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決着の時

以前に三月中に完結とは書いたけど無理でしたね。途中ちょっとサボったのが良くなかった。


 

 自軍を圧倒して前進を続ける王国軍の軍勢を目の当たりにした帝国軍の本陣は混乱の極みにあった。

 誰の失策かという責任問題に発展しかけるも、そんなことをしている場合ではないと戦況のあまりの悪さに誰もが現状を打破するために頭を巡らせるも答えが出ず、被害の報告だけが本陣で聞こえる音であった。


「こんなはずでは……」


 ライレーリアは呆然と呟く。

 セイリオスに兵の士気を高めるためには自分が戦場に立つ必要があると助言を受けてライレーリアはこの場にいた。

 セイリオスの報告では敵の中心であるヴェルマー侯爵軍を率いるアロルドという男は王国を追放されて辺境に追いやられた男であり、恐れるほどでもないとライレーリアは聞いていたのだが、実際に戦場を目にしてみれば、ヴェルマーの軍隊はライレーリアがこれまで見てきたどんな兵士達よりも強く、その強さはノールの方を警戒していたライレーリアが自身のその判断が間違いであったと認めるしかないほどであった。


「せめて皇女殿下だけでも、無事にお連れせねば……」


 この戦を任されていたログドー将軍は敗北を悟り、皇女を逃がすことを考え始めていた。

 自分は敗戦の責任を取って、戦場に散っても構わないが、皇族という尊い身を敵兵の刃に掛からせるわけにはいかないというのがログドーの思いである。


「私に逃げろと言うのですか?」


 ライレーリアのその言葉は虚勢である。本心ではすぐにでも逃げ出したかった。

 ライレーリアはセイリオスから今回の戦は苦戦はするだろうが勝てない戦ではないし、苦戦したとしてもライレーリアの身に危険が及ぶようなことは無いと聞いていた。

 本来なら戦場に出なくとも誰も文句は言わないのだが、セイリオスは皇女の存在が兵の士気を高めるとライレーリアを唆していたこともあり、危険が無いならとライレーリアは戦場に来てしまった。

 ライレーリア自身、苦境にある兵士たちを鼓舞する自分の姿を夢想し、自分の存在によって帝国が勝利する瞬間を間近で感じたいという思いもあって、セイリオスの言葉に乗ってしまったのだった。


 しかしながら、ここまでのセイリオスの言葉は全て出まかせである。

 そもそもセイリオスは軍事的な事柄については実用的な部分に関して全く知識がない。そんな輩の言うことであるから根拠などは全く無く、言っていることも全て適当であった。

 セイリオスとしてはとりあえずライレーリアを戦場に出してみたらどうなるのだろうという純粋な興味だけでライレーリアを戦場に送ったのである。その結果がどうなろうが、もうセイリオスは興味が無くなっていた。

 セイリオス自身はライレーリアに留守を守るといって王都に残っており、ライレーリアが絶望していた今この瞬間セイリオスはライレーリアの無事を祈るなどはせずに、逃げて身を隠す準備を進めていたのだった。


「私に、兄上に背を向けて逃げろというのですか?」

「それもやむを得ません……」


 ログドーは口惜し気に言葉を漏らす。事ここに至っては逆転の手段は無いと理解し、そして自分と敵の才覚の差を痛感したからだ。

 俊敏軽快なリギエルの攻めと頑強重厚なノールの守り。そしてその二つの成し遂げることの出来る軍を統率するアロルドという男の存在感。

 戦場に立つ前は何程の者かと侮っていたが相対して格の違いというものを思い知ったと、ログドー将軍は自分の見る目の無さを恥じるしかなかった。

 せめてリギエルだけでも味方に置いておくべきだったと、あの時セイリオスの言葉に従わずリギエルに全権を渡すべきであったという後悔が胸を苛む。


「逃げるしかない……ですが、まだ手は……」


 ログドー将軍に対してライレーリアはまだ諦めきれていなかった。

 まだ手はある。自分が思いついていないだけで、何か勝つ手段が――

 そうして思考を巡らせようとした瞬間、目に着いたのは自分の護衛として本陣のそばに控える狼頭の兵士達。

 獣心兵と呼ばれるその兵はセイリオスから預けられた兵士達だった。不気味な存在感のためライレーリアは遠ざけていたのだが、セイリオスからはもしもの時は彼らを頼るように言われていたことをライレーリアは思い出した。


 獣心兵の数は百人程度、その程度の数で戦況が変わるとはライレーリア自身思っていないが、藁にも縋る思いのライレーリアは一縷の望みを抱いて声をかけるのだった。





 ―――――――――—―――――――――





 上からだと戦場の様子がよく見えますし、戦況も良く分かります。それが自分の側が有利だと猶更ハッキリと見えるのは何でだろうね? 気持ちの問題ってやつかな?

 しかし、こんだけ勝ってると向こうのライレーリアちゃんはどうなんだろうね。俺としてはあんまり女の子をイジメるようなことはしたくないんだけど、こんなにこっちが有利だと向こうは辛いだろうね。自棄やけになって変なことをしてなければ良いけどさ。


 そんな感じに敵のことを考えてられるほど余裕をぶっこいているわけですが、そんな風に調子に乗っている俺の視線の先にある戦場で少し動きがありました。


 帝国軍が全体的にこちらの軍に押し込まれてるのは変わらないけれど、その動きが一か所だけ止まりました。

 何事かと思って眼を凝らしてみると、狼の兜を被った連中がこちらの前進を阻んでいるのが見える。丘の上から戦場を見渡しているので細かいことは分からんけど獣心兵って奴が暴れまわってるんだろう。

 数は百人程度に見えるけど、そいつらがいるせいで、こちらの全体の勢いが削がれつつある。


「どうしたというのだ?」


 隣で王様が呑気に首を傾げています。

 まぁ、俺も呑気な気分なんですけどね。いくら強いって言っても数は百程度だろ? それなら問題ないって――

 そう思って見ていたんですが、どうにもおかしい。獣心兵の一人が異常に強いんですが。そいつ一人でこっちの兵士を数十人は殺してるし、百人以上負傷させられてるんですが、なんか強さおかしくありません?


 異常に強い獣心兵とその他の獣心兵が帝国軍の先頭に立つと、こちらの兵士がそいつらによって前進を阻まれる。それを見て帝国の奴らが息を吹き返し、獣心兵が頑張っている間に態勢を整え、獣心兵の勢いに乗じて反撃を開始してきた。


「だ、大丈夫なのか?」


 王様が不安そうだけど、大丈夫だと思います。だって、グレアムさんが向こうの強い奴を始末しに動いてるしさ。グレアムさんに任せておけば大丈夫だと思うよ。




 ―――――――――――――――――――



「グレアム・ヴィンラント、貴公に一騎打ちを申し出る!」


 自軍を蹴散らし進む敵を発見したグレアムは即座にその敵を排除するために動き出した。

 その敵は獣心兵の中でも大柄で華美な装飾が施された鎧を身にまとっていたことから、グレアムは獣心兵の隊長だと判断し、一騎打ちを申し出た。


「――――――」


 答えは刃で返ってきた。

 右手に剣を持って突進するグレアムを迎撃するように獣心兵の隊長は剣を振り抜いた。

 自分を迎え撃つ刃が放たれるのは想定の範囲内。グレアムは身を低くして、その刃を掻い潜ると敵の懐に飛び込んで、その胴を剣で斬り払いつつ、横を駆け抜ける。

 鎧に阻まれて傷は負わせられないが挨拶がわりの一撃だ。それによって獣心兵の隊長はグレアムへ意識を強く向けるようになるが、同時にグレアムも相手への警戒を強くする。


 グレアムが警戒する理由は相手の持つ剣のせいである。獣心兵の隊長が持つ剣は王国騎士団の団長のベイオールが持つ名剣と全く同じ物であった。そのことからグレアムは敵が獣心兵になったベイオールであるのではと予想し、グレアムは警戒を強めたのだった。

 本人かどうかは狼頭の兜で顔が隠れているため分からないが、本人と思って相対した方が危険は少ないとグレアムは考える


 そして、その考えは間違いではなかった。

 グレアムの推理通り獣心兵の隊長は王国騎士団団長ベイオールその人。仮にグレアムがこの相手を侮っていたなら、次の瞬間には首が飛んでいただろう。


 ベイオールはグレアムを明確に敵と見据えて相対した次の瞬間、一瞬で距離を詰めてグレアムに斬りかかる。

 速さで言うならユリアス・アークスに僅かに劣る。だが、グレアムの知る限りヴェルマーで戦ったユリアスは人生で最速の男だった。それより僅かに劣るというが、それでもグレアムにとっては速すぎるほどだった。


 強烈な剣撃を辛うじて剣で受け止めるグレアムだったが、勢いまでは殺しきれずに弾き飛ばされる。

 飛ばされた先で体勢を整えようとするが、そこに距離を詰めたベイオールが攻め掛かる。


 頭を狙った振り下ろしの一撃。狙いの見え透いた攻撃をグレアムは剣で受け流す。

 そして反撃に出ようとするが、それよりも速く体勢を戻したベイオールがグレアムに対して、再度の攻撃を行う。技術ではなく単純に身体能力を活かした攻めだ。

 反撃に出ようとしたグレアムは即座に守りに移る。咄嗟の防御であり受け流すことまで難しく剣を盾にして強烈な一撃を受け止める。しかし、ベイオールの攻撃はそれだけでは止まらず、続け様に剣を振り回して、グレアムへの攻撃を繰り返す。

 連続の攻撃に対して、グレアムはというと防御に徹する他ない。迂闊に反撃に移ればベイオールの絶え間ない攻撃の餌食となるからだ。

 そうしているうちに段々とグレアムは押され始める。周囲で自分の敵と戦いながら横目で一騎打ちを見守る者たちの目から見ても力負けは明らかであり、近いうちに押し切られるだろうと誰もが思い、そしてその時が来た。

 ベイオールの激烈な振り下ろしの一撃を受け止めたグレアムは弾き飛ばされ体勢を崩す。ベイオールは間合いを詰め、とどめの一撃を放つ。だが――


「――惜しいねぇ」


 距離を詰めるために踏み込んだベイオールの体勢が崩れる。


「そんなザマにならなければ防げたかもしれないのにねぇ。全く残念だ、万全な状態のアンタとりたかったよ」


 押されていたはずのグレアムは余裕の態度を見せる。その左右の手にはそれぞれ一本ずつの剣が握られていた。ここに来てようやくグレアムは自分の本来の先頭スタイルを見せた。

 ベイオールの体勢が崩れたのは、大振りの一撃を放つために距離を詰めたベイオールの隙を突いて、鞘から抜き放ったグレアムの左手の剣がベイオールの足首を斬る裂いたからだった。


 鎧が分厚いのは最初に胴を払った時に分かっているグレアムは鎧の隙間を斬ることを狙っている。

 ベイオールは足を斬られたことで著しく体のバランスを欠きながらも、それでも力強い動きで剣を放つが、グレアムには届かない。グレアムの剣がベイオールの剣が届くより早く、その腕を斬り飛ばしたからだ。


「――――――っ!?」


 声は聞こえなくともベイオールの驚愕は動きで分かった。

 グレアムは相手の驚愕など気にも留めずに仕留めるために一気に距離を詰める。

 強烈な踏み込みと共に首を刎ねるための剣を振ろうとするグレアム。だが、グレアムはその刃を直前で止め、慌てた様子で飛び退く。それは危険を直感したための緊急動作だったが、その直感は正解であった。


 一瞬前までグレアムがいた場所をベイオールの鎧の隙間から飛び出た触手が貫いた。

 既にグレアムはいないため触手は空を切っただけであるが、その場にグレアムがどうなっていたかは分からない。ベイオールの体から伸びる触手の先端は槍のように鋭いものだったからだ。


「完全に魔物だなぁ」


 呆れたように言うグレアムの視線の先でベイオールの斬り飛ばされた腕がうごめき、断面から触手が伸びる。同時に体の方の断面からも触手が伸び、その二つが絡み合って繋がり一本の腕に戻る。と言っても、外見は触手の束で繋がっているだけだが。


「オオォオォォォォ――ッ!」


 唸り声をあげるベイオールの兜の口が開く。狼の頭をかたどっているので口の部分はあるのだが、それは当然飾りであるはずだった。しかし、まるで肉体の一部のように不自然に狼頭の兜の口部分が開く。

 人間であるならば、開いた先にあるのは顔面の筈だが、開いた先にあったのは口腔であり、あるべきはずの顔は何処にもなかった。

 そして気付いた時には、彫刻であるはず狼頭の目の部分に本物の眼球が形成されており、それがグレアムを睨みつけていた。


「顔が溶けて兜と一緒にでもなったか――」


 グレアムが呟いた瞬間、ベイオールの剣がグレアムに襲い掛かる。

 間合いは数メートルはあったが、その距離を一瞬に詰めたわけではない。

 ベイオールの立ち位置は変わってはおらず、変わったのは腕の長さだった。ベイオールは触手で作られた腕を伸ばして、グレアムに剣を放ったのだった。


「頭は人狼っぽいけれど、動きは何とも言えないねぇ」


 伸縮する腕を鞭のように振り回しながら放たれる剣をグレアムは両手の剣で捌いていく。

 威力は確かにある。だが大したことは無いとグレアムは余裕をもって防いでいた。鞭のような腕を振り回す速度とそれをその勢いのままに叩きつける剣は確かに威力があるが、最初の剣撃ほどではない。

 今のベイオールは棒立ちで腕を振り回すだけだ。踏み込みも何もなく、闇雲に腕を振り回すだけの攻撃に本当の重さは宿らない。

 最初の状態の時は体に刻み込まれた経験によって剣を振るっていたために剣に威力と速さ、そして重さが残っていた。しかし今はそれが無い。腕を鞭のように振りまわす剣など人間の時に使えるわけも無いので、今のベイオールの攻撃には技の積み重ねが無い。


「魔物にならない方が強かっただろうに、本当に残念だ」


 伸縮する腕で放たれる剣をグレアムは両手の剣で強く弾くと、ベイオールに向かって一気に距離を詰める。

 ベイオールの体から伸びる触手が蠢き、グレアムに襲い掛かるような挙動の前兆を見せるが、それを捉えたグレアムは左手に持った剣をベイオールに投げつけた。直後、触手は投擲された剣に反応し、グレアムではなくそちらを優先して絡めとった。


「そんなに怯えるなんてなぁ」


 魔物の姿になってからのベイオールは一向に距離を詰めずに伸縮する腕で距離をとって攻撃していた。グレアムそれを自分に近づくことを恐れる獣染みた反応であると判断した。もしくは危険を極度に恐れる本能か。どちらにしても、自分の攻撃に過敏であることは間違いないと思い、剣を投げつけたわけだが、その思惑は見事に的中した。


「剣士が相手に近づくことを恐れたら、死んだも同然だ」


 投擲した剣を触手が絡め取ると同時に間合いを詰めたグレアムは右手の剣をベイオールの首に向けて振るう。それに対するベイオールの反応はというと狼頭の口を大きく開けて剣を牙で受け止めるという動きだった。グレアムが放った剣は狼頭の口に絡め取られる。だが、グレアムの仕掛けた攻撃はそれだけではない。


 ベイオールの眼が見開いた。

 その原因はいつの間にか深く刺さっていた短剣によって肉体が損傷していることに気づいたからだ。

 その短剣はグレアムが投げつけた剣の代わりに手に握った物で、右の剣を受け止められると同時にグレアムは左手の短剣をベイオールの脇の下にある鎧の隙間に突き刺していた。


「オオォォォォ―――ッ!?」


 呻くベイオールの鎧の隙間から大量の触手が這い出る。即座にグレアムは飛び退き、距離を取る。

 グレアムへと反撃するために這い出た触手は逃げるグレアムを追いかけて伸びるが、届かない。グレアムに届きかけた瞬間に焼き尽くされたからだ。


「魔物相手に一騎打ちをする趣味はないんだよねぇ」


 触手を焼き尽くした炎は魔法によるもの。

 グレアムは魔法を使えないので、それを放った者は別にいる。


「俺は魔物相手に一騎打ちをしてるアホを見たら問答無用で助太刀するんで、悪く思うなよ」


 魔法を放ったのはオリアスであった。

 オリアスは間髪入れずにベイオールの本体にも火の魔法を放ち、焼き尽くすことを試みるが――


「思ったより耐性があるな」


 ベイオールは炎に包まれて、のたうち回るが、それでも動きを止める様子は無い。やがて燃やされることにも慣れたのか、肉の焼ける臭いを漂わせながら立ち上がり、グレアムとオリアスに対峙する。


「どうする?」

「首を刎ねる」

「だと思った」


 オリアスはグレアムに剣を渡す。グレアムは手持ちの剣を使い切り、丸腰であったから、それはありがたい差し入れだった。

 そうして渡された剣を手にしてグレアムは目を丸くする。オリアスが渡した剣がアロルドの剣だったからだ。思いもがけない差し入れに感謝しつつ、グレアムは剣を鞘から抜き放つとベイオールに向かってゆっくりと歩み寄る。


「哀れな末路だなぁ」


 近づいてくるグレアムに対し、ベイオールの体から伸びた触手が襲い掛かった。

 ゆっくりとした動きで近づいていたグレアムであったが、触手が動くと同時に急激に速度を上げ一瞬で間合いに入ると、長剣をベイオールの首に目掛けて振り抜いた。


 放たれた剣は吸い込まれるように首筋に届き、僅かな抵抗も無く首を刎ね飛ばす。

 狼頭が宙を舞い、それが地面に落ちるその瞬間まで誰もグレアムの剣を振るわれたことに気づかない。

 それはグレアム・ヴィンラント生涯最高の一太刀であった。


「終わったか?」


 決着を見守っていたオリアスは倒れ伏したベイオールの姿を見てグレアムの勝利と判断しつつも疑問があった。こんな化け物が首を飛ばされただけで死ぬのかと、そんな疑問である。


 幸か不幸かその疑問の答えはすぐに出た。倒れた筈のベイオールがゆっくりと動き出したからだ。

 ベイオールのそばにいたグレアムが即座に飛び退き、距離を取る。しかし、ベイオールは立ち尽くすだけで攻撃の意思も何も見せない。


 何が起きている?

 オリアスが確認のために僅かに距離を詰めようとした、その時である。突然ベイオールの体が弾け飛んだ。

 攻撃と判断したオリアスとグレアムは身構えるが、ベイオールの行動はそれだけだった。


 いや、正確にはそれだけではない。

 弾け飛んだ上半身に対して無事と言える形で残っていた下半身から、触手が上半身の代わりに生えてきたからだ。


「完全に化け物じゃねぇか」


 身構えるオリアス。だが、ベイオールだったそれは何もしなかった。

 ただ一歩踏み出しただけで倒れ、そしてそのまま腐るようにして溶けて消えてしまった。


「こんなもんを作っておいて平気なツラしてられる奴がいるとか信じられねぇよな?」


 オリアスはベイオールの末路を共に見届けたグレアムに同意を求めるが、隣にはグレアムはいなかった。

 グレアムは既に戦場に戻っており、最早ベイオールのことなど気にも留めていない。周囲を見渡すと他の獣心兵もベイオールと同じような変貌を遂げつつあったことも感傷に浸っている余裕が無かった原因の一つだろう。


 変貌した獣心兵は味方である帝国兵にも襲い掛かっている。

 オリアスの目から見ても既に自軍の勝利は確実。このまま何もしなくても帝国軍は敗走するだろう。

 頼りにしていた味方が魔物で、その上、無差別に襲い掛かってくる状況では士気を保つことは難しい。

 放っておいても帝国は逃げるだろう。だからといってオリアスが何もしないというわけにもいかない。変貌した獣心兵はヴェルマーの兵にも襲い掛かってくるのだから、それは始末する必要がある。

 そうしてオリアスは視界に入った獣心兵に対し魔法を放ち、戦場へと戻っていった。







 ――――――――――――――


 なんだか、とんでもないことになったけど勝ってよかったです。

 獣心兵がバケモノになって暴れ出したのには驚いたけど放っておいたら溶けて消えちゃったし、問題は無かったね。

 途中で帝国の連中は逃げ出したみたいです。こっちはバケモノになった獣心兵に気を取られてしまって、逃げる帝国軍にまで手が回らなかったんだよね。それを狙って獣心兵を投入したっていうなら、してやられたって感じだね。向こうの皇女には逃げられちゃったわけだしさ。


 でもまぁ、皇女は逃がしたけど帝国軍の損耗はひどいんじゃないかな?

 マイス平原は死屍累々って感じだし、再起を図るのは難しいと思うんだ。こっちが殺したのも多いし、無差別に暴れまわった獣心兵による被害も大きいみたいだし、あんなもんを戦場に投入したのがライレーリアちゃんだったりしたら、ライレーリアちゃんの信用は凄く落ちたんじゃないかな? 味方殺しの化け物を使う奴になんか誰も従わないと思うし、今後は大変だよね。


 もっとも、ライレーリアちゃんに、この先があるかは分かんないけどさ。だって、俺達はこのまま王都に向かって進軍するわけだし、もうじきこの戦争の決着も付くだろうから、その結果によってはライレーリアちゃんには先が無いかもね。


 まぁ、ライレーリアちゃんのそばにはセイリオスがいるみたいだし、あの野郎がいる以上、戦争が終わるまでライレーリアちゃんが生きていられるかってこと自体、疑問だけどさ。

 とりあえず、ノールとの約束もあるし、俺達が王都に到着するまでは生きていてもらいたいところだけど、どうなることやら、ちょっと心配だぜ。













1時間で3000字書けるのに、どういうわけか6000字書くのには6時間かかる。

6時間で6000字なら、12時間で12000書けるかと思いきや、3日くらいかかったりする不思議。

こういう不思議が積み重なることで執筆時間が伸び、予定が崩れていく。


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