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セイリオスはかく語りき

機器の操作ミスで改稿途中の物が投稿されてしまっていたようなので一旦削除して再投稿しました。

書きかけだった部分をちゃんと書いてある以外、内容に変化は無いです。

 暴徒に襲われたイグニス帝国皇女ライレーリア・イグニスはセイリオス・アークスの手で無事、救出された。その際にセイリオスが率いた部隊は帝国のものではなく帝国へ降った王国の者たちだった。

 真っ先に皇女の救出に向かわなければいけなかった帝国軍はその時、抵抗を続ける冒険者ギルドの鎮圧のために増援を先ににそちらへ送っており、皇女が襲撃されたと報告を受けてもすぐに動くことが出来なかった。


 ライレーリアは救出されたものの、襲撃から数日の間心労のために寝込んだ。ようやく起きあがったライレーリアが尋ねたのは自分の護衛であるヘレンのことであったが、セイリオスが救出できたのはライレーリアだけであり、ヘレンの行方は誰にもわからなかった。


 復帰したライレーリアの表情は暗く荒んだものであり、自分の側近たちに対して不審の眼を向けていた。

 それも当然のことで、襲撃を受けた当日の馬車が通る道と時間を完全に把握していたかのような待ち伏せを考えれば、自分に近い何者かが情報を何処かに流したとしか考えられない。

 それにヘレンを撃った御者のこともある。御者は帝国の兵の筈だったが調査の結果、何者かの手引きによって成りすましていたということが判明したことから、誰かが自分を殺そうとしているとライレーリアは考えていた。

 とはいえ、犯人捜しをしている場合ではないともライレーリアは思う。ここで疑心に駆られて自分の側近を粛正すれば、王都の統治もままならなくなる。それを考えると現状ではライレーリアに出来ることは殆ど無かった。

 出来ることがあるとすれば、それは信頼のおける存在であるヘレンを捜すように命令を下すことくらいであった。


「――とまぁ、こんな感じなんだけれど、どう思う?」


 そこは王都の一画。

 薄暗い倉庫の中でセイリオスは囚われの人物に声をかける。


 縛り上げられ床の上に転がされたその人物はライレーリアが捜すヘレンであった。

 撃たれた傷口は手当てされているが、その姿は無事というにはほど遠いものであり、肩で息をしながら、夥しい量の汗をかいている。猿ぐつわもされており、声を上げることは出来ずに助けを呼ぶこともできない。


「まぁ、聞きたいことは想像がつくので、先に言っておくと全部、僕が仕組んだことだ」


 セイリオスは世間話でもするような軽い調子で事の真相をヘレンに語る。


「君たちを襲ったのは特権階級が支配する今の社会体制を破壊するために行動する民主主義者たちの集団でね。僕は彼らと仲が良いんで、彼らの望みを叶えるために皇女様の通る道と時間を教えてあげたんだ。ついでに武器も与えた。

 武器に関してはギルドの工房や工場から盗んだ物だ。冒険者ギルドと帝国が必死に戦ってくれていたおかげで、工房や工場の警備をしていた冒険者たちもそちらの助っ人に回ってくれたから、いくらでも盗めた。もっとも、僕は冒険者ギルドへの出資者の一人でもあるから、それなりの数の銃は貰えるんだがね」


 銃の良いところは多少の訓練で使えるようになることだ。とりあえず引き金を引けば、人を殺せる威力が出せるというのは他の武器には無い強みで、その強みを知っているからセイリオスは工房と工場を襲って武器を盗み出し、そして王都中にバラまいた。

 協力している民主主義者たちは当然だが、それ以外の者でも簡単に手に入る程度の数をセイリオスは王都にバラまいている。誰もが武器を手に入れることが出来るようになればどうなるか、支配者側は間違いなく苦労することになるだろう。なにせ武力で簡単に押さえつけることが出来なくなるからだ。


「そういえば、民主主義者たちは約束がどうとか言っていたろう? 実は殿下に伝えるのを忘れてしまっていたんだが、彼らが帝国軍を王都の中に手引きする条件として、王国の貴族支配を終わらせ平民の統治する国家を建国するための支援を行うことになっていたんだ。

 それでなくても僕は彼らに帝国が攻めてくるのは王国の悪しき貴族支配を打倒してとか大嘘をついていたからね。期待が大きかった分、キミたちが王都を占領するさまを見て怒りが募ったんだと思う。彼らの期待していた物など最初から無かったっていうのにね」


 セイリオスはヘレンの傍にしゃがみ込むとその頬を軽く叩く。痛めつけるためではなく、意識があるか確認するためのものだ。


「死にそうだな。意識が飛んだら間違いなく死ぬぞ?」


 だから、話しかけているんだとセイリオスはヘレンに伝える。セイリオスとしてはヘレンにはもう少し生きていてもらいたい。なので、セイリオスは薄めた回復薬を懐から取り出しヘレンの体に浴びせて、僅かに傷を回復させる。


「実際は殿下の統治も悪くは無かった。民主主義者からの評判は悪かったが、それ以外の大多数の王都に暮らす人々からの評判は良かった。このままいけば、問題無く治まりそうだったんだが、僕はそれじゃ良くなかったんで色々と引っ掻き回しているんだ」


 ヘレンは息も絶え絶えといった様子だが、セイリオスを怒りを込めた眼差しはまだ強さを保っている。


「機嫌が悪そうだな。まぁ、仕方ないか。大事なお姫様を苦しめる輩が目の前にいるんだからな。だが、苦しめられても仕方ないとは思わないか?」


 セイリオスはヘレンの頬を優しく撫で、聞き分けのない子供に諭すような口調で話しかける。


「君たちは加害者なんだよ。平和に暮らしていた王国に侵略してきた悪党ども。理由はなんだったかな?

 あぁそうだ、確か君の大事なお姫様のわがままが理由だった。帝国にいても何の権力ちからも無く誰かの傀儡で終わりそうだから、王国を征服するという功績でもって帝国で確固とした地位を築こうとしたっていう極めて個人的な理由だったね」


 まったく、ひどい理由だとセイリオスは呆れかえって見せるが、すぐにわざとらしい仕種しぐさで、何かに気付いた様子を見せる。


「おっと、そそのかしたの僕だったな。ついでに帝国を王国に引き入れたのも僕だった。これじゃあ、皇女殿下を悪人だとかなんだとかは言えないな」


 困った困ったと肩を竦めるセイリオスを見て、ヘレンは目の前の人物のことが全く理解できなくなった。

 こうなる前までは極めて紳士的で知的な人物であったのに、今はそんな様子は欠片も見せず言動も理解できない物になり果てた。


「何か言いたそうだね?」


 セイリオスは噛ませていた猿ぐつわを外す。


「貴様の望みはなんだ……」


 ヘレンの質問を聞くと同時にセイリオスは猿ぐつわを戻し、床にうずくまった体勢のヘレンの腹につま先を叩き込んだ。


「もう少し面白いことは言えないのか?」


 衝撃と苦痛に身もだえするヘレンを見下ろして、そう言ったセイリオスはヘレンから距離を取り、最初に座っていた木箱の上にもう一度、腰を下ろす。そして、悶えるヘレンの姿を観察しながら、痛みが落ち着くのを待ち、質問へと答える。


「もしかして、僕が帝国を利用してアドラ王国を手中に収めようとしているとか考えているのだとしたら、それは外れだ」


 富や権力には興味はない。人を傷つけたり殺したりすることにも興味が無い。何かを壊したり、滅ぼしたりするのも興味が無い。戦うのは……まぁ嫌いではない。

 そんな中でただ一つハッキリと興味や関心を持っていることは――


「僕は公平フェアな世界が見てみたいんだ」


 何を言っているという表情のヘレンに対してセイリオスは朗々と自分の目的を語りだす。

 それは、これからライレーリアが辿ることになる未来を想像させ、大事な主君の末路に絶望させながら殺すために必要な物だ。


「別に今の世の中が悪いとは思わない。でも、気にはなるんだ。世の中で人の上に立つ奴は本当にそれに相応しいのか? 生まれやら何やらの恵まれた環境によるものが大きくて、純粋に本人の資質だけで、人の上に立つ地位まで上り詰められるのか?物乞いと王では本当に才覚に差があるんだろうか?

 僕はそれが気になって仕方ない。そして、僕自身はどの程度の人間なんだ? 分からないから確かめたいんだ。だけど、確かめるためには最初の条件が違い過ぎる。

 下は物乞い等、上は王侯貴族。勝負をするしたって、そうそう上手くはいかない。なので、みんな対等な条件にしようと思うんだ。なるべく同じ条件で誰が一番凄い人間なのか決めたい。

 だから、全部壊そうと思ってる。安定した社会だと一発逆転なんて、そうそう出来ないからね」


『アイツは親が金持ちなだけ』

『あの子は生まれと育ちが良いだけ』

地頭(じあたま)なら俺の方が』

『コネで贔屓されてるだけ』

 自分の実力とは関係ないところで勝負が決まるのは面白くないのは当然。だから、一度、平等な条件にして競いあおう。

 平等な条件にするにしても上に合わせるのは難しいので下に合わせる。何も持たないものが一番下なのだから誰も何も持たないのが公平だ。自分の実力だけで勝負したい人々もその方が良い筈だとセイリオスは確信している。

 身分などの背景も対等な条件を崩す物だ。なので社会体制を壊して物乞いも王も無い状態を作る。

 そうして個人の力と才覚で決まる世界をつくりあげ、その中で誰が一番か決めようとセイリオスはこの世に生きる全ての人間に提案したい。



「貴族も平民もない一番強い奴、一番能力がある奴が一番偉いっていう、そんな公平な世界を僕は見てみたい。そのためには一回、更地にしないとね」


 セイリオスはさも素晴らしいことのようにヘレンには到底理解できないことを心底楽しそうな様子で語る。


「とりあえず王国は滅ぼす。国とか領地とかそういう枠組みを取っ払って群雄割拠、戦国乱世を作る。そういうのを目指すうえで帝国が上手く統治したりするのは困るので、徹底的に荒らす。更地にするにしても、建物は全部取り壊してグチャグチャにするっていう手順は取るだろう? だから、僕は自分で引き入れた帝国の統治を乱すのさ。

 王国を崩すためには必要だったけど、もういらないので帝国軍は負けてもらっていい。個人的な希望としては、帝国に逃げ帰れず、この地に取り残されて、独自勢力を築いてもらうのが良いかな?

 それと財産なんかも全部焼き払おう。既に持っている持ち物で差が出るのは良くない。装備はみんな同じものが良いが、上に合わせることは出来ないんだから下に合わせよう。そうなると何も持っていない人間もいるんだから、みんな何も持っていない状態にしないといけない。

 王都に火を放とうか、田畑も全部焼こう。食料もなくなるだろうけど、それを手に入れるのも自分の才覚で何とかすればいい、何とかできないなら、その人間が駄目なだけだ。

 そういう状況では能力が発揮できない人間もいる? 文明社会でないと活躍できない? 確かにそういう輩もいるかもしれないが、本当に優れた奴なら、どんな環境でも能力を発揮できるって僕は人間を信じてる。

 それに良く聞かないか? 環境を言い訳にするなってさ。きっとそんなことを言えるやつは原始時代みたいな環境でも活躍するさ。だから心配はいらない」


 正気じゃない。ヘレンは朗々と語るセイリオスを見て恐怖する。

 なぜなら、目の前の狂人は本気で言っているからだ。その眼差しは決意に溢れ、絶対に実行するという意志が全身にみなぎっている。

 セイリオスは自分の考えが破綻しているのも分かっている。仮に実現した所で自分が目指す完璧には、ほど遠いことも。だが、だからといって足を止めることが正しいとはセイリオスは思わない。

 例え不完全であろうとも、理想の世界に少しでも近づくのなら足を止めてはならない。そうやって夢に向かって足掻く姿こそ人間のあるべき姿だとセイリオスは信じている。

 そして、そんな思いがセイリオスに強い意志と実行力を与えていた。


「もしかしたら、僕も簡単に死ぬかもしれないが、それはそれで満足だ。僕は自分が上に立ちたいのではなく、自分がどの程度の位置にいるのかを知りたいだけなんだから、死ねばそれで自分の位置は分かる。自分を殺した相手より下という具合に」


 セイリオスは腰を下ろしていた木箱から降り、ヘレンの元に近寄ると、猿ぐつわを外す。


「感想は?」

「そんなことが出来ると思っているの……?」


 疑問を向けられたセイリオスは肩を竦める。そんな感想しかないのかという呆れが伝わってくるしぐさだった。


「今ならできる。占領直後のこの時期ならば、混乱もあるんで僕は何とかなる。統治が安定してしまえば無理だが、そうなるまでは問題はない」


 仮に問題があっても、その時はその時だとセイリオスは開き直っている。

 最悪の場合は適当に全員殺して、どこかに逃げればいいとセイリオスは考えていた。財産や地位などはどうでもよく自分の体さえあれば何とでもなる。そんな開き直りがセイリオスの強みだった。

 失敗したとしても大して問題でもないと考えているから、どこまでも大胆に行動できる。穴があり、運や偶然に頼らないといけない計画や陰謀であっても、失敗した所でも問題ないと考えるから躊躇なく決行する。

 それが功を奏したのが今の状況だ。

 慎重を期さず、穴があろうと何だろうと誰よりも早く大胆にに行動した結果、誰もセイリオスの動きに追いつけておらず、セイリオスの陰謀を掴むにもいたっていない。


「さて、そろそろ時間だ。僕はこれからライレーリア様とお会いすることになっていてね。彼女は君をとても心配していて、捜索に必死になっているから、きっと僕に君の捜索を頼むだろう。僕は当然、君を見つけることに成功するわけだが、その時に君には死後数日経った痛ましい姿で発見されてほしいんだ。自分で出来るかい?」


 ヘレンの顔が青ざめるの見て、セイリオスは大きく溜め息を吐く。

 そうなると自分がやらないといけない。その手間を考えてセイリオスは憂鬱を露わにしながら、自分が座っていた木箱に近づくと、そこから道具を取り出す。


「何か言い残すことはあるかな?」


 セイリオスからの最後の質問だ。後は作業的に事を済ませるだけ。


「くたばれ、下衆が……」


 ヘレンが口を開いたのを見てセイリオスは肩を竦め、頭を下げる。


「すまない、耳栓をしてるから何を言っているか聞こえないんだ」


 悲鳴がうるさいのが嫌という理由だ。これから作業的に痛めつけて殺すのに雑音が入るのは煩わしい。


「出来るだけで辛いを思いをさせながら殺そうと思うけれど、要望はあるかな?」


 セイリオスはヘレンに近づき、血で汚れた衣服を破る。


「とりあえず犯した痕があると痛ましさが増しそうな気がするんで犯すが、僕は君に対して性的な興味が全くないことは一応言っておこうと思う。なので事務的に済ませる」


 そもそも女に興味が無いし、では男には興味があるかというとそういうわけでもない。性行為自体が好かないのだ。そんなセイリオスにとってこの作業はなかなか苦痛だ。


「悲鳴は御自由にどうぞ。誰も助けに来ないけれど、それが救いになるなら好きにしていい」


 そして薄暗い倉庫にヘレンの悲鳴が響き渡るが、それも数時間が経った頃には聞こえなくなり、後に残ったのはヘレンの面影を僅かに残した肉塊だけだった。





 暴徒の襲撃から数日後、ライレーリアはセイリオスを呼びつけた。

 ライレーリアはまともに眠れていないのか、目の下にはクマが浮かび顔色は極めて不健康だった。


「心中、ご察し致します殿下」


 セイリオスはライレーリアに対して常にその心を思いやる言動を心得ていた。信頼できる相手の不在を補うことは無理で、その苦しみを少しでも和らげることが出来るように心を砕いており、その心遣いはライレーリアにも届いていた。

 他の側近が政治に集中するように言う中で、セイリオスだけが自分の身やヘレンの身を案じてくれている。他の者たちが厳しい言葉を言う中でセイリオスだけは常に自分を労わってくれる。

 他の者たちは偉そうなこと言うだけで自分が窮地にある時に何もできず、実際に助けてくれたのは帝国の者ではないセイリオスだ。


 色々な感情が積み重なり、ライレーリアは帝国の者からセイリオスへと僅かに信頼の対象を移しつつあった。

 これが普段の状態であればライレーリアも簡単にセイリオスを信頼などしなかったが、先日の出来事から精神的な安定を欠いているライレーリアにはセイリオスの言葉に惑わされないようにするのは無理だった。


「必ずや私が助け出します」


 ヘレンの捜索と救出を頼めば、セイリオスは簡単に応じてくれた。

 他の者は色々と理由をつけて動ないがセイリオスは違う。

 セイリオスの自信にあふれた物言いにライレーリアはセイリオスへの信頼を更に強くするのだった。


 ライレーリアから依頼にセイリオスはすぐさま結果を出した。

 ライレーリアを襲った暴徒のアジトを突き止め、急襲。民主主義者を名乗るライレーリア襲撃犯の捕縛に成功した。そして、その者たちの手によって、攫われていたヘレンも発見するが――


 薄暗い倉庫で発見されたヘレンは暴徒たちの手で殺害されていた。

 言葉に表せないほど凄惨な凌辱を加えたことが見て取れ、セイリオスと共にヘレンを発見した帝国兵はあまりにも酷い状態の遺体を見て嘔吐をこらえきれるものはなかった。


 とてもではないが、皇女殿下に見せられる遺体の状態ではないとセイリオスが報告するも、ライレーリアはセイリオスの気遣いを拒み、ヘレンの遺体を確認した。


 その結果、ライレーリアは卒倒し寝込むことになる。

 王都における最高権力者であるライレーリアが政務から遠ざかったことにより帝国軍の王都統治の安定も同時に遠ざかっていき、王都の情勢は混沌の様相を呈し始めた。




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