儘ならないもの
全然、進めていない今日この頃。
相も変わらず、皆で集まって相談中です。
「だからねぇ、俺達で偵察をして帝国の拠点を突き留めないとどうにもならないんだって」
グレアムさんが皆に自分の考えを伝えています。
俺は寒いので、キリエが作ってくれた魔石で動くストーブに手をかざしながら暖まっている最中。難しい話し合いは俺はわかんないので、君らだけでやってください。誰かぶっ殺す必要が出てきたら、俺の出番なので、それまで待機してますね。
「俺達って言うが、冒険者連中をバラバラに動かたとして、守りはどうすんだよ? 既に一回やられてるんだぜ?」
オリアスさんがグレアムさんの意見に文句をつけてますね。
まぁ、オリアスさんも言いたいことはあるんでしょう。なにせ、オリアスさんの魔法兵部隊が一番やられてるからね。どうやって、やられたかというと普通に奇襲を受けました。
オリアスさんの指揮している魔法兵はちょっと運動神経が足りない奴も多いから足が遅くて、行軍の最中は最後尾になりがちなんだよね。まぁ、後ろにいる分は敵は前から来るから安全とも言えるんだけど、今回の敵は俺達が進む先にいると思ったのに、いつの間にか後ろに回り込んでいたから、最後尾にいた魔法兵部隊は直接攻撃を食らって結構ダメージを受けました。
――で、その結果、死んだ奴はいなかったけど、怪我をした奴が多くて、ちょっと足を止めざるを得なかったのよね。向こうは無理して俺達と戦う気は無いようで一撃を加えたら逃げていきました。それを追ってグレアムさんの部隊も動いたんだけど、向こうの方が足が遥かに速くてさ、全然追いつけねぇでやんの。
そうして追いかけている内に帝国の連中の別動隊がもう一回奇襲をかけてきたんで、また被害が増えたりしてて割と微妙な状況です。
大軍同士で真正面からぶつかったら絶対に負けないとは思うんだけど、少人数の部隊をちょこまか動かして攻撃してこられると、大所帯で固まって動いてる俺らだと、ちょっと対処しづらい。
帝国のリギエルって将軍だっけ?
そいつは俺達と真正面から戦うのは避けてるみたいで、西部のあちこちを逃げ回っていて、どこが拠点かも絞らせてくれないんで、寝床に襲撃をかけることも出来ずにダラダラと足止めを食らってます。
「とりあえずで軍を進めるべきではないのでは? ここは慎重に行動するべきかと」
ヨゥドリの意見は帝国と同じように部隊を小出しにして、こっちの勢力圏を増やしていくってものです。
まぁ、俺もそれで良いかなぁって思うような、それは良くないって思うような、イマイチどっちが良いのか判断がつかないね。
「我々は王国西部の西側七割を勢力圏に手中に収めており、帝国側は王都寄りの約三割が勢力圏になります。我々はその三割を制圧し、王都まで向かう道を確保しなければいけません」
ヨゥドリが西部の地図を皆に見えるように机の上に置く。
西部は平原が多いと言われるけれど、実際には結構、森林があったりで案外、通れる道が少なかったりする。それが軍隊も通れるような道となると更に少なくなり、その通れそうな道は地図に色分けされて記されていた。
「王都まで向かう上で我々の軍が進めそうな道は、地図上に記した通りです。だいたい三つの道筋が取れますが、それらの経路上には幾つかの町や村があり、周辺にも帝国軍が拠点にできそうな場所がいくつかあります」
地図には村や町なんかに赤い丸が付けられていた。
きっと、そこら辺に帝国がいるってことなんだろうね。
「どこを通るにしても、一つの道だけを進む場合、他のルート上の帝国軍が総がかりで掛かってくる可能性があるので、三つの道の全てに部隊を派遣し、ルート上の敵拠点を制圧、それによって進路の安全の確保をしたうえで全軍を王都へと進軍させます」
安全が確保するまでは、帝国みたいに部隊を小出しにして、戦わせておくってことね。
俺としては大きな戦場で敵の大軍を叩き潰して、一戦で決着をつけたいんだけども、それは無理そうだし仕方ないか。でも、こうなると俺の仕事が無いんだよなぁ。
後方に司令部を置いて、そこで大人しくしてる? まぁ、それも良いんだけどね。でも、俺も動いた方が良いと思うんだよね。
皆がお行儀よくして、お約束を守って戦ってるなら、俺はその逆を行くというのはどうだろう? みんなの邪魔しなければ好き勝手にやっていいとも思うんだけど――
「お前らは計画通りに動け。俺は近衛と一緒に好きにやる」
とりあえず、提案してみました。
でっかい道は三つだけど、細い道ならいくらでもあるんで、大軍は無理でも俺の近衛兵程度の数なら大丈夫だろうから、近衛を連れ回して、西部を暴れ回り、帝国の連中をぶっ殺して回ろうと思いますが良いですかね?
―――――――――――――
一方その頃、帝国側では――
「この三つのルートにある拠点を攻略しようとしてくるだろうが、一つは捨てて良い。向こうの計画はこっちが抵抗することを前提にしてある物で、三つのルートの攻略速度に大きな違いは無いだろうと予測したものだろうから、その予測を崩す」
リギエルが自分の指揮下にある部隊の隊長たちを集め、作戦を説明していた。
「一つの道は勝手に進ませて良い。勢いに任せて進んだところで、他の道を進む奴らが追い付かなければ孤立するだけだ。その時に退路は潰すなよ? 退路を潰すと必死になってこちらを潰そうと動くだろうから、帰る道は残しておいてやれ。そうすれば状況が悪くなれば大人しく進んだ道を戻るか、その場に留まる。戻った場合は敵の後退に合わせて俺達は前進、留まった場合は補給の部隊が来るだろうから、それを叩け」
リギエルは絶対にマトモに戦わないと決めていた。王国の連中は別だが、山の向こうから来た連中とだけは正面から戦ってはいけないと自分の部下たちに厳命してある。
山の向こうの連中――ヴェルマー侯爵軍は戦術こそ拙いが、兵士一人一人の能力は帝国の遥か上を行く。リギエルは帝国兵が五人がかりでも一人のヴェルマー兵に負けた場面を目撃したので、ヴェルマー侯爵軍に対して甘い考えは持っていない。
「別に敵を倒すのが目的じゃないんだ。とにかく時間を稼ぐことを第一に動くように。攻めも守りも欲はかかずに、やるべきことをやったら下がれ。やるべきことをできなくても無理せず後退。絶対にしてはいけないのは追撃と死守。方針は以上だ。後は各個に自分の判断で動け。問題があった場合や必要があれば、その都度、指示を出す」
リギエルはそう締めくくり、集まりを解散させる。
話し合いは無く、誰からも意見を求めず、リギエル一人の考えを全員に周知させるためだけの集まりだから、解散させるのもリギエルの都合だ。
「ルベリオ君、俺達も動くぞ」
「逃げるんですか?」
その場に唯一残っていたリギエルの世話役のルベリオはリギエルの言葉に質問を返す。
「逃げるわけないでしょう。いや、逃げるのか? ヴェルマーの大将が向かってきそうな気がするから、この拠点は放棄するわけだし、逃げるって言っても間違いではないか」
「大将というと、ヴェルマー候が自ら乗り込んでくるというんですか? まさか、そんな侯爵自ら来るなんてことは――いや、そもそも来れるんですか? 道は塞いでいるはずですが」
ルベリオの疑問にリギエルは肩を竦め、溜息を吐く。
こちらだって大軍が通れない道や森の中を通って奇襲をかけてきているんだから、同じように奇襲されないわけがないとリギエルはルベリオの考えを否定する。
「向こうの侯爵は来るよ。たぶん奴が一番強いし、奴の率いている近衛兵は俺の知る限り、世界最強の戦闘集団だ。下手に集団の中に組み込むよりは遊撃で動かした方が効果が高い。ヴェルマー候一人でこっちの兵の100人くらいの強さはあるし、その下の近衛もこちらの兵の10人分くらいの強さがある。奴らが適当に暴れてるだけで、こっちの防衛体制はズタズタにされるぜ?」
「でしたら、侯爵を止めるために部隊を動かすべきでは?
「だから、それが無理なんだって。こっちもそうだけど、向こうも足取りを掴ませるような動きはしないだろう。嵐のように攻め込み、嵐のように去るんじゃないかな?
そんな奴らを追いまわすのに人手を動かすのも勿体ない。それに追いついても負けるだけだぜ? 一番良いのは戦わせないこと、戦わずにそこら辺をウロウロしている状態にさせて、戦闘に参加させなければ倒したのと同じさ」
いまいち納得した様子を見せないルベリオであったが、拠点を出るために馬に乗るリギエルの後を追い、自分も馬に乗る。しかし、そうしてリギエルの後ろについて馬を走らせるが、ルベリオは奇妙なことに気づく。
「あの、この方角ですと、敵の勢力圏に向かってしまうのでは?」
「そりゃそうだ。俺達は敵の懐に逃げ込むんだからな」
後ろに逃げた所で追いつかれる気がする。だから逆を突く。
リギエルは自分の直感に従い、子飼いの兵を率いて敵――ヴェルマー侯爵軍及び西部貴族軍の拠点へと向かっていた。
リギエルとルベリオの後ろについて馬を走らせるのは、リギエルが傭兵であった時からの部下たちで、練度においては他の帝国兵よりも頭一つ抜けている。
「向こうが攻勢に出るからって、こちらが守勢に回る必要は無いだろ? 馬鹿正直に相手に合わせてたら主導権を取られて負けるだけだ。守り切ってから攻め上がるんじゃ遅すぎるし、守りながら攻めることで、初めて先手を取れるし、それによってこちらが主導権を得ることができる」
敵の拠点を攻めるというなら、それはそれで良いが、せめて相談してほしかったとルベリオは思う。リギエルの独断専行に付き合わされた結果、こんな場所に飛ばされたのだから、それくらいは言っても許されるだろうとルベリオは思うのだった。
先の貴族連合軍との戦でリギエルは活躍したものの、皇女からは独断専行について責められた。
功績はあるので、それと相殺する形で罰は無かったが、褒美も特にない。一応、より多くの兵を指揮する権限を貰ってはいるのだが、それくらいしか褒美は無かった。また、処罰ではないものの、西部の制圧に駆り出されることになり、今に至る。リギエルの世話役であるルベリオもリギエルに付き合わされる形で西部へと来るはめになった。
無敗の将軍の側近と言えば聞こえはいいが、ルベリオは出世街道ならぬ左遷街道を他の追随を許さぬスピードで進んでいた。それはリギエルの重要視する速さを体現するかのようであった。
――――――――――――――
そうしてリギエルたちが動き出してから、時は少し進み、そしてアロルドはというと――
「なんかスゲーしくじった気がする」
俺は近衛を引き連れて帝国の拠点を潰しまわってるのだけど、なんか違う気がするんだよね。
敵を倒せてないわけじゃないぜ? 野営地を幾つも潰してるわけだしさ。でも、抵抗が弱いというかなんというか。俺達が襲撃すると、ちょっとは戦う意思を見せるけど、速攻で逃げるんで、あんまり殺せてない。追いかけても、ここの帝国兵は装備が軽装だから身軽で俺達から逃げ切れる奴もそれなりにいる。まぁ、それでも一応は殺せているんで良いとしよう。
中には俺らが襲撃をかけた時には放棄して逃げ出してる野営地とか拠点とかあったりするから、そっちに比べればマシだ。
「ここも逃げ出した後です」
近衛の兵が話しかけてきたんで、見りゃ分かるよって感じに頷く。
俺達の接近に慌てて逃げ出したんだろう。俺達が訪れた野営地は物資やら何やらもそのままだ。
持って帰るには量が多いので、必要な分だけ回収する。俺達が去った後で帝国の連中が回収しそうだし、実際に回収する場面に出くわしたこともあるんで、焼き払いたい気分でもあるが、それをするのも勿体ないと思う量だ。どうすっかなって一瞬、考えそうになったけど面倒くさいんで焼くことにしました。
余計なことを考えるのは良くないね。
良くないと言えば、軍を三つに分けてってのも良くなかったね。
グレアムさん、オリアスさん、ヨゥドリの三人に任せたんだけど、ヨゥドリのルートだけ守りが甘くて、他の連中がてこずっている間にかなり先まで進んでしまったんだよね。で、その結果、敵の勢力圏の奥深く出孤立。物資も尽きてきたんで補給を待っていたんだけど、追いかける補給部隊が何度も帝国の奇襲にあって後退。物資が心もとなくなったヨゥドリは退路が安全だったこともあり、先へ進んで兵を危険に晒すよりはって考えて、後退。
後退の最中に、苦戦中だったグレアムさんの率いる軍と合流して、攻略を手助けしたんだけど、合流した途端、帝国はグレアムさんとヨゥドリの軍から逃げるように後退。
グレアムさんとヨゥドリは成り行きで、そのまま同じルートを進もうとしたんだけど、その結果、大軍で進まないといけなくなって、全体の動きが鈍くなってしまったみたい。
そして、それを待っていたかのように帝国の部隊が奇襲をかけてくるせいで、グレアムさんとヨゥドリの軍は足止めを余儀なくされてるみたいです。
オリアスさん? オリアスさんの方は普通にルート上にある拠点を制圧して、順調に進んでるみたいです。でも、オリアスさんの所だけ順調でもね。あんまり意味が無いんだよね。最初のヨゥドリと同じ感じになると思ったみたいで、オリアスさんは進軍を止めてしまいました。
そんな中で俺は近衛を率いて暴れまわってるんだけど、なんか全く役に立ってる気がしないんだよね。
なんていうか、勝っても戦い全体に影響がない感じ? 今までは俺が敵を倒すと流れが変わった気がしたけど、今回に限ってはそんな感じが全く無い。
誰かの手のひらの上で意味の無い戦いをさせられている感じです。
こんな風に上手くいっていないわけだけど、ジリ貧かっていうと全くそんな感じが無い。
苦戦してるっていったけど、それは面倒くさいってだけで、戦っていてヤバいとかキツイとかそんな感じは全く無いんだよね。
グレアムさんとヨゥドリが奇襲を食らったって言っても、こっち側には怪我人以上の被害が無くて、死んだの襲ってきた帝国兵だけ。つっても、帝国兵は襲い掛かって来たと思ったら速攻で逃げるんで、あまり殺せてないけどさ。
まぁ、そういうわけで、進軍が上手くいってないことに関しては困ってるけど、全体通して見てみると割と余裕?
上手くはいってないけど、まぁ何とかなるだろうって楽観的な雰囲気が蔓延していて、焦らずとも何とかなるだろうし、時間はかかるけど突破は出来るだろうって皆が思ってます。俺も含めてね。
でも、このままで良いのかって思ったり思わなかったり、気づいたら泥沼に引きずり込まれた後だったりして――
「閣下に緊急の報告がございます! 後方の物資集積所が帝国の奇襲を受けました」
突然やってきた報告が大声で俺に報告してきた。
物資集積所? あぁ、そういえばそういうのあったね。帝国軍の身軽な動きを真似しようと思って、余分な物資は持って歩かず、一つの場所に置いておこうってなったんだよね。
――で、そこが襲撃されたって? 前の帝国軍ばかり気にしてたら、いつの間にか後ろに回り込まれてたって? それで物資を置いてある場所が襲撃されたって?
……ヤバいじゃん。それって良くないんじゃない?
「被害は?」
「大きくはありませんが、今後どのような影響が出るか分からないため、閣下を含め指揮官の方々には御帰還いただいて、今後のことについての協議をしていただきたく」
じゃあ、戻った方が良いかな? でも、それをやると、更に進軍が遅れるよね?
みんな戻ったら、また最初からだぜ? 帝国の連中は損害があっても、死人は少ないから致命的じゃないだろうし、俺達が戻ったら、すぐに防衛線を再構築しそうだよね。そしたら、俺達はまたグダグダな攻めを繰り返さざるをえないんでしょ? それ嫌じゃない?
「いや、俺は戻らずに、このまま進軍を続ける。今後のことはヨゥドリに任せて、オリアスとグレアムもそのまま進軍だ」
もう多少の損害は仕方ない物として突破しちまおう。
大軍になれば、ちょっかい出されるだろうけど、どうせ怪我人が増えるだけだし気にすることもねぇよ。
このままダラダラと続けるよりはさっさと終わらせちまった方が結果として損害が少なそうな気がするしさ。
そう思って、俺が伝令にこのことを他の奴らに伝えて貰おうとした、その時――
「ヨゥドリ様とグレアム様の率いる軍が後退中に帝国軍の大部隊に襲撃を受けました! お二方は御無事ですが、お二人の軍は大きな被害を受けた模様です」
――伝令がやってきてヤバい顔色で俺に報告してきました。
帝国兵が弱いって言っても後ろから大軍で襲われたら厳しいよね。しかも、今まで全然やる気の感じられない相手だし、油断していたってのもあるかも。
とにかくこうなったら俺も帰るしかないかな。
進軍しようとしていた俺の考えが読まれてたとしか思えないタイミングでやられたわけだしなんつーか全て読まれてる気がするよなぁ。
リギエル将軍だっけ? 良く知らない相手だけど、スゲー厄介だわ。
そいつがいると全部が上手くいかなくなるような予感がするし、顔も知らない相手だけど、今すぐ死んでくれないかなぁ。
――――――――――――――
アロルドたちが後退を決め、後方の拠点へ戻った後、帝国側では――
「この後はどうされるんですか?」
ヴェルマー侯爵軍の物資集積所を奇襲したリギエルは、その足で帝国の勢力圏まで戻り、即座に後退するグレアムとヨゥドリの軍への攻撃を指揮し、壊滅とはいかないまでも、それなり以上の損害を与えた。
ルベリオは一仕事終えて、一息つくリギエルに今後のことについて質問する。
「全軍で一気に攻め上がり、攻勢に出るように見せかけて、ちょった戦った逃げる。マトモに戦ったら絶対に勝てないんだから、なるべく膠着状態を作りたいね」
「勝てないんですか?」
「勝てないよ。こうまで上手くいったのは軍を三つに分けてくれたからで、奴らが損害とかを無視して突撃してきたら、すぐに負けてたよ。俺達が物資集積所を攻撃した後も、奴らが破れかぶれで突っ込んできたら、負けて終わってたしね。俺達にとって一番まずいのは大軍が勢いに任せて攻め込んでくることだって何度も言っているだろ? 向こうの方が強いんだから上手くやらないとな」
だから、危険を冒してヨゥドリとグレアムの軍に襲撃をかけた。
被害はこちらの方が大きいが、その結果、相手に損害を与えてアロルドに後退の必要を意識させ、後退させることに成功し、これによって最も恐れていたヴェルマー侯爵軍の破れかぶれの突撃を防ぐことができた。
もっとも、破れかぶれの突撃をしてきたところで、リギエルにも策が無いわけではない。勝つことは無理でも何とかする方法くらいはいくらでも思いつけた。
「今後は向こうも攻め方を変えてくるだろうから、その対策なんかも話し合わないとな。場合によっては、この辺りを放棄して、もっと後ろに防衛線を構えるのも良いし、それについても話しあっておかないとな」
まぁ、実際には話し合いではなく自分が一方的に話すだけだが――
そんな風に今後のことについてルベリオに話すリギエル。その二人の元に兵が急ぎの様子で駆け寄る。
それは伝令の兵であり、懐から手紙を取り出すと、それをリギエルに手渡した。
リギエルはその場で手紙に目を通すと、僅かに怒りの表情を浮かべ、そして天を仰ぎ見て、呆れたような表情を浮かべる。そんな表情のリギエルをルベリオは見たことが無いため、困惑し、思わず訊ねるのだった。
「どのような内容なのですか?」
聞いても答えず、リギエルは黙ったまま、手紙を文面が見えるようにルベリオの顔の前にかざす。
何事かと思い、手紙に目をやるルベリオはその送り主の名を見て困惑し、そしてその文面を見て驚愕する。
送り主はライレーリア・イグニス。そして文面に書かれていたのは――
『リギエル将軍の西部攻略の任を解く。後任はレガード将軍に任せ、リギエル将軍はケイネンハイム大公領へ向かい、大公領を攻略中の軍に参加すること』
「これは――」
「拒否権は無いよなぁ」
リギエルは伝令を見る。伝令は首を横に振ると主から伝えられた言葉を、そのままリギエルに伝えたのだった。
「拒否した場合は命の保障は出来ないと皇女殿下から言付かっております」
リギエルは大きく溜め息を吐き、西を見る。視線の先にはヴェルマー候爵軍の拠点が見えており、そこに居るであろうアロルドの姿を想像し、リギエルは呟く。
「運の良い奴だ」
そしてライレーリアからの手紙を破り捨てると、東に目を向け呟く。
「間の悪い女だ」
もう少し手紙が届くのが遅ければ、悪い結果にはならなかっただろう。
だが、こうなってしまってはどうしようもないし、そもそも、リギエルにとってはもう知ったことではない。
任を解かれた以上、この地での帝国の勝利などは自分の管轄外の出来事であるのだから、勝とうが負けようがどちらでも良くなった。
「じゃあ行こうか、ルベリオ君」
そうして、リギエルは西部を去ることとなり、王国の東部ケイネンハイム大公領へと向かうのだった。
「まったく、儘ならないもんだな。宮仕えって奴はさ」
その後、リギエルの手を離れた西部の帝国軍はレガード将軍が後任に付いたものの、リギエルとは全く逆の方針を取り、ヴェルマー侯爵軍と相対することになるのだった。それはリギエルが避けようとした帝国の伝統に則った正々堂々とした態度で臨む大軍同士の決戦であった――――




