新しい仕事場
ユリアスを退け、ニブル市を落とした俺たちは、そのままニブル市に留まることはせずにトゥーラ市へと戻ってきた。
テラノ砦まで戻るという案もあったが、テラノ砦が既に手狭になりつつあるという話もあり、せっかくなのでトゥーラ市に駐留しつつ、新たな拠点として開発してしまおうという話になった。ちょうどよく魔法工兵なんかもいるわけだしね。
でもまぁ、まずは市内の探索が必要なんだとか。レブナントは労働力にするためにヤーグさんが一通り連れて行ったので、市内には都市としての機能を維持する仕事ができる奴以外は残っていないので危なくないけれども、何があるか分からんから、ちょっと調べようって話になった。
「ポケットに入る程度なら見逃してやる。働きへの褒美だ」
こういう時に、色々と金銭で解決できそうな問題も解決しようって思ったので、そんな風に言っておきました。トゥーラ市は大きな街だし、金目の物もあるだろうから、家探しして適当に盗んできて構わないよ。つまりは、自分たちで勝手に稼いできていいよってことです。こういう役得もないと、戦なんてしてくれないよね。
「だが、俺も将来の妻への土産が必要なんでな。値打ちのありそうな物は俺の所に持ってくるといい、俺が買ってやろう」
俺の方もエリアナさんに何か贈り物でもしようと思います。ただ、俺は色んな物の価値が分かんないし、良さげな物は冒険者連中に集めてきてもらおうと思います。
「査定は僕がやりますよ」
ヨゥドリがそう言ってくれたので任せるとしましょう。
市内の探索が完了して安全が確認されるまでは、市外に野営地を作って、ノンビリ待っていましょう。
そうして、俺は野営地ですることもなく、ボンヤリと過ごす。たまに冒険者たちが見つけたという品をヨゥドリが持ってきてくれるので、それを眺めたりしつつ茶を飲む。そんなある日のことである。
「修行の旅に出ようと思うんだよねぇ」
グレアムさんが俺の所に来て、そんなことを言いだした。そりゃあいいね、旅は良いと思うよ。俺もどっかに旅に出たい気分だぜ。争いごとの無い平和な世界とかにさ。
「ここんところ、負けてばっかりだしさ。ちょっと自分を鍛え直さないといけないと思ってねぇ」
それもそうだね。ユリアスと戦う機会が二回くらいあったけど、毎回ロクな活躍できてないしさ。とはいえ、グレアムさんがいなくなると俺の手下どもを統率できる奴がいなくなるんだよね。
「兵はどうする?」
別に修行の旅に出たいなら出れば良いと思うよ。それを止める権利は俺に無いしね。ただ、グレアムさんがいなくなっても、俺が困らないようにしてほしいんだ。
「どうするって言われてもねぇ。正直言って、そっちの方も限界なんだよねぇ」
そうですか、駄目なことばかりですね。まぁ、俺も駄目な所は多いですし、自分を棚に上げて責めるのは良くないよね。
「これ以上の大軍は俺では指揮できないよ。やってみて分かったけど、俺に出来るのは1000人くらいが限界かな。それ以上多いと、兵士を並べて突っ込ませるぐらいが関の山だ」
そういうもんですか。じゃあ、どうすんの?
「だれか代わりの人材はいるか?」
「イグニス帝国のノール皇子かな? 彼なら一軍を任せても問題ないと思うけどねぇ」
じゃあ、ノールに手紙でも書こうか。ちょっと遊びに来てくれませんかねってね。このことは忘れないようにメモをしておきましょう。
「まぁ、それは冗談として、俺の代わりはモーディウス殿が良いだろうね。代わりというか、俺よりもあの人の方が相応しいよ」
まぁ、モーディウスさんは将軍だったみたいだしね。そりゃ、グレアムさんより軍勢を率いる能力は上でしょうよ。ただ、あの人ってガルデナ山脈から出られないんだよね。『能無し』のレブナントと同じで、自分の住処から遠くに離れらんないとか言ってたよ。
「だが、モーディウスは使えんからな。修行をするのは構わんが俺に迷惑がかからんようにしてくれ」
結局、普段の仕事は適当で良いんで、旅には出ないでこの辺りで修行するって方向性で落ち着きました。
「じゃあ、たまには修行に付き合ってもらわないと」
嫌だよ。だって、グレアムさん本気でやるじゃん。そうなったら、俺も本気にならなきゃいけないし、そういう疲れそうなのは嫌なんだよね。
グレアムさんの問題を先送りにすると、今度はオリアスさんがやってきました。
「今のうちに城壁をなんとかしておきてぇんだが」
じゃあ、なんとかしておいてくださいって思うんだけどね。俺に聞かれても、そういうのは興味を持ったことが無いから分からないし、これから興味や関心を持つこともないだろうから知りたいとも思わないんで、好きにやってください。
「ここを攻め落としたときに大砲をぶっ放しまくったせいで、市内へ入る正門付近の城壁がボロボロなんだよ。応急処置でいいなら工兵でなんとかなるんだが、ちゃんとした物にするなら、職人なりなんなり集めなきゃなんねぇぞ?」
それは見栄えの問題を言ってんのかな? 俺は別に見栄えなんかどうでもいいから。だって見栄えとか気にしたらさ――
「金がかかりそうだから却下」
「だよな」
実は結構お金がないみたいなのよね。暮らしていく分には困らないし、手下どもを普通に養っていく分にも問題は無いらしいんだけど、戦争とかやれる金はないんだとか。エリアナさんとヨゥドリが二人でチェックした上で俺に教えてくれました。
俺は戦争のどこにどんなお金が使われているのか良く分からんけど、急な出費として、兵士の給料とか手当、武具や兵器の用意、食料の購入とか、まぁそんな感じに使われているんでしょう。そういうことを出来るお金が無いって話なんだろうね、きっと。
「ボロボロのままでも危ねぇから、正門付近は崩しておくぞ。守りは薄くなるだろうが、人や物が門で止められることがなくなるから、交通の便は良くなるだろうぜ」
どうぞ御自由にという感じで俺はオリアスさんに任せておくことにします。なんかあったら、ヨゥドリ辺りが止めるだろ。
オリアスさんが去っていくと今度はヨゥドリがやってきた。来客が多くてウンザリ。しかも男ばっかりです。こういう時にエリアナさんとかヒルダを連れてくれば良かったなって思うよ。で、ヨゥドリは何の用なんだろうね。
「市内の安全が確認されたんで、新しい屋敷に住居を移しましょう」
引っ越しのご案内でした。というわけで、俺は新しい住居に向かう。
その場所は、トゥーラ市の中心にある城であった。『能有り』のレブナントを探し回っていた時に入った城だったと記憶している。どうやら、俺も城を自分の住居にできる程度には出世したようだ。
俺はヨゥドリを伴い、城を囲む城壁の正門をくぐる。ここに来るまで分かったが、トゥーラ市は三重の城壁に守られているようだ。市の全てを囲む城壁、貴族や商人が住んでたと思しき街区を囲む城壁、そして俺の目の前にある城を囲む城壁と、三つの城壁がある。
城壁がいっぱいあると、俺は息苦しくて嫌なんだよね。まぁ、他の人は文句を言ってないようだから、俺も言わないけどさ。そんなことより、さっさと俺の城に入りましょうか。
「ああ、すまない。そっちではないんです」
おっとぉ、城の前に来たからには城が俺の家になるかと思ってしまいましたよ。
「流石に城で生活をするには使用人も何もかも足りませんからね。もうしばらく待ってもらわないと」
――と言われて案内されたのは、普通の豪邸である。外から見ると五階くらい階層があるし、庭は100対100でやるガチな戦争ごっこが出来そうなくらい広いけど、それだけの普通の豪邸だ。さっきの城に比べるとショボくて元気がなくなる。
「当然、この規模になると使用人の数は足りないんですが、あまりランクを下げるのもどうかと思ったので、ここにしました。使用人は今後、増員していくしかありませんね」
まぁ、それは良いよ。中に入ろうぜ。
ちょっと元気がなくなりつつ、屋敷の中に入ると、まぁまぁ豪華だったので、ちょっと元気になってきた。
屋敷の中では俺の手下の冒険者連中が片付けをしたり、その逆に何かを運び込んだり、慌ただしく作業をしていたので、「ご苦労」と声をかけておいた。
「屋敷の造り自体は古いですが、生前は使用人だったレブナント達が手入れをしていたので、住むのには困らない程度には整備されています」
そりゃあ良かった。まぁ、城には住めないんだから、それぐらいはしてもらわんとね。
「俺の部屋は何処だ?」
「では執務室に案内します」
いやぁ、私室が良いんですけど。だって、ここんところ野営地での共同生活じゃん? プライベートな時間を求める衝動が凄いんで、そこに配慮してほしかったんですけど。でもまぁ、それを口にするのはマズそうな雰囲気なので黙っています。
「こちらになります」
案内されたのは何の変哲もない部屋である。大きな机と椅子、壁に沿って本棚がいくつも並んでいるくらいの部屋だ。どうやら俺の席は、一番奥の豪華な椅子なんだろう。特に何も言われなかったので、俺はそこに座ることにした。目の前に大きな机があるので、俺はその上に手を置く。
「なかなか絵になる光景ですよ」
そりゃどうも。しかし、なんだって、こんなところに座らせるんだろうね。椅子とセットみたいに置いてある机とか、まるで俺に――
「それでは仕事をしましょうか。やることは山積みですよ」
やはり、そう来たか。だが、俺の仕事は椅子と机で出来るものではないと思うんだ。俺が出来る仕事は人間とか魔物をぶっ殺すとか、そういう方向性の物なんだが、それでも俺に机仕事をやらせようというんだろうか、コイツは?




