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国で一番強い奴

 

 世間は色々と大変なことになっているみたいだけど、俺の周りは特に何もありません。

 世間ってのはアドラ王国のことで、俺の周りってのは俺の領地のヴェルマー侯爵領のことね。アドラ王国全体で見るとイグニス帝国が攻めてきて、王都が占領されたみたいだけど王様は逃げ出したとかなんとか。

 その後は良く分からんけど、王国の偉い人たちが――まぁ俺も偉い人なんだけど、俺を除いた偉い人たちね。その人たちが帝国を倒すみたいなことを言って軍を組織したんだけど、見事に負けたんだってさ、雑魚いね。

 偉い人たちを倒したから、反抗する奴がいなくなったんで帝国の奴らは調子こいてるとか何とかでオレイバルガスの大公家の兄弟が俺に泣き言の手紙を送ってきたりもしてます。降伏しないと西部に侵攻するしかないとか脅されてるんだってさ、大変だね。


 まぁ、なんか色々とあるみたいだけど結局の所、全て山の向こうの出来事なわけで、俺には関係ないね。俺の領地は平和な日々を過ごせているんで何も問題なしです。


「アロルド様、お客様がお見えです」


 平和は平和だけど、暇ってわけじゃなくて、俺も色々と仕事があるんですよね。

 まぁ、ヴェルマー侯アロルド・アークス様なわけですしね。侯爵様ともなれば、色々と仕事もあるわけですよ。まぁ、難しい仕事は全部、下の奴らにやらせてるんで、俺は人と会うだけですけど。


「今日は何者だ?」


 最近の客は良く分かんないのが多くてね。俺はちゃんとした手続きを経た謁見の申請は誰であろうとも受けているせいで、良く分かんないのも多いのよ。いやまぁ、謁見の申請を出来る程度にはマトモなんだけどね。ちなみに俺は謁見の申請は出来そうにない。だって書式とか色々難しいんだもん。

 俺は面倒くさい手続きをしてまで人に会いたくないし、それでも会う必要がある場合は強行突破して会いにいくから、別に出来なくても良いんだけどね。俺に会いに来るのもそういうノリで良いんだけどね。


「王国から脱出してきた貴族の方々です」


 ふーん、そうですか。そういう人も多いよね、最近。帝国に支配されちゃってる感じだから、住みにくくて逃げ出しちゃったのかな?

 わざわざ俺に会いに来なくても、勝手に俺の領地に住めば良いのに律儀だね。そういう所は立派だと思う。

 まぁ、だからって会って話したい相手じゃないんだけどさ。でも、会いに来た以上は一応、顔を合わせるくらいはしとかないとね。


 ――そういうわけでトゥーラ市の城でアドラ王国の皆さんと謁見することになりました。まぁ、俺もアドラ王国の領主だから、アドラ王国の皆さんってのも変な表現だけど、ガルデナ山脈で隔てられているせいで、同じアドラ王国って感じもしないんだよね。


「侯爵閣下におかれましては――」


 俺は謁見の間にある玉座に座り、玉座の置かれた壇上からやって来た客達の挨拶を聞いていた。

 高そうな服を着ている人たちが何人も並んで俺に頭を下げながら、御機嫌伺いの言葉を繰り返している。まぁ、特に内容は無いんで、欠伸をしながら聞き流していました。

 ただまぁ、ちょっと、お客さん達の中に変な動きをしている人たちがいてね、なんだか俺に顔を見られないようにコソコソしてたんで、そっちの方は気になったり。


「後ろの奴らは誰だ?」


 気になったので、思い切って聞いてみました。奴らって言っても二人だけどさ。すると、その場にやって来ていたお客さん達が慌てて退いて、コソコソしていた奴らは隠れる場所が無くなってしまいました。

 予め、その二人がヤバい奴らだって知ってて、そいつらが後ろに隠れてるとか知ってないと、そんな風に動けないよね? 知ってて隠さなきゃいけない奴らってどなたかしら?


「顔を良く見せろ」


 嫌なら良いんですけどね。まぁ、そん時は帰ってもらうけどさ。

 でもまぁ、俺がお願いすると、コソコソしていた二人はおずおずとって感じだけれど顔を見せてくれました。それで、見せてくれた顔はというと――


「父上に母上?」


 俺のダディとマミーでした。

 二人はすげーバツの悪そうな顔で俺と視線を合わせないように俯いています。

 顔を合わせるなんて家を出て以来か? 他に何処かで会ったっけ? 会ってないよな、良く思い出せんけどさ。しかし、なんだってそんなに暗い表情をしてるんだろうか? 久しぶりの家族の再会だってのにさ。


「久しぶりだな。親父殿に勘当され、家を追い出されて以来か?」


 家族同士なので言葉遣いは気にしなくても良いよね?

 久しぶりの家族の再会に水を差さないようにしているのか、他のお客さんが父上と母上から距離を取る。なんか表情が巻き込まれるのは御免だっていう感じで怯えてるけど、そんな怯える必要があるほど殺伐とした家族関係に見えるか?

 そりゃあね、実家にいた頃は迷惑をかけましたよ? どんな迷惑をかけたのか記憶ねぇし、そもそも迷惑をかけたつもりも無いんだけど、勘当されて家を追い出される程度にはマズいことをしてたみたいなんだよね。

 でも、今は違いますよ。俺も大人になったんで、たぶん迷惑はかけていないはず。自信は無いけど、きっと大丈夫だろ。怒られることは無いはずだ。でも、気づかずに何かしてたかもしれないし、もしかしたら叱られるかも? 叱られるのは嫌だし困るなぁ。

 何が困るって『何で怒っているのか分かったか?』って聞かれて『分かります』と答える。すると『では私が起こっている理由を説明してみろ』と言われるんで『わかりません』って答えると一日中怒鳴られるんだよね。それがスゲー怖いから、叱られるのは苦手。


「何をしに来た?」


 俺を叱りに来たのかどうか聞いておかないと、それで覚悟を決めたり、言い訳を考えないと。

 まぁ、どういう理由で来たにせよ。遠い所からはるばると息子の顔を見に来てくれたんだから、歓迎はするけどさ。


「やはり、恨んでいるのか……」


 急に何を言っているんですかね、父上は。

 俺が父上に対して恨みやら何やらを抱いていたことってあったっけ? 無かったと思うなぁ。

 家を追い出されたのだって、俺が悪いみたいだし、それなのに父上を恨むとかおかしくね? いや、父上が俺をどう思ってるのかは分からないから、俺が恨んでいるとか誤解しても仕方ないのか? 良く分かんねぇなぁ。


「こんなことを言える筋合いではないし、頼むこと自体、恥知らずと思われても仕方ないが、どうか私の話を聞いてくれないか」


 話したいことがあるっていうなら、どうぞお好きに。

 俺は邪魔しないで大人しく聞いているんで、喋ってくれて構いませんよ。

 これが見ず知らずの他人だったら、無視するかもしれないけど親子ですし、ちゃんと聞きましょう。


「我々は王都から逃げ出して来たのだ――」


 そういう話題から始まった父上のお話しは、まぁ、なんていうか兄上セイリオスと揉めたって話らしい。

 父上はセイリオスが帝国と通じているなんて知らなくて、帝国が王都を占領した後、王国を裏切って帝国についたセイリオスを責めたんだってさ。

 その時まで父上も母上もセイリオスが俺とは違って真面目な良い息子だと思っていて、今回のことは気の迷いとか何か理由があると思っていたんだってさ。でも、話してみたら、あの野郎セイリオスのクソっぷりが明らかになってしまってビビってしまったとか。

 本性を露わにしたセイリオスは色々と気を遣う必要も無くなったってことで、アークス伯爵家における権限の全てを父上から奪い、屋敷から追い出したんだってさ。


「まさか、セイリオスがあんな子だなんて……」


 父上が話していると母上がそんなことを言って泣き出したり。まぁ、よく泣く人なんで、いつものことだなぁって思って俺は見てます。そういえば、俺が実家の隣の領地にいる貴族の頭を石でかち割った時も泣いてましたね。まぁ、俺の思い出はどうでも良くて、そんなことよりも父上の話だね。


 屋敷から追い出された父上は知り合いを頼って王都に潜伏していたんだって。

 父上が言うには王都は酷い有様だそうです。帝国軍も最初は寛容な統治をしていたんだけど、なんか急に粛正とか弾圧が繰り返されるようになったとか。ちなみに、王都でそんなことをしているのはライレーリアっていう帝国の皇女様の命令を受けたセイリオスみたいです。

 セイリオスは街中で皇女の命令だって大きな声で言いながら酷いことをしてるみたい。いやぁ悪い奴だね。山の向こうの出来事だから、あんまし関心ないけどさ。


 ――で、そんな風に王都が段々と住みにくくなってきたから、父上たちは王都から脱出することにしたんだって。帝国にくだって、帝国の支配に協力すれば逃げなくても済んだんだけど、父上は王家に忠誠を誓っているから、そんな真似はしなかったみたい。

 父上たちは貴族連合軍っていう人たちと帝国軍が戦争している隙を突いて王都を脱出し、それから西部まで逃げて、鉄道に乗って山を越え、トゥーラ市まで来て今に至るって感じ。


「恥を忍んで頼みがある」


 父上が真剣マジな感じで俺の顔を見つめてくる。

 金を貸してくれとか、住むところが欲しいって言うならいくらでもどうぞって感じ。

 両親が困ってたら、手助けは当然しますよ。それが人として正しいことだと思いますし。


「私たちには何をしても構わない。その代わりと言ってはなんだが、会って欲しい御方がいるのだ」


 何をしてもって言われてもなぁ。お金をあげる代わりに何でもしますってか?

 じゃあ、エリアナさんとか俺の婚約者と顔を合わせて貰って、そんでもって結婚の許可を貰えるかな?

 エリアナさんとかの御両親とは顔を合わせてて了承は貰ってるんで、後は俺の両親の許可があれば万事問題なしなんだけど。


「良いだろう。それで誰に会えば良いんだ?」


 誰とでも会いますよ。


「――国王陛下だ」


 はぁ、そうですか。国王陛下ねぇ……


「国王陛下に会ってもらいたいのだ。どうか頼む。この通りだ」


 父上が俺に頭を下げてきました。

 別に会うのは良いんだけどさ。わざわざ頭を下げてもらう必要も無いし。

 でもさぁ、王様いるの? ここに? トゥーラ市に?


 ――そんな風に疑問を抱いていたんだけど、普通にいました。


 俺が会っても良いよって言った翌日に国王様は会いに来ました。

 父上の話では、父上が王都を脱出した時に一緒に逃げたんだってさ。その時に王都の冒険者ギルドの連中が同行してくれたから無事だったんだって。その冒険者ギルドの連中はトゥーラ市のギルドと合流して今は普通に仕事をしてくれてる。後で何か褒美でもやった方が良いかな。


「…………見事な城だな」


 顔を合わせるなり何とも言い難い表情で王様は俺の城を褒めてくれました。

 俺は玉座に座って高い所から王様を見下ろしてるんだけど、これって大丈夫かな? 誰も何も言わなかったから普段通りにしてるんだけどさ。まぁ、誰も何も言わないから大丈夫なんだろ。俺は座っていて、王様は立たせたままなんだけど、それに関しても誰も何も言っていないから大丈夫なはず。


「世辞は良い」


 城を褒めてくれたけど、それが社交辞令だってのは分かるから、気を遣わなくても良いよって言っておきます。うっかり普段通りの言葉遣いだけど、別に今までもこんな感じだったから誰も怒らないでしょう。


「貴様――」


 王様の後ろにはウーゼル殿下がいました。

 殿下も王様と一緒に王都から逃げ伸びたみたいね。第二王子と王妃様は北の大公さんが保護していったみたいだけどさ。


「落ち着いてください殿下」


 ウーゼル殿下を窘めているのは俺の元婚約者のイーリス。イーリスはウーゼル殿下の婚約者だから一緒に逃げてきたんだろうね。もしかしたら殿下が一緒に逃げようと言ったのかもしれないけどさ。


 しかし、なんだって殿下は俺に対してお怒りなんでしょうか? 気を遣わなくていいって思っていった言葉が良くなかったわけは無いしなぁ。

 まぁ、疲れてイライラしてるだけでしょう。早く帰って休めるように俺もさっさと話しが終わるようにしないとね。


「さっさと用件を言え」


 おっと、良く考えず口を開いたら無礼な言い方になってしまいました。これは良くなかったね。

 最近、俺も礼儀って言うのが分かるようになってきたから、言ってはいけない言葉も分かるようになりました。そのおかげで、人と会っても八割くらいはちゃんとした対応が出来るようになったんで、誰も俺の態度に文句をつけてきません。


「―――――」


 王様は口惜しさを顔にありありと浮かべて何か言いたそうですけれど、気持ちが強すぎて思うように喋れない様子です。


「――な、なにとぞ、何卒よろしくお願い申し上げます。帝国を打倒するため、ヴェルマー侯のお力添えを頂きたく……」


 言葉を震わせながら、王様はそこまで言って俺に頭を下げ、王様の後ろのウーゼル殿下も唇を噛みながら、俺に頭を下げる。

 良く分かんねぇけど、アレかな? 王国に攻め込んできた帝国の連中を俺に何とかしてほしいってことかな? 王様なのに、なんでそんなに下手したてに出て、俺に頼んでるんだろうか?

 まぁ、王都から命からがら逃げてきて頼れるのが俺だけだから、俺に頭を下げるしかないとか思いこんじゃったのかな? そういえば王国の貴族連中の軍も負けちゃったみたいだし、俺しか当てにできる戦力が無いってことなんだろうね。

 王様って言っても治める国も動かせる軍も何もない状態だし、俺に断られた終わりだから下手に出るしかないんだろうね。


「いいだろう」


 なんか困ってるみたいだし、助けてあげるのが人として正しいことだよね。

 そもそも、俺は人の頼みとか断らない男で生きてきたわけだし、断るって選択肢は無いかな。


「帝国は俺が倒してやろう」


 とりあえず困ってるみたいだし、なんとかしてやろう。つっても、俺がってより、俺の手下とかが頑張る割合の方が大きいんだけどね。でもまぁ、良い機会なんじゃないかな。ロードヴェルムにいる奴らは退屈しているみたいだし、戦争の一つや二つは無いとね。


「感謝する、ヴェルマー侯……」


 良いって良いって、俺と王様の仲じゃない。どういう仲かは分かんねぇけどさ。

 それに、そんなに仲が良かった記憶も無いけど、俺とウーゼル殿下は友達だし、友達の親父さんを助けるくらい問題ないって。まぁ、友達って言っても、仲良くしていた記憶は全く無いんだけど、同じ学校に通ってたんだから友達で良いだろ。


 ――というわけで、俺は帝国と戦争をすることになりました。

 山の向こうの出来事に首を突っ込む形になってしまったけど、困ってる人に頼られたし仕方ないよね。とりあえず出来る範囲で頑張ろうと思います。








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