拠点到着
なんとか動けるようになりました。なので、新しく造ったという拠点に向かうことにしたのだけれど――
「へぇ、もう出来てるとは中々に腕が良いのが揃っているようですね」
ようやく見えてきた新しい拠点についてヤーグさんが感想を述べた。なんで、この人がいるのかっていうと、俺は知らないので答えようがない。まぁ、一人だと寂しいからついてきたってことにしておこう。
で、肝心の新しい拠点だけど、まぁいつも通りの造りです。魔法工兵が魔法で石の壁を城壁にし、城壁で囲まれた中に、石の壁を造る魔法で四角い箱形の建物を建てるって流れで作るいつもの奴です。
「ヴェルマー王国も似たような方法で拠点を造っていたんですけどね。まぁ、土木工事に使える魔法の適性を持った兵士が少なかったので、数は少なかったんですが」
そういう話を聞いても仕方ないよね。だって、興味ないし、良く分からんし、俺の担当分野じゃないし。
「お喋りは一息ついてからにしないかい?」
ヤーグさんがグダグダと話し始めそうだったので、グレアムさんの提案はありがたいです。最近、分かったのだけれど、ヤーグさんはクソうるさい。聞いても無い話をベラベラ喋るし、俺的にはスゲー迷惑です。
「そうだな」
俺はヤーグさんを放っておいて拠点へと向かうことにする。放っておいても後ろからついてくるので問題ないだろう。そうして、拠点へ到着すると――
「おかえりなさい、アロルド君」
エリアナさんがお出迎えしてくれました。エリアナの隣にはカタリナが控えているし、俺的にはそれで充分だし、それ以上は必要ないと思うのだけど、エリアナさん達の背後に冒険者連中が整列していて鬱陶しい。
「怪我をしたって聞いたけれど、元気そうね」
「ああ、問題ない」
馬から降りるとエリアナさんが近づいてきて、俺の体を触って確かめた。女の子に体を触られるって結構、ドキドキするよね。しかし、随分と抵抗なく俺の体を触ってるんだけど、もしかして男の体を触ることに慣れているんだろうか? それってなんというかアレだな……うん、アレが何か思いつかんの別に良いや。
「ですが、どのような後遺症があるか分からないので、きちんと検査いたしますね」
カタリナも俺に近寄って心配してくれている。いやぁ、綺麗な女の子に心配されているだけで、人間として上等な存在になった気がしてくるね。今だったら、俺って王様よりも偉いんじゃないって思えますね。
「へぇ、ユリアスと違ってモテるんだなぁ、アロルド殿は」
ヤーグさんが俺を羨ましそうに見ています。今の俺は人間としてランクが上がっているので、指を咥えてみているしかない下等なヤーグさんとは違うんですよ。
「そちらの方がグレアムの報告にあったヤーグバールさん? はじめまして、エリアナ・イスターシャ――将来的にはエリアナ・アークスです」
エリアナさんは一応挨拶します。すると、ヤーグさんは改めてエリアナを見て――
「いやぁ、本当に姫様にそっくりだ」
その程度の感想を述べるにとどまった。別に感動という物も感じられないし、会っても会わなくてもどうでも良いと言った感じだった。
「それだけですか?」
エリアナさんが尋ねる。俺も聞きたいところだ。なんだって、エリアナさんを前にして、そんな糞みたいな感想しか言えないのってね。だって、エリアナさんは超絶美人だぜ? それなのに、あの程度の感想は失礼だよ。
「ええ、こんなもんです。別に私は王家の復興だとかを求めているわけではないので、ヴェルマー王国の血筋とかには興味がないもので、王家の末裔らしき貴方にもそんなに興味は無いですね」
そうか、じゃあ仕方ない……いや、仕方なくないよ! もっと、エリアナさんを美人とか言えよ。そっち方面に関心を持てよ!
「では、何に興味や関心を持って私たちに手を貸していただけるのかしら?」
「それは勿論、貴女の夫ですよ。彼がヴェルマー王国を取り戻し、この地に新たな文化を築くこと。そして、その中にヴェルマー王国の文化を残すことが私の目的です」
何を言っているのか全く分かんねぇんだけど。なんとなく分かったのは俺に興味があるってことくらい、これはもしかすると非常にマズいのではないだろうか?
「あまり信用できないけれど、まぁ良いでしょう。手を貸していただけるとなったからには、馬車馬以上に働いてもらいましょうか」
……いい加減、どっかに座りませんかね。お外で話してるのも疲れたし、お茶でも飲みたいところなんだけど。
「皆さん、詳しいお話はお部屋の中でいたしましょう。アロルド様もお疲れのようですから」
俺の気持ちを分かってくれるのはカタリナだけのようで、カタリナがみんなに提案してくれました。拒否する奴はいないよね?
――で、建物の中に入って会議が開始しました。俺は休憩の予定だったんだけど、なんでこんなことになるんでしょうかね。まぁ、我慢して聞いてましょう。たまに適当なことを言って、それ以外はボーっとしてりゃいいだけだしね。
「とりあえず、ガルデナ山脈から、この砦――テラノ砦までの道は出来たわ。これでアドラ王国からの補給は出来るのだけれど……」
へぇ、ここはテラノ砦って言うんだ。初めて知りました。名前の由来はなんなんでしょうね? 別に知りたくもないけどさ。だって聞いても覚えてられないし。
そんなことよりもエリアナさんがちょっと困った顔になってることを気にした方が良いよね
「何か問題か?」
「ちょっと補給のペースが良くないかもしれないの。それに関しては担当者が詳しい報告をしてくれるわ」
エリアナさんがそう言うと、黒髪に黄色っぽい肌の……えーと、どちらさまだっけ?
「この度、兵站部も担当になった本業はアークス卿の書記官のエイジです」
ああ、そうそうエイジ君だ。俺の代わりに手紙を書いてくれたりする仕事の異国人だった。
「現状、山道の整備や軌道馬車の導入で、補給自体は滞りなく行えています。しかし、人員の増加や砦の先まで部隊を展開するような状況になると、現在の輸送能力では充分な補給ができません」
「なぜだ?」
「単純に輸送能力が低いんです。運べる量も速度も、限界まで酷使したとしても、我々が今後の活動を展開していく上では馬車では不十分なんです」
うーん、良く分からんけど、馬車は無理ってことか。馬車の車輪をレールの上に乗っけて負担を軽減するようにしてたみたいだけど、それでも限界ってことなのね。まぁ、馬にだって限界はあるよね。
「それは困るなぁ。食料が無いのもマズいけど、銃弾が足りないのも良くないねぇ」
基本的に戦闘関係の担当はグレアムさんなので、何か良いアイディアを出してくれませんかね。俺はアイデアは無いので、皆さんに丸投げします。
「うーん、ここはヴェルマー王国で多くの侵略戦争に参加していたというヤーグバール殿に意見を求めてはどうだろうかねぇ」
「ヴェルマー王国は基本的に略奪で賄っていたので、助言できるようなことは無いですね」
「略奪ねぇ。俺達も帝国を相手にする時はやったなぁ。もっとも、略奪の対象は味方だったけどねぇ。まぁ、なんにしても、レブナントしかいない、この土地じゃ略奪しても食料は手に入らないだろうねぇ」
そうだよね。レブナントはメシが必要ないんだから、食料を備蓄なんかしないだろうし、そもそも奴らって農業とかできないだろうし、そもそも食料が無いんじゃないかな。
「……味方相手に略奪?」
おっとヒルダさんが俺たちに対して疑わしいものを見るよう視線を向けていますね。
「帝国に奪われるくらいなら、俺達が先に回収しておこうってことで、村を襲って食料やら何やらを奪ったんだ――おいおい、落ち着けよ。村人はちゃんと保護したし、あの時はそうしなきゃ勝てなかったんだよ」
ヒルダさんがキレそうになってるヒルダさんをなだめる。この人らは真面目に会議をする気があるんだろうかね。ちなみに俺は無いです。だって、俺が何か言わなくても、おそらく誰かが解決してくれるだろうしね。
「まぁ、結局の所、輸送能力を向上させないと駄目ってことよ。これから先、人も物もどんどん必要になるんだから、限界が見えてきている馬車とは違う物を考えないと駄目なの」
ヒルダさんがまとめるけど、解決には至ってません。誰か何か良いアイデアは無いかな? こういう時はオリアスさんとキリエちゃんが魔法使い的な発想で解決してくれるはずだ。
……ところで、オリアスとキリエちゃんは何処にいるんですかね? 気づいたんだけど、帰ってきてから、あの二人の姿を見てないんだよな。
「今、オリアスとキリエには新たな輸送手段の開発をさせているわ。それが完成すれば、問題の大半は解決されるはず」
「何を作っているんだ?」
聞いてほしそうにしていたので聞きました。本音を言うと、俺に報告しないで勝手に作っていて良いよ、完成したら教えてねって感じです。だって、オリアスさんとキリエちゃんが頑張って作ってるなら、そんなに失敗は無いと思うしさ。
「さぁ? 開発中だから詳しいことは分からないけど、二人は開発中の物を〈鉄道〉と呼んでいるわ」
鉄道ねぇ。俺はあんまりピンとこないけど――
「マジですか?」
エイジ君は反応しているみたいだし、一体なんなんだろうね。まぁ、あの二人が頑張っているなら、そんなに悪いことにはならないだろうし、期待して待っていようか。これで期待外れだったら怒るしかないけどさ。




