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亡国の城

 突進する俺に向かって門番達が何事かを叫んでいる。

 どうやら〈能有り〉のレブナントのようだ。でもまぁ、だからって俺のやることは変わらない。多少、強いから厄介だろうなって程度のことしか思えない。

 その程度の感情しか起こらないんだから、何事か叫んでいても、その内容は気にならないわけで、俺は門番の叫びを無視して大剣を振り抜く。

 俺の剣を防ごうとした門番の一人が盾で受け止めるが、一瞬で肉塊に変り果て、仲間の所に吹っ飛んでいった。

 思ったとおり、多少は腕が立つのか飛んできた仲間を残った門番の片割れは身を屈めて回避する。しかし、そうして身を屈めた隙にグレアムさんが一瞬で距離を詰め、首を切り落とした。


「上から狙われてるぞ」


 オリアスさんの声がして、城門の上を見ると城壁から身を乗り出してこちらに矢を向けてる敵兵の姿が見えたが、直後にそいつらはオリアスさんの魔法で焼き払われる。


「魔法の戦闘使用を許可する。皆殺しにしてやれ」


 魔法関係について優先的な指揮権を持つオリアスさんが命令を下す。

 決戦でもあるし、出し惜しみをする必要もないって判断だろう。俺もあんまり魔法は使ってなかったけど、ここからは使っていくとしますかね。


「城門を開けろ」


 俺の命令に従って兵士の何人かが爆弾を抱えて、城門へと駆け寄る。

 それを防ごうと城壁から弓矢が射掛けられるが、爆弾を抱えた兵士に当たる前に速やかに銃弾や魔法で弓を放つ敵兵を処理していく。


「何かおかしくないかい?」


 城門の前に立ちふさがっていた門番の残りを片付けながらグレアムさんが俺に言う。

 別におかしいことは無いと、俺は思いますけどね。特に変なことは無いし、面白おかしいことの方かもしれないと思ったけど、そんなことは無いよね。

 目の前で起きてる出来事ってのは、城の外壁における最後の守りの城門にも関わらず。抵抗があんまり無いってことくらいかな。

 今も、爆弾を抱えた兵士が城門に無事に辿り着いて爆弾を設置しているし、特に問題ないように見えるんだけど。

 ちかくの

「守りが弱すぎやしないかい?」


 グレアムさんの疑問に、そうかもなぁって思いながら、俺は爆弾が放つ衝撃から身を守るために近くの物陰に隠れる。

 そして、その直後、城門に設置された爆弾が起爆され、激しい爆発音が辺りに轟き、俺の耳にまで響いてくる。

 俺は物陰から顔を出し、城門の様子を窺うと、そこには先ほどまであった門は跡形も無く消え去り、がれきの山に変わっていた。


「よし、突入しろ」


 遮るものは無くなった。となれば、やることは決まっている。城の中に突っ込むだけだ。

 俺の声に応じ、兵達が瓦礫の山を踏み越えて城内へ殺到する。

 それを眺めながら、俺は大剣を肩に担ぎ、悠々と城内へ足を踏み入れる。

 そこにあったのは城へと続く橋であり、橋の下には水の張った堀があり、その終端には城門とは異なる華美な大扉が見えた。その大扉の先が城のエントランスホールであり、城の玄関と言える場所だろうと予測がつく。


「さっさと渡り切れ!」


 オリアスさんの怒鳴り声が先行した兵に向けて放たれる。見てみると、橋のど真ん中辺りで、俺の兵は敵兵に足止めを食らっていた。

 下は水の張った堀だし、橋が落ちたりしたら全滅しそうだなぁ。そんなことを思っていたのだけれど、特に何か起きるということも無く、俺の兵は敵兵を切り伏せ、橋を渡り切る。

 拍子抜けと言えば拍子抜けな感じもしつつ、俺も橋を渡り切ると、その終端部分に奇妙な装置を見つけたので、それをちょっと弄ってみる。

 すると、どういう仕掛けなのか、橋が城側の終端部分を根元にして垂直に立ち上がった。

 これを使われると終わりだったような気がするけど、なんで使わなかったんだろうかね? 〈能無し〉のレブナントなら無理でも仕方ないけど、〈能有り〉の一匹や二匹はいるだろうし、そいつらが指示を出せば良いだけだろうに。


 まぁ、向こうにも色々と事情があるんでしょう。余計なことを気にしてもは意味がないし、さっさと進んでしまいましょうか。

 橋を越えた俺は、兵士たちが数人がかりで開いた大扉を悠々と通り抜け、エントランスホールへと足を踏み入れた。


 そこは贅沢の極みといった空間で、赤い絨毯がひかれ、天井には巨大なシャンデリアが吊るされ、壁は金や銀を用いて装飾されている。そして俺には価値が分からないものの、いかにも芸術品といった趣の絵や彫刻が飾られている。


 見る人が見れば、色々と価値も分かるし感想も違ってくるんだろうけど、俺の貧相な感性だと、なんか凄そうってのと、高そうってくらいしか分からないんだよね。

 他の奴らは呆けて辺りを見回しているようだけれど、俺はそこまで興味をひかれたりしないかな。そんなことより、やらなきゃいけないことがあるしさ。


「ぼやぼやするな。辺りを警戒しろ」


 グレアムさんが俺の代わりに兵士のケツに蹴りを入れて正気を取り戻させる。

 俺が何か言ってやっても良かったんだけど、こういうのはグレアムさんに任せるのが良いよね。一番上に立っている奴が、小さなことで怒ったり叱ったりしてるのって、なんか格好悪いしさ。

 さて、俺も余計なことは考えずに警戒しておくか。思っていたより、楽に入れたけれど、一応ここは敵の本拠地だし、最終拠点だからな。何が起きるか分からないんだし、油断は良くないよな。


「警戒するのは悪くねぇけどよ。こっちに向かって動いてる奴の反応はねぇみたいだぞ」


 オリアスさんが〈探知〉の魔法で周辺の様子を探っていたようですけど、なんか不思議なことを言い出しました。

 城に侵入している奴がいるのに、そいつらの迎撃に動いていないってことかな。

 そういうことってありえるんですかね? 俺はありえないと思うんですけど、世間的にはどうなんでしょう?


「こちらを無視するなら、こちらも無視するだけだ。さっさと進むぞ」


 考えても仕方ないんで、俺達にとっては好都合だと思って先に進むことを提案しておきました。嫌なら拒否しても良いんだけど、俺が言うと基本的に誰も拒否しないんで、満場一致で怪しいと思っても進むことになりました。


 城の中は俺達が侵入しているのにも関わらず、騒々しさなど微塵もなく、聞こえてくるのは俺達の出す物音くらいだった。

 流石にこれはおかしいんじゃなかろうかと俺が気づいたのは、エントランスホールにある階段を上がり、城の奥深くへと続く道を歩いて十分くらい経った頃。

 いくらなんでも静か過ぎやしないだろうかと思って、俺以外の奴がどう思っているのか表情を窺うと、どうやら俺以外の奴は既に怪しんでいたようでした。

 それならそうと、早くいってくれませんかね? 俺がズンズン進んでいるから言うのを躊躇ったとか、そういうのは良くないと思う。


「どう思う?」


 一応、グレアムさんに尋ねてみようと思い、声をかけた瞬間、目の前を人影が通り過ぎっていた。

 おそらく全員が、その人影を見たんだろう。一斉に戦闘態勢に入り、グレアムさんが即座に命令を出す。



「追いかけろ」


 兵士の内の二人が頷くと、その場から走り出して、通り過ぎて行った人影を追いかけていった。

 そして、ほどなくして二人の兵士は無事に帰ってきた。手に女の首を引っさげて。


「メイドでした。〈能無し〉で抵抗してきたので始末しました」


 〈能無し〉のレブナントなら別に生かしておいても情報が得られるわけじゃないから、どうでもいいや。

 俺が「ご苦労」と労うと兵士はメイドの女の首をその場に放り捨てた。


「メイドはいるんだねぇ」


 まぁ、いないと誰が、この城の保守点検をしてたんだって話になるしな。〈能無し〉でも、普通の人間だった時にやってた仕事は問題なくできるわけだし。

 とりあえず、人がいないってことは無いってのは分かったけど、なんか逆に怪しくねぇかな。この感じだと、メイドのレブナントがそれなりの数いるのは間違いないだろうけど、じゃあ、それ以外の奴はどうして俺達に襲い掛かってこないんかね?


「もう少し先に進むか」


 状況がよく分からんので、その方向性で行こうと提案。当然のごとく了承されて、城の奥へと進むことに。別に俺の意見だからって尊重しなくても良いんだけどね。


 そのまま城内を進んでいくと、そこから幾つもの通路が伸びるホールへと到着した。こ

 こから城の奥へと進むんだろうってのは分かるし、何処を通ればユリアスの所へ着くのかも、ホールへ着いた瞬間に分かった。

 なにせ、ど真ん中に他よりも明らかに道幅の広い廊下があり、そこにだけ真っ赤な敷かれているんだから、そこが偉い立場の人の通り道なんだってのは見ただけで分かる。


「そこを進むと、謁見の間とか玉座の間に着くんだろうな」


 ユリアスが城の隅っこにいるとはどうしても思えないんで、俺達が目指すべきなのは、そこしかないだろう。であるならば、その廊下を通るのが正解だろうと思い、俺達は躊躇なく、その通路へと足を踏み入れた。


 そして、足を踏み入れてすぐ、俺達は本気でユリアス・アークスという輩が完全に正気を失っていると理解することとなった。


「マジか」


 それは思わず素が出てしまう光景だった。

 玉座の前へ通じると思われる廊下の両脇の壁に夥しい数のレブナントがはりつけになっていたのだ。

 老いも若きも関係なく、その全てが容赦なく胴体を貫かれ、首を落とされている。そんな姿のレブナントが軽く百体を超えて廊下の壁に磔になっている。

 人によっては壮観と思うのかもしれないが、俺は悪趣味としか思えない。殺すことだけなら俺だって躊躇なくできるとは思うけれど、殺すにしたって、こんな風にする標本のように飾り付ける必要性は感じないし、これをやり遂げた奴の正気を疑わざるをえない。


「城に勤めてた奴らで、おそらく〈能有り〉だろうよ。装備の質も良いし、指揮官とかやってた奴らだな。そういう奴らは〈能有り〉になりやすいからな」


 オリアスさんが壁のレブナントを眺めながら、予想を口にする。

 そうなると余計に意味が分からんのだけど、城に勤めていた奴らを殺す理由とか無くねぇ? そいつらが〈能有り〉なら尚更だ。

 〈能無し〉はたいした戦力にならねぇけど、〈能有り〉のレブナントは相手にとっては結構役に立つ駒だと思うんだけど、そうじゃねぇんだろうか。


「身に着けているものから騎士や魔法使いかな? 戦闘に関わる奴が明らかに多いようだし、なんらかの理由があって、味方を殺していたってところか。どういう理由かは分からないけど、装備の乱れや傷から素直に殺されたわけじゃないってことは確かだねぇ」


 グレアムさんも分かったことを口にする。

 その話を聞いても、なんで殺されてるのかは全く分かんねぇんだけど。俺としては、どうして殺されてんのか知りてぇんだよな。だって、敵じゃなくて味方をぶち殺す理由とか全く分かんないしさ。

 そりゃ、生かしておいても不利益にしかならないような味方なら始末するかもしれんけど、それにしたって、こんなには殺さねぇよ。

 いちいち数えるのが面倒くさくなるくらいの人数だし、その内の半分でも生かしておいたなら、俺らは城の中まで入るのはもっと大変だったろうな。それに城の中にいても、今みたいに敵地にもかかわらずノンビリってのも無理だったろう。

 どう考えても、殺さずにおいた方が良さそうなのに、何を考えてユリアスはレブナントを殺していたんだ?


「なんだかヤバそうな気配がするんだけどよ」


 オリアスさんが俺に向けてどういう意図を持っているのか分からない言葉を投げかけてくる。

 ヤバそうな気配がするから何なんですかね? ここまで来て引き返すってのは無しだろ。そんなことしたら、ここまでクソ面倒な思いをしたりしたのが全部、無駄になるんだぜ? 流石にそれは駄目だろ。


「このまま進む」


 俺がそう言って歩き出すと、オリアスさんは溜息を吐き、俺の後ろを仕方ないって感じで歩き出した。

 俺の動きに合わせ、兵士達が俺を守るように周囲を固めて進み、グレアムさんが先頭に立って廊下を進んでいく。

 玉座の間か謁見の間に通じていると思しき廊下はどこまでも続き、廊下の両脇の壁に磔になっているレブナントもどこまでも続き、このまま終わりが無いんじゃないかと思い始めた頃、俺達はようやく廊下の終わりを迎えた。

 廊下の終点にあったのは、華美な装飾が施された見上げるほどの大扉で、その先には何か重要な場所があることが扉の見た目から想像ができた。

 そして、その大扉にはユリアスなりの装飾なのか、廊下と同じようにレブナントの残骸が磔になっていた

 。

 磔になっていたのは二体のレブナント。片方は騎士で、もう片方は魔法使いの装いをしている。

 それくらいなら、驚くことではないし、いまさら気にすることでもないのだが、そいつらが身に着けている装いが俺の目を惹いた。

 扉に磔になっている奴らの装備は俺がこれまでに目にしたことが無いほど見事な物で、あまり物欲が無い俺でも、欲しくてたまらなくなるような代物だった。


「この先にいると思うか?」


 欲しいけど今は我慢してユリアスを探そう。

 俺は扉の先にユリアスがいると思うんだけど、皆さんはどう思いますか?


「いるんじゃないかな」

「いるんじゃねぇの」


 グレアムさんとオリアスさんが答えると、兵士たちが大扉を数人がかりで開けようと動き出す。

 見上げるほどの大きさがあるとはいえ、日常的に人が通ることを前提に設計されているのだから、それほど苦労も無く大扉は開き、その奥にある光景を俺達の前に明らかにする。

 そこはガラス窓から日光が差し込む広々とした通路であり、その奥にまたもや見上げるほどの大きさの大扉があった。


「どうやら本格的に終点のようだねぇ」


 どういうことだと思い、俺はグレアムさんを見る。


「王様へのお客さんは控室から呼び出されて、王様からのお声がかかるまで、謁見の間の前で待つ。ここはそのための場所さ」


 へぇ、そうなんですか。じゃあ、この奥が謁見の間で間違いないのかな?

 しかし、ここで待つんですか。通路の両脇にあるガラスの窓から日光が入ってきてポカポカと暖かいし、偉い人に会う前に、こんな所で待っていたら気が抜けてしまいそうですね。

 でもまぁ、俺達は待つ必要が無いですし、気が抜けるってこともないけどさ。


「扉を開けろ」


 俺は兵士に命じて、扉を開けさせようとする。

 兵士達が俺の命に従って、扉に近づこうとした、その時だった。


『礼儀がなってない野蛮人どもだなぁ』


 扉の向こう側から声が聞こえてくる。その声は忘れもしないユリアス・アークスの物だった。

 俺は急に聞こえてきた声に戸惑う兵士を押しのけ、扉を蹴り開ける。


「足で扉を開けるなんて、弱い上に礼儀すらなってないとか恥ずかしい奴だぜ。どういう教育を受けてきたのか気になって仕方ないな」


 扉を開けた先にあったのは豪華絢爛の大広間。

 声の主はその大広間の最奥で玉座に座り、俺達を待っていた。


「まぁ、多少の無礼は許してやるか。可哀想になるくらいの雑魚の身で、ユリアス・アークス様の前まで辿り着いたってことは褒めてやるよ」


 ようやく俺達はユリアスの元に辿り着いた。やるべきことはあと一つだ。


「ぶち殺しに来たぜ、ユリアス」

「返り討ちにしてやるよ、アロルド」


 さぁ、決着をつけようか。






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