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経験値

 

 俺が率いる王国軍もといヴェルマー侯爵軍は王都に予想に反してすんなりと入れました。

 どうやって簡単に王都の城壁を突破したか? いやいや、突破なんかしてませんよ。俺達が王都に到着したら城門が内側から開いたんだよね。

 どうして開いたのかって言うと帝国に服従するのは嫌っていう人たちがこっそりと開けてくれたみたいです。


 帝国の王都占領ってのはあんまり上手くいっていなかったみたいですね。上手くいってたら、帝国の人が困るようなことはしないもんね。

 というわけで、王都に簡単に入れた俺達ですが、王都の中にはマイス平原から逃げ延びた帝国兵が残っていたんだけど、投降すれば命までは奪わず帝国に帰すってノールが言ったら、大人しく降参してくれたりしたんで、そっちのほう案外、困ることは無くなんとかなりました。

 しかし、このノール・イグニスさん、傭兵隊長って言ってたけど皇子様っぽくないですかね? まぁ、顔が似てるし騙される人もいるのかな? 俺も最近は良く分かんなくなってますし、みんなもそうなんでしょう。


 さて、そんな感じで俺達は意気揚々と王都に入り込んで、そのままの勢いで王城を目指そうとしたわけですが、水を差す輩もチラホラと。

 最初に民主主義者って人達が俺達の行く手を塞いだんだよね。


『我々は王の帰還を望まない! 政治を一部の権力者に独占させはしない!』


 そんなことを叫んでいる人たちがいたんです。叫んでいるだけなら実害は無いから放っておくんだけどね。

 でも、その人達は武器を持って、俺達を王都から追い出そうとしたんだよ? そうなるとちょっとムカつかない?

 まぁ、そういうちょっとしたことで怒るのは良くないと思ったんで怒りませんでしたけど、とりあえず皆殺しにするようにグレアムさんに頼んでおきました。

 あの人達も民衆である以上は大事にするべきだとは思うんだけど、でも俺の領民ってわけじゃないし、嫌われても別に構わないかなって思う。そんでもって王都の一画を灰にする勢いで殲滅して、その際に何の関係も無い人たちを巻き添えにしても、俺の街じゃないし、俺の領民に文句を言われるわけじゃないんで気にしません。

 文句を言われる前にはヴェルマーに帰りますし、帰ったら文句は俺の所までは届かないんじゃないかな? 俺の耳に届かない文句なんて存在しないも同じだからなぁ。

 俺は言葉ってのは面と向かって通じる言葉で言わなければ通じないと思うんだよね。想いを込めれば訴えは届くってのは幻想だと思いますよ?だって、山を挟めば王国の人は俺にとっては遠い土地の関わることのない他人ですし、そんな人達が叫んでも、結局は他人事だからね。

 まぁ、結局なにが言いたいかって言うと、王都の一画を焼き払って民主主義者っていう人たちを皆殺しにしたってだけです。


 そうして民主主義者を殲滅していたら、今度は教会の人がやって来て、俺に何やら頼みごとをしてきました。

 なんだか難しいことを言っていたから良く分かんなかったけど、教会は俺を王として認めるから、今後も教会に対して便宜を図って欲しいって言われました。

 王都の人達は革新派とかいう派閥らしくて、俺の領地の守旧派の人達をイジメていたみたいだって話は聞いています。

 実際はもっと難しい話だと思うんだけど、難しい話を難しいままにしておくから世の中は複雑になるんだと俺は思うんです。難しい話を簡単にすることで、世の中は単純になって人々も生きやすくなると思うんだ。

 というわけで簡単にした結果、革新派の人達ってのは俺の身内の守旧派の人の敵ということになったので、ぶっ殺すことにしました。


『焼き払え』


 ついでに王都にある聖神教の大聖堂をオリアスさんとオリアスさんの配下の魔法兵に焼いてもらいました。

 あ、価値のありそうな物とかはちゃんと持ち出したよ? そういうのはちゃんと俺の領地に持って帰ります。

 建物にも価値はあるんだけど、持って帰れないからね。俺の物にならないなら、別に無くても良いんじゃないって思ったりしたんで、焼いてもらいました。


 教会の人達は神罰がどうとか言っていたけど、一時間くらい経っても何も無かったんだから問題ないでしょう。

 拾い食いした時だって一時間もしたら腹が痛くなるのに、神罰ってのは食中あたりより影響が出るのが遅いようです。

 神様ってのも案外たいしたことないのかもね。食中あたり以下なわけだしさ。

 でもまぁ、神罰ではないと思うけど現実的に厄介な問題はあります。教会を焼き払ったせいで、教会の聖騎士とかいう人たちが俺達に宣戦布告をしてきました。なので、そういう人たちをリギエルに掃討してもらうことにしました。

 リギエルは思ったよりも使える奴で市街戦でもヴェルマー兵を有効に使って聖騎士を戦術的にすり潰すように殺してくれました。

 聖騎士とか教会の人は死ぬ前に俺への呪詛の言葉を漏らしていたようですが、そういうことは直接言ってもらわないとね。

 伝聞で知っても『はぁ、そうですか』としか思わないし、この経緯が歴史書なんかに記されたとしても、それを読んだ人だって『はぁ、そうですか』としか思わないと思うから、言いたいことがあったら、直接言おうね。でもまぁ、結局の所、たいした問題でもないし気にしなくても良いと思うけどさ。


 ただ、聖神って神様を絶対の存在として崇める革新派の人達の影響力ってのは無くなったかもしれないよね。だって、大半の人がぶっ殺されてるわけだし。

 殺すまでもないような気がするけど、生かしておくと鬱陶しい感じがしたりしなかったり……放っておいた結果、勝手に俺の後ろ盾になられたら嫌な気もするんだよね。教会の人がいると俺が何か成し遂げても神様のおぼし召しとかいう話になりそうだしさ。

 でもまぁ、そんなことを言う人の大半がいなくなったんで、そういう煩わしい思いをすることは無くなったかな。聖神様?ってのには悪いことしてしまったかもしれないけどさ。

 聖神って神様の言葉を代弁するってのが教会の役割だって革新派の人は言ってけど、それをやっていたらしい革新派の人達はだいぶ減っちゃったし、神様の言葉は届かなくなっちゃうかもね。

 言葉が届かないってことは影響力も少なくなるし、神様の癖に世界に対して何の影響力も無くなっちゃうんじゃないでしょうか?

 まぁ、別に俺が気にすることでも無いんだけどね。宗教の問題はそれを信じている人たちで頑張ってくださいって感じです。



 ――こんな風に色々な奴に王城へ行くのを邪魔された結果、王城にはノンビリと到着。城の門はしっかりと閉められていて、どうやって城内に入ろうかと皆で相談した結果、普通に攻め落とすことになりました。

 そのあいだ俺はというと、あんまり出しゃばるのも良くないとか言われたんで、他の奴らに城を落とすのは任せるしかありませんでした。どうやら俺は軽々しく動くような立場じゃないらしいです。マイス平原の戦いと同じだね。

 後ろに陣取って成り行きを見守っていれば良いだけなんで楽は楽なんだけど、みんな戦ってるのに何もしないってどうなのって、俺の良識が囁いたのでちょっと働こうと思いました。活躍して皆からチヤホヤされたいなぁとかいう思いも無きにしも非ずだけどさ。


 それで何をしようかなって思ったけど、ふと思い出したのね。アドラの王様が城から隠し通路を使って脱出したってことをさ。

 そんで俺は隠し通路の話を思い出して、もしかしたら逃げる道と逆の道を通っていけば、城に潜入できるんじゃないっていう、おそらく誰も思いつかないであろう天才的な思い付きをし、そして思い付きを実行して、隠し通路にやって来たというわけ。

 入り口がいっぱいあるらしいってのを王様から聞き出し、どこから入れば良いかなって悩んだ結果、勘で

 入り口を選んだわけなんだけど、そうしたら思いもがけない相手と出会ってしまいました。


 俺にとっては隠し通路の入り口、相手にとっては出口の、その場所で出会ったのはセイリオスだった。

 出会った以上は挨拶をしないとね。どんなにムカつく奴でも、それぐらいの礼儀は持とうね。


「よう、お出かけか?」


 間違いなくお出かけだと思う。だって出口を目指してるんだしさ。

 どんな答えが返ってくるのかと思ったらセイリオスの野郎はだんまりを決め込みやがったのね。どうやら向こうも俺が嫌いのようです。そりゃ散々殴ったし、殴られたからね。俺もそういう恨みがあるんでセイリオスは嫌いです。

 でもまぁ嫌いな奴でも、もしかしたら仲直りできるかもしれないし、とりあえずは友好的に行こうとは思いますよ? なので、俺は敵意を感じさせないようにセイリオスに近づきました。それでも反応が無いんで、もう一回声をかけます。


「弟の顔を忘れたのかよ、兄上セイリオス?」


 正直言うと、兄とか思ってませんけどね。以前に殴り合いをやって、死ぬほど痛い思いを味わわらされた相手ですからね。そんな奴を兄弟と思えっていうのもきつくない? 俺はきつい。


「アロルド……」


 セイリオスは俺の顔を見つめて、俺の名前を呟く。

 なんか神妙な顔になってるけど、そんなに感動的な場面かな? 俺は暇なんで、ちょっと出歩いていたらセイリオスを見つけてしまったような感じなんですがね。


「お前には何と言えば良いのか……このような事態になってしまったことは僕の本意ではないんだ」


 セイリオスがなんだか申し訳なさそうな顔になって、俺にゆっくりと近づいていきます。このような事態ってどういう事態を言っているのかな? 


「帝国と帝国の皇女を自分の良いように操っていたことを誤解と言えるのか?」


 セイリオスが手引きをしたって話は俺の耳にも届いてます。帝国の人達を王国に呼び寄せて、王都を乗っ取ったって話や、帝国の人達を思い通りに操っていたって感じの話も誰かから聞きましたね。

 セイリオスの言う、このような事態ってのが今の王国の状況なら、本意じゃないって言ってるけどセイリオスはノリノリだったんじゃない?


「あぁ、誤解だ。全ては誤解なんだ。僕は王国の在り方を正そうと思ってだな……」


 セイリオスは弁解の言葉を口にしながら、俺に徐々に近づいてくる。

 言葉に熱がこもってるし、俺に訴えたい思いがあるんでしょうね。イマイチ俺の耳には届きませんけど。


「これは僕が兄として、お前のためにしたことでもあるんだ。この戦乱でお前は誰よりも活躍し、王に相応しい力を見せつけた。全てはお前を王位につけるためにしたことなんだ。確かに僕のしたことは悪かったかもしれないが、それは偏に兄として弟の栄達を望む気持ち故のもの。それを理解してはくれないだろうか?」


 何を言っているかは良く分かんないけど、セイリオスが更に少しずつ俺に近づいてきているのは分かります。徐々によりも少しずつ近づいて、ジリジリと足の位置を調整している感じですね。


「どうか、見逃してくれないだろうか? お前に兄を想う気持ちがあるのなら、僕のことは見なかったことにしてくれないか? 全てはお前のためにやったこと。そんな兄の想いに免じて、この場だけは頼む!」


 俺は何も言いません。だって、何を言っているか聞いてなかっただもん。

 どうせアレだろ? 見逃して欲しいとかそんな話だろ? そんな話だったら最初から聞く価値ないと思うんだ。だって、最初からぶっ殺す予定だったしさ。


 仲良くなろうと思っていたのは事実ですよ。殺す前に兄弟なんだし和解はしておきたいじゃん。

 仲直りしたうえで後腐れなく友好的に背中から斬りつけようと思っていたんで、見逃すって選択肢は最初からないんだよね。


「見逃してくれるつもりはないか……」


 俺が何も言わないでいると、セイリオスは肩を落として諦めたような態度を見せる。

 その割には足は慎重に間合いを測るようにジリジリ動いているんだけどね。


「……わかった。それならば一思いにやってくれ。弟であるお前に斬られるなら、それもまた本望だ」


 セイリオスはそう言って、俺に首を差し出すような雰囲気を身にまとい、一歩を踏み出す。俺はその様子を見て、簡単に殺されてくれるのかなって思ったのだけれど――



 次の瞬間、セイリオスの姿が掻き消える。速すぎて、眼で捉えるのが難しいほどの踏み込みだった。

 直後に俺は勘で何となく攻撃が来そうな気がしたんで後ろに下がる。すると、俺の目の前をセイリオスの拳が通り過ぎて行った。

 不意打ち同然の攻撃を俺に避けられるとは思ってなかったのかセイリオスが目を丸くして驚いているけれど、そんなに避けるのは難しくない感じもするんだよね。

 セイリオスの拳は速くて目で追えないけど、それでもユリアスほどは速くないし、なんとなくの勘で避けられそうな気がする程度の物で、実際に避けられたわけだしさ。


「お前――」


 俺は驚くセイリオスに対して腰に帯びた鞘から剣を抜き、そのまま抜き撃ちの斬撃を浴びせかける。

 俺の反撃を予測していたのかセイリオスも後ろに下がり躱すが、なんとなくそんな動きをしそうって俺の勘が働いていたので、俺は最初の攻撃を躱されることを前提に既に前へ出て、セイリオスの動きを追っている。


 これも予想外の動きだったのか、結果的にセイリオスの動きを先回りした形になった俺に対し、セイリオスは再び驚愕の表情を浮かべるが、それだけで何を出来るわけでもない。

 俺は最初の一撃から刃を翻し、返す刀でセイリオスの胴を薙ぎ払い、そのまま払い抜ける。これ以上ない手応えだった。

 セイリオスが膝をつく気配を感じ、斬った勢いのまま横を駆け抜けた俺は、すぐさま振り返り、剣を構える。斬られた振りって可能性もある以上、油断するのは良くないんで、相手が死ぬまでは警戒しとかないとね。


 でもまぁ、その必要も無かったかもとセイリオスをザマを見て思った。

 とんでもない量の血が腹から零れ落ち、内臓をコンニチワしてる状態だし、どう考えても死ぬでしょコレ。

 まぁ、放っておいても苦しめるだけだろうし、さっさと殺してやろうかと思い、俺は剣を振り上げる。だが、その瞬間だった――


 俺のその動きを狙っていたかのようにセイリオスが立ち上がり、俺に襲い掛かってくる。予想外の行動に俺は反応が遅れて振り上げた剣を戻すのも間に合わない。

 けれども、なんか危ないかなって勘が働き、その勘に従って首を傾けたら、セイリオスの拳は俺の顔の横を通り過ぎただけで済んだので無傷。

 俺は振り上げた状態の剣を振り下ろして反撃をする。


 俺の振り下ろした剣をセイリオスは腕を交差させて受け止める。

 素手で防げるわけねぇだろって俺は思ったが、いつの間にかセイリオスの腕には籠手ガントレットが装着されており、それによって俺の剣を受け止めていた。

 そして受け止められて俺はセイリオスの体に傷が無いことに気づく。手ごたえはあったのに無傷ってのはどういうことなんだろうか? 

 俺は疑問に思いつつ、それとは関係なしに剣に力を込める。受け止めていたセイリオスは俺の腕力に押されて逃げるように距離を取った。


「相当に腕を上げたな」

「お前はたいして変わらないな」


 距離を取ったセイリオスが俺を見つめて急に褒めてきた。

 俺はセイリオスに対して褒めるべき点を何一つ感じなかったんで、率直な感想を述べました。

 急に装備が出てくるし、傷もいつの間にか消えてたりで、何か怪しいことはやってるんだろうけど、それだけです。

 ヴェルマーで戦ったユリアスに比べれば遥かに弱い。前に戦った時はヤバい気配がしたもんだが、今のセイリオスには何一つヤバさを感じない。

 ユリアスってバケモノに比べればセイリオスなんか全然たいしたことないね。セイリオスに不幸なことかもしれないけど、もっと強い相手との戦いを経験したせいか、今となっては俺はセイリオスに負ける気なんか全然しません。


「多少、腕を上げた程度で僕に勝てるとでも?」

「多少かどうか試してみるといい――」


 セイリオスが拳を構えるのに合わせて、俺も剣を構える。


「――今の俺にお前が勝てるとは思えないがな」


 そして俺はセイリオスに向けて、剣を構えながら足を踏み出した――





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