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開戦

 

 巨大な城壁と俺達が攻め落とす西門が見える。

 何処から王都に突入するかの話し合いはすんなりと決まり、王都の西に俺達はいた。


「――お前らにも見えているだろう? あの巨大な壁が」


 俺は後ろを振り返り、整列した兵に尋ねる。

 兵士たちはやる気に満ち溢れている様子だが、まだまだだ。もっと気合いを入れてやらなければな。自分の命すらどうでも良いと思えるくらいまでイカレさせるくらいにさ。


「あの向こうにあるのは俺達がこれまでに見たことが無いような街が広がっているそうだ」


 俺は巨大な城壁を指さす。それはロードヴェルムを囲む第一の城壁である大城壁で、俺達が突破しないといけない壁だ。壁は分厚く大きいが、それを越える魅力がある。


「広い土地、大きな家、それに莫大な量の財宝もあるだろう。全く羨ましい限りだよな?」


 そう思うよな? 俺が尋ねると兵士たちが僅かに首を動かす。

 お前らも欲しくて堪らないよな? すでにある程度そういう物を持っている俺だって欲しいんだもん。持っていないお前らは欲しくて堪らないはずだ。


「だが、それらの持ち主共は? 何も分からんレブナント共だ。これでは宝の持ち腐れだと思わないか? 俺は思うよ。あの壁の向こうにある物は、生者である俺達にこそ相応しく、この世に未練がましくしがみつく亡者共には過ぎた物だ」


 欲しいなら手に入れようぜ?

 どうせ、レブナントなんて死人も同然だ。奴ら宝やら何やらを持っていたって仕方ねぇよ。そういうのは俺達にこそ必要だし相応しいって、お前らも思うだろう?

 口ではなんとでも言えるから、どんな綺麗事を口にしようが構わねぇし、それを咎めるつもりはねぇよ。だけどな、見りゃ分かるんだよ。お前らの眼が欲望でギラギラしてるってことがな。


 欲望を抱くのは許されない? 欲望を晒すのが恐い? 欲望に従うに抵抗がある? 

 だったら、俺が命令を出してやる。

 お前らは俺の命令で仕方なく欲望に身を任せるのさ。

 大義名分はやるよ。だから、欲しい物を奪い取って来い。俺が許してやる。


「――であるならば、やることは一つだ。蹂躙して全て手に入れろ」


 格好つけた言葉は言うなよ? 俺は分かってるよ、お前らの事はさ。


「こんな最果ての地までやって来たお前らだ。どうせゴミのような人生を生きてきたんだろう? 何も持たず、何もできず、何の価値も無いと扱われ、流れ流れて、こんな所までやってきたゴミたちだ」


 そうじゃなきゃ、こんな辺境の地まで来ねぇもんな。

 口では何とでも言えるんだろうが、結局はこんな場所まで来るしかなかった奴らだ。どんな綺麗事を言ったって、真っ当な社会で生きられなかったゴミどもの群れさ。


「だが、そんな扱われ方も終わりだ。お前らを無価値だと断じた奴らを見返す時が来た」


 何も持ってないなら、手に入れろ。何もできないなら、成し遂げて見せろ。

 お前らを貧乏人だと見下した奴らに金と財宝を叩きつけてやれ。無能と嗤った奴らに武功を教えてやれ。


「あの壁を越えて、欲しいものを手に入れろ。そうして、お前らを侮った奴らの鼻を明かしてやれ。今度はお前らが見下す番だ」


 やる気は出たかい? まぁ、聞かなくても分かるぜ。目ん玉ギラギラしてるもんな。

 お前らみたいなゴミはここで命を賭け金にして一発逆転を狙うしか道が無い。

 クソみたいな人生から逆転したいなら、ここで必死になるしかねぇって分かってるなら、それで充分だ。


「さぁ、全てを手に入れろ」


 金も女も地位も名誉も、ここで全て手に入るぞ。ここで命を賭けずにどこで賭ける?

 俺は大剣を天に掲げ、そして振り下ろし、号令を出す。


「全軍、突撃」


 俺の声に従い、整列していた兵が一気呵成に駆け出した。

 眼は欲に塗れ切っているが、それで良い。士気は今までになく高い。自分が死ぬことさえ、どうでも良くなってやがるくらいの士気の高さだ。

 もう頭の中には幸せな未来を手に入れた自分の姿があるんだろう。こいつらはそれを手に入れるために必死に戦うのさ。


「さぁ、突っ込め、突っ込め。どんどん行け! どんどん死んで来い!」


 真っ先に壁に突進した兵士が壁の上から降りそそぐ矢の雨に撃たれて倒れ伏す。だが、即死した者以外は、即座に立ち上がり、再び城壁に向かって突撃を再開する。

 その体にあったはずの矢傷は既に塞がり、即死した兵士を担ぎ上げ、躊躇わずに盾にして矢の雨を防ぎながら兵士たちは城壁に迫っていく。


「回復魔法は問題なく機能しているようです。」


 魔法担当のヤーグさんが報告してきたので、俺は適当に頷いておく。

 ヤーグさんの提案で、予め回復魔法を広範囲にばら撒いておき、回復魔法効果の飽和状態を戦場に作り出すという作戦は問題なく機能しているみたいです。

 回復魔法が飽和状態になることで、魔法が戦場に残留して空気に漂い、傷を負った瞬間に残留していた回復魔法の効果が発動して傷を癒すんだとか。


 即死したり、回復不能な肉体の損傷を受けない限り、傷を負っても兵士は即座に回復して動けるようになるんで、兵士の損耗が少なくて助かるね。即死しなければ条件がついているから厳しいように思われるかもしれないけど、即死するって案外無いしな。


 今も突撃する兵士の心臓辺りに矢が刺さったんだけど、その兵士は心臓に刺さった矢を自分で引き抜いて問題なく動けてる。

 別の兵士は頭を矢でぶち抜かれてるけど、当たり所が良かったのと周りの奴らの協力で矢を引き抜き、何も無かったみたいに元気よく突撃を再開している。

 おっと、城壁の上から人の頭くらいの降ってきて兵士の頭が潰れました。アレは即死なんで駄目ですね。

 こんな感じで即死するって結構難しいんだよね。


「どっちが化物の軍隊なのかって感じですがね」


 そんなことを言っている割にはノリノリで魔法を発動させてたよね、ヤーグさん?

 まぁ、どうでも良いことだな。別に化物だろうが何だろうが、俺としてはロードヴェルムを落とせさえすれば良いわけだしさ。


「化物の割には攻めが手緩いながな。……城壁の敵を何とかしてくるか、何とかさせろ」


 こっちは不死身近い感じで前進しているけど、ちょっと勢いが落ちてきたな。

 やっぱり城壁の上から矢とか岩が降ってくるのは良くないんで、ヤーグさんでも誰でも良いから何とかしてほしい感じ。


 城壁の上といっても、馬鹿みたいな高さがあるので一番上から撃ってくるわけでなく、城壁のあちこちにある窓とかバルコニーみたいな場所から矢や岩を降らせてくるので、そこを潰さないとこっちの損害は増えるんだけど、どうしたもんかね。

 一番低い城壁のバルコニーは地上から十メートルくらいの位置にあるので、何人かが死ぬ気を出せば取り付けないことも無いと思うんで、一番最初に突撃していった奴らは死ぬ気でそこまで登って欲しい所だけど、あんまり期待するのも可哀想か……

 なんてことを思っていたら先陣を切って突っ込んでいった兵士の何人かが、とうとう城壁に辿り着いた。


「よし、頑張ったな。もう死んでも良いぞ」


 そこまで頑張れば上出来である。

 俺の所から見える感じではボロボロの上、城壁を登れそうな装備も何も持っていないので、それ以上は無理なので、もう充分だ。頑張ればそこまで到達できるという希望を、他の兵士に持たせることが出来ただけで充分だ。


「このまま手柄を奴らだけに奪われて良いのか! 貴様らも続け!」


 グレアムさんが最前線で叫んでる声が聞こえてくる。

 一番最初に城壁に張り付いた奴らに手柄を奪われるって言ってもね。もう、そいつらは死んでるから手柄も何も無いんだけどね。城壁に辿り着いた瞬間に上から降ってきた岩に潰されて即死しちまったしさ。

 死んだのはそんなに惜しくないね。最初に突っ込ませた奴らって、ちょっと素行が悪かったり、戦力として落ちる奴らだからさ。


「よしっ! 一番乗りの誉れを手にする機会は残っている! 最初に城壁に乗り込んだ者には侯爵閣下から金貨を山ほど頂けるぞ! 金が欲しい奴は俺に続き、俺を出し抜いて見せろ!」


 グレアムさんが気合いを入れて走り出す。

 馬は攻城戦じゃ役に立たないので、自らの足で走っているわけだけど、クソ速い。飛んでくる矢とか岩を剣で弾きながらみるみるうちに城壁との距離を詰めていっている。だが、途中で疲れたのか、近くに転がっていた死体を担ぎ上げて盾にし、そこに隠れて休憩し始めた。


「流石に歩兵だけじゃ無理だわな」


 一気にいけるかと思ったけど、情けねぇなぁ。まぁ、歩兵だけじゃキツイだろうし、責めるのは良くないか。

 今後のことを考えると、魔力の消耗を抑えめにしたかったけど、そんなことを言っている場合でもないね。

 魔法も使って攻めていくしかないかな? オリアスさんも魔法を使う必要性は分かっているだろうし、そろそろ動いてくれるだろう。


 それじゃあ、本格的に攻城戦をしていくとしますかね。





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