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皇女の危機

最近書いた中ではちょっと少なめ(約4000字)

 

「悪い話ではありませんでしたね」


 ライレーリアは自分に仕える女騎士のヘレンに穏やかな表情で話しかける。場所は聖神教会の頂点に位置する教皇と話し合った帰りの馬車の中。

 セイリオスを通じて申し込まれた会談の内容はたいしたものではなく、教会はライレーリアを国王と認めるので、今後は帝国の庇護を願うという物であった。

 教会としてはアドラ王家は神意に反して神に与えられた王権を保持していたために、玉座を追われ、新たに神に認められたライレーリアが玉座に着くということに筋書きを書いているということを聞かされた。


「断る理由は無いありませんね」


 統治をするうえで宗教団体の後ろ盾があるのは助かる。事実はともかくとして、神に認められたというストーリーは自分がこの地を支配するうえで都合が良い物であるとライレーリアは考えていた。


「ええ、とても喜ばしいことです」


 ヘレンは微笑みながら言う。

 それは教会の後ろ盾が得られたことについてではなく、ライレーリアが笑みを浮かべているためだ。

 見ただけで機嫌が良いと分かるのは長く仕える女騎士の目から見ても珍しいことだった。


「これまでの私の働きが認められたということでしょうね。単に利用価値があるから後ろ盾になってくれているだけだと思いますが」


 ライレーリアは教会を信用はしていない。だが、それでも自分を利用するに足る存在だと認めている点だけは評価していた。多少は見る目のある集団であると。


「私も彼らの利用価値は認めます。互いに利用しあうだけの関係ですが、それも悪くは無いでしょう」


 教会の助けがあれば王都の統治も安定するだろう。そうなれば、アドラ王国全域を征服するための行動に移ることができる。利用しあうだけの信頼も何もない関係だが、今後のことを考えれば教会と手を結ぶのは悪いことではない。

 教会が宣言さえすればライレーリアは神が認めた王国の正当なる統治者となる。

 真実など何一つないが、そう呼ばれるのも悪くないとライレーリアは思い微笑む。事実がどうであれ、誰もが自分を称えるだろう。そう思えば、自然と口元が緩むのだった。


「何か御祝いでもいたしましょうか?」


 ヘレンの言葉にライレーリアは首を横に振る。


「お祝いをするのでしたら、王族の件を片付けてからにしましょう」


 確か今日、冒険者ギルドに乗り込むことになっていた筈だとライレーリアは思い出す。

 ライレーリアは冒険者ギルドについては詳しくは知らないが、話を聞く限りでは魔物の退治を主な業務とする何でも屋の集まりらしいので多少は腕が立つかもしれないが、戦いが本業の帝国兵には敵わないだろうとライレーリアは楽観視していた。

 おそらくはすぐに片が付くだろうし、それによって逃げた王族の一件も片が付くなら、一緒に祝ってしまった方が面倒が無いとライレーリアは考えていた。


 アドラ国王への即位と前王の捕縛。だんだんと自分の未来が輝かしい方向へと開けてきているように感じ、ライレーリアは口許に浮かぶ笑みを隠すことができなくなってきていた。


 そんな時である。不意にライレーリア達の乗る馬車が止まったのは。

 何事かと思い、外を見ると護衛として後ろからついてきていた騎兵が馬車の横を通り過ぎていった。そしてライレーリアの乗る馬車の前を守るように隊列を組み始めていた。


「何事ですか?」


 ライレーリアが馬車を停止させた御者に訊ねると、


「平民たちが道を塞いでいるんです」


 不穏な気配を感じとったのか御者が震える声でライレーリア達に外の様子を伝える。

 周囲の景色を見ると、場所は王城へと向かう途中の広場のど真ん中であり、道幅は極めて広い。そんな道を通れないほどに自然に人が集まるなど考えにくい、最初から通ろうとする者の行く手を塞ぐことが目的だとしか考えられない。


「別の道を行きなさい」


 嫌な予感がしたライレーリアは御者に命令するが、御者は震えた声でライレーリアに答える。


「う、後ろの道も塞がれたみたいで……」


 馬車の窓から後ろを見ると、御者の言った通り王都の民が集まり、戻る道を塞いでいた。


「待ち伏せをしていたようです」


 護衛を務めるヘレンが剣に手をかけ臨戦態勢を整える。


「いったいどうして……」


 先ほどまで浮かべていた笑みは消え去り、呆然とした表情でライレーリア呟く。

 民衆からの感情は悪くなかったはず。これまで相当に配慮をして良い関係を築けていた。こんな風に襲われる理由は思い当たらない。

 そもそも、なぜ待ち伏せが出来た? 教会へ行くなどということは自分の臣下である帝国の者しか把握していないのに、どうしてこんな見事に待ち伏せができた。


「王侯貴族による支配を打倒せよ!」

「王も貴族も、そんな特権階級はこの国にはいらない!」

「帝国人は約束を果たせ!」

「民衆に政治を! 貴族に罰を!」

「俺達の血で肥え太った豚どもを殺せ! 豚を守る帝国人を殺せ!」

「俺達を裏切った帝国の売女ばいたを殺せ!」


 馬車の外から聞こえてくる怒声にライレーリアは震えあがる。

 外の民衆の声には明らかな殺意が感じられ、それがこの上なく恐ろしかった。

 直接的な暴力の気配は皇族内での立場は低いものの温室育ちといって良いライレーリアには体験したことのないものであり、それに対しての耐性などあるはずもなかった。


「殿下を守れ!」


 護衛の騎兵が叫ぶと同時に銃声が鳴り響く。

 恐怖から馬車の外を覗き見ることもできないライレーリアには外の様子を伺い知ることはできない。


「彼らの武器は一体……?」


 ライレーリアの代わりに外の様子を見るヘレンは暴徒と化した民衆が手にする武器を見て疑問を抱く。

 彼らが使っている武器は王国の銃であった。銃自体は帝国も使うので珍しいものではないが、王国人が使っているのは珍しいことであった。

 王国において銃は基本的に冒険者ギルドの工房及び工場で製造されるもので、製造数の少なさから冒険者ギルドの関係者へと最初に供給され、その他は個人での売買しかない。軍隊や集団で利用できるほどの数は

 市場には出回らないため、王国の軍隊では殆ど配備されていない。だが、そんな銃を暴徒の大半が手にしていた。


 暴徒は隊列を組んでライレーリア達に向けて一斉に銃を撃った。

 完璧ではないものの明らかに訓練されていると分かる動きで攻撃を加えてくるる暴徒たち対して防衛側のライレーリア達はなす術もない。


「頭を下げて!」


 ヘレンは突然の事態に硬直するライレーリアの体を掴むと、力強く引っ張り馬車の中で身を屈ませる。

 直後に馬車の車体を貫き、銃弾がライレーリアの頭の上をかすめた。


「ひっ」

「大丈夫です」


 ヘレンはライレーリアを抱き寄せ、安心させようと背を撫でる。

 もっとも、このままでは駄目だということも理解はしているので、周りに指示を出すことも忘れない。


「護衛隊長! 活路を切り開きなさい!」


 窓の外へとヘレンは叫ぶ。とにかく、この状況では嬲り殺しにされるだけだ。

 救援は来るだろうが、それまでつかは分からない。勝負に出る以外、助かる道はない。

 そのためには、自分たちを護衛してくれている騎士たちには命をかけて戦ってもらうしかない。


「御者の方、生きていますか? 貴方にも腹を括ってもらうことになります。これから騎兵が道を切り開くので、貴方はそれについていってください」


 先ほどまでの様子を見るに御者も恐怖に震えているだろうとヘレンは思い、自分は無茶を言っているとも理解しているが、今は無茶をしなければいけない状況だ。

 馬車を操れないというなら、御者を蹴落として自分が馬車を動かすしかない、ヘレンはそう決意したが――


「悪いがそれは無理だ」


 聞こえてきたのは御者の声。しかし、その声色には震えなど欠片も無い。

 御者は唐突に御者席からライレーリアの達のいる客室へ振り向くと懐から短銃を取り出し、その銃口をライレーリア達に向け、引き金を引いた。

 放たれた銃弾はライレーリアを守るように抱きかかえていたヘレンの体に当たり、ヘレンは苦悶の声をあげ、ライレーリアが悲鳴をあげる。


「申し訳ないが、この馬車はここで行き止まりだ」


 御者は短銃を懐にしまい、御者席から降りる。

 それを見た護衛の兵たちが、御者の凶行に気を取られるが、よそ見をした瞬間、襲い掛かる暴徒たちに馬から引きずり落とされて、暴徒に滅多打ちにされる。


 護衛を始末した暴徒たちは本来の狙いである皇女が乗る馬車へと群がっていく。


「豚を引きずりおろせ!」

「売女を殺せ!」


 暴徒は叫びながら、馬車の扉を開けライレーリアと負傷したヘレンを引きずりおろす。

 生まれて初めて味わう恐怖にライレーリアの顔色は青を通り越して真っ白になっていた。


 どうしてこんなことに!?

 なんで急にこんなことになってしまったの?

 ライレーリアは泣き叫ぶが、誰もそれを哀れとは思わず、暴徒はライレーリアを引きずっていく。


「助けて!」


 ヘレンを呼ぶが、そのヘレンはライレーリアから引き離されてしまった。

 いつも自分を守ってくれていた騎士がいない。それがライレーリアを更に絶望させる。


「どうすんだ、このまま殺すのか?」

「馬鹿か? もっと痛めつけるんだよ。俺達の血税で、これまで良い思いをしてきた分の報いって奴だ」


 ライレーリアを引きずり回す男たちが、ライレーリアの今後の処遇について相談をしていたが、その相談はすぐに無駄になった。なぜなら、その男たちの体に無数の矢が突き刺さった体。


 絶望から目を閉ざしていたライレーリアの耳に近づいてくる幾つもの蹄の音が聞こえてきた。

 その音に僅かな希望を見出したらライレーリアは僅かに目を開ける。

 その瞬間、ライレーリアの視界に飛び込んできたのは一人の男の姿。


「ご無事ですか、ライレーリア様!」


 軍勢を引き連れ、颯爽と駆け付けたセイリオス・アークスの姿だった。





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