燃える都市を眺めて
さっさとイベントを消化してしまうことの重要性
やっちまったなぁ……
俺は燃え盛る都市を眺めながら、ちょっと後悔中。
俺の目の前で絶賛炎上中の都市はヴェルマー王国の王都ロードヴェルムまでの間にあるって話のいくつかの大都市の内の一つで、トゥーラ市から旅立って三つ目の街になる。
これまでの街に関しては、多少の問題はあったにせよ、それほど苦労することもなく制圧することができた。けれども、今回はちょっと上手くいかず、その結果、街に火をつける羽目になってしまいました。だって、すげー抵抗されるんだもん。仕方ないよ。
ここに来るまでに制圧してきた街は楽勝だったんだけどね。でも、この街はちょっと無理でした。
その理由は〈能有り〉のレブナントの有無なんだけど、前の二つの街はそこを指揮していたと思しきレブナントが死んでいたから楽勝で、今回は死んでいないせいで都市の防衛体制が完璧だったから苦戦したんだよね。
なんで前の街のレブナントの指揮官が死んでいたかというと、ヤーグさんの予測ではユリアスにぶっ殺されたんだろうとかなんとか。どうやら、昔から二つの街の指揮官とユリアスは仲が悪かったようで、おそらくユリアスの指示に従わなかったんだろうって話らしい。
ちなみにその指揮官さん達は自分たちが治める都市の城門に手足を切り落とされて釘で打ちつけられていました。一応は味方のはずの人たちにそんな酷いことをするなんて、ユリアスもよくよくイカレているようで、俺はドン引きです。まぁ、そのおかげで楽に街を落とせたんだから、感謝するべきかもしれんけどさ。
まぁ、そんな風に指揮官が死んでいたから前の二つの街は楽に落とせたんだけど、今回はどうやら生きているらしくて、そのせいで都市の防備はキッチリとしていたから、普通に攻め落とそうとすると損害が多くなりそうだったんだよね。時間をかけて落とそうにもレブナントって籠城しても消耗とかしないから、時間をかけて攻めても、あんまり効果が無いんだよね。
その結果、面倒くせぇなぁって、俺を含めて色んな人が思ってしまったんだよね。そして、絶賛炎上中の今に至るわけです。
そりゃあね、街が手に入るのは嬉しいよ? でも、そこまでして欲しいってわけでも無いんだよね。既に二つもレブナントを無視すれば無人の大都市を手に入れているんだしさ。欲をかいても仕方ないよ。
それに戦略上、重要な場所ってわけでもないみたいだし、それなら別にいらないじゃん。俺は戦略は分かんねぇけどさ。
というわけで、この街を無傷で手に入れる必要性を感じなかった俺達は、火でも放ってさっさと終わらせようってことになって、魔法使いに火炎弾とかを撃たせたりしまくったわけです。
その結果、大炎上。ちょっと想定していたよりも燃えすぎちゃってビビったのと、この感じだと焼け跡から金目の物を回収するのは難しそうで、そういう色々があり、俺は後悔中なわけです。
「兵の状態は?」
とはいえ、いつまでも落ち込んでいても仕方ないんで話を変えようと思い、ヨゥドリに声をかける。
ヨゥドリはヨゥドリで色々と思惑があり、俺に恩を売っておきたいっていう打算から、この遠征に同行してくれている。どんな理由があるにせよ、役に立つので同行してくれたのはありがたい。
「特に問題はありません。これまでの都市で略奪した分で懐は温かくなっていますし、さほど苦労も無く勝っているので不満も少ないですね」
それって良いことなのかな?
懐が温かくなったりしてると、手に入れたお金で良い暮らしをしたいって気持ちが出て、命を惜しみそうじゃない? そうなられると、戦力にならなくなりそうだから嫌なんだよな。
領民には、それなりにお金持ちになってもらって、幸せな暮らしをしてもらいたいとは思うけど、あんまり裕福になって現状のままで良いかなぁって気持ちになられたら困るよ。
生活には困らないけど、俺は戦場で一旗揚げて、今より大物になってやるぜって馬鹿が増えてくれる感じじゃないと、兵士とか集めらんないしさ。
「金を使わせたいな」
俺の所から見える場所にいるような燃え盛る都市を囲む兵士は別に良いんだよ。
気合いが入ってるし、俺の直属だからさ。アイツらがこれまでの街で略奪した金目の物はちょっと面倒な手続きはあるけど、俺の物になるし、俺の金になるからさ。
問題はそうじゃない奴ら。炎上中の都市から離れた所で、テントやら何やら組み立てて陣を作ってくれている奴らなんだけど。
そいつらは俺の直属じゃなくて徴兵したり、志願してきた奴らで、そいつらはこれまでの都市を制圧する過程で金目の物を手に入れて自分の懐に入れているんだよな。
まぁ、略奪を制限すると士気が落ちるって言われているし、レブナントしかいない都市なら別に何を略奪したところで良いだろうって思って、俺が許可した結果だからなんとも言えないんだけど、ちょっと儲かったからって精神的に守りに入られると嫌だよね。
金を使わせて、もっと儲けてやろうって気分にさせないと、あいつらは懐に金目の物を抱えたまま逃げ出しそうな気がするんだよな。
「娼婦と酒を積んだ馬車がもうすぐ合流します」
どうやら、ヨゥドリ君は俺の考えが読んでくれていたようです。
「それなりに目利きのできる商人も同行してくるので、彼らが抱えている物を買い取って金貨や銀貨に換えてくれるでしょう」
金貨や銀貨は娼婦とか酒を買うのに使うんだよね。でもって、娼婦は俺達が雇っているから、娼婦から上納金が貰えて、俺達の所にも多少の金が入ってくる。酒も俺達が安く買った物をアホな兵士どもがちょっと高くても買ってくれるから儲けが出るって話だったかな?
金目の物を売り払って手っ取り早く現金に換えてくれる商人も、商人と名乗ってはいるけど実際には俺の所で雇用してる役人が成りすましているだけなんで、金目の物も結局は俺の懐に入る。
金目の物を金貨や銀貨に換えるっていったって、相場なんてその道に精通していなきゃ分からねぇんだから、適当に遊ぶのに困らない金を渡しておけば、文句は言わねぇし、ちゃんとした鑑定人を用意する必要なんか無いんだよね。
アホどもは略奪で手に入れた物を遊ぶ金程度の額で売り払って、金額通りに楽しく遊ぶ。俺達は遊ぶ金程度の額を支払って何百年も前の都市あったお宝を労せず手に入れ、それを転売して儲ける。みんな幸せだね。
まぁ、とにもかくにも儲けたままにしておきたくないってわけです。
俺の領民は裕福になって幸せに過ごして欲しいけど、最終的には俺の所に富が集中する体制を作るってのは大事だよね。
金持ちになりすぎると調子に乗るだろうし、吸い上げられそうなタイミングで吸い上げて、金持ちになりすぎないようにしないとね。あんまり金を持ちすぎると俺を舐めるようになるだろうしさ。
「兵の疲労は激しくはありませんが、後続の輜重隊を待ち、商人や娼婦を待つなら、ここに陣を敷くべきかと」
ヨゥドリの提案に対して、俺は全部任せるって丸投げします。だって、細かいことを考えるのは面倒くさいし、そういうのはヨゥドリの得意分野だからね。
俺が余計なことを考えるより、適任者であるヨゥドリに任せて、ヨゥドリの裁量で全部進めた方が上手くいくと思うんで、丸投げです。
「炎上中の都市から不定期に敵兵が出撃してきますが、その対処は如何されますか?」
その辺はグレアムさんに任せます。街に火をかけた時点で、向こうはやる気が無くなっている感じだし、街の中から出てくるっていっても、反撃って感じじゃないし、本気で相手をする必要も無いんだよね。
向こうの指揮官がどう考えてるか知らんけど、都市の占領を放棄させた時点で、自分たちの勝ちだとか思ってそう。
そりゃあね、ちゃんとした侵略戦争だったら、街を占領できずに焼くしかなかったとかなったら、一つの都市を占領して得られる色々な収益を失うから、スゲェ損かもしれないけどさ。
でも、今はレブナントしかいない都市で生産性なんかクソみたいなもんだから、占領する価値とかそこまで無いと思うんだよね。
それに都市を占領して、物資を奪って補給とかしようとかハナから思ってなかったから、後方から続々と大量の物資を積んだ輜重隊が追っかけてきているんで、補給に関しても問題ないんだよね。そもそも、レブナントしかいない街じゃ食糧とか、略奪も補給も出来ないしね。
なので、他の奴はどう思っているか知らんけど俺からすると、目の前で燃えている都市なんて建物の集合体にしか見えないんです、だから、別に焼いてもそこまで惜しくないんだよね。金目の物を略奪できなくて勿体ないかもってくらいの、ちょっとの後悔はあるけどさ。
ノンビリと補給の部隊を待っていて大丈夫かって疑問が湧きそうになるけど、話を聞く限りでは大丈夫みたいなんだよね。
俺だったら、前線にチンタラと物資を送る輜重隊とか最高の獲物って感じなんだけど、そいつらが襲われることは無いっぽいし、実際に今まで襲われていないんだよね。
レブナント共をけしかければ、簡単に輜重隊の行軍速度を落とせて、前線へ物資が行き届くことを阻害できると思うんだけど、そういうことは一切なし。
なんか舐められてるし罠かもしれないって思いそうだけど、ヤーグさんが言うには、その可能性は全く無いらしく、どうして断言できるか聞くと――
『ユリアスは戦略や戦術を全く解していませんので、正面からぶつかる以外の戦いはしませんよ』
嘘っぽいけど、ユリアスを昔から知っているというヤーグバールさんの言うことなので信用しました。
まぁ、少し考えてみると、別段おかしくないかもしれんね。だって、ちゃんと頭を使って軍を指揮できるなら、騎士の身分じゃ収まらなくて将軍とかになってるはずだし、一人で敵陣に突撃するような使われ方も、それに慣れているような戦い方もしないはずだもんね。
単騎での戦闘の極意を集団戦闘に活かすのは難しくはないかもしれないけど、それを軍勢に完璧に適用するのは無理だよね。多少は活かすことはできるかもしれないけど、役には立たないと俺も思うし、自分一人が強いだけの脳筋野郎には兵を任せたくはないかな。
結局の所、ユリアスは単騎突撃しか使い道が無い馬鹿で軍略なんかは全く分からないらしい。あの馬鹿は最強の騎士だとかおだてられていたけど、結局は一兵卒の扱いだったし、戦いに関しても、それ以上の立場の人間が持つべき見識なんかは持ち合わせていないってのをヤーグさんが教えてくれました。
まぁ、だからって甘くは見られないんだけどね。
ユリアス一人でこっちの兵を千人くらいは余裕で殺しかねないわけだしさ。あのアホが指揮官として、どんだけ無能でも兵士としての異常な強さが、無能を全部帳消しにしかねないんだもん、警戒はしないとね。
「火の勢いも弱まる気配がありませんし、状況に変化が生じるまで少しお休みになられたほうがよいかと」
そうだね。
目の前の都市はどうでも良いけども、兵を休ませて程々に金を吐き出させたら、王都へ進軍を再開しなきゃならないし、その途中で落とさなきゃならない都市が二つあるって話だもんな。
残りの二つの都市がどんな感じかは知らんけど、何があるか分からない以上、今の内に英気を養っておかないとな。




