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無双

 

『ふと考えたのですが、すでに国王陛下はいないかもしれません』


 ある日、ヤーグさんがそんなことを言いだしました。何を言っているんだ、この野郎? そう思って無視しようと思ったんですが、俺が無視しようとしているのを察しようとせずに、ヤーグさんはベラベラと喋りだしました。


『どう考えてもおかしいんですよね。陛下が健在であるならば、我々がヴェルマー王国領を荒らしまわっていることを放っておくはずが無いので』


 こんな風に俺の前では喋ってますけど、ヤーグさんてモーディウスさんと顔を合わせると一言も喋らないんですよ。いい歳こいて親父と折り合い悪いとか恥ずかしいね。その点、俺は親子関係は問題ないからね。ヤーグさんも俺を見習ってねと思います。


『私のような〈能有り〉のレブナントは、そこら辺にいるような〈能無し〉のレブナントに命令を出せる他に、彼らの知覚を通じて情報を得ることも可能なので、国王陛下が健在であれば、我々のことは耳に入っているはずなんです』


 単に面倒くさいから無視をしてるだけだったりしないかな。それとも、極めて寛容な心を持っていて、俺達が好き勝手することを許してくれてるんじゃないかな?


『それなのに、我々を無視している。しかし、何故か最強という言葉に反応する個体は増えている。まるで最強という言葉を使う者を監視するかのように。……ですが、王がそんな下らないことを監視するはずがありません。こんなことをするのはユリアス・アークスだけです』


 まぁ、そうでしょうね。あの最強大好き野郎なら、自分以外に最強って名乗る奴は許せないし、名乗る奴はぶっ殺したいだろうね。そのために監視しててもおかしくないと俺は思うよ。


『問題は、どうして奴が王を差し置いて、自分のためだけにレブナントを利用しているのかという点に尽きます。王が健在であれば、こんな勝手を許すはずはない。それなのにユリアスは平気でレブナントを使って我々を監視している。このことから、王はユリアスを制御できる状態にないか、既に無くなっているのではないかと私は思うんです』


 そうですか……で? だから何なんだろうね、俺には良く分かりません。王がいないとどうなるのか分からないんで、ヤーグさんの話を聞いてもピンと来ませんでした。


『まぁ、実際にユリアスが監視をしているという確証も無いので、ちょっと実験をしてきてください。適当に『最強』とか叫びながら、その辺をほっつき歩いていれば、本当に監視しているならユリアスが襲い掛かってくると思うんで』


 という話があって、実験をしていたわけです。ちょうど舐めてる奴らを酷い目に遭わせるって目的もあったし、そのついでと思って実験をしてみたんですが、結果は大成功です。

 ユリアス・アークスはヤーグさんが思った通り、俺達を監視していますし、ヴェルマー王国の王様を差し置いて、レブナントを自分のためだけに使っているようです。


 さて、実験とその結果については成功ということなので、一旦置いておきましょう。とりあえず今は目の前のことに目を向けましょうかね。では、やってきたユリアス・アークスは何処にいるんでしょうか?


『俺が最強だぁぁぁぁぁぁ!』


 聞こえてくるのは声だけ。では、それを発した奴はどこにいるかというと――


「あそこを見てください」


 ヨゥドリが指さした方を見ると豆粒くらいの大きさの人影が走ってくるのが見えた。もしかして、王都の方から走って、ここまで来たんですかね? だとしたら、頭おかしくね?


「いやいや、速すぎねぇか、あれ?」


 豆粒くらいに見えた人影が見る見るうちに大きくなって、はっきりと輪郭が見えるようになってきた。時速100km以上は出てるように見えるけれど、どうなってんだろうね。

 あの最強大好き野郎は、自分以外に最強を名乗る奴をぶっ殺すためだけに、王都からここまで走って来たんだろう、あの速度なら間に合ってもおかしくないけどさ、その力を発揮する動機がおかしいよね。


『てめぇら全員、ぶっ殺す!』


 ユリアスは最高速度のまま、陣形を組んだアホどもの横っ腹に突っ込んだ。その直後、ユリアスの突撃を最初に受けた受けた奴らが数十人くらい宙を舞う。

 被害を受けたのは傭兵連中だと思う。いつでも逃げられるように隅の方に居たら、ちょうどユリアスが突っ込んでくる方向だったんだろうね。逃げるつもりがあっても、ユリアスとかち合ってしまった以上はどうにもならないね。


『最強はこの俺! ユリアス・アークスただ一人だ!』


 すげぇ叫んでます。イカレてるね。ああいう風にはなりたくないね。ただ、イカレててもクソ強い。

 全速力で走り込んだユリアスが突っ込んでくると、武器を使わなくても、こっちの兵士は何人も吹き飛んぶ。

 突撃の際にユリアスは全身に風の魔法を纏わせて激突の瞬間に炸裂させてるとかヤーグさんは言っていたね。これのおかげ生身での単騎突撃が投石機で石を投げ込むのと同じ威力になるんだとか。じゃあ、一回ぶつかったら、それで終わりですねって、そういうわけにいかないんだよね。


 敵陣に食い込んだユリアスは、近くにいた奴の首に投げ縄の要領でロープを引っかけ、振り回し、近くの人間に叩きつける。

 数十kgの人間が相当な速度でぶつかってくるのだから、食らった方もひとたまりもないし、叩きつけられた側も無事では済まない。叩きつけられた奴は一発で死んだだろうし、それを食らった奴も一撃で死んだと思う。

 まぁ、食らった側は頭が潰れたり、体が潰れて終わりだから良いけれど、ロープをかけられた奴は一回で終わらずに、周囲の敵に向けて何度も振り回され、体が千切れて満足な威力が出なくなるまで、ユリアスの武器にされます。しかし、武器(人間)が壊れるまで、ユリアスの周囲に立っていられる奴はいないんだよね。殆どの奴がビビって距離を取るし、逃げられなかった奴はだいたい死ぬ。


 そんな中、ロープに引っ掛けて振り回していた武器(人間)がようやく壊れた。ユリアスの手に武器が無くなった瞬間、遠巻きに様子を見ていた傭兵たちがユリアスに斬りかかる。どうやら、傭兵たちも覚悟を決めたようだ。しかし、覚悟を決めたところで、力の差は覆らないんだよね。

 ユリアスは斬りかかってきた傭兵の剣を掴むと、そのまま握り砕く。そして傭兵の腹に蹴りを入れる。すると、一発の蹴りで傭兵の体が衝撃に耐えきれずに真っ二つに裂ける。


「あれを食らったんですよね?」


 ヨゥドリの質問に俺は頷く。しかし、よく耐えられたもんだ。俺って凄くねぇ?

 俺が自画自賛をしている最中にもユリアスは傭兵どもを殴り殺していく。パンチ一発で頭が吹き飛び、足を蹴れば足が千切れ、腕を掴めば腕が握り潰され、ユリアスは素手で傭兵どもを撲殺していく。


 ユリアスは殺した傭兵から剣を取り上げると、それを手に更に深く切り込んでいく。元農民だった連中は殺す価値もないようで、ユリアスの目には入っていない。視線の先にあるのは、軍勢を指揮している貴族連中だけだ。

 途中に立ちふさがる傭兵たちを、軽やかな剣捌きで斬り捨て、ユリアスは貴族たちのもとへと進む。逃げれば良いのに、貴族連中は相手はたった一人と高を括っているのか、迎え撃つ構えだ。そりゃまぁ、普通の奴が一人で突っ込んできたら、大丈夫かもしれないけどさ。その考えはユリアスみたいな奴には通用しないぜ?


『俺が最強だぁっ!』


 最高に絶好調な最強大好き野郎の声が聞こえますね。声の主は前進しながら殺戮を繰り返しています。〈探知〉の魔法を使って周囲の人の動きを把握してるから、白兵戦で不意打ちは不可能なんだよね。今も後ろから斬りかかってきた奴を振り返りもせずに、真っ二つにしています。

 おっと、またロープを人の首に掛けましたね。そんでもって、今回は自分の近くに引き寄せて盾にしました。そして、その人間の盾で飛んできた矢を防ぎました。

 続けて、貴族に私兵として仕える騎兵の集団が馬に乗ってユリアスに向かって突撃をする。その戦い方は悪くないと思うけど、ちょっと相手が悪いよね。


 ユリアスは剣を捨て拳を握り締めると、自分に向かって突進してくる騎兵に向かって、拳を大きく振りかぶり、タイミングを合わせて殴りつけた。普通に考えれば、ユリアスがひき殺されて終わる。

 だが、そんな結果にはならない。ユリアスの全力の拳、それを食らった騎兵は衝撃によって高く舞い上がり、冗談としか思えない距離を吹っ飛んでいった。

 それでもまだ騎兵はいる。だが、ユリアスの放った一撃にビビったのか動きが鈍い。その隙を逃さず、ユリアスは腰の長剣を抜き放ち、馬ごと騎兵を真っ二つに斬り捨てる。

 ユリアスが使った剣は俺の剣なんだけど、あの借りパク野郎に人の物を勝手に使うんじゃねぇって言ってやりたい。


 ユリアスは残っている騎兵の一人に目をつけ、投げ縄の要領でロープを首に引っ掛けて、馬から引きずり下ろすと、そのまま振り回す。そして、自分に向かってくる騎兵たちに対して、それをぶつける。

 馬であろうと人間であろうと、何十kgもある物体が、凄まじい速度でぶつかってきたなら、耐えられるわけもなく、衝撃に負けて倒される。ユリアスは倒れた馬や落馬した騎兵を見つけると、それを全力で蹴り飛ばす。

 馬ですらユリアスの蹴りの威力で即死し、吹き飛んでいく。そして吹き飛んだ先には、兵士やら別の騎兵が大勢いて、そいつらを巻き込む。


「近くにあるものは何でも武器にする勢いですね」


 騎兵の殆どが戦闘不能になると、鎧を身に着けた貴族の私兵たちがユリアスに迫り、傭兵の生き残りも仲間を殺された復讐がしたいのか、逃げずにユリアスに向かっていく。元農民は既に逃げているので、誰もユリアスに向かう者はいなかった。


『雑魚の癖に俺を差し置いて最強を名乗るんじゃねぇ!』


 ユリアスが俺の剣で鎧の兵士を斬り殺していく。鉄の鎧のはずなんだけどバターのように斬られてますね。腕が良いのか、剣が良いのか、たぶん剣が良いんでしょうね。俺が使っていた剣だしね。

 ユリアスを背中から斬ろうと傭兵が襲い掛かる。だが、その瞬間ユリアスの腰に収められた小剣が一人でに鞘から抜ける。鞘から抜けてた小剣は、そのまま宙を舞い、ユリアスの背後の傭兵の眉間に突き刺さった。〈念動〉の魔法を使っているんだろう。ユリアスの小剣は宙を舞い、ユリアスの周りを飛び回ると、周囲の敵に襲い掛かる。

 その間も、ユリアスは淡々と目の前の相手を斬り捨てる。自分で殺す方が早い奴は自分の手で殺し、手が回らない場所や位置の相手は、縦横無尽に戦場を飛び回る小剣が始末する。


「あんなのと戦ってよく無事でしたね」


 まぁ、無事ではないんだけどね。怪我したしさ。でも、戦いにはなってたんだよな。それに比べて、下の奴らは駄目だね。力の差がありすぎるから仕方ないことであるんだけどさ。


「どうします? このままだと全滅の可能性もありますよ?」


 ユリアスは皆殺しにする勢いだ。流石にここまで一方的に殺されると、相手が一人とはいえ、倒すのは無理だと考えだすし、恐怖を感じて逃げ出す輩も出てきている。

 けれど、ユリアスは見逃すつもりはないようで、問答無用に殺しまくりながら、貴族たちに向かって突き進んでいる。

 別に俺はあのアホどもを全滅させたいわけじゃないんだよね。酷い目に遭わせて、俺に対する舐めた態度を改めさせたいとは思うけど、死んでほしいとまでは思わないかな。


「全滅は避けたいな」


 もう充分にひどい目にはあったと思うので、そろそろ助けてあげましょう。俺はオリアスさんに目で合図をする。すると、オリアスさんは頷いて魔法を発動する。

 発動されたのは風の魔法の応用。ヤーグさんからオリアスさんが習ったもので、暴れまわっているユリアスも使っている魔法だ。


『そこまでだ』


 俺の声が風に乗って戦場に響き渡る。こういう時に噛んだら恥ずかしいよね。俺は喋るのが得意な方じゃないし、ドキドキしてしまいますね。いつも思ってることを上手く伝えられないんだけど、今日は気をつけましょう。


『弱い者いじめは、そこまでにしてもらおうか?』


 そういうの良くないです。クソ雑魚の群れなんだから、少しは気を遣ってもらわないとね。


『なんだよ坊ちゃん? 高みの見物じゃねぇのかよ? お前の相手は王都でしてやる予定だったから見逃してやろうと思ってたのに、俺に絡んでくるとか、死にてぇの?』


 すげぇイイ気分になってますね、あの野郎。この間、勝ったからって調子に乗り過ぎじゃねぇの?

 そもそも、この間の戦いだって、よくよく考えれば、勝ちを譲ってやっただけじゃん。俺はまだ動けたし、味方も結構残ってたのに、勝手に帰ったじゃん。それでも寛大な俺はアンタの勝ちを認めてあげたんですよ? そういう俺の気持ちを理解できないとか信じられないんだけど。


『まいったな。見逃してやったのは俺の側だと思っていたんだがな。王都でやる予定というのも、そちらに配慮してやったんだが、それに気づかず自分の方が上だと思っていたのか?』


『笑えねぇ、あんだけボコボコにしてやったのにイキがるのかよ。命まで獲られねぇと分かんないのか?』


『あれだけ俺を痛めつけたくせに、最後には逃げ帰るしかなかった奴が良く言えるな。正直に言えよ、最後はビビって逃げたんだろう?』


 色々と言っていましたけど、結局はそれに尽きると思うんだよね。理由をつけてたみたいだけど、俺は殺せなかったし、死んでない以上は負けじゃないからね。むしろ、殺せなかった方の負けだと思うんだよね。

 そうなると俺も負け? いいえ、負けじゃありません。だって、俺は殺す気なんかなかったですしぃ、そもそも勝負なんてしてなかったと思いますしぃ、そもそも勝負をしてないんだから俺の側には勝ちも負けもないよね。でも、ユリアスの方にはあったと思いますけどね。


『結局、逃げて帰った以上は、貴様の負けだよ。おっと、そうなると、貴様を負かした俺が『最強』ということになるかな? まいったな、このことは皆に知らせなくてはいけないぞ。ユリアス・アークスが最後には尻尾を巻いて逃げ出すしかなかった、このアロルド・アークスこそが最強だとな』


 いやぁ、失敗です。うっかり言ってしまいました。でも、しょうがないよね。


『わかるか? 俺が最強なんだよ』


 ここまで挑発するつもりはなかったんだけどね。ユリアスに関しては他の何を言っても効かないだろうし、最強って言葉で攻めてくしかないんだよね。

 でもまぁ、ユリアスが最強であるとは本当に思ってないけどね。実際、一対一ではユリアスの方が俺より強いし、そういう意味では最強かもしれないよ? それは俺も認めるところです。

 ただまぁ、果たしてそれが本当に最強の証明になるかは疑問があるんだよね。それに、俺の考える強さなら、俺はユリアスより強いって自信があるよ。だから、俺は自分が最強って言うことに抵抗が無かったりするんだよね。


『挑発するなよぉ。ぶっ殺したくなっちゃうじゃん。ほんと困るなぁ、っちまいたくなるよ』


 る気満々で何よりです。こっちもる気はあるぜ?

 なにせ、それなりに準備はしてきたからな。わざわざ、おびき寄せるような実験をやるんだから、そのついでにテメェを仕留める策くらいは練るし、準備もするさ。


 王都と言わずに、ここでぶっ殺してやるよ、ユリアス・アークス。





明日は休みます

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