——
「冗談だ」
俺はヴェルマーだけで良いし、それで充分かなって思うんだよね。
アドラ王国を征服して、イグニス帝国を侵略し、全てを自分の物にするとか、ちょっと面倒くさい。
そもそも、ノールが皇帝になるって言ってるのに、俺がその座を奪い取るのってどうなのって思うんだ。つーか、なんでノールとリギエルも俺に期待の眼差しを向けるの? 俺が皇帝になった方は都合が良いと思ってんのか?
俺の言葉が冗談だと分かると、みんなが露骨に溜息を吐く。
そんな中、空気の読めない声が俺達のもとに届いた。
「ヴェルマー候」
辛気臭い声で俺を呼ぶのは王様でした。アドラ王国の王様ね。
いつの間にか、俺の中で陛下って呼ばなくなった王様です。
王様が俺の前に立つと、俺と一緒に上座に座っている連中――グレアムさん、オリアスさん、ヨゥドリ、ノール、リギエルがジロリと王様を睨みつける。
一瞬で空気が悪くなってしまったんだが、どうしてくれるんですかね。
「何かご用で?」
ヨゥドリが愛想の無い態度で王様に応対する。
ヨゥドリが特別愛想が悪いわけでなく、俺の周りの連中はみんな同じような態度です。なんでこんなに態度が悪いかというと、原因は王様の側にあったりする。
みんなの王様に対する態度が悪いのは逆賊セイリオスの親族に大っぴらに褒美を与えるのは憚られるし、他の貴族にも示しがつかないとかなんとかいって、出し渋ったからなんだよね。
それでグレアムさんを筆頭に、俺の手下どもが本気で怒ったりしたため、態度が悪くなっています。
「褒美の件で——」
王様が口を開いた瞬間、グレアムさんが近くにあった酒瓶を思いっきり蹴っ飛ばした。
「ほ、報酬の件で、お話しが……」
あ、言い直しました。
グレアムさん的に褒美って言葉は気に入らなかったんだろう。厳密な意味はどうなのかは分からないけど、褒美って上の立場が下の立場の奴に与える物って感じがするし、王様から褒美をもらったら、俺達の方が下の立場みたいになるし、グレアムさん的にはそれが嫌だったんでしょう。俺は別に嫌じゃないけどね。
「聞こう」
報酬は契約を果たした上で貰えるだから、気に入らなければ文句をつけるのも有りだよね。
でも、褒美だと、褒美を貰っておいてそれにケチをつけるっておかしい感じもするから、報酬の方が交渉の余地があるよね。
「やはり、我が国の国庫に余裕は無く……報酬に関してはその——」
俺の周りだけでなく宴会場にいる奴らの体から殺気が溢れ出す。
頑張って戦ったのに、お金とか貰えないとなれば面白くないよね。貰えないなら、損をしないためにどっかから奪って来るしかないし、奪うなら手近な所で済ませたいから、王都で略奪するしかないかな。良くない気もするけど、俺的には王都の人より自分の領民でもある兵士たちの方が大事だし、そいつらの懐が潤う方が俺も嬉しい。
「用意できなくはないはずですが? まぁ、我々が要求する額を払えば、王国の復興はできなくなりますが、それでも何とかするのが、国のために戦った者に対する誠意では?」
お金関係はヨゥドリに任せているんで、王様との話はヨゥドリが頑張ってくれています。
「ケイネンハイム大公家を含めた東部貴族の戦費の補償。ドラケン族及びハイアン人に対する王国への居住権の保障と移住及び彼らの自治区の創設。これが東部の貴族の要求です」
王様は頑張って払おうね。
「私が率いてきた帝国軍の将兵にも何かしらの報酬が欲しい所だな。出来れば金銭が良い。それと捕虜にされた帝国兵は連れ帰るので、王国側は速やかに引き渡すように。その際に王国側から、彼らの分の食糧などを提供して欲しい」
「ついでに俺の手下の傭兵たちにも金をくれよ」
ノールの要求に続けてリギエルも報酬を要求する。リギエルに関しては俺とケイネンハイムさんの所から金を出してはいるんだけど、それに加えて王様からも金を貰おうとしていました。
ここまででも相当な額を払わなければいけなそうだけど、それでもまだ前座なんだよね。
本題はここからで、その本題ってのはヴェルマーに対する報酬で、俺への報酬でもあります。
「我々の要求についてはこれをご覧ください」
ヨゥドリが王様に近づき、紙を渡す。
口頭で説明すると長くなるから、紙に書いたんで読んでねってことらしい。
王様は受け取った紙に目を走らせるが、すぐに震え始め、そして叫ぶ。
「こんなもの払えるわけがない!」
いったい、どれくらい要求したんでしょうね。
「こんな額を払った国が滅ぶ!」
マジか。そんなにぼったくり?
俺は関知していないし、全部ヨゥドリに任せちゃってるんだよね。
「我々は貴様らだけでなく、他の貴族にも褒美を与えねばならぬのだ。そもそも、お前たちに払える額には限度があると分かっていて、こんな要求をするのか!」
おっと、キレられちゃいました。
でも、キレさせたらヤバい奴はこっちの方が多いから、それは良くないね。王様が気づかない間に俺の手下どもが武器を持って王様を取り囲んでいます。
「だとしても、それでも何とかするのが筋というものでしょう。仮に払えなければ、どうなるか分かるはずですが?」
冷静に諭すのはノールの仕事です。
王様もノールが帝国の皇子と知ってからは、それなり以上の礼儀を見せていますし、ノールに言われれば素直になるようですけど、素直になったところで、お金が出てくるわけでもないから、どうしようもないよね。
「――東部の貴族及びノール達への支払いは俺が立て替えておこう。まずは国を立て直せ」
あんまり困らせるのも可哀想だから俺が助け舟を出しました。
まぁ、それならって感じでノールとかは納得した雰囲気を出していますが、王様を見る目は相変わらず厳しいままです。
「そうした場合ヴェルマー候への報酬には多少でも色を付ける必要がありそうですね」
まぁ、代わりに金を払っておいてやるんだから、その分、俺には何か良い物をくれると嬉しいです。
「払えるようなものなどは━━」
「それは理解しています。そのうえで王国がヴェルマー候に与えられる物もあるのでは?」
一体、何をくれるのでしょうか。
「では、領地は━━」
「既に山の向こうに王国全土に匹敵する広さ領地を持っているのに、わざわざ飛び地である山の反対側に領地を得ても統治が面倒なだけでは?」
実際そうだよね。
今さら山の反対側に小さな領地を貰っても仕方ないんだわ。
「ならば、陞爵ではどうか? 公爵の地位を与えるのであれば問題は━━」
「今更、爵位程度でお茶を濁すような真似は避けた方がよろしいかと。既に王国で並ぶ者が無いほどに権勢を振るうヴェルマー候に対して、公爵の地位を与えた所で、何も変わらないでしょうし、そうなれば何も報酬を渡していないの同じことです」
まぁ、爵位もいらねぇかな。
別に候爵になった所で特に変わったことも無かったし、公爵になってもたいした変化はないんじゃないかな。
俺がヴェルマーで一番偉いのは候爵だからじゃなくて、俺が一番強いから皆が俺の言うことを聞いているだけだしな。
「では、どうすれば良いのだ……」
王様が泣きそうな表情になっています。
ちょっと可哀想なんで、なんとかしてあげてって感じでノールを見ると、俺と目があったノールは自分に任せておけって自信満々な表情をしていた。
「簡単な話です。陛下は認めれば良いのです」
何を?
俺と王様は訳が分からないって顔でノールを見る。
そんな俺達に対して、ノールが言った言葉は——
「アロルド・アークスを王として認めれば良いのです」
は? なにそれ。
「そんなことが出来るか!」
当然、王様も怒りますが、ノールは王様を窘めるように穏やかな口調で続きを話す。
「誤解されているようですが、別にアドラ王国を与えろというわけではありません。ヴェルマー侯爵領を独立を認め、アロルド・アークスをヴェルマー王国の王として認めるというだけです」
それをして何になるんでしょうか?
今も好き勝手、自分の領地として治めてるから特に問題ないんだよね。
それが俺の国になったらどうなる?
王国に収めている税を全て自分の懐に入れられるとか、代官にしてる奴らを貴族にして、そいつらに治めている土地を領地として与えられるとか、あとは命令したり、偉そうなことを言ってくる奴がいなくなるくらいか?
あんまりうまみは感じないなぁ。
俺と王様が訳が分からずに呆然としている中、俺以外の宴会場にいた面々はさも当然だという表情を浮かべていて、どうやら、この展開は最初から段取りが出来ていたと察することができる。
そんなこんなで俺はヴェルマー侯爵領改めヴェルマー王国の王様になるような話の流れになりました。
ヴェルマーに住んでいる奴らは、実際の所はどうであれ、名目上は俺が誰かの下についているって状況が気に入らなかったらしいようで、常日頃から俺に頂点に立っていて欲しかったみたいです。
良く知らない上、情けない貴族とか王様に上に立たれるよりかは、俺の方がマシっていうそんな程度の理由でも俺に王になって欲しかった。ついでにノールも友人として俺が出世することは喜ばしいってんで、この流れになるように画策したとか。
なんだか分からないけど、俺は王様になる雰囲気です。
俺に見合った報酬が出せない以上、アドラ王国の王様は俺をヴェルマーの王として認めることを報酬とするしかないようでした。
俺はそれがどうして報酬になるのかは分からないけど、俺の周りの連中は最初からこの結果を望んでいたかのように満足した様子なんで、俺も良しとしておきましょう。




