決着
大広間の天井が崩れて瓦礫が落ちてくる。
俺の物になる城は無傷で手に入れたかったんで、こんな手段は取りたくなかったが仕方ない。それもこれもユリアスが強すぎるのが悪いんであって、俺が悪いわけじゃない。
「テメェ、なんてことをしやがる」
なんてことをしやがるって別にたいしたことはしてないぜ。
城の外にいるヤーグさん達に向けて、オリアスさんに合図をしてもらって、ありったけの爆薬を詰めた樽を、俺達がいる場所の真上に落としてもらったってだけだ。
投石機なんかで樽を打ち上げ、空中の樽を風の魔法で運んで、狙った位置に落とすってのは城壁攻略の時にもやったことだし、たいしたことじゃねぇだろ。
もしもの時にこれをやってもらうために、ヤーグさんとヤーグさんが率いる魔法使いの部隊は城の外に置いてきたってことに気づかなかったのか?
「一緒に生き埋め? 俺は心中は御免だ」
俺だって嫌だけど、こういうことでもしないとテメェを殺せねぇんだから仕方ねぇだろ。
俺は落ちていた大剣を拾い上げて、ユリアスに切っ先を向ける。直後、俺の頭に瓦礫が降ってきたので、横に転がり、それを避ける。
「何か考えがあるかと思ったら、そのザマじゃ、本気で心中する気だったのかよ」
うるせぇなぁ、瓦礫が落ちてくる場所なんか予測できるわけねぇだろ。見てみろよ、俺の兵士も瓦礫に何人か潰されてるし、大慌てで逃げ回ってやがる。
「お前が先に死んでくれれば、心中せずに済むんだがな」
当然だけど、一緒に死ぬ気は無いよ。ユリアスが死んでくれたら、俺はさっさと逃げます。
まぁ、瓦礫に潰されてユリアスが死ぬとは思えないんで、俺が殺すんですけどね。
俺は大剣を手に駆け出す。魔力は殆どないが、だからといって戦わないわけにもいかない。
ユリアスは落ちてくる瓦礫を苦も無く躱しながら、突進する俺を見据えていた。
どうやら、俺しか戦る気が無いと勘違いしてやがるようだ。全く見当違いも甚だしいぜ。ここまでボコボコにされた俺らが、天井が崩れて瓦礫が降り注いでくるくらいで、戦意が落ちるとでも? テメェに仕返しないで逃げ帰るとでも思ってやがるのか?
「俺を忘れてないかい?」
俺にだけ意識を向けていたユリアス。その背後にグレアムさんが立っていた。
すぐさま振り返り、その勢いのままグレアムさんを裏拳で殴り殺そうとするユリアス。しかし、グレアムさんの剣の方が速かった。グレアムさんの放った一撃はユリアスの鎧を斬り裂き、刃が胸を斬る。
「死にぞこないが」
だが、浅かった。痛みを感じないレブナントは多少斬られた程度で動きを止めることは無い。
それを見越して続けざまにグレアムさんは剣を放つが、ユリアスはその刃を素手で握りしめて受け止め、剣を奪い取ると、グレアムさん蹴り飛ばす。
「本当に鬱陶しい」
心底ウンザリといった表情のユリアスに俺が大剣を振りかぶり斬りかかる。
ユリアスは俺と打ち合うことを避けたのか、飛び退いて俺から距離を取る。すると、その直後に、ユリアスが一瞬前までいた場所に瓦礫が落ちた。瓦礫が落ちてくるのを予測していたとしか思えない動きだ。
「クソッ、戦いづれぇ」
体勢を整えようとしたユリアス。だが、そこに兵士たちが放った銃弾が襲い掛かる。
撃たれる瞬間に気づいたのか、〈障壁〉の魔法を発動するが、それが間に合わなかった一発がユリアスの鎧を貫いて太腿を撃ち抜いた。
「良くやった!」
俺が喜んで叫ぶ。それに対してユリアスは自分を撃った兵士を探して、ぶち殺そうと思ったようだが、ユリアスが自分を撃った兵士を見つけると同時に、そいつの上に瓦礫を落ち、兵士は圧死した。
「このゴミどもが」
随分とイラついてるようだ。俺にとっては、ユリアスがイラついているのは最高に楽しいんで、今の状況は最高です。
「〈探知〉が効いてないぞ。今のうちに仕留めろ!」
オリアスさんが生き残っていて余裕がある奴に指示を出す。
ユリアスは今、〈探知〉の魔法がマトモに機能していない。だから、グレアムさんに背中に立たれるし、兵士が撃った銃弾も防げなかった。
ユリアスは〈探知〉の魔法で周囲を把握しながら戦ってるから、相手が複数でどんな攻撃をしてきても対処できる。逆に言えば、それは〈探知〉の魔法が無ければ、複数人が行う様々な攻撃を防ぎきれないってことであり、俺達の攻撃も当たるってことだ。
でもまぁ、そこで疑問が生じるよな。どうして、今になって〈探知〉が効かなくなったのかっていう疑問がさ。
答えは俺達が崩した天井とそこから落ちてくる瓦礫だ。
ユリアスは身を守るために俺達の動きだけでなく、落ちてくる瓦礫まで動きを把握しなければならなくなった。いくらユリアスだって、常に自分を脅かすものの動きや状況を把握しきれるわけがない。把握しきれない部分が出てくる。
その把握しきれなかった部分が、さっきのグレアムさんと兵士の銃弾で、その動きを読み切れなかったユリアスは簡単に攻撃を食らったってわけだ。
「まさか、ここまで上手くいくとは思わなかった」
最初からやっておけば良かった?
いやぁ、自分の物になる城を壊すのは嫌だし、上手くいくって自信もなかったんだから、しょうがないじゃん。
それにこれやると、俺らも全滅する可能性が大きいんだよね。いまも、ユリアスに突っ込んでいこうとした兵士がユリアスに近づく前に瓦礫に押しつぶされて死んだしさ。そんでもって、いま俺の上にも瓦礫落ちてきた。
俺は降ってきた瓦礫を大剣で弾いて吹き飛ばすと、ユリアスに向けて再び突進を行う。
「こんな下らない手で俺を殺れると思ってんのか?」
最初は無理だと思ってたけど、今なら大丈夫な気がしてるよ。現に攻撃が通ってるわけだからな。
「今じゃ負け惜しみにしか聞こえねぇよ」
ユリアスの意識が俺に向く。その隙を狙って生き残っていた兵士の一人がユリアスの背中を狙う。
ここまでの戦いで武器をどこかに無くしたのか、手に瓦礫の破片を持って、それで殴りかかろうとしていた。けれど、そいつの動きをユリアスは〈探知〉で捉えていたようで、振り向きもせずに裏拳を顔面に叩き込んで沈める。
「俺が負け惜しみだと? 舐めるんじゃねぇよ。こんな雑な作戦で俺が負けるかよ」
そうは言っても焦ってませんか? もしかして、気づいてないのかい? お前、さっきから俺の事ばっかり見てるぜ?
天井を崩すまでは〈探知〉で把握できたから俺のことを気にしなくても良かったけど、今は〈探知〉に不安があるから、俺の姿は常に視界に入れておきたいんだよな。
俺を見失ったら、俺から奇襲を食らう可能性が上がるし、お前と多少でも正面から殺し合える俺に不意打ちを食らったら、自分が終わるって気づいてるからな。
「ビビってるようにしか聞こえねぇな」
俺は落ちてくる瓦礫を気にせずにユリアスに向かって真っすぐ走る。
多分だけど、落ちてくる瓦礫には俺には当たらないから大丈夫――いや、ちょっと嫌な予感がしたから右に避けよう。そうして避けると俺が走ろうとしていたルート上に瓦礫が落ちてくる。
身体はボロボロだけど、勘は冴えてきてる感じ。こういうのは悪くないね。
「俺に向かって、そんな舐めた口を利いて、生きていた奴はいないってことを教えてやる」
ユリアスの眼が据わっていく。ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。今までのユリアスが本気でなかったとは思えないが、怒りで更に一段、強くなってしまったかもしれない。
「――ぶっ殺してやるよ」
ユリアスの殺意が俺だけに向けられる。
他の奴は取るに足らないと判断して、俺を先に始末することを決めたんだろう。
〈念動〉でユリアスの元に俺の長剣が飛んでいき、その手に収まり、直後にユリアスが俺に向かって駆け出す。
俺とユリアスは互いに向かって走りながら剣を振りかぶり、余計な小細工も何も考えずに全力で剣を振り抜いた。爆発と言ってもいいような音が辺りに轟く。
力はユリアスの方が上なので簡単に俺が押し切られる。だが、だからといって引くのは駄目だ。俺は弾かれた剣を力任せに引き戻して切り返す。
胴体を斜めに断ち切る軌道で放った俺の剣を受け止め、ユリアスが僅かに後ずさる。
直後に勘で俺は剣の腹を相手に向けて防御の体勢を取る。すると、ユリアスが放った蹴りが大剣に当たり、今度は俺が衝撃で後ずさった。続けて、嫌な予感がして俺は大剣を跳ね上げる。
跳躍したユリアスの剣が振り下ろされ、俺が跳ね上げた大剣と激突する。直撃を防いでも落下の勢いを利用した斬撃に俺の体勢が崩れる。そこを狙って、ユリアスが追撃を放つ。
立ったままでは攻撃を食らう。とっさの判断で俺は体勢を崩された、その勢いのまま、その場に倒れ込む。
当たると思った攻撃を外されたユリアスに出来た隙を狙って、俺は床に転がった体勢のまま腕の力だけで、大剣を振り上げる。ユリアスの体には当たらなかったが、手に持った長剣に当たり、ユリアスの意思とは関係なく剣が大きく跳ね上がり、その勢いに引っ張られユリアスの体勢が流れ、そこに俺が足払いしかけ、ユリアスを転ばせる。
俺は起き上がりながら、尻餅をついたユリアスに向けて大剣を振り下ろす。だが、それが届くよりも早く、ユリアスが振り上げた足が俺に当たる。それによってタイミングが外され、振り下ろした大剣はユリアスの顔の横をかすめるだけに終わる。
ユリアスは床を転がって距離を取り、立ち上がると再び、俺に斬りかかる。
頭を狙って振り下ろされた剣を大剣で払い除け、返す刀で放たれた突きを頭を振って躱す。
俺も反撃をする。袈裟切りに大剣を振り下ろしたが、ユリアスは長剣で軽く受け止めつつ、俺の剣を跳ね上げる。俺は腕力に任せて跳ねあがった剣の軌道を戻して振り下ろす。ユリアスは長剣を頭の上で水平に構えて、俺の一撃を防ぐと、がら空きになった俺の腹に蹴りを入れる。だが、俺も同時に同じことをしていた。
互いに蹴りを入れ合い、俺達は同時に衝撃によって後ずさる。
「「殺してやる」」
俺とユリアスが同じ言葉を吐き、渾身の力を込めた一撃を放つために踏み出す。
俺はそろそろ限界だ。体力もだけど、気力と集中力もヤバい。これで決めないとマズいわけだが、ユリアスの方はどうだ?
「死ねぇっ!」
ユリアスが必殺の意思を込めて俺に突進してくる。俺も同様にユリアス向かって突進する。
こうなれば、後はぶつかり合うだけ――なわけねぇだろうが!
「アロルドっ!」
俺の名を叫ぶ声と同時に突進してくるユリアスに横合いから魔法で作り出された火球が直撃する。仕留めることはできなかったものの、ユリアスの体勢が崩れる。
放ったのはオリアスさんだ。ここしかないというタイミングで最高の一撃を入れてくれた。
「俺達を忘れてるんじゃないか?」
体勢が崩れたユリアスにグレアムさんが襲い掛かる。邪魔な相手を払い除けるように振り回された剣を受け流し、掻い潜りながら、懐に入り込んだグレアムさんがユリアスの足を斬り払い、膝をつかせる。足を斬り飛ばすまではいかないが、動きが鈍くなることは間違いな傷だ。
膝をついたユリアスにグレアムさんが追撃を放とうとする。だが、ユリアスはそれを許さない。即時の反撃として放ったユリアスの拳がグレアムさんん顔面に突き刺さり、グレアムさんが吹っ飛ぶ。
「グレアム!」
オリアスさんがグレアムさんの名を呼びつつ、膝をついたユリアスに魔法を放とうとするが、オリアスさんの魔法よりも、ユリアスが落ちていた瓦礫の破片を拾い上げて投げる方が速かった。
ユリアスの投げた破片は風の魔法によって加速し、オリアスさんには回避不可能かつ防御不可能な速度に達して直撃し、オリアスさんを吹っ飛ばす。
二人がかりでも膝をついたユリアスを仕留められなかったわけだが、それでも――
「充分だ!」
俺は足を止めていない。充分な加速をつけ、俺は膝をついたユリアスに渾身の一撃を放つ。これで終わる。そんな確信をもって放った一撃だった。だが、ユリアスは俺の確信を打ち砕いた。
「俺がっ、最強だぁぁぁぁっ!」
心からの叫びと共にユリアスは胴体を庇うように、俺に左腕を差し出す。腕だけで俺の大剣を防ぐことはできない。しかし、ユリアスは防ぐつもりはなかった。
俺の振り下ろした大剣はユリアスの左腕を容易く断ち切り、胴体に深く食い込む。だが間に左腕が入ったことで僅かに勢いと胴体に到達する速度が遅れた。
その結果――自由になっていたユリアスの右手に握られていた長剣が俺の脇腹を深々と斬り裂いた。
左腕を犠牲に相打ちを狙うつもりだったということだ。
「ぐうっ!?」
唐突に襲ってきた痛みのせいで、足の踏ん張りが効かず。大剣を振り下ろした一撃の勢いを殺せずに俺はユリアスの真横に駆け抜け、倒れ込む。
倒れる瞬間、ユリアスの横顔がチラッと見えたがユリアスは勝ち誇った表情をしていた。そりゃそうだ、向こうはレブナントで腕を一本切り落とされても、胴体に大剣がめり込んでいても魔石を壊されなきゃ死なねぇからな。それに対して俺はどうだ?
「がはっ」
口から息が漏れる。上手く呼吸ができない。脇腹を斬られただけで、死にそうとか嘘だろ。
血が馬鹿みたいに出てるのを感じる。これはマズい。俺は回復魔法を自分にかけるが、回復速度が明らかに遅い。
魔力が足りないのか、それとも傷が深いのか。おそらくは両方だろう。今まで傷を負ったことは何回もあるけど、なるほど致命傷ってのはこんな感じなのか?
とにかく、この状態はマズい。そろそろユリアスが立ち上がりそうだ。俺も何とか立ち上がって距離を取らないといけないが、足に力が入らない。つーか、下半身の感覚が無い。
俺はうつ伏せになっている状態から腕の力だけで体を動かし、仰向けの姿勢になる。
そうして仰向けになった俺の視界に真っ先に飛び込んできたのは、俺の返り血を浴びて立つユリアスの姿だった。
「良いザマだな」
ユリアスは勝利を確信しているのか、笑みを浮かべている。
「もう瓦礫も降ってこない。何をどうした所でお前らには勝ち目が無くなったってわけだ」
ユリアスの〈探知〉も本来の状態に復帰したってわけか。ああ、そうだな、それなら俺には勝ち目が無い。
もう力尽きる寸前だしな。
俺は限界なんで横にならせてもらうぜ。もっとも、既にぶっ倒れてて、立つ気力も無いんだけどな。
「もっと早く諦めて死んでくれたら助かったんだけどな」
ユリアスが、なんか言っているけど無視。
はぁ、空が青いぜ。崩れた天井や壁から青空が見えるよ。こんな良い天気に戦うのなんて馬鹿らしいと思いませんか? 俺は馬鹿らしいと思います。腹の真ん中で体を真っ二つにされて血だまりの中で寝てるのなんて尚更、馬鹿らしいぜ。
「言い残すことはあるか?」
ユリアスが俺を見下ろしながら、剣を振り上げていた。
お前、自分がどんな格好してるか分かってる? 死にぞこないにトドメを刺そうとしてるんだぜ? そういうのって格好悪いと思いませんか?
あのさ、今この場所って、壁や天井が崩れて、外から丸見えなんだぜ? つまり、お前の容赦の欠片も無い人間的にどうしようもない所が、誰かに見られてるかもしれないんだぜ?
それでも俺を殺るんですか? まぁ、どうしてもって言うなら仕方ない。
あぁ、そういえば、なんか言い残すことは無いかってのも聞いてたね。
「……ある」
流石に俺にだってユリアスに言い残しておきたいことはあります。これまで何度も戦ってきて色々と辛い目にあわされた相手なんだから、言っておきたいことくらいあって当然だろう。
言い残すことがあると言った俺に言葉に対して、「なんだ?」と耳を傾けようとするユリアス。そんなユリアスに伝える俺の最後の言葉は――
「――くたばれ、ボケが」
俺の言葉がユリアスの耳に届くと同時にユリアスの頭が吹き飛んだ。
頭の半分を失い、ユリアスは剣を振り上げた姿勢のまま、その場に立ち尽くす。
「言い残す言葉が必要だったのは、お前の方だったな」
最後の最後に油断した間抜けってて墓に刻んどいてやるよ。
不意打ちだろうが何だろうが、俺の逆転勝ちだ。テメェはそのまま死んでろ、ユリアス・アークス。




