再戦の兄弟
俺の踏み込みに合わせてセイリオスも前に出てくる。
速さはセイリオスの方が上だ。俺より一瞬早く自分に有利な間合いを取り、俺に向けて拳を放つ。
手首のスナップを効かせた軽いが高速の拳。今はガントレットを身に着けており、当たれば金属の塊で殴られるのと同じなので痛いでは済まない。
俺はセイリオスの剣で防ぐ。
正直言って躱せる自信は無い。だってパンチが見えないんだもん、仕方ない。
剣で防ぐと言っても見えないんだから叩き落すなんて真似は出来ないので、飛んでくる拳を剣身に当てて逸らすくらいだ。それだって拳が見えないんだから勘でやってるだけ、それでも俺はセイリオスの拳を防ぐ。
拳と剣が触れる度に火花が散るがそれだけだ。セイリオスの拳は俺の剣に逸らされて、俺の体にまでは届かない。
僅かにセイリオスの足さばきが変わったような気がした。
何かがありそうな気がして、咄嗟に剣を盾のようにして顔面を守る。
直後、剣を握る手に強烈な衝撃を受け、俺は弾き飛ばされて後ずさる。
たぶん、本気のパンチが来たんだろう。それまでの牽制のパンチから仕留めるパンチへのコンビネーションって奴かな? まぁ、なんとか防げたから問題ない。
「やるな」
好戦的な笑みを浮かべながらセイリオスが迫ってくる。
後ろに下がった俺を追うセイリオスは潜り込むような動きで俺の懐に飛び込んできた。
セイリオスの左拳が俺の脇腹に抉り込むような軌道で放たれる。だが、これはフェイント。実際には放たれない。
右拳が俺の顔面を撃ち抜こうとし準備されているのが視界に入る。だが、これもフェイント。拳は構えただけだ。
不意にセイリオスの動きが変化し、右脚が高く上がり俺の頭を狙った蹴りが来る。だが、これは本命じゃない。
俺が後ろに下がって蹴りを躱すと、セイリオスの右脚は空振りの勢いのまま地面に振り下ろされ、軸足になる。そして放たれる左脚の後ろ回し蹴り。
これが本命という勘が俺の体を動かし、セイリオスの攻撃を読み切った俺は剣でセイリオスの蹴りを叩き落とし、本命の一撃を防ぐ。
剣で叩き落したのだから、生身の足ならば斬れるはずだが、斬れなかった。いつのまにかセイリオスの脚には脚甲が装着されていて、俺の剣から脚を守っていた。
セイリオスは即座に俺から距離を取るために飛び退き、それを追って俺も前に出る。
俺の前進に合わせたかのように、セイリオスは後ろに下がりながら俺の太腿を狙った蹴りを放つが、それを剣で弾いて俺は更に前進してセイリオスを追う。
下がる奴より追う奴の方が速いのは当然で、俺は俺の剣の間合いにセイリオスを捉えた。その瞬間、セイリオスの視線が一瞬だが俺の剣に向かったのが見えた。
セイリオスの腕がピクリと動いたような気がする。その動きは俺の剣を防ぐための反応を行う準備だろう。それならば期待に応えないとな。
そう思って俺は剣の間合いから更に踏み込み、セイリオスと密着するくらいの至近距離に接近する。どうやら、この動きは予想外だったようで、セイリオスの反応がほんのわずかに遅れる。その隙を狙って、俺は密着状態からセイリオスの脇腹に拳を叩き込んだ。
俺もセイリオスと同じで拳が剣に劣る物だとは思ってないよ。俺だって戦場で人を殺す時は素手で殺してることも多いしね。剣を使わずに殴り殺したり、握り潰したりとかやってるから、素手が武器として劣るとは思ってないし、戦いになったら当然使いますよ、剣を持っててもね。
俺の拳が脇腹に突き刺さったセイリオスが僅かに顔を歪めて後ずさる。そこに続けて俺が剣を振る。
側頭部を狙った袈裟切り。それを防いだセイリオスの籠手が火花を散らし、受け切ったセイリオスが前に出てきた。
牽制の速い拳が散らされて放たれて、俺の体に当たるが、俺は鎧を着ているのでダメージは殆どない。だが、僅かに前に出る勢いを殺され動きが鈍る。
そこにセイリオスが俺の首を狙った上段蹴りを撃つ。さっきの牽制のパンチで出足を殺されている俺は避けるタイミングを失っているので避けきれない。避けきれないなら受け止めるだけで、俺は籠手で首を狙った軌道の蹴りを受け止める。
俺の籠手とセイリオスの脚甲がぶつかり、またもや火花が散るが、そんなことを気にしている場合ではない。俺が受け止めた直後にセイリオスの本気の拳が俺の顔面に向けて放たれていた。
眼で見て受け止めるのは不可能な速度の拳――となれば、どうやって防ぐか。
答えは一つ。勘で防ぐしかない。なんとなくここに来るんじゃないかなっていう勘で俺は剣を構えると、そこにセイリオスの拳が叩き込まれた。
結果的に先読みしたような感じで防いだ俺は、そのままセイリオスの拳を受け流す。勢いを乗せた拳の力を別の方向に流されたセイリオスの体勢が崩れ、俺がそこに剣を振り下ろす。
俺の振り下ろした刃はセイリオスの体を掠めて、切っ先が肌を裂き、そこからうっすらと血が零れる
セイリオスはすぐさま俺から距離を取ろうとするが、俺の方が速い。
俺は続けざまに剣を振り上げ、もう一度振り下ろす。今度はもっとちゃんと狙いをつけて、脳天をかち割るように。
俺の剣に対してセイリオスは頭の上で腕を交差させて防御する。
籠手と剣が激突し、金属の衝突音が隠し通路の中に響き渡る。
どうやらセイリオスの籠手は相当に良い物らしく、俺の全力の剣に耐えられる程度の強度はあるようだ。
「一応、アドラ王家の秘宝だからな。お前の剣で斬れるような代物じゃない」
防ぎ切ったことを確信したセイリオスが剣を防いだ状態のまま俺の腹に前蹴りを叩き込んで、俺を突き飛ばす。なんか来るんじゃないかなぁとは思っていたけれど、対処のしようが無いし、そんなに痛くもないだろうから、直撃を食らい、俺は後ずさる。
「帝国が王都を占領した時に城の宝物庫から拝借した物だが、流石は王家に伝わる鎧だ。お前の剣を受け止めても傷一つない」
そりゃあ凄いね。でも腕と脚にしかないってのはどういうことなんでしょうか?
胴体とかは必要無いって感じで置いてきたのかな?
俺がそんなことを考えているとセイリオスが拳を握りしめて俺に向かってくる。
とりあえずという感じで出されるパンチ。それを剣で叩き落すと、即座に太腿を狙った蹴りが来るので、それを剣で跳ね上げるようにして弾く。
流石はセイリオスの言う通り、王家に伝わる伝説の鎧ってことなのか、俺の剣と何度ぶつかっても、傷一つ無いように見える。だけど――
「それなら、全身に着込んでくるんだったな」
俺に攻撃を弾かれてセイリオスの体勢が崩れ、僅かに隙が見えた。
そこに剣を叩き込む? いや、叩き込まない。俺はセイリオスに胴体に視線を送り、剣を構えてそこを狙う。だが、俺は狙うだけだ。
自分の隙に気づいたセイリオスが俺が放とうとしている胴体への剣撃に備えて、防御の構えを取るが、それによって頭の守りが僅かに疎かになる。
俺はそこを狙って、剣の軌道を変えてセイリオスの首を狙う。
咄嗟にセイリオスは腕でガードするが、俺が本気で打ち込んだ剣を片腕で防げるはずが無い。
俺の剣を受けたセイリオスは大きく体勢を崩してよろめく。そこにもう一度、最初の攻撃とは逆方向から横薙ぎに剣を振る。セイリオスも、もう一度それを防ぐが更に体勢を崩す。
俺は更に追い打ちをかけるために剣を振り上げ、振り下ろしの一撃を放つ構えを取った。セイリオスは俺の動きに釣られるようにして、腕を頭上で構えて振り下ろしに対する備えを取るが、これはフェイントだ。
俺はセイリオスの腕が上がったの同時に剣を下げていた。入れ違いになるように、セイリオスの胴ががら空きになり、俺はそこに剣を突き入れた。
セイリオスの防御は間に合わず、俺の手に刃を通して肉を貫く感触が届くが、その感触に油断せず俺はセイリオスの懐に入って刃を更に押し込む。
ふと見ると、セイリオスの顔が間近にあった。驚愕に顔を歪めるセイリオスと目が合ったような気がするが、俺は気にせず突き刺した剣の刃を寝かせて、傷口を広げながら剣を引き抜く。
セイリオスが口を半開きにしながら、俺に手を伸ばしてくるが、どういう意図なのか分からないその動きを無視して俺は剣を振り抜き、トドメとしてセイリオスの首を刎ね落とした。
俺は大きく息を吐く。
見下ろすとそこにはセイリオスの首の無い死体が転がっており、首はそこから少し離れた場所に落ちている。
とりあえず首は持って帰らないといけない。俺は良く分からんけど、みんながセイリオスの首を求めているみたいなんで、それを届けなきゃね。
そう思って俺は落ちている首に近づき、その髪を掴んで持ち上げる。どんなクソ野郎でもこうなっては哀れなもんだ。まぁ、いい気味だとも思うけどね。
……腹いせに一発くらい蹴っ飛ばして良いんじゃない? こいつの頭を蹴っ飛ばせばスッキリしそうな気がするんだけど――
そんなことを考えながらセイリオスの頭を高く放り投げたその時だった。
セイリオスの頭を蹴っ飛ばそうとしていた俺の背中に蹴りを食らったような衝撃が走り、俺は突き飛ばされて地面を転がる。
誰だ? そう思って振り返る。
セイリオスの手下か何かが援軍に来たとか、そんな感じかと思いながら振り返った俺の目に飛び込んできたのは思いもよらぬ光景。
セイリオスの首なし死体が立ち上がり、俺が落とした頭を拾い上げていた。
おそらく、俺と蹴り飛ばしたのも首なし死体だろう。首が無くとも、セイリオスの死体は平然と動いており、俺に攻撃するくらいなんかは余裕そうに見えた。
「ゾンビか何かか?」
訊ねても答えは返ってこない。まぁ、頭が無いから仕方ないよね。
そう思ってセイリオスの死体を見ていたのだが、そこでセイリオスの死体は奇妙な動きを見せる。
拾い上げた頭を自分の首の上に置いたのだ。そして、それをしてから数秒――
「まったく酷い弟だ。本気で兄の首を飛ばすとは」
俺が落としたはずの頭が繋がり、セイリオスの姿が元に戻る。
まちがいなく一回は死んだはずなのに、何事も無かった様子でセイリオスは俺に対して再び拳を構える。
「奥の手を見せてしまった以上、ここからは僕も本気でやろう」
そう言ってセイリオスが俺に向かって来る。
セイリオスの本気がどういうものなのかは分からないが、とりあえずもう一度殺してみよう。
そう思い、俺はセイリオスの首を再び刎ねたのだった――




