ロードヴェルム
正直、何をやりたいのか全く分かんねぇんだよな。
俺の話じゃなくてユリアスの話ね。言わなくても分かるかもしんないけどさ。
俺達は焼き払った都市の周りに陣を敷いて、ちょっと休憩してから王都ロードヴェルムに向けて出発したわけなんだけど。
王都に着くまでに大きな都市が残り二つあるって聞いていたから、スゲー警戒していたんです。
なんていうかこう、最終防衛線って感じで立ちふさがってくるかと思ってたんだよね。だけど、実際はどうだったかというと、ほとんど何の抵抗も受けずに簡単に制圧できて拍子抜け。
こうなると、なんか罠でもあるのかと思うじゃん? そういうのも何も無いんだよね。俺達に喧嘩売ったわりに奴が待ち構えているっていう王都まで殆ど素通りだし、ユリアスの野郎は何を考えているんだろうかね。
道中、激しい戦闘なんかは無かったから、俺達の戦力は充分以上に残っているんだけど、俺達をほぼ万全な状態で王都まで到着させて、あの野郎には何か考えがあるんだろうか?
まぁ、考えた所で頭のおかしい奴の思考なんか分かるわけもないし、考えるだけ無駄だよな。
なんにせよ、俺達のやることはユリアスをぶっ殺すことだし、ついでに生きているんならヴェルマー王国の王様だったって奴のレブナントも始末するだけだ。
そうしないと、俺の領地はそいつらの操るレブナントに襲われて、平和な日々を送ることが出来ないからな。
「もうすぐ王都が見えてきますよ」
俺の乗る黒馬に並走しながらヤーグさんが話しかけてくる。
王都までの道案内を任せてるんで、こうやって話しかけて行程を教えてくれるんだけど、もう教えてもらわなくても大丈夫そうです。だって、お城が見えてるしさ。
「あの丘の頂上にあるのが王城であるヴェルム城です」
言われなくても分かるっての。……あの丘の頂上? ちょっと待って欲しい、なんかサイズ感がおかしいぞ。
まず平原の真ん中に丘のような地形があるのは分かる。でもって、その丘の周囲を城壁が囲んでいるのも分かる。じゃあ、城壁の周りにあるゴミみたいなのは……ああ、家か。
「周りに見える第一の城壁は大城壁と言われていて、高さ100mの壁に内側に鋼板を仕込んでいます」
アホだろ。何を思ってそんな壁を作ったんだ? 金の無駄じゃね?
「大城壁の周りは自由市街と呼ばれている場所で、王都の住人と認められない者でも住むことが出来た場所です」
「その言い方だと王都の住人が住む区画もあるみたいだな」
「ええ、大城壁のすぐ内側から第二城壁までの間が平民街。第二城壁から第三城壁までが下級貴族の住む騎士街。第三城壁の内側から丘を登り、頂上にある城の周りまで広がる邸宅や城館が並ぶのが貴族街になりますね」
なんか、頭おかしいレベルで広くね?
アドラ王国の王都よりも遥かに広いんだけど、つーか最初の城壁の大城壁? そこを越えて次の区画に行くのに、軍を率いていたら間違いなく一日以上かかるよね?
「大城壁は東西南北に門を構えているので、このまま進めば東門から攻め入るってことになりそうなんですが、その辺りもちゃんと打ち合わせするべきかもしれませんね」
「東門からだと何か問題でもあるのか?」
「問題に思うかどうかは人それぞれなので、何とも言えませんね」
舐めてんのか、テメェって言ってやりたい。こういう時は自分の意見を言えよって思います。
「平民街の東側は農地が多いんで、見晴らしの良い平野なんですよね。隠れる場所も無いですし、正面から敵軍とぶつかることになると思いますよ?」
農地を作れるくらい城壁の中が広いとか凄いね。俺の感想はそんくらいです。
正面からぶつかるなら、それはそれで良いような気もするんで、俺は気にしないし、どうでも良いです。
「教えておきますけど、城まで最短で行きたいというなら南門から入って、ひたすら真っすぐ進むしかないですね。騎士街への入り口のある第二城壁は北門と南門しかありませんし、王城へ続く道は第三城壁の南門しかありません。
交通の便を考えた結果なのか、全ての城壁の南門は一本の道で繋がっているんで、最短で王城までたどり着きたいなら、ひたすらに南門をくぐるしかありません」
じゃあ、南門を行くのが良いのかな?
俺達は東から王都に向かってきたんで、このままの流れ東門から入っても良いのかもしれないけど、東から王都に入ると中でゴチャゴチャして困りそうな気がするし、一旦王都の南側に行くべきか――
「おっと、言い忘れてました。ちなみに王都の南側は基本的に繁華街で建物が密集している地区なので、大軍を移動させるのは大変ですよ」
じゃあ、南側の話なんかすんじゃねぇよ、ぶっ殺すぞ!
「なら、どこが良い?」
「私なら王都の西門から攻めますね。西側は工業区画なので、道幅も広いので軍勢も動かしやすいかと」
西側かぁ、そうなると王都を回り込まなきゃいけないよね。なんか面倒くさいなぁ。
東と南は微妙な感じがするから、そのルートでは王都に突入はしないようにした方が良いとは思うけど、まだ北側については聞いてないんだよね。もしかすると北門から突入するのが良いってこともあるかも。
「北はどうなんだ?」
「そこが一番良くないですね。王都の北側は貧民街で道が狭い上に入り組んでいますから、軍を動かすのは難しいですし、中に入ると分かるんですが、高低差が激しく傾斜もキツイんで坂道や階段だらけなんです」
じゃあ、駄目だね。坂道とか階段を走らせるのはさせたくないし、俺もしたくない。
高低差があるってことは上を取られやすいってことだし、上を取られた状態で攻撃されたくないよね。
「まぁ、どこから攻め入るかは会議でもして決めてください」
自分が仕えていた国の王都を攻めるってのに淡々としてるんだね、ヤーグさん。
まぁ、グチグチと面倒くさいことを言われるよりはマシなんで、俺としてはこっちの方がありがたいけどさ。
「なにか言いたいことでも?」
「いや、別にないが」
お前が何か言いたいだけなんじゃねぇの? 自分に思うところがあるから、他人も何か思ってるとか勘ぐってしまうんじゃなかろうか?
「薄情だとか思ってませんか?」
思ってねぇよ。そもそも、お前の心情に俺は全く関心が無いんだって。
「別に何も思っていないわけではないですよ? ただ、こんな死人同然の連中しか生き残っていない上に、そんな奴らを率いるのがユリアスなのが最悪で、こんな末路なら、さっさと滅んでもらった方が清々するって気持ちが強いってだけのことです」
さようでございますか。
まぁ、ヤーグさんも、そう思ってくれているならありがたいことだ。俺もさっさと滅ぼして、平和に領地経営をしたいんで、思いは一緒だね。
そんじゃまぁ、ヤーグさんの願いに応えるためにも、どこから王都を攻め落とすか決めるとしましょうかね。




