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コネを頼りに

忙しさがマシになってきた


 昔は学校を卒業したら仕事には困らなかったらしい。でも今は違うみたいなんだよね。

 それには色々な理由があって、景気が悪いせいで新しく人を雇う余裕が無いとか、人を多く雇えないから少数精鋭で優れた人材でなければ駄目とか、年寄りが仕事を辞めないせいでポストが空かなかったりとか……まぁ、色々な理由があって、今は学校を卒業したからって仕事に就けるわけじゃないんだよね。

 それは俺が通っていた貴族の学園にも当てはまっていて、昨年度の就職率は過去最低を更新し、今年度も更新される見込みだとか。卒業生として情けないことこの上ない…って思ったけど、俺は卒業できてないから、よくよく考えると特に思うこともないね。へぇ、大変なんだなぁって、その程度の気持ちくらいしか抱けないかな。


 でもまぁ、当事者の方は必死だよね。学園に通ってた奴らでも長男とかは家を継げるから良いけど、次男三男は家の厄介になれない奴も多いみたいだし、なんとしても仕事を見つけなきゃならないからな。

 貴族の女の子だって、卒業したらすぐにお嫁さんに行ける人ばかりじゃないし、ある程度の社会経験と能力がある所を見せなきゃ縁談が無かったりするんだよね。礼儀作法とか淑女の嗜みを学校で勉強しただけで縁談があるのなんて、もとから家柄が良かったりして相手に困らない子だけだしさ。なので、女の子も生活と結婚のために職に就かなきゃいけないわけだけど、肝心の仕事がアドラ王国には無いんだよね。


 そうなると、どこで職を求めるかというと、広大な領地を持っていて文官やら何やらが不足しているヴェルマー侯爵領しかないわけで、王都の学校を卒業した人たちは藁にも縋る思いで鉄道に乗り、山脈を越えて、俺の領地にやってくるというわけです。


 今日もそんな人々が仕官の口を求めてやってきたり、職を求めて俺のもとへやってきます。侯爵閣下の知り合いですので取り次ぎをお願いしますとか言ってさ。まぁ、人材は欲しいから拒否する理由もないんで会ってやりますよ。

 つっても、誰かからの紹介みたいなものは持ってないようなんで、人となりを見極めて採用するかどうか決めようと思い、面接をすることになりました。


「お久しぶりです、アロルド殿。憶えておいででしょうか? 学園に在籍していた時に閣下と同じ教室で授業を受けていた――」

「剣術の授業の際に閣下に頭を割られた――」

「通学の時によくお見掛けしておりまして――」

「学園の食堂で昼食を献上した――」

「閣下に頼まれ、飲み物を買いに行った――」

「閣下に金を貸し……いえ、差し上げたものですが――」

「一度挨拶をしたことが――」

「同じ学園に通っていた――」


 面接をすると、みんながみんな俺の知り合いみたいな感じで話しかけてくるんだけど、申し訳ない。一人も顔を思い出せないんだが。つーか、マトモに授業に出ていた記憶もないから学園の奴とか殆ど分からないんだよね。

 記憶にあるのはエリアナさんみたいに美人な女の子と、俺に良く絡んできたウーゼル殿下とその取り巻きくらいだし、俺がそんなもんなんだもん、俺の知り合いだって言ってる奴らだって、俺のことなんか知らないだろ。


「藁にも縋る思いとは言いますが、コネとも言えないような微かな繋がりを頼りに仕官の口を求めてくるとはね」


 俺と一緒に面接をしていたヨゥドリが呆れている。でもまぁ、あいつらだって追い詰められすぎて恥も外聞も感じなくなってるんだけであって、正気なら俺のところになんて来ないんじゃない?

 とりあえず、面接をした奴らに対しては後日、合否を伝えるって言って帰ってもらった。おそらく、これからも同じように俺と同じ学園に通っていたというだけのコネを頼りに俺に就職の世話をしてもらおうとする奴はやってくると思うんだけど、どうしたもんだろうね。

 どういう奴らか憶えていたら、どのくらい働けるのかとか、そもそも有能かどうかも分かるし、雇うかどうかはすぐに決められるんだけど、俺は憶えてないから、どうにもならないね。エリアナさんだったら憶えてると思うんだけど、今度からはエリアナさんにも面接の時には同席してもらおうかね。


「顔も見たくない連中がいっぱいいるのだけれど」


 どうやら、エリアナさんは学園を追い出された時のことを未だに根に持っているようです。俺はそんな昔のことはどうでも良いんだけどね。

 まぁ、昔といっても二年か三年くらい前の出来事だから、人によっては忘れられないんでしょうね。でも、追い出されたからこそ今の状況があるんだし、むしろ感謝するべきのような気もするんだけどね。こんなことをエリアナさんに言ったら怒られそうだから黙っているけどさ。


 ――で、なんとかエリアナさんをなだめすかして、面接の場に同席してもらったわけだけど……


「あら、子爵家の御令嬢がこのような田舎へ、どのような御用なのかしら? 生憎とわたくしは田舎者ですので、高貴な御方をおもてなしする作法に疎く、このような場で御挨拶をするような形になってしまい申し訳ありませんわ」


 貴族の女の子が面接にやってきくると、エリアナさんがこんな調子になります。女の子の方はエリアナさんの顔を見るなり泣きそうな顔になって、ひたすら謝るばかりだし、面接の意味がなくなるんだよね。


「あらあら、どうなされたんですか? 確かどこかの伯爵家の御子息と御婚約なされたという話を聞きましたのに、どうしてこのような辺境の地にいらっしゃられたのかしら? 男爵家の娘の貴女には願っても無い縁談だったのですから、まさか破談ということはありませんわよね」


 最初の女の子は何も言えずに逃げ出しました。次にやってきた女の子が今はエリアナさんの言葉を聞きながらプルプルと震えている。調子が悪いなら帰って別の日にした方が良いよ。


「縁談が上手くいかなくても気にしてはいけませんわ。わたくしも婚約を破棄されたのですけれど、そのおかげ素敵な男性と結ばれることができましたわ」


 エリアナさんが見せつけるように俺にピッタリとくっつく。目の前にいる女の子が歯ぎしりをしてるように見えるんだけど気のせいですかね? 結局、歯ぎしりをしていた女の子は何も言わずに帰ってしまいました。

 これじゃあ面接にならないと思うんだけど、どうなんですかねエリアナさん?


「なぁに?」


 エリアナさんが楽しそうな顔で俺に微笑んでくるので、まぁどうでも良いかって気分になってくるね。やっぱり美人の笑顔が一番だぜ。


「ちょっと意地悪してるだけだから心配しないでいいわ。あの子達の働き口位は見繕ってあげるわよ。ちょっと生活が困窮している子もいるみたいだし、あのまま放っておくと心配な子も多いしね」


 生活が困窮してるって見てるだけで分かるんかね? でもまぁ、色々と家庭の事情みたいなものを調べてるみたいだから分かるのかな?

 だけど今まで面接していた女の子って、みんな貴族の御令嬢だよね。貴族の御令嬢が生活苦しいって今のアドラ王国って実際どうなってるんだろうか?


「あら、イーリス様の御友人であらせられる貴女が何か御用? 不本意ながら私の取り巻きになっていたとおっしゃていたと記憶しているのですが、もしかしてイーリス様には助けていただけませんでしたの?」


 どうやら次の人が入ってきたようで、エリアナさんが嬉々として話しかけている。


「貴女は、えーと、申し訳ありません。どこの家の方でしょうか? 貴女に似た顔の女性に実家の領地の大きさを誇られた記憶があるのですけれど、そのような方がこのような地にいらっしゃられるとは思えませんし……」


 すげー領地持ちなんだね。でも、俺の領地って今の段階でアドラ王国の西部地方の総面積の半分くらいあるらしいし、それより大きい領地って絶対に話を盛ってるよね。


 まぁ、こんな感じで色々と言いながらも、エリアナさんの甘い見立てですら、全く役に立たなそうな奴以外はウチで雇うことになりました。

 エリアナさんが意地悪をした貴族の御令嬢の皆さんは殆どが文官として働くことになりました。

 貴族の男子に関しても文官が多いけれど、それなりの数が武官としてグレアムさんの下に付き、魔法が得意な連中はオリアスさんかヤーグさんの下に付いて働くことになりました。

 そして、こいつらの立場に関してだけど――


「貴族として扱うことは出来ませんね」


 ヨゥドリが言うには、いきなりやって来た奴らを優遇すると古参の連中の不満を招くとか。まぁ、俺としても今まで仲良くやって来た奴らの方が大事だしね。具体的には冒険者ギルドを設立したころからの付き合いの連中とかね。


「貴族として育った彼らは良くも悪くも陰謀に慣れ親しんでいますからね。将来的にはそういう人々が増えるのも良いんでしょうが、今は良くないので、彼らに地位と力を与えるのは良くないかと」


 まぁ、そうだね。俺の領地の代官をやってくれている冒険者あがりの連中は個人個人での仲の悪さみたいなものはあるかもしれないけど、冒険者同士で顔見知りだから、越えちゃいけないラインは分かってるし、なんだかんだで背中を預ける仲間って意識があるから、互いに協力する必要性を理解してくれているんだよ。

 だからか、陰謀を積極的に巡らせて相手より優位に立とうって雰囲気が無いんだよね。俺はそういうサッパリとした感じが好きだから、それを乱そうとする奴は嫌だね。

 もっとも、こういう空気は冒険者出身あがりの連中が権力を持つ側に立っているから作られているだけで、その冒険者の息子とかが生まれながらに権力を持つ貴族みたいになったら色々と変わってくるんだろうね。そういう奴らが増えてきたら、いつかはウチもアドラ王国みたいなるかもしれないけど、俺が生きている内はそうならないと良いね。


「彼らも自分の力で領地を開拓するなら、代官やら何やらを任命するのもやぶさかではありませんが、基本的には宮廷貴族と同じ扱いで土地を持つことは禁止させましょう。官僚として充分な給料を与えられてるだけで満足してもらうべきですね」


 余計なことをされて、今のヴェルマー侯爵領の雰囲気を壊されたくないから、俺もヨゥドリの方針に賛成です。

 そういうわけで、ヴェルマー侯爵領にやってきた学園の卒業生の大半の働き口と立場は決まりました。色々と文句を言う奴もいたけれど、ここはアドラ王国じゃなくてヴェルマー侯爵領なので、王国の常識で考えられたら困るね。侯爵領も王国の一部だろうって? さぁ、そういうことは良く分かりませんし、俺は違うと思うんで、そういうことを言われても困ります。

 どうして平民が領地を持ち、貴族の自分たちには領地を持つ権利が与えられないんだみたいなことを言った奴には鍬と鋤を渡して、無人の荒野に捨ててきました。頑張って開拓したら、その土地はやるとも言っておいたんで頑張って開拓してくれるでしょう。


 そもそも、ヴェルマー侯爵領はアドラ王国とは違うんだから、アドラ王国と同じ感覚で貴族と平民を語られても困る。将来的には貴族が左団扇で暮らすような場所になるのかもしれないけど、今は一生懸命に働いて成果を出した奴が貴族に成り上がる時代だからね。昔の身分にこだわるアホはその分だけ、損をするからね。

 女性陣なんかはそういうことが早くに理解したのか、アドラ王国時代の平民とか貴族の身分なんか気にしなくなってるよ。

 学園の卒業生である貴族の御令嬢の皆さんは、平民の生まれのカタリナを頭にした派閥を作っているからね。どうやらエリアナさんと関わるのが気まずいのと、誰にでも優しいカタリナの下についているほうが安心という理由らしい。

 逆にエリアナさんは、メイドとかギルドの女職員とか女冒険者といった平民に好かれているんだよね。はっきりと物を言うし、弱い立場の人間に対しては、なんだかんだでかなり甘いから、そういうところが良いんだろうね。

 こんな風に平民のカタリナを貴族が慕い、貴族のエリアナさんを平民が慕うみたいなアドラ王国とは違う形が出来上がり始めてるんだから、そういう雰囲気に男性陣もさっさと慣れてほしいもんだぜ。


 まぁ、色々と不満はあるにしても仕事が出来る奴らが増えたのは良いことだよね。食糧生産も人材も何とかなりそうな気配が出てきたけれど、次はどうしようかな。

 せっかく領主になったんだし、領主軍みたいなものを編成してみるのも良いんじゃないかな? ヨゥドリかグレアムさんにでも相談してみますかね。






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