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犬にも劣るリギエル

 

 マイス平原に人がいっぱい。馬鹿っぽい表現だけど、それ以外に言葉が無いんだよね。

 平原の反対側には帝国軍が陣を敷いているのが見えていて、慌ただしく兵士が隊列を整えている。まぁ、俺の側も同じような物で、ノールが指示を出しながらグレアムさんとかが兵士の尻を蹴っ飛ばしてキビキビ動くように促している。

 今回、俺は総大将ってことで軍の一番後ろに設営した陣幕の中でふんぞり返っています。ノールが言うにはそろそろ先陣を切って活躍するような振る舞いは抑えていく方が良いらしいんで、俺は大人しくしていることにします。

 俺がいる場所は本陣って言うのかな? そこは少しだけ高い位置にあるので戦場の様子が見渡せるんで、ノンビリ観戦していましょう。


「閣下、準備ができました」


 ノールが俺の元に報告に来た。ノールの立場は俺の軍師とか参謀らしいです。まぁ、適任なんじゃないかな? 俺の周りの連中は考えるのが苦手だし、ノールがいてくれれば助かるしさ。


「うむ」


 俺が頷くと、馬が連れてこられる。どうやら、それに乗れってことなんだろうね。乗っても良いけど、一体どこに連れていかれるんでしょうか?


「では、参りましょう」


 ノールに促されて馬の背に乗る。愛馬ドラウギースはヴェルマーでお留守番中なので普通の馬です。あのクソ馬、山脈越えの列車に乗りたがらないから置いてくるしかなかったんだよね。まぁ、居ない奴の事は忘れましょう。


 そんなことより、俺が気にするべきは俺の行く先だよね。

 俺はノールの先導に従って馬を進ませる。

 俺が進むのに合わせて兵士たちの陣形が俺の道を作るように割れ、その真ん中を俺はゆっくりと進む。

 その場にいる全ての人間の視線が俺に集まっているような気がするが、気にすることじゃないなかな。

 なんだかんだ言っても俺って誰からも注目される人間みたいだし、人から見られるなんて慣れっこですよ。

 まぁ、ちょっとサービスして手を振っても良いかなってくらいは思いますけどね。


 そう思って俺が兵士たちの視線に応えるように手をあげると、兵士たちが歓声をあげ、その大音声だいおんじょうで大地が震える。


「ヴェルマー候万歳!」 「ヴェルマー候万歳!」 「ヴェルマー候万歳!」


 兵士達の間から俺を讃える声が絶え間なく聞こえてくるけど、俺なにかやっちゃいました? 思い当たるふしが無いけど騒いでるってことは何かやったんだろうね。いやぁ、意識せずとも何かを成し遂げてしまう男なんだね、俺って奴は。


 兵士たちの間を通り抜け、俺は平原の中央に向かう。

 前に見えるのは敵軍で俺の後ろにいるのは俺の軍だ。気づけば数万の軍を率いるようになっていたわけで、人生ってのは分からんもんだよね。

 家を追い出されたときは――まぁ今思えばそんなに途方にも暮れてなかったね。よくよく考えれば、いつでも何とかなると思って生きてきたわけだし、これからも何とかなるだろう。なるようになるって思って生きてきた結果が今の状況なわけだしさ。

 まぁ、そんな先のことを考えるより、今は目の前の帝国軍のことを考えないとね。つっても、考えるのは俺の仕事ではありませんが。

 ……ところでノールの策というのはどうなったのかな? リギエルって奴を始末する算段はついたんでしょうか? それが無いとなると、ちょっと嫌な予感がするんですが。でもまぁ、失敗したら失敗したって報告するだろうし、何も言ってこないってことは上手くいっているということでしょう。それなら俺が言うことは何もないです。


 俺はノールに先導されて平原の中央に辿り着く。その場所には先客がいて、一人は女の子、一人はお爺さん、一人は俺より少し年上のように見える男。

 みんな、ちゃんとした格好をしていますね。ノールから聞いた話ではリギエルって奴はとんでもない格好をしているらしいんで、ここにはいないようです。


「兄上――」


 女の子がノールを睨みつけています。なんだか俺は眼中にない感じでちょっと寂しい。

 まぁ、俺の好みではない顔なんで、そこまで気持ちは動かされないけどさ。なんていうか、表情が厳しいんだよね。普段の生活は知らないんだけど、もっとノンビリ生きた方が良いんじゃない?ってアドバイスをしたくなるような雰囲気が漂っていて、ちょっと心配になるね。


「ライレーリア……」


 ノールが女の子を憐れむような眼差しで見つめます。そういうのって良くないんじゃないかな? 見た感じ、この子プライド高そうだしさ。もっと上から目線で対応した方が、この子にとっても良いと思うんだよね。

『舐めんじゃねぇ、お前になんか負けねぇ』っていう気持ちは俺はいらないけど、そういう気持ちを常に持ってないと生きていきづらい人もいると思うんだよね。


「やはり、兄上は私を殺しに来たということなんですね」


「それは違うライレーリア」


「何が違うというのですか? 私の邪魔をしておいて、どういう言い訳をするつもりですか? いえ、言い訳などはしませんよね? 私が先に貴方を陥れようとしたのですから復讐する権利があると、お思いなんでしょう?」


 ……帰って良いかな? なんか俺いらない雰囲気がするしさ。


「兄上が私に対して、どのような感情を抱いているかについていは私は何も言いません。ですが、兄上は自分の行いが帝国に弓引く行為だと分かっていられるのですか? 帝国の情勢を考えれば王国の地を手に入れ、植民地変える以外無いことは兄上も知っているはずです。

 それなのに私の邪魔をするとは何事ですか? 私の行いは全て帝国のためになっているというのに、どうして兄上は邪魔をするのか」


「冷静になれライレーリア。他国を侵略し、豊かな土地を手に入れた所で帝国の問題は解決しない。帝国の問題はその体制自体にある。我々がするべきは帝国自体を変えることだ」


 マジで帰って良いかな? 帝国の方の男の人も欠伸をしていらっしゃいますよ?

 あ、目が合ったぞ。向こうは俺の視線に気づくと会釈してきたので、悪い奴ではないようです。


「帝国を変える? 今まで何もしなかった兄上が今更なにを言うのですか。どう言い繕おうが兄上は帝国が打ち立てた方針に異を唱え、帝国に対し弓を引いたことには変わりありません」


「ライレーリア……」


「何をどう言い訳しようが兄上がしていることは帝国への反逆行為。帝国本国の方針に従っている私に敵対しているのですから、それ以外の何物でもありません。そして帝国が反逆者に対して取る手段はたった一つ。それは兄上もご存知でしょう?」


「戦いは避けられないのか?」


「当然でしょう。我々は貴方がたを打ち破り、この地を帝国の物としてみせる。それで兄上はどうするのです? 私を破ったとして、この地をどうするつもりですか? 後ろに控える兄上の軍を率いた功績でもって、この地の人々に対して恩を売り、アドラ王国で官職でも得るのですか? 祖国に対して裏切りを働き、地位を得るのが貴方の望みですか?」


「それは私が答えることではない。今の私は所詮は雇われの身、帝国を破ってどうするかを答えるのに相応しい者は他にいる。それと一つ勘違いを訂正するが、あの軍を率いるものは私ではない」


 ノールが俺を見てるんですが何ですかね? アドラ王国をどうするかって話かな?

 うーん、それなら、答えは――


「俺達は帝国を破り、この地を取り戻すだけだ。それ以外は知ったことではない」


 とりあえず頼まれたからここにいるわけだしね。俺達は事が済んだら山の向こうに帰りますよ。だって、家はそっちにあるわけだしさ。

 どうやら、俺のそんな答えは完璧だったらしく、あまりの完璧さにライレーリアちゃんが震えていますよ。


「……まさか、まさか兄上は……帝国の皇族が、そんな男の下についたと、そういうことなのですか?」


 信じられない者を見るような眼でライレーリアちゃんが俺を見てきます。まいったね、ちょっと照れるぜ。でもキミは俺の好みじゃないから、その熱烈な視線には応えられないのだ。それに俺には婚約者もいるしね。


「こんなどこの馬の骨ともしれない男の下についてまで、それほどまでに私の邪魔をしたかったと? そういうことなのですか?」


 良く分からないけれど、そういうことなんじゃないかな? 俺はたぶん違うと思うけどね。

 まぁ、そういう話は二人だけの時にゆっくりやってください。俺達はこれから戦争ですからね。話し合いではなく殺し合いです。


「なるほど、良く分かりました。兄上が私をどう思っているのかをこの上なく理解できましたよ」


「待ってくれライレーリア」


「いいえ、待ちません。兄上もこれ以上、待つのはお嫌でしょう? ようやく念願かなって私を始末できるのですから、待ちきれないのでは?」


 俺も待ちくたびれてますよ。

 そんな俺の気持ちが通じたのか、ライレーリアちゃんは宣言する。


「帝国皇女ライレーリアの名において、我が軍が貴方がたを撃滅することを宣言いたします。――我々は貴方がたを殲滅するつもりで戦うので降伏は無意味です」


 強気だなぁ。

 で? こっちは誰が今みたいなことを言うの? ノールは俺を見てるんだけど、もしかして俺が言う感じ?


「ヴェルマー候アロルド・アークス。そちらの申し出を受け、帝国軍との戦いを承諾する」


 じゃあ、戦いましょうかね。しかし、ライレーリアって皇女だろ?

 皇女様が戦場に出てくるってどうなってんだろうか? ついでにセイリオスも帝国の側についているらしいけど、アイツは何をしてるのかな?


「ログドー将軍、リギエル将軍。本陣に戻りましょう」


 ライレーリアちゃんが一緒に来ていた奴らに声をかけ、馬の頭を自陣の方に向ける。

 それに合わせて俺とノールも乗っていた馬を回頭させ、自陣営に戻る。

 今度はノールの先導も無く、三人で横一列に並んで――


 ――なんか一人増えてません?

 何か違和感を覚えて隣を見ると、さっきまでライレーリアちゃんの隣にいたはずの男が俺の隣に並んで、馬を進ませていた。


「リギエルっ!?」


 ライレーリアちゃんが凄い声をあげていますけど、何これ? ライレーリアちゃんの仕込みじゃないの?

 つーか、こいつがリギエルって将軍? 話を聞いていた限りだとヤバい見た目らしいけど、俺の隣にいるのは鎧こそ来てないけれど、軍服をキッチリと着込んだ、真面目な青年将校っぽいんだけど、人の噂ってのは当てにならないもんだね。


「何をしているのですか!」


 ライレーリアちゃんがあまりにも大きな声で叫ぶの俺達は足を止めました。

 俺もこいつが何をしているか分からないので、様子見中です。


「申し訳ないんですが、俺はこっちにつきますね」


 え? 何言ってんのコイツ?

 リギエルだっけ? この場面で帝国を裏切って、俺達の側に付くの?

 訳の分からない展開に俺以外の奴もみんな驚いて――はいないね。他の奴らは驚いてるけどノールだけしてやったりって顔をしてますけど、こいつはリギエルが寝返るって知っていたのかな?


「以前に盤上遊戯を遊んでいた時にも話したろう? 真正面から戦うなど阿呆のすること。戦う前に敵の数を減らしておかなければな」


 そういえば南部で捕虜にしていた時、さんざん遊んでたからなぁ。まぁちゃんとしたルールじゃなくてイカサマありきで遊んでたんだけどさ。

 その時のノールの得意技は俺が目を離した時に盤上の駒を盗んで自分の懐に入れることでした。おっと、それは皇子の方のノールの話で、傭兵隊長のノール・イグニスの話じゃないね。

 でもまぁ、どっちのノールにしてもイカサマの戦術を現実の戦場でもやりやがったというわけね。


「以前からリギエルのことは知っていたのでな。どういう人間かも噂では聞いていたので内応の策を取ったんだ」


 策ってのはリギエルを寝返らせるってだけのものだったのね。つまりは戦場でどうにかする方法は無かったってことだよね。


「どういうつもりだリギエル!」

「どういうつもりも何もないよ。ただこれが無敗の傭兵の真骨頂ってだけのことで、俺はそれを発揮しただけさ」


 向こうはなんだかエキサイトしてますね。まぁ、当然かな。

 今まで戦ってた感じだと、帝国で強いのはリギエルくらいだったし、頼りにしていたんだろうね。それがいきなり裏切るとかビビるよね。


「アンタらは勘違いしていたようだけど、無敗の傭兵って実は蔑称なんだよね」


 無敗の傭兵とかカッコイイな。でも蔑称なのか? なんでだろうね。


「俺が無敗なのは常に勝つ側に付くからだよ。裏切り寝返り何でもありで勝つ側に加わるか無敗なのさ。そうでなきゃ、一度も敗けないなんてありえないだろ? まぁ、普通にやっても勝つけどね」


 爽やかに言ってやがるけどクズだよね。

 まぁ、傭兵なんてそんなもんか。ライレーリアちゃんたちはショックを受けているけど、ちょっと傭兵を信用しすぎたんじゃない?


「き、貴様は殿下の行いを正そうとしていたではないか? なんだかんだと言いながらも忠誠のある振る舞いは何だったのだ」


「あんなもん普通だろ。雇い主に対しては誠実な対応を取るのは当然じゃないか。雇い主が道を踏み外そうとしていたら何とかするのもサービスの一つだし、雇われている内は忠臣のふりだってするさ」


 あぁ、なんかちょっと真面目なこと言った時があって騙されちゃったのね。

 でも、そういう態度も仕事でやってるだけだってのが分からなかったんだろうか? 俺は行ったことないけど、娼館の女の子にマジになるのと同じようなもんだよね。娼館の女の子だって仕事で男に優しくしてるんだから、それを勘違いしたらいけないよね。


「まぁ、俺に全軍の指揮権とかくれれば話は別だったんだけどね。俺の功績を考えれば、もっと金を出したり待遇を変えてくれて当然じゃない? なのに、アンタらはそういうことを何もしなかったじゃん。それに対して、こいつらは俺を評価してくれたぜ?」


 リギエルが俺とノールを指さしてくる。

 ちょっとやめてくれませんかね? お前みたいなクズの仲間だと思われるの嫌なんですけど。


「とんでもない量の金貨と、俺に全軍を指揮する権限を与えてくれるってさ。誠意ってのはこういう形で示してもらわなきゃな。誠意ってのはやっぱり金額とかに現れるしな。それを考えたら、アンタらは無意識に俺を軽んじてたのさ」


 こいつに全軍の指揮権をやるとか聞いてないんだけど? どういうことなんですかねノール君?

 でもまぁ、別に良いか。他の奴らも俺が言えば納得するだろうし、問題ないよね。それをあげてリギエルを味方にできるなら安いもんか。


「貴様は――」


 おっと、ライレーリアちゃんどうしましたか? なんか静かになっていましたけど、何か気に障ることとかありましたか?


「リギエル、貴様は犬にも劣る畜生だ! 絶対に許さない! いや許されるはずがない!」


「はははははは、負け犬の遠吠えが耳に気持ちいいなぁ」


 うーん、こいつを味方にするんですか?

 ライレーリアちゃん泣いてますよ。ちょっと酷くない?

 でも、人間性はともかくリギエルは強いしなぁ。こいつが敵にいるとそれだけ不安になるんだよね。


「殺してやる! 絶対に殺してやる!」


 裏切られたのがよっぽど衝撃だったのか、呪いの言葉を吐きながらライレーリアちゃんは憎悪で顔を染めて自陣に帰っていきます。ついでに、もう一人の将軍らしいお爺さんも凄まじい憎しみを込めた眼差しでリギエルを見ていました。

 対してリギエルはというと、帝国の人のことなど気にも留めず、数年来の仲間であるかのような調子で俺達に話しかけていた。


「さて、閣下に殿下。我々の陣に戻りましょう」


 ――ということで、リギエルが仲間になりました。

 経緯はともかくとして、戦いが始まる直前に一番厄介な敵が消えて、頼もしい味方が増えました。

 もう、俺らの勝ちは決まったようなもんだね。じゃあ後はリギエルとノールに任せておいて、俺は後ろでノンビリと観戦していましょうかね。










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