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新しい友人

 

「ヨゥドリ・ケイネンハイムと申します」


 俺の前にやって来たケイネンハイムさんの所のお子さんは、そう名乗ったんだけど……


「なにか?」


「お前、本当に血がつながってるのか?」


 だって、ケイネンハイムって名乗ってるくせに、ケイネンハイムさんと全く似てないんだぜ?

 褐色の肌に、撫で付けるようにセットした黒髪、精悍な顔立ち、鍛えられた肉体。ついでに、雰囲気が貴族って言うより執事って感じだし、似てるところが全くないんだが。


「アロルド様、失礼ですよ」


 カタリナが小声で俺に注意してくるけど、そんなこと言ったって気になるものは気になるじゃん。

 それに、ヨゥドリの方は全く気にしてる感じは無いし、別に言っても平気だろ。


「いえ、お気になさらず。良く言われますし、実際に血は繋がっていないので」


 ふーん、そうですか。気にしないでくださいって言われたけど、そもそも気にしてないんですがね。しかし、血が繋がってないってのはどういうことなんだろうか。


「僕はケイネンハイム大公の養子なんです。生まれは王国東部の更に東の海にある群島国家群。と言っても、アドラ王国の殆どの方は分からないと思いますが」


「そうだな」


 エリアナさんとかは分かるのかな? まぁ、それよりも気になることがあるんだけどさ。


「異国人でも爵位は継げるのか?」


「その辺りは問題ないのではないかと。閣下は東部の貴族には僕が跡を継ぐと明言しているので」


 良く分からんね。異国人の養子が次のケイネンハイム大公だとして、それを納得できるんだろうか。まぁ、俺は納得できるし、別に構わないとも思うから、東部の人もそうなんだろうな。

 それに、文句をつけたとして、そうなったらケイネンハイムさんとり合うことになるんだろ? それなら文句を言わずに黙っているのが良いよね。


「まぁ、ケイネンハイム家の問題など俺にはどうでもいいことだがな。それで、俺に何の用だ?」


「何の用だと言われましても……」


 ヨゥドリは俺のことをジロジロと見ているが、何が言いたいんだろうね。俺は裸でマッサージ中なんだけど、それが何か問題でも?


「とりあえずの挨拶でなく、この場で詳しく話しても良いんでしょうか?」


「何か問題でもあるか? それとも俺にお前と話す機会を二回も用意しろと? お前のために準備をして、場を整えてほしいとでも言いたいのか?」


 それならそれで準備をしようと思うんだけど。別に俺がするわけでもないから、問題ないし。


「ええと、今の自分の格好がわかっていますか?」


 何言ってんだ、こいつ?

 分かるに決まるじゃねぇか、裸だよ裸。そんでもって、背中をカタリナに揉んでもらっているだけで、別におかしいことは無いだろう。ちゃんと、腰に布を巻いて局部を隠してるんだし、問題も無いはずだ。


「裸ですし、寝そべっているし、美女を侍らしてるし、ついでに体を揉んでもらっているんですが、良いんですか?」


 随分とこだわるなぁ。もしかしたら、コイツ――


「羨ましいか?」


 俺の言葉にヨゥドリは頷きそうになりながらも、首を振り「いや、そうではなくて……」と呟くと、呆れたような口調で俺に語り掛ける。


「なんというか、父に聞いていた以上にとんでもない方ですね。一応、僕はケイネンハイム大公の名代として、この場にやってきているのですが」


「そうか」


 だから何なんですかって感じです。


「僕の言葉やら何やらは、ケイネンハイム大公本人の言葉であるとされるのが、普通なんですが」


「そうであるならば、なおさらこのままで良いだろう」


 口に出すと恥ずかしいから言いませんけど、俺はケイネンハイムさんとは友達だと思っているんで。友達なら、こういう態度くらいは普通だよね? 普通の友達関係を築いたことが無いから分からないけどさ。

 ヨゥドリは俺の言葉に目を丸くして、口を開けているけれど、どうしたんだろうね。せっかくのハンサム顔が台無しだ。


「いや、予想していた以上に凄い人だ。父から話を聞いている時は話を盛っているとしか思えなかったが、実際に会ってみると、聞いた話以上。もしかして、誰に対してもそんな態度なんですか?」


 そんな態度って、どういう態度だろうか? 俺は誰に対しても一貫した態度なんかとった記憶は無いぞ。


「俺は、常に俺に可能な限りの敬意を示した態度を取っている。俺の態度に不満を感じるとしたら、そいつは必要以上、身の丈以上に他者の敬意を求めているのだろうな」


 ヨゥドリは俺の言葉に苦笑を浮かべているが、そんなに面白いことを俺は言っているんだろうか? どうやら、俺はいつのまにかジョークの腕も上がっているようだ。

「わかりました。もう、気にしないことにしましょう。これ以上、こんな話していると、本題に入る前に日が暮れそうだ」


 だったら、泊まっていけば良いじゃない。俺は構わないよ。


「では、本題の――ケイネンハイム大公領の銃器工場に対する、職人及び一般工員の引き抜き工作、製品のネガティブキャンペーン、コピー製品の密造販売――について、お話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「よろしくないな。全く身に覚えがないことなので、話の仕様がない」


 もしかしたら、俺が命令したのかもしれないけど記憶がないしな。つーか、よくよく考えたら、そういう細かいことはエリアナさんの管轄だし、俺は関係ないね。


「本当ですか?」


「さぁ、分からんな」


 だって、記憶が無いですしね。ところで、カタリナの手の力がどんどん強くなっているのは気のせいでしょうか。


「もう少し、愛想を良くした方がよろしいのでは?」


 ヨゥドリに聞こえないくらいの小さな声でカタリナが俺を叱る。うーん、そんなに失礼な態度を取っていただろうか?

 だとしたら、良くなかったね、反省します。つっても、どこが悪いか分からんから、反省しても改善のしようがないんだよね。


「分からないなら、しょうがないですね」


 ヨゥドリは降参したかのように両手を挙げて、肩を竦める。


「まぁ、なんにせよ、父からは詫びを入れるように言われているので、頭は下げさせていただきます」


 ヨゥドリはそう言って、俺に向けて頭を下げる。下げられたところで、何について謝っているか分からないので、反応に困る。


「ちょっと調子に乗って、そちらの商売の邪魔をしてしまったのを申し訳なく思う。とはいえ、こちらも痛い目にあっているので、痛い目にあったもの同士、過去のことは水に流して、仲良くしよう――と父は言っていました」


 はぁ、そうなんですか。つっても、痛い目にあった覚えが無いんだよね。まぁ、仲良くすることは嫌じゃないんで構わないんですが。


「仲良くとは、具体的には?」


「具体的に何をするかと言われても困るんですが、とりあえず協力は惜しまないということです。そちらの困りごとに関しても、手助けできることは多いと思いますよ」


 全然、わからないんですが。何か困ってることってあるかな?


「俺が何に困っていると?」


 分からないので尋ねてみると、ヨゥドリはわざとらしく考え込むような仕草を見せてから、答える。


「例えば、人材不足ですかね?」


 はい、外れ! 人材だったら、足りてます!

 頭の良さが必要な感じの事柄だったら、エリアナさんと……エ、エイジ君? それと、オリアスさんとキリエちゃんは……ちょっと方向性が違うのか?

 まぁ、頭が良い奴は別にいいや。戦える奴がいれば何とかなるし、大丈夫。戦えるのはグレアムさんに、ジーク君、ヒルダさん、オリアスさんもいけるよね、それと俺も戦えますよ。……なんかちょっと少ないけど、冒険者ギルドの連中も頭数にいれればいけるはず。


「今後、ケイネンハイム大公領と良好な関係を築いてくれると約束してくれるなら、文官ができる能力を持った人物の紹介ができますよ?」


「別に必要ないな」


 だって、考えてみたら冒険者ギルドの事務をやってる奴らを使えばいいわけだし。それに、ケイネンハイムさんの所の息がかかってそうな奴らはちょっと嫌かも。俺の手下なら俺の色に染まっている奴を使いたいよね。


「そう言われると、ちょっと困るんで、なんとかなりませんか?」


「ならないな」


「そう言わずにお願いしますよ。このまま帰ったら、父に叱られます」


 む、それは可哀そうだな。うーん、なんとかしてやりたい気持ちになって来たぞ。


「そうですね。有象無象の輩が嫌と言うなら、僕はどうですか? こう見えても優秀ですし、なんなら人質として使って、父と交渉しても構いませんよ?」


 いやいや、なんで急にそんな話になるんだろうか? それに人質? そういうのなんか嫌だなぁ、俺はケイネンハイムさんに対して恨みやら何やらがあるわけじゃないし。


「何を考えているんだ?」


 わけがわからんことを言うので聞いてみました。


「少なくとも悪いことは考えていませんよ。父からはアロルド殿と仲良くなって来いと言われているだけでしてね。

 本当のことを言うと、銃器工場の一件なんかはどうでもよくて、アロルド殿に会うのに都合の良い理由なので、それを使っただけです。

 アロルド殿は知らないと思いますが、今のアドラ王国内だとアロルド殿に会うのは危険なことなんですよ?」


 まぁ、俺はヤバい男だからね。男はちょっとくらい危険な方が良いと、前に読んだ本に書いてあったけど、どうやら俺もそんな男になれたようだ。

 それはそうと、俺に会いたいから、やって来たって? それなら早く言って欲しいね。俺は超歓迎したい気分です。


「なんで、俺に会いに来た?」


「それは勿論、仲良くしたいからですよ」


 なるほど、納得しました。仲良くするのは良いことだよね。ただまぁ、なんで仲良くしたいのかは聞いておきたいね。俺が好きだっていう理由なら、それが一番なんだけど。


「なぜだ?」


「色々と理由はありますが、一番の理由は単純にアロルド殿が怖いので」


 怖いってなんだよ。俺は俺に可能な限り、色んな人に優しくしてるってのにさ。まぁ、優しくしたくないなぁって思ったりする人もいますけど。


「結局のところ、絶対的な個の力には、どれほど策やら何やらを弄した所で無意味っていうのが、父と僕の共通見解です。

 小賢しく理屈や損得を語ったりしたところで、アロルド殿の機嫌を損ねて、後先考えず暴れられたら、全部お終いなので、そういう相手とは、理屈や利益とは別の所で仲良くしておこうと思うんです」


 はぁ、そうなんですか。しかし、なんだか俺が乱暴者みたいな感じに聞こえたんですが、気のせいでしょうか?

 まぁ、小難しいことを言って、なんか言いくるめようとしてたりしてるなって感じたらムカつくことはあります。それがエリアナさんとかだったら我慢できるけど、たいして仲良くない奴に言われるとイラっとくるし、言うこと聞いてやりたくないって気がします。

 俺にとっては、何を言ったかじゃなく、誰が言ったかが大事なのよね。いくら正しいことを言っててもムカつく奴のは言うことを聞くのはちょっと嫌です。


「元々、こちらはアロルド殿の商売を邪魔してまで儲ける気も無いんですし、それよりもアロルド殿の機嫌を損ねる方が良くないと思っています。ご迷惑をおかけしたことのお詫びもしますので、今後は仲良くしていただけると助かります」


「仲良くというのは随分と子供じみた言い回しだな」


 もっと、大人っぽい言い方の方がカッコイイと思うんだ。友好的な関係とかさ。


「ええ、求めているのは大人の友好関係でなく、子供じみた仲の良さなので。なので、できれば、僕と友達になってもらえると助かりますね」


 友達かぁ、まぁいいんじゃない? 別になったからって困るもんじゃないしね。でも、友達だと裏切りづらくなっちゃうね。

 大人の友好関係だと、自分も相手も利用してるような感じだから、必要が無くなったら裏切ってもいいと思うんだけど、友達は利用しあう関係じゃないし、利用価値が無くなったからって裏切ったりしたら駄目だよね。そういうことしたら人として最低だと思うので俺はやりません。


「まぁ、構わんよ。俺もケイネンハイム大公には世話になっているのでな、その御子息と友人になれるのは光栄だ」


 何を考えているかは分からんけど、とにかく友達が増えたことだけは確かです。これでケイネンハイムさんの所とのトラブルは解決で良いのかな?





ちょっとポイントをくれると嬉しい。

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