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美味しい話、不味い話

 ヴェルマー侯爵領なんて名前が付けられたところで、劇的な変化なんかは無いってことを何となくだが、理解してきた今日この頃。


 実を言うと、俺の領地経営は割とピンチなんです。なにせ、食糧の自給が殆ど出来ないし、領内には産業も無い。あるのは馬鹿みたいに広い土地と居住可能な都市と建物。

 殆どの物資をアドラ王国側で購入して、こちらまで運んできているせいで、どんどんお金が無くなっていたりもする。足りない分はケイネンハイムさんの所に借金したり、旧ヴェルマー王国領で見つけた金目の物を換金したりしている。最近は日用品程度なら作れるようにはなったらしいけど、それだって領内の需要を満たすほどじゃないから、やっぱりアドラ王国から買わないといけないので、どんどんお金が出ていく。

 

 そして、それに加えてある問題も浮上してきている。


「魔石の備蓄が危ういです」


 ヨゥドリがそんな報告を俺に持ってきた。

 魔石が無いとマズいっての分かる。これが少し昔だったら問題は無かったと思うが、今は俺の設立した冒険者ギルドとその傘下の組織が魔石を利用した各種の道具が人々の生活を支えており、魔石の枯渇は死活問題となる。

 なにせ、新鮮な水を出す装置や、コンロなどの調理器具、冷暖房や食糧保存庫などの生活機器といった魔法道具には魔石が漏れなく使われているし、それ以外にも鉄道の動力と燃料、工場の各種設備を動かすのにも使っているのだから魔石が無くなると非常にマズい。

 魔石は魔物をぶち殺して、その体内から抜き取るくらいしか入手の方法がない。アドラ王国側は魔物が多いので、魔石は大量に取れ、その分だけ備蓄もあるが、ヴェルマー侯爵領側では量を確保する手段も無いので、使えば使うだけ減っていく。

 これを何とかするために、魔物の巣のような狩り場が必要なのだけれど……



「西部は無理だ」


 そう答えてくれたのはグレアムさんです。まぁ、それに関しては俺も分かってるけどね。

 西部というのはアドラ王国の西部、主にガルデナ山脈の麓の森林地帯のことなんだけど、そこはゴブリンやオークが多くて良い狩り場だった。

 だけど、西部にいた時の俺達は、はしゃぎすぎてやりすぎてしまったんだよね。ゴブリンとかオークとかの魔物に襲われると鬱陶しいから人間がどれほど怖い生き物かを分からせて、人間に手を出したら死ぬってことを教えてやったんだよ。

 そんでもって定期的に魔物が暮らしている巣とか集落を襲って、人間に逆らったらこんなひどい目に遭うんだよって、見せしめにヤバいことをやってたんだ。

 ちょっと大きな声では言えないんだけど、ゴブリンとかオークをそいつらの群れの前で皮を剥いだり、肉を少しずつ削いだり、丸焼きにして食べたり、鍋で煮殺して食べたり、正直言って食べるのは良くなかったと思う。だって、クソマズかったしさ。一応、演出のために美味しそうに食う演技はしたけど、あれはきつかった。

 まぁ、そんな感じでゴブリンやオークをビビらせてたんだけど、ちょっと失敗してしまったようで、うっかり根絶やしにしちゃったんだよね。その当時は魔石なんか、そうそう枯渇しないだろって考えてたから、全く躊躇なかった。今だったら、生かさず殺さずで搾り取り続けてやったのにな。

 まぁ、そういうわけでガルデナ山脈の麓の森では魔物の数が少なく魔石は確保できない。だけど、確保できなかったので諦めますって感じで済む問題じゃないんだよね。


「取るべき手段は大きく分けて二つだ。狩り場を手に入れることと魔石を自分たちで作ること」


 魔石の枯渇に危機感を覚えたオリアスさんが、ある日、俺に提案してきた。だけどなぁ、狩り場を手に入れるってウチの領地じゃ厳しいぜ? それに魔石を作ることも難しいと思うけど。


「なんとかなりそうなのか?」


 俺が聞くとオリアスさんは不敵な笑みを浮かべる。


「俺とキリエにヤーグって言う魔法関係の専門家がいるんだぜ? 問題ねぇよ」


 オリアスさんは自信満々である。なるほど、自信があるということは大丈夫なんだな。そう思い、俺はオリアスさんに任せてることにした。しかし――


「ちょっと、人としてヤバいかもしれません」


 オリアスさんに魔石の確保を任せてから数日、ヨゥドリがそんな報告を俺にしてきた。

 なんでも、オリアスさんとヤーグさんがヤバい実験に手を染めているようだ。人工的にゾンビを作って、人間から魔石を入手しようとしていたり、魔物の誕生過程を調べ、自分たちの力で魔物を生み出そうとしたりしているらしい。


「どうやら人体実験もしているようです」


 オリアスさんとヤーグさんが研究した結果、魔石というのは人間でいう結石みたいなものらしいことが分かったとか。

 なんでも、全ての生き物の体内には魔力が流れており、それは循環しつつ不要分は体外へと排出されるんだとか。しかし、魔力の流れに異常が生じると、体内魔力の正常な循環が妨げられ、通常は排出される筈の魔力が体内に残留、蓄積し、やがては結晶化する。その結晶化したものが、俺達の言う魔石なんだとか。

 なので、故意に体内の魔力の流れを乱せば、魔石が生じるのではないかと思い、オリアスさん達は実験しているんだとさ。


「今の所、実験は全て失敗。被験者は爆発するか、発狂死しています」


 マジかよ、やべぇことしてんなぁ。


「被験者の素性は?」


「罪人です」


 じゃあ、いいや。これが一般人ならオリアスさん達を『ダメだぞ』って怒らなきゃいけなかったけど、罪人なら別に良いや。この世界の人間は命の価値が安いし、その中でも罪人は特に安いから、使い捨てにしても良いだろ。


「なら、別に続けさせても良いが、成果は出そうなのか?」

「僕が責任者なら計画を中止させますね」


 ヨゥドリがそんなことを言うなら、きっと駄目なんだろうね。


「彼らは自分の趣味を優先させますから」


 だよね、俺もそう思う。それが良い結果を生み出すこともあるかもしれないけど、今回はそうじゃなさそうなんだよね。仕方ないから、俺もアイディアを出すか。


「移民に牛や豚を飼っていた経験のある奴らはいるか?」


「それなりの数はいます」


「じゃあ、そいつらに魔物を飼育させろ」


 牛や豚が育てられるなら魔物だっていけると思う。だって、魔物は牛や豚より賢いし、賢い生き物の方が育てやすいと思うんだけど。どうだろうか?

 俺の案を聞いたヨゥドリは僅かに考え込む仕草を見せていたが、ほどなくして納得したのか、俺の案を遂行るために必要なことを考えてくれていたようだ。


「冒険者に適当な魔物を見繕わせましょう」


 どうやら、俺の案に関して不満は無いようだ。


「豚だって猪が家畜化したものですからね。魔物も家畜化できる可能性はあります」


 ――だそうです。俺はそんなことは全く考えてなかったんだけどね。

 家畜化した魔物の大牧場とか夢が広がるよな。魔石を確保しつつ魔物の肉で食料も確保できるとか一石二鳥だぜ。


「まぁ、家畜化したとしても魔物が大人しく殺されてくれるかは分かりませんが」


「その時は冒険者に狩らせればいい」


 重要なのは飼育して繁殖させることだ。その後は何とでもなるだろ。もしかしたら牧場ってより狩り場になるかもしれないけど、それならそれで最初の目的である狩り場の確保は達成しているから問題ないだろ。枯渇の心配がない美味しい狩り場だぜ。


 ―――という流れで、冒険者に家畜に出来そうな魔物の捕獲を依頼し、それから数日後。

 何故か、キリエちゃんが俺のもとにやって来た。キリエちゃんはオリアスさんやヤーグさんと違い、血生臭い実験はせず、真っ当な手段で魔石の大量生産に取り掛かっていた。


「……ちょっと難しい」


 しかし、結果は芳しくない様子です。まぁ気にしないでくれて良いと思う。牧場兼狩り場の作成も進んでいますし、ノンビリやってくれれば良いと思う。


「……魔力が蓄積されて結晶化すれば魔石は出来る」


 うんうん、オリアスさんとヤーグさんが発見したんだっけ?


「……実は地面の下なんかにも魔力は流れてる」


 へぇ、そうなんですか。


「……だから、地面を掘れば魔石が見つかるかも」


 なんで? 俺はちょっと分からなかったので首を傾げる。すると、キリエちゃんは自分の説明不足に気づいた。


「……地面の下を流れる魔力もスムーズに流れるとは限らない。残留し、蓄積することもある」


 はぁ、そうなんですか。地面の下を流れる魔力も、どこかに溜まって結晶化して魔石になってるかもしれないってことか。


「……なので、掘ってみて」


「急に言われても採掘に人数は割けないぞ」


 どこを掘れば良いか分からないしさ。なので、申し訳ないけど諦めてほしい。


「……残念、自然の魔石を見れば何かヒントになるかと思った」


 魔石の生産の関してヒントなんだろうけど、確実に見つかるもんでもなさそうだし、それに割ける人員がいないんだよね。だから、キリエちゃんに悪いけど、無理です。


 そういうわけで、キリエちゃんのお願いを涙ながらに断ったわけだけど、それからしばらくして、思わぬ所から、キリエちゃんのお願いに関連した報告が届いた。


「モーディウス殿が訓練を施していた兵士たちが魔石の鉱脈を発見しました」


 モーディウスさんはガルデナ山脈のナバル峠って所で冒険者を一人前の兵士にするための訓練しているのだけれど、なんでモーディウスさんの訓練していた兵士たちが鉱脈を発見するわけ?


「ガルデナ山脈の山中を行軍訓練していた時に見つけたそうです。その際に魔物の巣も見つけたようで、牧場と同様に継続的な魔石の収穫が見込めると思います」


 割と悪くない報告のように聞こえるんだけど、どういうわけかヨゥドリの顔は険しい。


「また、山中に鉄の鉱脈と銅の鉱脈を発見したという報告もあります」


 そいつは良いね。鉄とかも買うと高くつくから、自分たちで賄えるってのは良いことだし、他所に売ることもできるんだから良い報告じゃないか。なのになんでヨゥドリは苦虫を嚙み潰したような顔をしているんですかね。


「そして、非常に不味いことに金の鉱脈と銀の鉱脈の存在が確認されています」


 なんで? スゲェ美味しい話じゃん。金と銀だぜ? これで俺も大金持ちだぜ。いやぁ、一気に状況が良くなったぞ。

 これで俺の領地経営も上手くいきそうなんだけど、なんでヨゥドリは険しい顔をしているんだろうか? 金やら何やらを心配する必要もなくなったんだから、もっと喜ぼうぜ?






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