ヴェルマー侯参戦
戦うとなったら早いですよ、俺の手下どもはさ。
年がら年中、人間とか魔物をぶっ殺すことしか考えてねぇ奴らが多いですからね。戦だってなったら、普段のゴミクソっぷりは何処へ行ったのやら、噂を聞いただけで完全武装の兵士どもがロードヴェルムから馳せ参じてくれました。
「とりあえず山の向こうに行け」
こんなゴミどもをトゥーラ市には入れられないしね。それでなくとも人数が多いから無理。
兵士相手に商売をしようとロードヴェルムの娼婦やら商人やらも一緒についてきちゃったりして、かなりの人数っていうか、ロードヴェルムにいた奴らのほぼ全員が戦争をやる気満々で山を越えて、アドラ王国に乗り込んでいきました。
気付いてしまったんだけど、ロードヴェルムにクソどもがいなくなった今って、ゴミ屑以下のクソどもに邪魔されずにロードヴェルムを綺麗にするチャンスだと思うんだ。
最底辺のゴミ屑以下のクソ虫共は存在するだけで街並みを汚していくから、奴らがいる内はどうにもならなかったけど、いなくなった今の内なら大丈夫のはずだ。
というわけで、ロードヴェルムから出て行った兵士どもと入れ替わりにエリアナさん達にはロードヴェルムに行ってもらいました。
俺らがいない間に綺麗にしといてねって感じで留守をお願いしときました。
これで俺がいない間も大丈夫。まぁ、俺がいてもいなくてもたいして変わりないけどさ。
でもまぁ、留守を任せることが出来たんで俺も安心してガルデナ山脈を越えることが出来ます。
移動手段は鉄道で苦労も無く山越え。俺の兵も皆、鉄道を使うんで何の疲労も無く山を越え、そのままオレイバルガス大公領の領都のキルゲンスへ。
山を越えた先がオレイバルガス大公領だから、そこへ行くのは仕方ないよね。一気に王都へ鉄道で行けたら良いけど、残念ながら線路はキルゲンスまでしか通じていないので、そこで一旦、俺の全戦力が合流することになる。
「ようこそ、お越しくださいました」
俺が到着するなり、オレイバルガス大公の兄弟は俺に向かって跪き、額を地面にこすりつけるくらいの勢いで頭を下げてきた。土下座って言うんだったかな? どこで聞いたか忘れたけど、そんな姿勢でした。
「着いて早々で申し訳ないのですが、助けていただけませんか?」
一応、王様とウーゼル殿下も来ていて、俺の後ろにいたんだけど、そっちには目もくれません。いや、本当は見ていたようだけど、そっちの相手をしている場合じゃないって感じで、俺の方を優先したようです。
「えーとですね。西部に属する貴族の半分以上が帝国に付くって言って我々の領地に攻め込んできてしまったんです。それに合わせて中央の王国貴族が帝国に良いところを見せようと思ってなのか、西部に攻めこんで来ました」
それは大変ですね。俺にどうして欲しいんでしょうか?
「申し訳ないのですが、ちょっと裏切り者共を懲らしめてきてくださいませんか?」
休む暇なしにオレイバルガスの兄弟の頼み事です。
まぁ、俺の兵士は戦る気満々だから別に問題ないんですけどね。
「まずはヴェルマー侯が参戦することを諸侯に伝えるのが先では?」
でも、水を差すようにヨゥドリがそんな意見を出して来たんで、エイジ君に頼んで手紙を書いてもらいました。で、その内容はというと――
『俺も参戦することにしたんだけど、君らはどうすんの? 王国を裏切って帝国に付くっていうなら俺の敵だから、俺はぶっ殺すよ? ちなみに一族郎党皆殺しだよ? 場合によっては 領民も皆殺しだからね?
一族郎党って聞いてどういう想像をしてるか分からないけど、他の家に嫁いでたりしてても関係ないからね? 嫁いでいる家の連中も皆殺しで、裏切り者の血は絶対に絶やすし、裏切り者と同じ釜のメシを食ってたりする奴も殺すから。場合によっては同じ空気を吸ってた奴も殺すし、子供の頃一緒に遊んでたってだけの関係でも、裏切り者の知り合いは殺す。
一応言っておくけど、色々な判断は自分でしない方が良いよ? これくらいなら大丈夫だろとか思ってる奴は俺を舐めてる感じがするから殺す。とにかく余計なことをしたら殺す。やるべきことはまず帝国の味方じゃないってアピールすることで、それを俺に誠心誠意アピールしてね? ちなみにアピールする際はお友達も一緒にね? 交友関係がある奴が独りでも居なかったら、その時は殺す。
病気とか色々事情があるかもしれない。危篤だとかなんとかさ。でも、それは理由にならねぇから。来る途中に寿命で死んでも、俺はそんなの知らねぇから来いよ? 来ないと殺す。死んでても、その時は一族郎党、皆殺しだからな?
ちなみに、この手紙は全員の元に同じ日に届くようにしています。届いてから三日以内に俺のもとに挨拶に来てね』
これを丁寧な言葉づかいで書いた手紙を送りました。
すると、三日以内どころではなく手紙が届いた次の日には帝国に寝返ったはずの西部貴族達の大半が俺に挨拶に来て、王国の味方だってアピールしてくれました。
「来ない奴がいるのはどういうことだ?」
でも、来ない人達もいたんで、その人達はどうしたのか聞いてみたんですが、みんな知らないって言ってくれたんで良かったです。みんな知らないってことは、それっていなくなっても大丈夫な奴だよね。つまりは躊躇いなく、ぶっ殺せる奴らってことです。
これで知ってるって言う奴がいたら、知ってる奴も殺さなきゃいけなかったからね。だって知ってるってことは知り合いなわけだし、裏切り者の知り合いとかそいつも裏切ってそうだし、ぶっ殺しといたほうが面倒少なそうじゃん。
まぁ、そんな感じで味方と敵をハッキリさせた俺達は準備もそこそこに奪われたオレイバルガス大公領の奪還に動きました。
西部では散々戦ってたのに、俺らの強さが知られてないってのは不思議だよね。
何を考えてるのか、俺達に勝てると思って正面から戦いを挑んでくるアホ共の多いこと多いこと。
皆殺しを望んでるとしか思えなかったので、俺も正面から全軍で叩き潰しました。
こちとら年がら年中、人を殺すことしか考えてないような連中の集まりだぜ? 生産的なことなんか何もせずに戦うための訓練だけしてる連中が徴兵された農民も混ざってるような軍に負けるわけないじゃん。
頑張って作ってるのがありありと分かる敵の陣形に向けて、魔法兵が大砲をぶち込む。
大砲を食らって混乱状態の敵兵に銃騎兵が突撃しつつの一斉射撃をし、更に銃騎兵が抜刀して生き残った敵兵を蹂躙する。
最後に歩兵が襲い掛かって、生き残りがいなくなるように丁寧に殺して、終了。
数で勝っていて、兵士の強さも装備も上、そのうえ戦場経験も段違いなんだから負けるわけねぇよ。
俺の方に付かなかった西部貴族はそんな感じで叩き潰しました。
一族郎党皆殺しって言ったけど、それに関しては流石に小さい子は可哀想だったから止めときました。実際には小さい子供だけじゃなく、女子供を殺すのもなぁって思ったので、男だけ責任を取る形で処刑しといた。生かしておいた女子供は修道院にでも入ってもらうことにした。
でも、そいつらの領地とかに関しては徹底的にやりました。食料は当然の事、金目の物も頂いて、そのうえで村や町に火を点けときました。ついでに、どさくさに紛れて若い女の子も攫ってる奴らがちらほら。俺の領地には年頃の男に対して女の子の数が少なすぎるから連れて帰ってしまおうかなって。
一応、連れて帰る前にちゃんとヨゥドリとかの立ち合いのもとで同意を取ってるし、ヴェルマーに来てくれたら生活の面倒は侯爵領の方で見てやるってことは伝えてます。すると、結構な数の女の子が家族も一緒習って条件で移住を承諾してくれました。まぁ、住んでた村や町は全部焼き払ってるし、金も食い物も全部奪ってしまってるから、拒否したら死ぬだけなんで、選択肢は無いも同じなんだけどね。
色々とヤバいかなぁって思ったけど、よくよく考えてみると、全部終わったら山の向こうに帰るんだし、こっちで評判悪くなっても別に困らないかなって。
王様とかオレイバルガスさん所から帝国と戦うために使ったお金を返してもらえる保証もないし、こういう所で稼いどくの仕方ないと思うんだ。
こんな感じで帝国に寝返った西部貴族は領地ごと叩き潰しました。
残るは中央から西部に攻め込んできた王国貴族だけど、こっちも西部貴族同様クソ弱かったんで問題ありませんでした。ぶっちゃけ西部貴族より弱かったね。
西部の人達は俺を怖がってるから慎重に殺されにくるんだけど、中央の連中は俺を怖がらずに大胆に殺されに来るんだよね。こっちが銃とか大砲を構えてるのに気にせずに突っ込んでくるしさ。
挙句の果てに卑怯だなんだとほざくんだぜ? しょうがないから俺自ら一騎打ちして頭を握り潰したり、頭を胴体から引っこ抜いたりしてやったけど、遊びでそんなことが出来るくらい余裕でした。
「中央の者どもは『ヴェルマー侯など大したことない。奴は偶然が味方して成り上がっただけで実力は無い。機会に恵まれれば我々とて奴と同じ程度には……』と日頃から仲間同士で語り合って慰め合っているようで、それを続けていくうちにそれが真実と思い込んでしまう輩もいるようでして。また、そういう話を聞いたものが、事実を確かめずにヴェルマー候を侮ったりもしているようで――」
「その点、我々西部貴族ははヴェルマー候の実力を正しく認識しておりますので、逆らおうなどとは決して思いませぬ。アロルド・アークスが来るぞと聞けば西部貴族は大半が即座に家財道具をまとめて、逃げ出す準備を取ります故。いえ、決して嫌がっているわけでは……」
オレイバルガスの所の兄弟が俺に媚びを売りつつ、そんな説明をしてくれました。
中央の人が俺のことをどう思っていようと別に構わないんですけどね。どうせ、山の向こう側に帰るんだし、こっち側での評価は別に関係ないんだよなぁ。
まぁ、俺を甘く見てくれてるんなら、その方が戦うのも楽だし、そっちの方が良いけどね。
中央の王国貴族は俺を甘く見ながら、特に見せ場も無く俺に負けて中央に逃げ帰っていきました。俺達は倒した勢いに乗って、奪われた西部地方の奪還のためにどんどん東の方へと軍を進めていく。
西部地方の東側は帝国の勢力圏。俺が参戦するって言ったら西部貴族の大半が俺についたけれど、帝国の勢力圏はまだ残っていました。まぁその勢力圏も中央からきた王国貴族が負けて帰ったので奪還は出来てる。
このままの勢いなら簡単に西部も取り戻せるんじゃないかなって楽観的な気分になっていたんだよね。どうせ、残りも帝国に寝返った王国貴族だろ? じゃあ楽勝じゃんって思っていたんだけど――
「全然ダメだな」
途中から全然、進めなくなっちゃったんだよね。
王国貴族がだいたい逃げ出し、その穴を埋めるように帝国軍が戦いに加わったら、全く東へ進めなくなりました。実際はちょっと進んでるんだけど、進んでも戻らないといけない状態にさせられる。
「敵の指揮官は?」
「捕虜からはリギエル将軍と聞いております」
誰だよ、そいつ?
知らん人の名前だけ出されても、そいつが凄いのか凄くないのか分かんねぇよ。
そいつのせいで俺らが足止めくらってんの?
はぁ……冬になってきたから寒いし、もう帰っても良いんじゃない?
王様には悪いけど、俺達は略奪で懐が温かくなってきたし、もう無理に戦わなくても良いかなぁって気分なんだよな。あと何か月かしたら年も変わるし、俺はエリアナさん達に年が変わる前には帰るって約束しちゃったから、こっちに長居したくないんだよね。
今回はここまでってことにして来年にしません?
冬になったら雪も降るし、もしかしたら雪解けと一緒に帝国の人達も溶けて消えてくれるかもしれないから、その可能性にかけて来年にしませんか 王様?




