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アロルドの軍

 

「――というわけで新しく皆さんのお仲間になったリギエルです」


 リギエルが味方になったので戦闘が始まる前にちょっと紹介のやりとりがありました。

 その結果、みんな凄い顔でリギエルを睨んでます。そりゃあね、ちょっと前まで散々にやられてたわけだし、急に仲間ってなっても困るよね。俺はもう慣れたんで大丈夫ですけど。


 とりあえずリギエルは元帥になってもらうことになりました。どういう役職かは良く分かんねぇけど、なんか偉いんでしょうね。立場的にはグレアムさん達より上かな?


「俺が加わったからには、この戦は必ず勝てる。ってこともなく、俺がいようがいまいが普通に勝つからな。それを考えたら指揮のし甲斐も無いが、やるからには本気を出してやらせてもらうぜ」


 ――というのが、リギエルの言葉です。絶対に勝つんだったら、こいついらなくねぇ?って思ったんだけど、まぁ敵方にいるよりは味方にいる方が安心だと思うことにしました。


「帝国側の陣容はどんなものなんだい?」


 グレアムさんはリギエルを仕方なしに受け入れたようです。まぁ、西部の時にリギエルにいいようにやられてたからね。負けてる身としては色々と言い辛いんでしょう。


「なんのことはなく普通の帝国兵さ。弓兵が大半で、銃兵がちょっと、騎兵はそれなりだったな。後は大砲もいくつかは持ってきてるが、使うかどうかは分からないな。他にセイリオスって奴が自分の直属の兵士を皇女のそばに置いている。獣心兵って言うらしいが詳しいことはセイリオス以外誰も知らねぇ」


「獣心兵ってのはこの兜を被ってた奴か?」


 オリアスさんが狼をかたどった兜を机の上に置くと、リギエルは頷く。どうやら当たりのようで狼の兜をつけてるのが獣心兵ってことね。

 なんか変な奴らだったんでオリアスさんが解剖したって聞いたけど、その報告は受けてなかったな。


「こんなの兵士にしてるとか、お前ら正気か?」


「正気かって聞かれても、そいつらはセイリオスの直属で良く知らねぇんだよ」


 何かおかしいことでもあったんですかね?

 俺以外にもみんな気になったのか全員の視線がオリアスさんに集まる。

 オリアスさんは机の上にいた兜を手に取ると、それを全員に良く見えるように掲げ説明を始めた。


「こいつらは魔物化した人間だ」


 魔物化した人間て言われてもなぁ。良く分からないんで続きをどうぞ。


「生きてる人間に魔石を埋め込んで強化してやがるんだよ。魔石を埋め込んだだけじゃ魔物とは言えないが、魔石が与える影響で肉体が変質してるんだ。自然になるわけはねぇから誰かが意図的に埋め込んだんだろうよ」


 はぁ、そうですか。誰かっていうのはセイリオスだと思いますけど。


「死んでる奴だったらまだしも、生きている人間になんか埋め込んだら肉体の拒絶反応が強すぎて、埋め込まれた奴は地獄の苦しみだろうな。ついでに、肉体が徐々に変わってくんだから、それだって痛いと思うぜ? 正気なんかは保ってられねぇだろうよ」


「その割には秩序だった動きが出来ていたみたいだけどね」


「その秘密がこの兜だ。この兜の中を見てみればわかるんだが、中に杭みたいなパーツがあって、それが頭蓋骨を突き破って脳味噌にまで達してる。でもって、その杭から麻酔成分やら何やらを脳味噌に直接流し込んで、苦痛を取り除き、意識をある程度取り戻させてるって感じだな」


 なんか怖い話になってきましたね。


「こんな処置を施しておいて、長生きできるわけねぇってのは分かるだろう? 俺達も大概な時はあるが、ここまで人間を蔑ろには出来ねぇし、そんな奴らを兵士として運用できるくらいに用意してる奴の頭のおかしさは相当なもんだぜ?」


 まぁ、セイリオスのやることだしなぁ。

 アイツがヤバい奴だってのは俺は知ってるし、そんなに驚きは無いかな。


「俺達はそいつらの身の上とかに興味は無いんだよな。俺達が気になるのはそいつらが厄介かってことだけだ」


 リギエルは獣心兵の身の上に興味が無いようです。まぁ、俺もリギエルと同じ考えかな。

 脳味噌に杭が刺さっているような人達とかどう考えても助けらんないだろうし、そういう人たちを儚んでも仕方ないと思うんだ。まぁ、可哀想だし放っておいていいんじゃない? ただし、敵として出てきた場合はぶっ殺すけどさ。


「厄介は厄介だが、まぁ何とかなるだろ。現に俺らはこいつらに襲撃を食らったが、なんとななったわけだしな」


 オリアスさんがリギエルの疑問に対して、答えにならない回答を返してます。結局、なんとかなるんじゃないって結論になるなら、色々と話し合う必要も無かったんじゃない? そんな余計なことを考えるより戦に勝つことを考える方が先じゃないかな。

 俺はそう思うんで、後はリギエルに託します。


「なんにせよ、まずは戦に勝つことだ。その点についてリギエル、貴様には金を払い地位も権限も与えたのだから、期待には応えてくれるんだろうな?」


 念押ししなくても大丈夫だとは思いますけどね。


「勿論、任せて貰って結構ですよ。まぁ普通にやったって勝ちますが、圧勝って奴をご覧に入れて差し上げましょう」


「結構、では後のことは任せる」


 そういうことで俺は後の仕切りは全部リギエルにやらせることにして、俺は観戦モードに入ります。

 ほどなくして、話は終わったのか主だった面子は俺の陣幕から出ていき、自分の持ち場に戻っていきました。

 その間、俺はボーっとしていました。だって、俺が何かやらなくても誰かがやってくれるわけだしね。つーか、ノールが言うには俺はもう自分で色々と動くような立場じゃないみたいだし、後ろでどっしりとしてるのが仕事だから、ボーっとしてても充分仕事をしていることになるんだよね。


「本当に大丈夫なのか?」


 俺のそばにはアドラ王国の王様が心配そうな顔で立っています。ちなみに俺は座ってますけどね。

 椅子は俺のしか用意してないし仕方ないよね。誰かが持ってきてあげればいいのに、誰も持ってこないしさ。もしかして俺が意地悪して用意してないとか思われてないよね? 俺が意地悪してるって勘違いして、俺の意を汲み取って用意してないとかしてたりしません?

 まぁ、そんなことはないだろうけどさ。


 ついでの話だけど、俺の護衛にはノールが連れてきたドラケン族って人達とハイアン人っていう異国人がついています。この人達とはちょっと揉めそうになったけど、この人たちの中で一番強い奴を俺がぶっ飛ばしたら、俺に従うようになりました。

 ドラケン族もハイアン人も服装はみすぼらしい感じで未開の地の人なんでしょうね。だからって差別するのは可哀想だから、俺のそばに置いています。

 そういえば、こいつらの頭目っぽい奴を殴り倒した時に、俺が侯爵だとか教えたらドン引きしたんだよね。

「腕っぷしの強さと指導者の資質は別の物なんじゃないのか?」とか「強い奴が偉いというのは文明的な社会と言えるのか?」ってことを言ってたけど、それを聞いて俺はこいつらはやっぱり文化的に遅れてるんだなぁって確信しましたよ。まぁ姿の時点で未開人だって分かっていたから今更だけどね。


「始まったぞ」


 おっと、余計なことを思い出してましたね。

 王様の声で現在の方に意識が戻ると確かに戦いが始まっていました。


「撃てぇーっ!」


 魔法を使って戦場全域に轟くオリアスさんの大号令に従って魔法兵が敵軍に向けて大砲をぶっ放す。

 こちらの大砲に合わせて帝国側も大砲を撃ち返してくるので、それをオリアスさんの率いる魔法兵が前衛に〈障壁〉の魔法を使って防ぐ。

 〈障壁〉の魔法は壁を作るような魔法だけれど、それだと高く飛んできた砲弾は防げないし、そもそも砲弾は放物線を描いて飛んでくるので、壁にするより屋根や傘のような形で兵士たちの上に張る方が良いので、そのように魔法を使っている。それに、そう使わないと前衛の兵士達は前進できない。


「前進!」


 グレアムさんの号令が戦場に響き渡り、歩兵が走り出す。

 上からは砲弾が雨のように降ってきているけれど、それは魔法で防がれているので問題は無い。たまに障壁の隙間から砲弾が落ちるが、それを食らっても兵士たちは構わずに前進を続ける。

 帝国軍の方もこちらの砲弾を防御の魔法で防いでいるが、こちらと違い完全に垂直にそそり立つ壁を形成しているので、兵は前進せずこちらを待ち構えている状況だ。


「まだだ、まだ進め!」


 グレアムさんの命令はさっきと変わりません。

 戦場の全部に届くようにしてるから、敵側も聞こえてるで小細工はしないようです。

 そうして、こっちの兵が全身を続けていると、不意に帝国側の障壁が消えた。それはこちらが屋根状に展開している障壁のひさしの中に帝国の前衛の一部が入ったその時であり、その瞬間、帝国兵の銃が一斉に火を噴いた。

 砲撃が来なくなる一瞬の隙間を狙っての一斉射撃、けれども、こちらもそれを読んで動いている。


「盾兵、前へ!」


 帝国の一斉射撃の直前、グレアムさんも指示を出していた。

 前進を続けていた俺の兵たちの中から盾を持った奴らが先頭に躍り出て盾を構える。

 盾と言っても全身を覆えるほどは大きくないが、直撃を免れられる程度には大きい。そんな盾が帝国の放った銃弾を受け止める。全てを防げたわけでもないが、それでも充分すぎるほどだ。


「行け!」


 盾兵の間からドラケン族兵士が飛び出し、敵の銃兵が装填する隙を突いて一気に距離を詰める。

 ただ、それでも接近するには間に合わないので、その援護のためにこちらの銃兵が敵に向かって一斉射撃を行う。弾が突撃するドラケン族に当たりそうだが、まぁそこら辺は当たっても運が悪かったねで済ませることになってるんで、みんな気にしないことにしてます。


 こちらが放った銃弾が敵の前衛に当たり、帝国の前衛にあたる銃兵の隊列が崩れる。

 そこに向かってドラケン族の戦士たちが襲い掛かる。槍を持った彼らの突撃で、隊列だけでなく帝国の銃兵自体が崩れそうになると、帝国は銃兵を守るために、その後ろに配置していた重装歩兵を前線に出す。

 それに対して、こちらもドラケン族にヴェルマー候爵軍を中心に構成した歩兵が合流し、白兵戦が開始される。


「ぶち殺せ!」


 乱戦の中からヴェルマー兵の怒号が聞こえてくるけれど、これを聞くとある意味安心するよね。殺る気満々って分かってさ。

 その殺る気はすぐに結果になって現れる。ヴェルマー兵が乱戦に突入した瞬間、凄まじい勢いでこちらの軍が敵を押しこんでいくのが見えた。

 こっちの兵士を殺すのに向こう兵士は数人がかりだもん。それが歩兵の数だけなら同じくらいいるんだから勝てるわけねぇよな。だけどまぁ、それでも帝国兵は凄いと思うよ?

 ヴェルマー兵の目の前に立つ奴らを皆殺しにするような勢いの攻めに対して頑張って持ちこたえてるんだからさ。

 帝国の重装歩兵の隊長が兵が逃げ出さないように必死に兵を鼓舞してるんだろうね。まぁ、場合によっては脅しつけてるのかもしれないけどさ。でも、それってその指揮をしている隊長がいなくなったら維持できなくなるんじゃない?

 俺がそんなことを思っていると、俺の所から見えていた帝国の歩兵隊長の一人が頭が弾け飛んで馬から落ちた。

 それをやったのはヨゥドリの指揮している精鋭銃兵で、そいつらの狙撃が当たったんでしょう。仲間の指揮官が撃たれたと気づいた他の重装歩兵の指揮官が馬から降りて目立たないようにするけれど、既にウチの精鋭銃兵は敵の隊長を把握していたようで、次々に頭が弾け飛んで敵軍の中で真っ赤な花が咲く。


「逃がすな、追え!」


 隊長が死んだことで敵の兵士がこちらに背を向けて逃げ出す。

 指揮官に見張られてたから、逃げ出さなかっただけなのだから、それも仕方ないよね。まぁ、だからって見逃すわけもないけどさ。

 背を向けて逃げる敵兵に対し、こちらは銃を撃ちながら更に前進する。背中を撃たれて倒れた奴らを踏み潰して、更に前へ。段々と敵の本陣が近づいていくが、その途中でこっちの先頭を走っていたやつらが吹っ飛ばされた。


「敵の魔法が来る。防御しろ!」


 下がってくる味方と入れ違いに帝国側は魔法兵を前に出して来たようです。

 乱戦の時は使えなかったけれど、味方が逃げ出したので、ちょうど良くこっちだけを攻撃できる位置になったんで使い始めたんでしょう。

 帝国には魔法使いは少ないって聞いたんで、おそらく帝国に寝返った貴族の中でまだ帝国についている貴族の人が自分の配下を投入したんだと思う。

 そいつらの実力は知らんけど、とりあえず魔法を撃ってるだけで、こっちとしてはかなりの脅威なんだよね。魔法を防ぐのは難しいわけだしさ。


 前進を続けていたヴェルマー兵に対して、火の玉が飛んでいき、それが着弾すると爆発を起こして、兵士が吹き飛ぶ。飛んでくる氷の槍を防いだら、地面から土の槍が突き出て、兵士を貫く。風を集めた砲弾が固まって突き進む兵士の真ん中に落ち、嵐となって周囲を吹っ飛ばす。


「態勢を整える!」


 敵の反撃に足踏みするウチの兵に向けてノールが前線に赴き指示を出す。

 盾では防げない威力の敵の魔法に対して、こちらの魔法兵が分厚い石の壁を作り、味方を守る。

 その壁の後ろでノールが崩れたこちらの陣形を整え、再度の突撃の準備をする。


 準備をしてる以上、こっちの攻勢は弱まるわけで、そうなると向こうも態勢を整える余裕が生まれてくるわけで、だけどもそれを、みすみす見逃すっていう間抜けな真似はこちらはしませんよ。こちらっていうか、リギエルがしないってだけだけどさ。


 こちらの攻勢が弱まったことで態勢を整えようとした帝国軍、こちらを正面に捉えて反撃の準備をしていたその側面にリギエルが連れてきたアイツの直属の騎兵が姿を現す。直接の指揮を執っているのはリギエルではなく、リギエルの副官だというルベリオって奴らしいけれど、リギエルでなくとも、この状況なら誰がやっても相当に効くんじゃないかな?


 態勢を整えようとしていた時に攻撃を受けたために、帝国軍の陣形が崩れる。

 仕掛けてきた騎兵に対応しようと銃兵をそちらに向かわせようとする。けれども、それをすれば、正面への備えが甘くなるわけで、そこを突いてノールが立て直したこちらの歩兵が前進を再開する。

 ただし、今度は勢いを重視するのではなくノールの指揮によって、窒息させるようにゆっくりと相手に攻め寄せる。帝国側の魔法使いが放つ魔法を丁寧に捌きながら、確実に一歩ずつ進んでいく。


 リギエルの騎兵は既に後退していた。しかし、そいつらは別の方向に移動しており、帝国側の意識が一方向に集中した時に再び仕掛けるつもりだろう。俺達も散々やられた手だから、リギエルのやり口は分かる。

 リギエルの騎兵の動きに対し、ノールが指揮する前衛は敵側の攻撃をものともせずに前進を続けていく。ノールの指揮で兵士たちは帝国の軍勢に対して横に展開し、帝国の軍勢を包み込むような陣形を取る。


 こちらに囲まれつつある帝国軍だけれど、起死回生の一手として騎兵突撃をしようとしているんだろう、敵側の動きに変化が生じ、魔法使いや銃兵が後方に下がり、代わりに騎兵が前に出てくるが、その動きは既にリギエルが読んでいた。


 こちらの前衛の間を駆け抜け、リギエルの率いる騎兵が最前線へと駆け出す。

 包囲しようという動きは、そういう振りをしただけで、本命はこちらのようだ。

 こちらが慎重に包囲しようと動いていれば、敵側も急な攻めは無いと思って慎重もしくはゆっくりと丁寧に動く。狙いが分かっているのだから焦る必要は無いと敵側は思うってのがリギエルの考えで、リギエルはそこを突いた。

 突撃の準備をしようとする敵の騎兵にリギエルの騎兵が襲い掛かる。同時に包囲をしようと慎重な攻めを行っていたノールの率いる兵がリギエルの動きに触発されたかのように狂暴さを取り戻して敵への突撃を行う。


 緩慢な前進から、急激な突撃へ。その変化に帝国軍は戸惑い、その隙にこちらの兵に一気に攻め込まれる。

 形勢はこちらに傾いたのは明らかだし、もう心配することは無いかな。戦いの様子を見てると、もう俺が何をしなくても勝てるのは明らかだし、後はのんびりこちらが敵を蹂躙する所を見ているだけです。


 しかしなんて言うか、ここに来て完成したって感じがするね、ウチの軍はさ。

 今の状態なら多分この世界のどこの奴らと戦っても負けないんじゃないかってそんな気がするくらいだね。

 でもまぁ、それはリギエルとノールが加わってくれてるからって部分も大きいし、そんなに長く続く最強ってわけでもないんだけどさ。

 それが少し残念だけども、悔やんでも仕方ないし、今は自分の軍の最強っぷりを楽しみましょうかね。そっちの方が生産的だと思うしさ。




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