暴虐侯
西部を抜けて、王都を目指す俺達。
西部に攻め込んできた帝国の人達は投降してきた奴らは生かしているけど、まだ抵抗を続ける人達はぶっ殺してます。
「だからよぉ、首を落とすなって言ってんじゃねぇか」
戦場になった西部のとある町の中でオリアスさんが俺達に文句を言ってきました。
辺りには、この間の大きな戦いで生き残ったというか、あの戦いから逃げ出した帝国の人達が死体になって転がっています。
こいつらが町の中に立て籠もったっていうんで、放っておくのも良くない気がして、ぶっ殺しに来たわけです。
最初は穏便に引き渡してって感じで行こうと思ったんだけれど、町の奴らが庇うもんだから、面倒くさくなって、町の中に押し入っちゃったんだよね。その結果、町の中で殺し合いですよ。いやぁ、死屍累々です。
「これじゃ、使い物にならねぇぜ」
オリアスさんが首から上が無い死体を蹴っ飛ばす。なんで、オリアスさんが殺し方について注文をつけているかというと、ゾンビにならないからです。
別にゾンビが好きってわけじゃないよ。ゾンビが俺らの生活に必要な物を生み出すから、積極的に作ってるわけです。
「いいか、新入りども。ゾンビ作りは新入りの仕事だ」
戦場になった町の真ん中で、俺の兵隊が新兵に仕事を教えています。町の中心の広場にはこれでもかってほど死体が転がっていてヤバい臭いがするけど、まぁ俺の町じゃないし、二度と来ることも無いからどうでもいいか。
「まずは死体の手足を切り落とす。そんでもって、そいつを上半身だけ出して穴に埋める。そして、魔石を溶かした水をそれにかけて、数時間放置する。そうするとゾンビが出来上がるぞ」
首を落としてしまうとゾンビにならないらしいから注意しようね。
なんで、俺達がゾンビを作っているかというと、ゾンビも魔物だから魔石が取れるからです。
帝国の人達は火薬ってのを使って銃弾を飛ばすけど、俺達は魔石を加工して、帝国の人が言う火薬と同じような物を作ってるんで、魔石は必需品なんだよね。ついでに、燃料にもなるし、回復薬とかの材料にもなるから、幾らあっても良いんで、機会があったら作るようにしてるんです。
周囲を見ると、ゾンビに変わった死体が地面から上半身だけを出して呻いてる。それを見つけた兵士が頭を叩き潰し、胸の辺りを掻っ捌いて、体の中に手を突っ込んで魔石を抜き出す。
「どう思う?」
俺はその光景について、この町の町長さんに質問してみました。
町長さんは地面に座らされていて、背後にグレアムさんが剣を抜いて立っています。
実はさっきからずっといたんだけど、何も言わないから無視してたんだよね。
「兵士と町民では魔石の質が違うと思うか?」
町の中で戦闘になったから、町の人も巻き込んじゃってたんだよね。それで死んじゃった人もいたから、そのまま放っておくのも勿体ないと思うんで、ゾンビにして魔石を取ろうと思ったんだよね。
「同じだったら、町の人間を殺した方が手間がかからなくて良いと思わないか?」
純粋に効率を考えたら武装している奴らより、そこら辺にいる一般市民をぶっ殺す方が楽だから、ゾンビにするのも楽だよね。でもまぁ、何もしていない一般人を殺すのは良くない気がするからしないけどね。
――だけど、こいつらはどうなんだろうか?
こいつらって帝国が敗けたことを知ってて、逃げた帝国の連中を匿っていたんだろ? そういう奴らって何もしていない一般人に入るのでしょうか?
「お許しください閣下――」
「なんだ? 俺に許しを乞わなければいけないようなことをしていたのか?」
なんだよ、やっぱり何かしてたじゃねぇか。悪いことしてなけりゃ謝るわけないし、自分で悪いことをしたって自覚してたから謝ったんだろ?
「どうか、どうか町の者だけは……私はどうなっても構わないので――」
「そうか――」
俺が頷くと同時にグレアムさんが町長さんの首を刎ねる。
どうなっても構わないって言うから、これで手打ちな。なんか色々してたのかもしれないけど、これでリセットで良いと思う。
町長さんが死んで責任を取ったので、俺達はそれ以上、町に何かするということも無く、ゾンビにした奴らから魔石を取ったら、次の町へ進軍することにしました。
町を出て行く時、町の人達から怯えと憎しみが半々くらいに籠った眼でで睨まれたけど、別に何とも思わないかな。睨む程度で俺をどうにか出来ると思ってるんでしょうか?
旅の恥は搔き捨てともいうし、ここに永遠にいるわけでもないんだから恨まれても困らないんだよね。最終的には山の向こうに帰るんだしさ。
そもそも、ここにいる奴らって俺の領民でもないし、税とかを俺に納めてくれるわけでもないんだから気を遣う必要がないよね。
俺の領民で俺に税やら何やらを治めてくれるのは俺の手下の兵士どもなわけだし、この土地の人々より、そいつらの方を気遣うのは当然じゃない?
なので、なるべく俺の手下どもには楽しく働かせてやりたいと思うのよ。わざわざ山を越えてきたんだし、ちょっとした役得はあっても良いと思うんだよね。だからまぁ、略奪してたりするのをどうこう言うのもね。
「あの町長、けっこう貯め込んでたな」
「こんだけありゃ、指輪の一つは贈れるか?」
「馬鹿か? 指輪なんて死体から良い物を取ってくりゃ良いんだよ」
「それやったら、サイズが違ってさ。彼女からは死体漁りをするなら、もっとちゃんとやれって言われたんだよな。下手をこいた罰として特注品にしろってさ」
――俺もエリアナ達に贈る物を用意しないとなぁ。でも、ちょうどいい感じの物が無いんだよね。
戦利品が無いってのは、ちょっと恥ずかしい。俺の兵は質はともかくとして、それなりに戦利品を手に入れてるのに、俺はイマイチだ。
グレアムさんが首を刎ねた町長の家から兵士が持ってきたっていうネックレスとか貰っておけば良かったか? でも、ロードヴェルムで見つけたのと比べるとショボくてなぁ。
まぁ、俺の戦利品はともかく、こんな感じで俺達は西部を越えて中央に到達しました。
中央に来るにつれて、帝国軍自体の抵抗は少なくなっていったので良く分かんねぇなぁと思っていたのだけれど、ヨゥドリやグレアムさんの説明だと、結局の所、帝国だけで支配できているみたいなのは王都の近辺くらいらしいですね。
王都から少し離れると、帝国に寝返った貴族に任せないといけないみたいだし、俺達が侵入したような、西部と中央の境みたいな場所はそもそも帝国に寝返った貴族たちの領地みたいです。
――さて、じゃあどうする? まぁ、特にやることは変わらないんですけどね。
相手が帝国から、その土地の領軍に変わっただけで、目についた町や村を襲って、俺達の敵にならないように念を押すくらいかな。
ただ、抵抗する場合はちょっと容赦が出来ないかも。だってソイツらの領主って王国を裏切って帝国を手引きした奴らなんだし、上司の不始末のツケを払うのも、ある程度は仕方ないんじゃない?
そういう方針で事を進めた結果、焼け跡だらけになりました。
うるせぇ! 火をつけろ! 全部、焼き払えってノリになることも多々あってね。ちょっとね? 興奮しちゃったのよ。だって、俺らのこと舐めてるんだもん。怒っても仕方なくない?
野蛮人だとか、田舎者だとか、ゴミだのクズだの俺らの事を言うんだぜ?
中央の端っこのほぼ田舎な場所に住んでるくせに変に気位が高くてさ。自分たちはちょっと違うみたいな感じを出してるんだもん、イラつくよ。
自分たちの方が圧倒的にヤバい立場なんだから少しは殊勝な態度を見せればいいのに、喧嘩を売ってくるんだぜ? 控えめな態度を見せてれば、こっちだって控えめにしてやったのに、口を開けば、俺達を罵る言葉しか出てこない。
テメェらの頭にいつ奴らがやったことを考えれば、そんなに偉そうなことを言えないと思うんだけど、そうでもなかったみたい。
簡単に説明すると、そんな感じにイライラすることがあった結果、ぶち切れた奴らがそれなりにいて、容赦のない対応になってしまいました。
そうして、そういうことを続けた結果――俺は今は領主の屋敷にいます。
「ケダモノ共め!」
領主の奥さんらしい人が男のを抱いて俺を睨みつけています。
領主夫人は床に座らされていて、俺は領主の人が使うテーブルの上に胡坐をかいて座っています。
「このようなことが許されると思っているの! 私は栄えある――」
「黙れ」
俺がそう言うと、俺の兵士が領主夫人に近づいて、猿ぐつわを噛ませる。
母親が乱暴されると思ったのか、男の子が暴れるけれど、兵士が小突くと簡単に倒れてしまう。もう少し鍛えないと駄目だね。どうしますと兵士が俺を見るので、任せるって感じで視線を返すと縄で男の子を縛り上げた。
とりあえず人質です。
別に殺したいほど憎いってわけでもないですし、今のところは生かしておこうかなって。
生かしてはおくけれど、屋敷の中にある金目の物は貰っていきますよ奥さん。
このことは旦那さんにも伝えておくので、身の振り方を考えるように促しますね。それ次第で貴方がたの命運は決まってしまうんですが、よろしいでしょうか?
――とまぁ、そんな感じの事を俺は伝え忘れてしまいました。領主夫人とお子さんは何の説明も無いまま、領主屋敷の地下牢に入れられてしまいました。まぁ、命の危険は当面は無いので安心して良いです。
ついでに、その町にあった教会にもお邪魔して高そうな彫刻とか色々いただいていきました。
『不信心者どもめ!』って怒られたけど無視。とりあえず、これでカタリナに贈る者は大丈夫だと思う。ヴェルマーにある教会はどれも貧相なんで、いただいていった教会の備品は良い飾りになるだろうし、少しはウチの教会も豪華になるんではないでしょうか。
奥さんと息子さんを人質に取ってるよってのと、あとキミの領地を焼いてるよって内容の手紙を送ったら、帝国に寝返った貴族の人はすぐに俺の所にやってきました。
冗談だろと思ってたみたいだけど、実際に帰って来てみたら、自分の領地にある村や町は焼き払われてて、自分の屋敷には武装した奴らが居座り、妻子は牢の中とビビるよね。
帝国に寝返った貴族の人は速攻で俺に頭を下げてきて、「どうか、お許しを――」とか言ってきました。
この人も別に領民が大事とかじゃないと思うよ。領民とかは自分の所有物であるから、留守にしてたら自分の所有物が全部ぶっ壊されそうになってて、ヤバいと思って俺に頭を下げてるだけです。
帝国についてるのだって良い思いができるからってだけで、何か主義や主張とか理想があるわけでもなくて、富と栄光が欲しいからなんだと思う。その欲しがっていた富に関して、その元手になる物が俺に奪われそうになってるんだから、必死にもなるよね。
「どちらに付くべきか分かるか?」
答えは決まっているだろうけど、一応聞いてみました。
一度、損得で裏切った人間は、何度でも損得で裏切ると思うんだよね。で、実際に返事はどうかというと――
「――貴方に従います」
まぁ、こんな感じです。
一人が転向すれば、他の奴らも転向するもので、俺の所業が知れ渡るようになると、俺が焼き払った所の隣を領地にしている貴族を皮切りに、帝国に寝返ったはずの貴族の人達の多くが俺に挨拶に来るようになりました。そして、彼らは決まってこう言うんです。
「貴方に従うので、どうか私の領地には手を出さないでいただきたく――」
そうして、王国から帝国に寝返った人たちは、今度は帝国から俺に寝返りましたとさ。めでたしめでたし。




