ほとんど王様
俺のトゥーラ市での生活は退屈極まるものである。
「兎にも角にも、お金が無いんですよね」
ヨゥドリが俺の執務室にあるソファーに腰掛け、手元の報告書を見ている。俺もその報告書を読んだけど良く分かんない。分かるのは、いつの間にか俺の貯金が十分の一になっていたことくらいだ。これじゃあ、他の都市を攻め落としに遠征に行くこともままならない。
「食糧の確保をアドラ王国からの購入と輸送に頼っている現状が財政にダメージを与えていますね」
それは分かる。ヴェルマー王国領って殆ど魔物がいないから、魔物の肉を食ったり出来ないんだよね。ヤーグさんが言うには、腕試しにヴェルマー王国人が殺しまくったせいで、ほぼ絶滅したとか。
「この地で食料確保の手段を見つけて、アドラ王国から購入する分を減らしていかないと、負担はどんどん大きくなりますよ?」
そうだねぇ、アドラ王国を逃げ出すみたいに、ガルデナ山脈を越えてくる人がいっぱいいるからね。まぁ、人手はどうしても必要だから、人が増えることは良いことだと思うよ? でも、そのせいで食糧の需要が増えるんだよね。
「仮に農業をやったとして、それで賄えるのか?」
「問題はないでしょう。テラノ砦からニブル市までの農地面積を調査して、そこから見込める収穫量を計算すると、アドラ王国西部全域の食糧生産に匹敵する量を得られるかと」
まぁ、計算だからね。その通りにはいかないこともあるだろうけど、上手くいかなくても別に構わないよ。俺は農業とかに詳しくないけど、そういうのって人の力でなんとかならない部分も多いらしいしさ。
「なるべく早く動かないと。種蒔きの時期に間に合いませんし、それに間に合わなければ収穫も難しく。そうなったら、破産の可能性がありますね」
ヨゥドリがとんでもないことを言った気がするが、気のせいだろう。食糧を買っているだけで破産とか理解できないしな。まぁ、ダラダラとやることでもないし、さっさと済ませてしまいましょうか。しかし、土地の配分とかしてないらしいんだよね。
「土地を求めてやってきた奴らに鍬と鋤を持たせて働かせろ。耕して種をまいた土地がお前らの土地だとでも言えば、必死になって働くだろう」
都合が悪かったら、後で理由をつけて取り上げればいいし、そもそも人力で開拓できる土地なんてたかが知れてるしね。というわけで、ヨゥドリにそのことを皆に周知させておくことを頼んでおきました。これで、食糧状況は多少はマシになるでしょう。
そして、数日が経ち――
「冒険者達が鍬と鋤を持って土地を耕していますが、どうしますか?」
ヨゥドリが今度はそんな報告を持ってきた。それならそれで良いんじゃないかな?
「正確には、この地に流れ着いた元農民を支配し、彼らを使って土地を耕しています」
人を使うなとは言ってないしなぁ。
「まぁ、構わん。使われている農民が納得しているならな」
ついでに農民どもを支配しているって言うなら、農民の管理も任せようかな? それと、その土地の収穫物とかの管理とかもさ。
「ついでに、収穫物の管理もそいつらに任せろ。俺の所に持ってくる分以外は、手間賃として自由にさせてやると伝えておけ」
ご褒美は大事ですからね。面倒くさそうな仕事をやってくれているんだから、ちょっとくらいは良い思いをさせてやりましょう。
――と、そんなことを言っていたら、ある日、冒険者どもが乗り込んできた。
「大将! この野郎が俺の手下どもが耕した土地を自分の物だとか抜かして奪いやがったんです!」
「違いやすぜ、お頭! こいつが俺の下僕どもの耕した土地に居座ってやがるんです!」
どうでもいいよ、そんなこと。俺はお前らとお前らの下にいる奴が、きちんと食糧を生産して、俺の所に持ってきてくれれば、それでいいんだ。
俺は面倒くさいので、どっちが正しいか決める最良の方法を提案しました。
「戦をして勝った方の言い分が正しい」
お前らの手下とか下僕の農民を使うなりなんなりして、お互いの土地を賭けて戦争をしろ。そんでもって負けた方は勝った方の言い分を呑む。
「要求を拒否したらどうなるんで?」
「その時は俺がちゃんと言うことを聞かせる。ただし、拒否するしかないような要求をした方は、俺が動かざるを得ない状況を作ったとして罰を与える」
まぁ、勝ったからって、あんまり調子に乗るなってことです。だからって、負けた方も甘い考えを抱くなよ? 最初から勝った奴の言うことを聞かないつもりなら、俺が怒る。
「分かったか? では、さっさと戦の準備をしろ。俺も見物に行く」
冒険者二人は青い顔をして出ていきました。その後、約束通り農民ども率いて戦をしていました。どっちが勝ったか? 別にどっちが勝っても、俺には関係ないことなんで、良く分かりません。
ただまぁ、お互いに労働力である農民が減るのは嫌だから、馴れ合いの戦いになり、結局6:4くらいの比率で揉めてた土地を分け合うことになったとか。
――で、一度こういうことがあると、自分の土地を増やそうと思って、わざと揉める奴らが二度三度と現れ始める。
どうやら、多くの土地を手に入れ、大量の収穫物を得て、俺に対して必要な分を貢ぎ、残りを手間賃として懐に入れるという面倒くさそうな仕事は世間一般の人々にとっては魅力的なようだ。俺は貢がれる側だから、その魅力は良く分からんけどね。
「何人かは勝手に戦争していますね」
うん、そんな風に色々と勘違いしている奴らがいるんだけど、基本的には全員、俺の手下なんだよね。
手下が頭の許可なく勝手に喧嘩したら良くないので、そいつらは皆殺しにしました。一度、甘い顔をすると調子に乗るから仕方ないね。揉めるなら、俺に話を通せって言うことです。
そんな風に土地をめぐる揉め事を解決していくうちに、他の土地持ちを何人も下して、一際大きな土地を手に入れる奴も出てきたので、そいつには明確にどこまでがお前の土地だって俺が保証してやった。
その保証を無視して、勝手する奴がいたら、俺に何も言わずにぶっ殺して良いよって言っておいた。だって、俺が保証しているのを無視するってことは、俺に喧嘩を売っているのも同じだしさ。
ただまぁ、そういうことをしていても良いのは俺に対して、出す物を出していればの話だけどね。手間賃を取るのは良いよ? 俺への貢ぎ物を集めるっていう面倒くさい仕事を代わりにやってくれてるんだからさ。でも、その仕事に手を抜いたら、俺を舐めているってことだから、反省させるしかないね。
そんなことをしていたら、ある日、ヨゥドリが訳のわからんことを言いだした。
「いっそ、爵位でも与えますか?」
どこに貴族がいるんだよ? そもそも誰が誰に上げるんだ?
「土地を持ち、そこに住む人々に対して徴税権を有し、私兵を率いて戦をする権利も持つ。無いのは爵位だけで立派な貴族ですよ。やってることは、ひたすらに泥臭く血生臭い以外は貴族と同じです」
馬鹿を言えよ。俺の手下どもなんか、山賊と変わりはしねぇぞ? 冒険者だけどさ。
徴税権? 俺は俺への貢ぎ物を集めて来いって命令してるだけだぜ? 貢ぎ物を持ってくる限り、お前らの土地や生活を脅かす奴らが現れた時に、俺が代わりにぶち殺してやるって話だ。要するに、ゴロツキどもの言う、みかじめ料みたいなもんだ。
「貴族の上に立つ者を王としたら、貴族と同じような者たちの上に立つアロルド殿は何となるんでしょうね?」
さぁ? 俺にはヨゥドリが言いたいことが良く分からん。
まずは
貴族=貴族と同じ奴ら
貴族<王
そうなると
貴族と同じ奴ら<王
で、ヨゥドリ言うには
貴族と同じ奴ら<俺
でもさぁ、この計算だと王=俺にはならないじゃん。俺と王様を=で結ぶ情報が無いよ、俺の方が大きいかもしれないし、逆に王様の方が大きいかもしれないしさ。
つーか、そもそも数式の話じゃない可能性もあるわけだし、俺にはヨゥドリが何を言いたいのか、さっぱり分からん。
結局の所、俺の立ち位置は何なんだろうね?
貴族と同じことをやっている奴らの頂点に立ったからって、王様になれるわけでもないだろうしさ。それで王様になれるなら、俺はとっくのとうに王様だっての。
追放ものが流行っているようなので俺も新作を書いてみた




