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最近の王国情勢

ポイントくれと言ったらいっぱい貰えたのでビビった。

 

 あの後、皆にヨゥドリを紹介したら、色々と揉めました。でもまぁ、結局ヨゥドリとは友達ということで話がついたので問題なし。

 スパイだとかなんとか色々と疑いをかけられたけど、別に秘密にしてる事とか無いんで、スパイされても特に困ることはないし、気にしないことにしました。

 俺はケイネンハイム大公領に帰るのかと思っていたんだけど、ヨゥドリはどういうわけか居座ってます。そんでもって、俺の所の執事だとか秘書だとか、そういう仕事をしてくれています。腕っぷしは分からんけども、現状では非常に役に立ってくれているので、友達になってくれて良かったと思う。


 ――で、ある日、ヨゥドリが主要な面子を集めて、こんなことを言いだした。


「せっかくなんで、最近のアドラ王国の情勢について話しておこうと思います。皆さん、しばらく王都を離れていますし、最近の情報に疎いと思うので」


 最近の情勢に疎いだぁ? 馬鹿野郎! 最近どころか昔のことも分かんねぇよ、舐めんじゃねぇっての。


「そういう言い方、腹立つんだけど。なんか私たちのことを田舎者って言ってるみたい」


 エリアナさんが突っかかっていきます。どうやら、エリアナさんとヨゥドリは相性が悪いみたいで、よく揉めてます。


「まぁ、俺は実際に田舎者だからねぇ」

「俺は王都生まれだけど、世の中に興味がねぇんだが、そういう奴はどうなんだ?」


 グレアムさんとオリアスさんはヨゥドリに対して、特に思う所は無いようです。


「僕も田舎者なんで、そう扱われても特には……」


 しばらくぶりにジーク君が皆と同じ席で顔を合わせてくれました。

 ジーク君もヨゥドリに対して、思う所は無いけれど、ヨゥドリの方はジーク君に対して警戒してるんだよな。ちょっと前に――


『ジークフリード君でしたっけ? 彼はセイリオスと通じてますよ』


 ――ってヨゥドリは俺に教えてくれたんだけど、だからなんなんだって感じ。手紙を送ってるのは知ってるし、今更、言われてもね。

 現状ではあの野郎にバラされて困るような秘密も無いし、放っておいても良いだろうと思うんだけど、ヨゥドリは早々に始末した方が良いって俺に言ってくるんだよね。

 俺もそっちの方が面倒くさくないような気もするけれど、いきなり、ぶち殺すのも可哀そうな気がするし、ちょっと様子を見ようと思うんだわ。そのうち手紙を送るのも止めるかもしれないし、そうなるまで見逃してやっても良いと思うのね。


「別に皆さんを貶めようというつもりはなくて、現状に対して共通理解を抱いて貰いたいと思って、今日は集まってもらったんです。不快にさせてしまったなら、申し訳ない」


 別に悪くないのに、ヨゥドリが頭を下げる。

 そういうことをするくらいなら、さっさと始めて欲しいんですが。


「そんなことはいい、さっさと始めろ」


 思わず急かしてしまいました。こういうのって良くないよね。俺も偉くなったんだから、穏やかに寛容に物事を進めていくべきだよね。


「では、最近の情勢についてですが、アロルド殿が王都を追放されて、西部に渡ってから王都近辺の治安は悪化の一途を辿っています」


 そういえば、王都を追放されてましたね。追放されても、特に困ったことがないから忘れてました。


「王政批判やら教会批判が凄まじいことになってるんですよ。教会批判に関しては、革新派に属する聖騎士がイーリス嬢の暗殺未遂をやらかしたり、少し前のカタリナ嬢を異端として抹殺しようとしてアロルド殿に邪魔された一件など、問題が多すぎたので仕方ないと言えますね。ですが、王政批判に関してはちょっと事情が違いまして――」


 そういえば、そんなこともあったなぁって気がします。だいぶ前の話なんで覚えていても仕方ないし忘れました。


「民主主義というのを唱える人が、王政を批判する民主化運動を扇動しているんですよ。王や貴族などの生まれついての特権階級には政治をする資格はなく、多くの人々に選ばれた者にこそ政治をする資格があるとかいう考え方が王都で流行っているんです。

 ただまぁ、自然に流行ったのではなく流行らされたという感じなんですがね。アロルド殿が王都を追放される直前くらいにも、王都の各地で集会が行われていたので目にする機会はあったんではないですか?」


「あったかもしれないな」


 思い出せないけど、騒いでいる人がいたようないなかったような。エリアナさんは憶えているのかな?


「流行らされたって言うのはどういうこと?」


 どうやら覚えているようで、ヨゥドリに質問をしています。


「その集団にウチの人間を紛れ込ませて、情報を収集しているんですが、主義主張がどうにも浅いんです。そういう考えに至るまでの経緯やら思想が見えてこず、教科書に書いてあることを言っているような感じですかね。おそらく、どこかの誰かが人々を扇動するために脚本を作ったのではないかというのがケイネンハイム大公の見解です」


 どこの誰かって、誰なんだろうか?

 まぁ、あんまり興味ないけどさ。だって、俺は王都にいるわけじゃないし、そいつらに困らされてないからどうでもいいよ。もしも、俺が王都に居て、そいつらに困らされるようなことがあったら、速攻で全員ぶっ殺しますがね。


「色々と稚拙ですが、人々の不満が高まっている時期だったので、効果はかなりあったようですね。今の王都は民主主義という名の貴族排斥運動が起こっていて、公にはなっていませんが、貴族が何人も暴徒の私刑で殺されてますよ」


「国は動かないのかい?」


「動きたくても動けないんですよ。鎮圧を行おうにも数が違いますし、貴族なのに平民の味方になって見逃してもらおうという輩もいて、そういう方々が王政側に対して妨害工作をしているんです。

 それに加えて、教会の一部が平民の信者の信頼を回復するために支援をしていますしね。神は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず。すなわち人とは平等な物であり、人を支配する権利を持つ者などいないとかいう説法をしているくらいですし」


 なんか、それも誰かが作ってる感じがするなぁ。誰かが入れ知恵でもしてるんでしょうかね?


「今の王都には関わらない方が良いと僕は思いますよ。民主化運動の他に教会の革新派もきな臭い雰囲気で、信者の信頼回復を狙って、色々とやらかしそうな気配があります。

 カタリナ嬢や冒険者ギルドと関係が深い、教会の守旧派を弾圧しようとしているという噂もあるので、注意が必要かと」


 カタリナのお爺さんが所属している守旧派からは修道士や修道女が冒険者にもなってるし、それ以外にも回復魔法を教えてもらったり、掛けてもらったりしてる冒険者も結構いるんだよね。お世話になってるし、困ったことがあったら助けてあげよう。


「まぁ、そういう風に色々と混沌としている状況ですので、アドラ王国内の貴族の王家に対する信用は低下しつつありますね。

 東部や南部といった大公家のある地方は安定していますが、地方と言えるほど王都から離れておらず、中央と言えるほど王都から近くも無い中間地域の貴族家に王家を無視する傾向が出てきて、領地間の揉め事から小競り合いが起きてもいます。

 その中で、セイリオス・アークスが中間地域の貴族をまとめて同盟を築こうとしている噂もありますね。それを調べていたウチの密偵は行方不明になっているので詳しくは分かりませんが」


 セイリオスの名前が出てきたので、ちょっとイライラしてきました。まだボコボコにされたことは許してないんで、あの野郎が調子乗ってるみたいな話を聞かされるのは面白くないね。


「南部についてですが、南部は比較的安定していますね。ただ、思ったより荒廃してしまったようで復興にはしばらく時間が掛かるかと思います。戦争で村を放棄し、流れ者になった人々も相当数いますし、治安も以前より悪くなっています」


 南部には戦争に行ったんだよね。あんまり思い出と言えるものは無いなぁ。生意気言ってきた貴族連中をぶち殺したり、イグニス帝国の奴らをぶち殺したりとか? うーん、殺伐だなぁ。

 そういえば、コーネリウスさんはどうしているんだろうか? 俺はあの人が嫌いではないし、元気だと良いんだけど。


「コーネリウス大公の統治にも問題が無いわけではなく、決断力に欠けるために、南部の貴族をまとめることに苦労しているようで、南部全体で復興に取り組むといった足並みを揃えさせることができていませんね」


 まぁ、それはしょうがないでしょう。あの人って悪い人じゃないけど、人の上に立つ人じゃない感じだし、仕方ないよ。


「西部はアロルド殿が睨みを効かせられる位置なので安定していますね。ガルデナ山脈の麓のツヴェル市も発展を続けているようですし、アドラ王国内では西部が最も将来性がありますね」


 いつのまにかツヴェル市になってんのね。前は町だったような気もするけれど、気のせいでしょうか?


「アドラ王国全体の傾向をまとめると、失業者の増加と治安の悪化、王家及び協会の権威失墜と言ったところでしょうか」


 なんだか色々と大変なことになってるんだなぁ。

 まぁ、俺には関係ないけどさ。だって、俺は今はヴェルマー王国にいるわけですし、重要なのは王国が困ったことになってる状況だと俺達は困るのかってことだよね。

 そんでもって、困るとしたら、俺達はどうすればいいのかってことを考える方が重要だと思うの。


「それで、その状況に対して、俺達はどうするべきだと、お前は考えるんだ?」


 こんだけ色々と話しているんだから、そういうことも考えてると思うので、ヨゥドリに聞いてみました。すると、ヨゥドリは笑顔で答える。


「まずは、王都の周辺にある冒険者ギルドの工場を閉鎖しましょう。あれを残しておくと、民主化運動の活動家に武器が流れる可能性がありますし、そうなると王都が戦場になりかねないので、工場の閉鎖と移転は急務です。それで工場の移転先なんですが、そちらは西部と東部が良いかと」


 西部と東部に工場を移転ね。まぁ、いいんじゃない? それをやる意味が俺にはわからんけどさ。


「東部って自分の所じゃない。ちょっと露骨過ぎない?」


 エリアナさんが不満顔ですが、ケイネンハイムさんの所は治安が良さそうだし、俺は構わないと思うよ。それに仲良くするって約束してるわけだしさ。


「工場の移転に合わせて人員も西部に集約させましょう。仕事の無い人や浮浪者といった食い詰め者を集めるのも良いかもしれません」


 なんか治安が悪くなりそうで嫌だなぁ。でもまぁ、西部ってことはアドラ王国側だし、ヴェルマー王国側にいる俺達には関係ないか。


「現状ではこの地――旧ヴェルマー王国領を開拓するには人が足りないので、集めた人員は鉄道に詰め込んで、王国側から、こちら側に送ってもらいましょう」


 ヨゥドリの口から『鉄道』と言った言葉が出た瞬間、エリアナさんがオリアスさんとヤーグさんを睨みつけた。二人はバツの悪そうな顔をして肩を竦める。エリアナさんはヨゥドリに内緒にしておきたかったんだろうか?

 そういうのってイジメみたいだから、良くないと俺は思います。ヨゥドリは友達なんだから、秘密は無しにしようぜ。


「鉄道良いですよね。将来的にはケイネンハイム大公領まで線路を伸ばしていただけると助かります。まぁ、それは先の話として、今は最低でもテラノ砦からガルデナ山脈を通ってクレイベル砦まで線路を伸ばしましょう。

 そして、その後は鉄道を使い、王国内から可能な限り人を輸送するという方向性はいかがでしょうか?」


 聞かれても特に反応は無し。

 グレアムさん、オリアスさんはこういうことには全く関心がないから放っておいていいとして、エリアナさんが黙っているってことはこの方針で良いってことですかね。


「それで構わん」


 誰も何も言わない感じなので、俺が良いって言っておきました。


「では、ヴェルマー王国側の開発に関してですが、これについては現状では難しいと思います。本格的に開発を行うには人が足りないので、アドラ王国から人を運んでこない限りは無理かと」


 となると、時間が掛かるのかな? ガルデナ山脈に線路を敷設して、クレイベル砦まで? そもそもクレイベル砦ってどこでしたっけ? なんか行ったことはあると思うんだけど、確か西部に来た時に最初に造った砦だっけか?


「それだと時間がかかりすぎないか?」


 なんとかならないかと思って聞いてみたんだけど、ヨゥドリは肩を竦める。


「時間に関してはどうにもなりません。何をしようにも現状では人が少なすぎるんです」


 一応、馬車を使って物資以外にも人も運んでるんだけど、それでも駄目なのか。

 なんかいいアイディアは無いかと思い、俺はこの場にいる面子を見渡してみる。何か思いついたら手を挙げて欲しいと思うんだけど、誰も手を挙げませんね。まぁ、人が足りないってはどうにもならないよね。ポンッと湧いて出る物でもないしさ。

 ヴェルマー王国に人間が残ってたら、そいつらを捕まえて強制労働でもさせてやりゃあいいんだろうけど、人間はいないし……いや、この際人間でなくても良いんじゃない? 今ヤーグさんを見て、凄い良い考えを閃いたんだけど。


「……グレアム、この辺りの偵察は済んでいるか?」


 ちょっとやってみたいことを思いついたんで、それをするために必要な情報をグレアムさんに聞いておきます。


「一応、近場だけは済んでいるけど、それがどうしたんだい?」


「適当にやっても攻め落とせそうな規模の村か街を教えろ。それと冒険者連中に声をかけて出陣の準備をさせておけ。あと、ヤーグもついて来い」


 皆が困惑した表情で俺を見てくる。全く察しの悪い奴らだなぁ。

 足りないものは何でも現地調達ってのが冒険者の基本だぜ? 俺がその手本を見せてやろうじゃないか。





ポイントもモチベーション維持のためには重要だよね。

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