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カウボーイ

 

 どこのアホが魔物も牛や豚と変わらないだろうなんて思ったんだろうか? 

 そいつの頭をかち割って中身がどうなっているか見てみたいね。牛や豚を飼っていたからって魔物を飼い慣らせるわけないじゃん。ちょっと考えりゃ、それくらい分かるよね。

 どこの誰が考えたかは知らないけど、魔物を飼育して魔石と肉なんかを安定して入手できる計画は最初から穴しかありませんでした。だって、魔物が狂暴なんだもん。飼育員が命がけで餌をあげなきゃならんてどうなってんの? 毎日、飼育員が怪我する牧場なんか誰もやりたがらねぇよ。


「そもそも飼育する魔物が間違っているんじゃないでしょうか?」


 俺に魔物の飼育の件を報告しに来たのはジーク君だった。

 どうやらジーク君はヨゥドリに嫌われているようで、重要度の低い仕事しか任されていないらしく、俺の所に直接報告しにくるような案件は無かったのだが、魔物の飼育に関しては俺に直接報告をする必要があるとヨゥドリが思ったのか、ジーク君は今は俺の前に立っていた。


「飼育しようとしている兜牛かぶとうしに、鎧豚よろいぶた騎馬鶏きばどりって、どれも相当危険な魔物なんですが」


 そんなの知るかよ。冒険者連中に家畜に出来そうな魔物を持ってこいって言ったら、こいつらが来たんだよ。

 冒険者連中がドヤ顔で兜牛が入った檻を見せてきた時、これはヤバいかなぁって思ったけど、やりもせずに諦めたら良くないだろ? そしたら、やっぱり良くなかったってわけだ。直感ってのは大事にしないといけないね。


「とりあえず、牧場を見に来てくれませんか? 僕だけでは手に負えないんです」


 そんなわけで俺はジーク君に頼まれて、兜牛の牧場に行くことになりました。正直言って行きたくなかったけど、俺はヴェルマー侯だし、領内のことには責任があるから仕方ないね。


 俺が向かった、兜牛を飼育している牧場はトゥーラ市の東にある草原にあり、そこは一面に緑が広がり、爽やかな風が吹き抜けている場所だった。

 ピクニックをするには最高の場所なので、お弁当でも作ってもらって、エリアナさん達とノンビリしたい気分になってくるけど、残念ながら今日は仕事です。


「何が問題ってサイズが問題なんですよ」


 俺が到着するなり、兜牛を飼育している牧場の人が俺に対して涙ながらに訴えてきた。サイズって何のサイズだよと思っていると、草原の彼方から土煙を上げながら小山が移動してくるのが見える。


「あれが兜牛の成獣です」


 飼育員が指さした先に見えるのは体高が3メートルくらいありそうな牛の群れだった。……ちょっとデカすぎませんかね? 俺は魔物とはいえ牛さんだから来たんであって化物を見に来たわけじゃないんだよね。


「あのサイズですが、飼料は普通の牛よりも少なくて済みますし、肉や皮も上質なんです。家畜としては申し分ないのですが、いかんせん大きさが……」


 それは俺も理解できるよ。どうせ飼うならデカい魔物の方が良いかもなぁって思ったこともあったけど、あの大きさは良くないんじゃない? しかし、あの大きさで餌が必要ないってどういうことなんだろうか? オリアスさんが言うには魔物は魔力も体を動かすエネルギーにしているから食事の重要性は低いとか言っていたような気がするけど、それはマジな話だったってことか。


「冒険者の方々に仕留めてもらおうと依頼したのですが、返り討ちに遭う方も多く、牧場ではあるのですが、経営が成り立ちそうもありません」


 そりゃ、肉や皮を取るためにはアレを殺さなきゃならんけど、普通にやってアレを殺せるかは疑問だね。半端な腕の冒険者じゃどうにもならん感じだしさ。


「どうするんです?」


 俺に聞く前に色々と試してみようよ。とりあえず責任者のジーク君が特攻を決め込んでみて、倒せるかどうかを確かめてみてよ――と思ったけど、そんなことをしている時間は無さそうだ。


「こっちに向かってきてますっ!」


 牧場主の人が悲鳴をあげて牛の群れを指さしていたので、その方向を見てみると、確かに牛の群れは俺達の方に向かってきていた。

 どうやら、俺達のことを縄張りに踏み込んだ侵入者みたいに思っているようだ。俺達は飼い主だってのに、舐めてるよな。こういう時はお仕置きをする必要がある。


「すいません、僕らは逃げます」


 ジーク君は腰を抜かしてしまった牧場主を担ぎ上げ、この場から逃げ去っていった。あのガキも後でお仕置きをしなけりゃならないような気がするぞ。つーか、絶対する。


「護衛ども、来い!」


 俺が呼ぶと、護衛として付き従っている冒険者あがりの兵士たちが俺を囲んで防御態勢を取る。


「閣下、剣をどうぞ」


 護衛が差し出してきた剣を受け取り、俺は突っ込んでくる牛どもを見据える。遠目からでは良く分からなかったが、兜牛と言われるだけあって頭と角は非常に立派だ。特に角に関しては、槍と言っていいくらいの長さと鋭さがあり、鎧も簡単に貫きそうだった。


「だが、所詮は牛だ」


 3メートルくらいあるって言ったって所詮は牛だぜ? こちとらドラゴンやら何やらをぶち殺してきてるんだ。怯えることなんかねぇよ。むしろ、ここでビビってる方がカッコ悪くないか? いくらデカいからって牛にビビってたらカッコ悪いよな。

 俺は剣を片手に囲みから飛び出し、牛の群れに向かって突撃する。俺が突撃すれば、護衛の連中も突撃するしかないわけで、俺の背中を追って兵士たちが走りだす。


「ぶち殺せ!」


 俺は声を上げながら跳躍し、戦闘を走る兜牛の頭に剣を振り下ろす。乾いた音がして剣が折れるが、兜牛の頭蓋骨は粉砕され、牛の巨体が崩れ落ちる。それに遅れて兵士たちが全速力で後続の兜牛に激突した。何人かが吹っ飛ばされるが、兜牛の方も無傷ではいられずに巨体をよろめかせる。その隙に生き残った兵士が数人がかりで組みつき、めった刺しにして仕留める。

 俺は群れの仲間が殺されたことに動揺する兜牛の背に飛び乗り、背にしがみつきながら頭を何度も殴り続ける。無茶苦茶に暴れるが、耐えられないわけでもない、暴れ馬を乗りこなすのと同じ要領でやれば何とかなる。


「殺しますか!?」


 兵士たちが俺に向けて叫ぶ。辺りを見ると、仲間を殺された兜牛は既に逃げ出しており、俺が乗っている一頭だけになっていた。


「必要ない」


 俺は、背に乗っている俺を振り落とそうと暴れる牛の頭に全力の拳を叩き込む。その一撃で脳を破壊され兜牛は一瞬大きく震えると、次の瞬間には全身の力を無くし、倒れ伏した。

 いくらデカくて狂暴な魔物でも所詮は牛なんで、ぶち殺すのは余裕だね。こんな風にやれば牛を肉や皮にすることも出来るだろうって、牧場主さんも勉強になったと思うんだけど――


「申し訳ないのですが、私にはこの牧場の経営は無理です」


 そう言って、牧場主さんは逃げ出してしまいました。何が気に食わなかったんだろうね。言ってくれれば、直したんだけど、何も教えてくれずに普通の農家になってしまいました。

 仕方ないので別の牧場主を探したんだけど、頼むと喜んで引き受けるくせに、兜牛の絞め方を実演してみせると、顔を青くして断ってくるんだよね。

 このままだと食肉を安定して供給できる場が失われそうで困る。なので、俺は仕方なく――


「この件の専門の冒険者を募集または育成して、そいつらに全部やらせろ。報酬は多めに用意してやるとも言っておけ」


 ――という感じに牛飼い専門の冒険者って奴を募りました。名前だけだとカッコ悪いけど、収入は安定しているし安定志向の冒険者には良い仕事だと思う。

 すると、牛飼いと馬鹿にしつつも報酬に釣られた冒険者がわんさかとやって来てくれたんだけど、実際に自分たちが飼育する牛を見て、その牛の絞め方まで見学すると、殆どの冒険者が顔を青くして逃げ出しやがるんだよね。やっぱり、牛飼いっていうのはカッコ悪いのかね?

 でもまぁ、何人かは残ってくれたので、俺は兜牛に関してはそいつらに一任することにして、後のことは面倒くさいので関知しないことにした。俺的には肉と魔石が安定して確保できればそれでいいんだし、細かいことはどうでもいい。


 そんな感じで、しばらく放っておいたら、いつの間にか牛飼い専門の冒険者は牧童カウボーイと呼ばれて、冒険者連中から一目置かれるようになっていた。やっぱり、収入が安定しているってのは大きいんだろうね。お金を持っている奴らは何処の世界でも尊敬されるし、冒険者の世界でも例外じゃないんだろう。


 せっかくなので俺はカウボーイと呼ばれる連中の仕事の様子を見学してみた。

 カウボーイは基本的に良い馬に乗っていて馬術に長けている。良い馬じゃないと、兜牛の群れを追いきれないし、馬の扱いが上手くないと兜牛の群れに近づけないようだ。

 服装に馬がつかれるので鎧の類は一切身に着けずに丈夫な革の服を着ている。まぁ、丈夫といっても、兜牛の突進が直撃したら問答無用で死ぬけどね。でもまぁ、それは鎧を着てても同じなので、身軽なだけ革の服の方がマシか。

 肝心の牛の絞め方に関しては方法が確立されていたが、かなり無茶をしている。

 まず、馬で群れに近づき、兜牛の背中に飛び乗ると、すぐさま銃を構えて頭にぶっ放して仕留める。至近距離じゃないと頭蓋骨を貫通できないんで背中に乗るんだとか。ちなみに外すと大体の奴が振り落とされて、踏み潰されるみたい。外しても頑張れる奴は、必死にしがみついて牛の頭をハンマーとか斧で叩き割るらしい。

 上手く飛び乗れないときは、兜牛の長い角にロープを引っかける方法を取るんだとか。でもまぁ、兜牛は基本的に3メートルくらいの大きさがあるし、力も凄いからロープを引っかけたからって動きを制御できるわけもなく、カウボーイの側は引きずり回されるだけなんだよね。それでも必死でロープを必死によじ登り、兜牛の体にしがみついて仕留める。まぁ、その方法を取る奴は仕留められずに殆ど死ぬんだけどね。だって、地面を引きずられてるんだもん、踏みつぶされない方がおかしいよね。

 兎にも角にもカウボーイって奴らは命知らずだわ。高めの報酬を約束した俺が言うのもおかしいかもしれないけど、よくもまぁ金のために命をかけられるもんだって尊敬するぜ。

 つーか、安定志向の奴がなると思ってた牛飼い専門の冒険者が、冒険者の中でも命知らずの奴しかやらない仕事になっているってどういうことなんだろうね。どうやら何かを間違えてしまったようだ。


 まぁ、間違えたけど結果的には良いだろ。

 カウボーイは命知らずの、男の中の男がやる仕事って感じで人気者になってるし、カウボーイと兜牛の対決を見物にアドラ王国からやってくる人もいるしな。きっと、このままカウボーイはヴェルマー侯爵領の独自の文化として根付いてくれると思う。

 肉と魔石は充分に取れるのかって? それに関しては別の魔物の方で供給で出来るんで問題ないかな。鎧豚と騎馬鶏だっけ? あっちは皮膚が異様に硬いだけの豚と馬みたいな大きさってだけの鶏だし、仕留めるのはそこまで難しくないんだよね。

 兜牛は肉と皮の質は良いけど、それ以外の仕留める手間とかはクソだし、ぶっちゃけ家畜としては最悪だわ。アレをドヤ顔で持ってきた冒険者の頭はどうなってんだろうか? まぁ、カウボーイと牛の戦いが良い見世物になってくれるから、それで金は稼げるけどさ。


 よくよく考えると家畜にするつもりだったのに仕留めるって表現はおかしくねぇ?

 やっぱり魔物の飼育は無理だったってことかな。でもまぁ、肉と魔石は安定して供給できるようになったし、結果的には問題無いな。

 とりあえず、これで食料と魔石の問題は改善されたし次は何をしたらいいんだろうか。そろそろ、本格的に文官を増やした方が良いみたいな話もあるし、そっちについて色々と考えてみるかな。






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