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実験の結果

 

 さて、戦闘が始まったわけですが、まぁ、なんと言うか、見ててもしかたないって感じしかしないね。


「うーん、東部の兵も弱いんですが、それ以下ですね」


 ヨゥドリが本気で呆れています。ケイネンハイムさんの所の兵士は弱いって冒険者ギルド内でも噂になっているのに、そこより弱いとかなんなんだって思うよ。

 まぁ、そう言いたくなるのも分かるんだけどね。だって、敵と一回ぶつかっただけで前衛は半壊、それなのに後ろにいる奴らは援護とかする気配がないんだもん。これじゃ、好きなように突破されてしまいますよ。


「まともに戦ったことが無い人々ですから仕方ないでしょう。まぁ、経験があっても意欲が無い連中もいますがね」


 傭兵連中は突撃してきたレブナントと適当に戦っているようだった。積極的に動いて、危ないことになるのは嫌なようで、非常に消極的な動きしかしない。自分たちの所に来た敵を倒したら、それで終わり。横に目をやれば、元農民たちが蹴散らされているのが見えるだろうに、無視だ。

 上から見ると分かるけど、少しずつ後退してるんだよね。このままだと、逃げそうなんだけど、前金を渡したのは良くなかったね。ここで逃げても、『前金分は働いた』とか言いそうだし、全額後払いにすりゃよかったな。


「しかし、弱い割には死人が少ないようだな」

「まともに戦えてませんからね。それがかえって良いのかもしれないですね」


 そうかもね。だって、敵とぶつかる前から逃げ腰だし、ぶつかったら速攻でヘタレて尻を向けて逃げようとしやがるんだもん。

 まぁ、根性入れて死ぬ気で立ち向かったりしてたら、あの練度じゃレブナント相手だろうと皆殺しにされるだろうから、ある意味正解かもね。ただ、気合入れて踏みとどまらないと――


「どんどん後ろに下がっていくな」


 前衛の元農民がヘタレてに逃げるし、それを見た傭兵連中も無理して戦いたくないから後ろに下がる。それを見た貴族連中も形勢が悪いとみて、後方に下がり、態勢を立て直そうとする。


「ですが、レブナントも帰っていきますね」


 こちらの軍勢が、突撃してきたレブナントの軍勢から逃げるように後方へ下がり続け、ニブル市から離れる。すると、こちらに対して優勢であったはずのレブナントの軍勢は急に反転し、ニブル市へと帰っていった。

 そのまま攻め続けていたら、こちらを全滅させることができそうなんだけど、なんの命令も受けてないレブナントは自分たちの住処から離れないから、住処からある程度距離を取ると、逃げ切れるんだよね。


 さて、無事に逃げ切ったアホどもだけど、何をのんびりしてるんでしょうかね。今度は敵が尻を向けてるんだから、さっさと反撃しろよ。疲れ切って地面に膝をつくんじゃねぇ。

 元農民連中は気力が折れてるから駄目だし、傭兵連中はやる気を完全になくしてやがる。唯一元気なのは貴族連中か? つっても、こいつらもそんなにやる気が感じらんないんだよな。


「いつまで、こんなものを見ていなければならないんだろうか」


 酷い目に遭わせようと思って連れてきてるんだけど、今の所あいつらって全く痛い目に遭ってないよな。

 今はヘタレてる元農民の連中だって、少ししたらケロッとした顔をしだすぜ? だって、ほとんど死んでないし、怪我だってかすり傷とか、ちょっとした切り傷とか、逃げる時に足を挫いたとか、その程度の怪我しかしてないんだもん。

 あの様子じゃ、帰ったら『戦場なんて大したことなかった』とか言い出すぜ? なんかそういうのってムカつきません?


 傭兵連中は多少は戦ってるけど、金の分しか働かないのと、手を抜いてもバレないと思ってるのが嫌だね。それと危ないことはしないようにしてるせいで、ちょっとでも大変な状況になりそうだったら、速攻で逃げやがるから、損害がゼロなんだけど。


 貴族連中は論外かなぁ。もともと期待はしてなかったけどさ。だって、貴族なんて言ってるけど、わざわざ一番最初にヴェルマー王国側にまで来るような奴は、暇で金の無いの無職の貧乏貴族だぜ? 有能な貴族なら領地は無くても金と職はあるだろうし、それを捨ててまで、こんな所まで領地を求めてやってきませんよ。

 まぁ、アドラ王国もあんまり良くない雰囲気であるから逃げたくなる人もいるだろうけど、まともな人なら、我先にと一番最初の列車で来たりはしないよね。まともな人が来るとしても、色々と身辺整理をしてから来るだろうから、もしも来るとしたら、もう少し先になるだろうね。


「なぁ、いつまで見てなきゃなんねぇんだ?」


 仕事を終えたのか、オリアスさんが俺の所にやってきた。相当にウンザリしているみたいだけど、我慢してもらわんとね。


「さぁな、状況が変わらん限りはこのままだ」

「そいつはつまんねぇなぁ」


 オリアスさんが葡萄酒の入ったカップを手に取り、中身を飲み干す。ちなみに、そのカップは俺のなんですけど、この野郎は殺されたいのかな? 


「気長に待つしかないでしょう。長引きそうな気がしますしね」


 ヨゥドリは下を見ながら言う。俺も下を見ると、戦場は最初の状況に戻っていた。


「態勢を整えたつもりかよ。尻を見せてる敵に襲い掛かるより、整列の方が大事とか理解できねぇな」


 アホどもは貴族連中の指揮で、最初と同じ陣形に並んでいた。元農民が前列で、貴族が後列、傭兵はどっちつかずの適当な位置で、いつでも逃げ出せるように準備している。そして、その陣形のまま、何の策も無くニブル市へと向かい。


「アホかよ」


 そんで、同じようにレブナントにやられて逃げる結果になる。絶対に深追いしないレブナントだから、何度もチャンスがあるけど、普通の奴らが相手だったら、一回目で全滅食らってるよね。


「ですが、全くの無意味ではないかもしれませんよ?」


 ヨゥドリに言われて、戦場を眺めてみると、ほどほどにレブナントも転がっている。まぁ、全く倒せてないわけじゃないんだよね。傭兵連中も一応は働いているわけだし、多少は敵も減らせてるしさ。

 数の上ではニブル市にいるレブナントよりアホどもの方が多いわけだから、時間さえかければ、この戦法でも勝てるかもしれないね。


「だからって、同じことは続けらんねぇだろ」


 そりゃあそうだね。こんなことを続けてたら、時間ばっかりかかるし、時間をかけると大変なことになると思うんだよね。まぁ、大変なことにならないと、実験は成功ってことにならないんだけどさ。


「僕たちはそう思いますけれど、彼らは違うようです。地道にコツコツとやっていくつもりのようですよ?」


 下を見ると、アホどもが再び同じ陣形を組んでいた。うーん、進歩が無いというかなんというか。


「まぁ、いいだろう。好きにやってもらえばいい。それで自分たちの至らなさを理解してくれるなら何よりだ」


 ――というわけで、俺達は食事をしたり、お酒を飲みながら、ぼんやりと戦場を眺めていました。俺達がメシを食い終えても、まだ決着はついていません。


「アロルド殿は何をしているのか! 我々が必死に戦っているのに、貴公は高みの見物か!」


 食休みをしていると、怒鳴り込んできた人がいました。どこの誰かは知らんけど、貴族の一人だったと思います。まぁ、覚えておかなくても良いでしょう。


「高みの見物とはひどい言い草だな。俺は貴様らの働きぶりを採点しているだけだ」


「採点だと? 何を言っている!」


「何と言われてもな。予め言っただろう? 働き次第で、それに見合った褒美を与えるとな。なので、俺は貴様の働きを採点し、点数に応じた褒美を与えようと思い、ここでお前らの働きぶりを眺めているというわけだ」


 納得いただけましたか?

 まぁ、現状だと全員0点なんで、採点の必要も無かったかなと思ってますけどね。


「だからといって、貴公らが戦いに参加しないのはおかしいだろう!」


「おかしいと言われてもな、俺は貴様らに花を持たせてやろうと思って参戦していないのだぞ? 俺達が加われば、貴様らに褒美が行き渡ることなどないのだからな。それを可哀そうと思って、俺は貴様らにだけ戦うことを許しているんだが、そんな俺の厚意が理解できないのか?」


「それは……」


「俺の厚意を無下にするつもりなら、それでも構わんがな。それが、どういうことか分かっているなら、好きにすると良い」


 言ってる俺は分からないんだけどね。厚意も好意もどっちも、人に必ず受け入れてもらえるものではないと俺は思うので、厚意を無下にされても『あ、そうですか』で終わりでいいんじゃないかなと思ったりしますね。恩着せがましいは俺は嫌なんですよね。もっとサッパリいこうぜ。


「ああ、それとは別のことなんが、今、貴様らを助けに行ったら、貴様らは後で俺を嗤うだろう?」


 何を言っているんだ?って顔で俺を見ているけど、俺にはお見通しですよ。だって、お前らって俺を舐めてるじゃん。そういう奴が何をするかは想像がつくんだよね。


「俺を代わりに働かせて『アロルド・アークスを良いように使ってやったぞ』とか、後でほくそ笑むんだろう?

 自分たちは大きな損害を出さず、俺を都合よく使い、そして貴様らに都合よく使われた俺を馬鹿にすると『あの小僧は我々の言いなりだ』『ちょっと頭を下げれば、喜んで手を貸す愚か者だ』とか、言うんだろうな」


「我々はそんなことは……」


「貴様らが、そう思ってる思ってないは重要な問題じゃない。実際には貴様らがそう思っていなくとも、貴様らは、そう思っていると俺は思っている。つまり、俺は貴様らを『アロルド・アークスなど大したことがない』などど思っている奴らだと認識しているんだ」


 本当は俺のことを尊敬してるのかもしれないけど、そういうのって分かんないし、どうでもいいんだよね。重要なのは俺のことを舐めてるんだなって、俺に思わせてることなんです。そういう気持ちにさせないように人間関係を気をつけましょうね。


「そういう俺の認識を改めさせるためには、貴様らはどうすればいいか分かるか? それとも、俺にそんな認識を抱かせていることの危険性から説明した方がいいか?」


 俺がそう言うと貴族の人は一瞬凄い顔をしたものの、俺に頭を下げて立ち去っていきました。

 人にどう思われているかは気を付けた方が良いよね。気にしないでも生きていける人なら、気にしなくても良いけど、誰かと仲良くして行かないといけない人は色々と気を遣わないといけなくて大変だね。


 さて、貴族の人が帰っていきましたが、戦場はどうなったかというと完全に膠着状態になりました。このままだと、いつまでたっても決着がつかないような感じですが――


「アロルド殿の予想通りでしたね」


 ヨゥドリが斥候からの報告を俺に伝えてくる。そして、ほどなくして――


『俺が最強だぁぁぁぁぁぁ!』


 風の魔法の応用によって、風に乗せられた男の声がニブル市周辺に声が響き渡った。


「マジで来やがったよ、あのアホ」


 そりゃあ最強とか叫んでる奴がいたら許せませんよね。自称最強としてはさ。

 まぁ、何はともあれ、実験は成功です。じゃあ、後は彼にお願いするとしましょうか。

 自分以外が最強を名乗ることは絶対に許さない、自称ヴェルマー王国最強のユリアス・アークスさんにね。








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