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ユリアス・アークスについて関係者は語る

 

「まず、何から話せばいいでしょうか」


 ヤーグさんが勿体付けた様子でユリアス・アークスのことを話そうとしている。正直な所、俺としては奴の話なんて聞きたくもないから、他所でやって欲しいんだけど、俺の部屋で始まってしまったから仕方ない。


「なんでも良いから、さっさと話せ」


 俺はグレアムさんがお土産に持ってきてくれたお酒をコップに注いで飲みながら話を聞くことにする。つまらん話でもお酒があれば多少は面白くなるでしょう。


「チッ、では奴の生まれとかから話しましょうかね」


 今、舌打ちしませんでした? え、なんで? これから独演会みたいに話そうとしていたところを邪魔したからとかそんな理由かな。


「ユリアス・アークスはヴェルマー王国辺境の貧乏貴族であるアークス準男爵家の長男として生まれました。準男爵というのはヴェルマー王国では最低の爵位で、何らかの功績をあげて男爵に爵位を上げてもらわない将来的には爵位が剥奪されるという、ぶっちゃけ居ても居なくてもいい貴族です」


 ちなみに俺はアークス伯爵家です。実はかなり大貴族なんで、そういう点はユリアスに勝ってるね。これで一勝って感じか。


「そういう状況に満足できなかったのかユリアスは幼少期から荒れていました。子供の頃から喧嘩で同じ年頃の子供の頭を石でかち割ったり、隣領の貴族の屋敷を放火したり、屋敷に押し込み強盗に入ったり、令嬢を拉致して身代金を取ったり、隊商を襲って金品を強奪したり、まぁ、色々とヤバい悪事を子供の頃からしていました」


 ガチでヤバい奴じゃん。荒れてるたからって許されるレベルじゃないってことくらい、流石の俺でも分かるでも分かるんですが、俺も子供の頃に隣の領地の貴族の頭をかち割ったりしたけど、ユリアスには負けるね。でも、それって俺がマトモってことだから、俺の勝ちで、これで二勝だな。


「よくそれが許されたねぇ」


 ほんとだよね。まぁ、俺も隣の領地の貴族の頭をかち割った時もなんだかんだで無かったことになったから、割と大丈夫なんじゃない? やられたと訴える方が恥ずかしい時ってあるしね。子供に負けるとは何事だ、恥を知れってなる場合もあるし、大きな声で言えない感じに痛めつけると泣き寝入りする貴族ってのは結構多いよ。


「まぁ、それは、お国柄というかなんというか、ヴェルマー王国は野蛮人が多かったので、ユリアスの件も若い時分はヤンチャな方が良いとかで、王都辺りの貴族はむしろユリアスの行状を褒めてましたね。それくらいの気性でなければ、貴族として物足りないとか言い出す者もいるくらいでした」


 まぁ、ちょっとくらいはヤンチャしても良いってのは同意。俺は良く分からんけど、舐められたら貴族って終わりな気がするしさ。上手く言えんけど、喧嘩上等、られる前にってやるって根性を見せとかないと自分の領地とか守れないんじゃないかな?

 だって、『お、こいつ根性なしだな。ちょっとイジメちゃっても何も言わねぇだろ』とか周りの貴族に思われたら、酷いことされそうだしさ。そんでもって、王様が『根性ない奴が俺の手下とか恥ずかしいんだけど。根性なしは殺しちまったほうが良いかも』ってなるかもしんないしさ。そういう場合を考えたら、ちょっとヤンチャして、コイツに手を出したらヤバいと思わせた方が良いよね。


「ひどい国だなぁ」


 まぁ、荒っぽい人がいるのは嫌だよね。俺は穏やかな方だと思うし、都会っ子だから、野蛮な奴らがいるような田舎は嫌です。


「実際、頭のおかしい人間ばっかりでしたので苦労しました。『貴族の議論は剣でのみ決着する』『交渉下手は話し合い、交渉上手は殺し合い』とかいう言葉があるくらいで、貴方たちの想像を絶するくらいに狂暴でしたよ。ちなみに私の親父殿も、実はそっち系なんで、ユリアスが子供の頃はユリアスの事は大好きだったそうですよ」


 そっち系ってどっち系だよ? それで言ったら、俺はどっち系?


「まぁ、そういうわけでユリアスは悪事を働きつつ、色んな貴族に守られたりしながら成長し、十歳になってからは王国の中央に出仕するようになりました。悪名と共に武名も轟いていましたからね」


 何をやらかしていたんですかね。ちなみに俺は九歳のくらいのころは、実家の周りの山で遊んでました。隣領の貴族の山だったかもしれないけど、まぁ良いよね。


「調子こいてた大商人を数百の用心棒ごと皆殺しにしたりとかを九歳くらいにやらかしていたんで、それはもう評判はすごかったですよ。私も当時は親父殿にユリアスのようになるのだぞと言われてました。今思うとイカレてんのかって感じですよね。

 まぁ、調子こいてた商人をぶち殺して回るのは私も賛成でしたんで、その一点に関してはユリアスを褒めても良いと思ってます。あいつら、金持ってるからって、クソ舐めてきやがるんで、ムカつくんですよね」


 ヤーグさんは昔を思い出して本気で苛々しているようだった。良く分からんけど、ユリアスを見習えって言われたのかな?

 俺が父上にそんなことを言われたら、父上の前歯をへし折って、『こういうことをする息子が欲しいのか?』って質問して、答えを聞かずに滅多打ちにしますね。別に答えてほしくて殴ってるわけではなくて、ムカつくから殴ってるだけなんで、答えて貰おうが貰うまいが関係なしです。


「まぁ、そんなこんなでユリアスは色々な人に守られながらスクスクと成長していきました。十二歳くらいで戦場に出て敵将の首を獲ったりして功績をあげると、アークス準男爵家は男爵家になり、ユリアスが家督を継ぐといった話も出ました。

 しかし、国王陛下を筆頭に王都の貴族連中はユリアスほど武勇に優れた者を田舎で燻ぶらせておくのは忍びないと、自身の領地には戻らずに、そのまま王に仕えるように命じられました」


 俺だったら、さっさと実家に帰りますね。忙しいのは嫌だし、ノンビリと領地経営も良いんじゃない? そういう風に平和な日々を送ることを考えられる時点で俺の方が人間として立派なので、俺の三勝だな。


「しかし、そんな風に贔屓されていたら他の貴族の嫉妬とかは凄かっただろうねぇ」


「いやぁ、それがそうでもないんですよね。さっきも言ったと思うんですが、ヴェルマー王国の貴族は野蛮なので、強い奴が全面的に正しく尊敬されるのでユリアスも他の貴族からも尊重されていましたね。もっとも、それは最初の内だけでしたが」


 すると、最終的には嫌われだしたってことかな。俺もアイツ嫌いだし、当然だよね。俺はあんまり嫌われてないんで、そういう部分でも俺の勝利。これで四勝無敗の圧倒的優勢だね。この前の戦いを負けにカウントしたとしても四勝一敗だし、これはもう実質的には負けてないってことではなかろうか。


「まぁ、その後は色々と問題を起こしましてね。ヴェルマー王国最高の剣士で剣聖と呼ばれる人がユリアスの剣の悪いところを指摘したら、その場でぶった斬ったり、賢者と呼ばれる魔法使いに未熟と言われたので、即座に魔法で殺したりとか、やらかしました。

 高名かつ人格者である二人を殺害したので、彼らを慕う人々に暗殺者を差し向けられたりして、それを返り討ちにしたり、まぁ色々やってましたけど、それが良くなかったんですよね。

 人間的に素晴らしい二人を殺したりしたせいで、流石にそんなことをしてるとちょっと良くないんじゃないかって声も上がってくるわけで、しばらく謹慎となりました。

 ちなみに私は二人が死んでくれて良かったかなって思いますよ。どっちも小言のうるせぇ爺どもだったので、死んでくれて清々しました。特に賢者の方は、私の研究にケチをつけまくるくせに、生産的な助言なんか殆ど無いような、クソ低能でしたし」


「それで謹慎で済むのか……?」


 ヒルダさんがドン引き顔です。まぁ、俺もちょっと引くわ。だって、殺す必要ないじゃん。二度とムカつくことを言えないようにするだけで良いじゃんか。公衆の面前で小便とか糞を漏らすくらい滅多打ちにすれば、生意気なことは言ってこなくなるぜ?


「謹慎で済むんですよ。何故なら奴は強いから。それだけの理由で許されるんです、ヴェルマー王国はね。

 もっとも、当時の国内と国外の情勢もありますがね。当時は内乱やら頻発していたし、国外の諸勢力も王国と敵対の意思を見せていたので、強大な戦力であるユリアスに厳しい処分を下すことが出来なかった。そのために、謹慎となったという裏事情もあります。ただ、結果的にその判断は失敗でした」


「殺しておけば良かったと?」


 グレアムさんが物騒なことを言っていますね。そういう、すぐに殺そうとする思考は良くないと思います。一回死んで、心を入れ替えるべきだと俺は思うね。自分でやる度胸が無かったら、俺があげようかな?


「いいえ、違います。そもそもユリアスを殺すのは無理です。奴はクソ強いんで。その時、我々がするべきだったのは、ユリアスに罰を与えることではなく、奴の悪事に目を瞑り、奴を自由にすることだったんです」


 ふーん、そうなんですか。まぁ、当事者の貴方たちがそう言うなら、そうなのかもしれないですね。どうして、そういう結論に至ったかは分からんけども。


「何故、そんなことが言えるかと言うと、ユリアスが謹慎中のとある戦で我が国の王子が戦死されたんです。ちょっとした油断だと聞いていますが、実際の所はなんとも。ただ、その戦にはユリアスが参陣する予定であり、当時のヴェルマー王国ではユリアスがいれば王子が死ぬことは無かったと誰もが確信していました。奴を認めるようで悔しいですが、私も奴が参戦していれば王子が死ぬことは無かったと今でも思っています」


「いたとしても無理だったかもしれないがな」

「それは無いですね。当時の奴は本当に最強でしたから」


 速攻で俺の発言を否定しやがりましたよ、この野郎。現状では俺の方が色んな観点で考えれば……えーっと、二十勝くらいはしてるんだからな?

 もしかしたら、五勝かもしれんけど、奴に最低でも五勝はしてる奴が否定してるんだから、俺の意見の正しさも認めてほしいぞ。でもまぁ、俺が間違ってる可能性だってなくはないから、ヤーグさんの意見を尊重しても良いです。


「当時の国王陛下も、ユリアスがいれば王子は死ぬことが無かったと考え、王子の死の原因となったユリアスの謹慎処分の判断を下した人々を処刑しました。そして、ここからヴェルマー王国は破滅の道を進み始めました」


「王が狂ったんだったか?」


 俺が尋ねるとヤーグさんが頷く。


「まぁ、その後は貴方たちの聞いている通りです。陛下は王子を生き返らせるために邪法に手を染め、やがて永遠の命を手に入れる手段を求めるようになった。そして、そんな王に忠誠を尽くすのはユリアス・アークス」


 ヤーグさんが溜息を吐き、言葉を続ける。


「奴は王に諫言する臣下の排除を王から命じられました。どういう理由で陛下が奴を使ったのかは分かりませんが、自分の行動を肯定してくれたのが奴だけだったので陛下が心を許したというのが私の推測です」


 自分のやることなすこと全てを褒めてくれる人は大事にしたくなるよね、分かります。一生懸命、頑張ろうとしているのに間違っているって否定されるのは嫌だしね。でも、全部が正しい人間なんていないと思うから、間違っているってことを正しく伝えてくれる人は大事だよねって思います。


「それでユリアスの方ですが、そちらは何故、陛下に従っていたのかは全く分かりません。ただ、その頃の奴は強いと噂される人間を倒すことに取りつかれていたのだけは憶えていますね。

 証明する必要など無くヴェルマー王国の全ての民がユリアス・アークスこそ最強だと認めていたのに、奴は自分の強さを証明するかのように、王国内の強者を殺し続けました。王に従わない者を殺すというお題目を後ろ盾にしてね。そうしているうちに、ユリアス・アークスは狂った王の手先、〈殺し屋ユリアス〉と呼ばれるようになりました」


 良く分からんのだけど、有象無象に認められたからって最強なのかな? 弱い奴らが最強を判定できるの? 蟻が人間同士の喧嘩を見て、どっちが勝ったとか判断できるんだろうか? そして蟻に最強だって称えられても、自分が最強の人間だって言う奴はいるんだろうか?


「そして、その後は皆さんが知る通りです。ヴェルマー王国の全ての人間は貴方たちの言うレブナントになり、今に至るわけです――ご清聴ありがとうございました」


 とりあえず終わりのようなので拍手しておきました。なんとなくユリアスのことは分かったような気がするけど、何も分からんような気がするな。


「――で? それだけかい?」


 グレアムさんが俺の代わりに聞いてくれました。つっても、俺は別に聞きたいことがあるわけじゃないんだけどね。


「ユリアスが強いという話は分かったよ。奴がどういう経歴だっていうことも分かった。でも、それよりも大事なことがあるだろう?」


 グレアムさんが尋ねると、ヤーグさんは溜息を吐き、ウンザリとした様子で答える。自分が頑張って話をしたのに、その態度はなんだって感じに見えるし、もう少し気持ちよく話をさせてくれ感じにも見えるね。


「そんぐらい分かってますよ。こっちだって馬鹿じゃないんです、言われなくても分かります。それなのに、無駄に急かされるのは面白くないんですがね? で、知りたいのはユリアスの能力でしたっけ? 貴方たちより強いって能力です、ハイ終了。気持ちよく話している私を無駄に急かすくらい急いでいるようなんで、簡潔に言いました」


 イラっときているのか挑発的なヤーグさんに対して、同じようにイラっとしたグレアムさんが剣を抜きました。俺もちょっとだけイラっとしたから、腕の一本くらい斬り落としてあげてください。


「舐めた態度を取られた程度で武器を構えて脅しにかかるとはね。ヴェルマー王国の貴族だったら無言で殺しにかかるっていうのに、随分とぬるくなったものですね」


 そう言いながらも、ヤーグさんは手を挙げて降参のポーズを取る。


「そんなに急かさなくても話してあげますよ。ユリアスの戦い方と奴が使う魔法について。そして、奴に対抗するための方法をこの私――ヴェルマー王国高等魔法技官ヤーグバール・テルベリエがね」


 すいません。カッコつけているところ悪いのですが何を言っているのか分かりません。ついでに、まだ話が続くんですかね? 気づいたんですが、ヒルダさんが居眠りしています。俺も寝てていいかな? 話が終わったら起こしてくれていいんで、ヤーグさんは思う存分、話していただいて結構ですよ。



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