療養
痛いよー痛いよー。痛くて泣きそうだけど、男の子なので我慢。
ユリアスと戦った結果、全身をボコボコにされてしまった俺は現在、療養中です。帰ろうと思って準備をしていたんだけど、思ったよりもダメージが大きかったようで、ちょっと動くことのが無理な感じ。なので、よくなるまで、町で休むことになりました。
「いやぁ、凄いなぁ。奴と戦って生き残れる奴がいるとは夢にも思わなかった」
俺がベッドに横になっていると、ヤーグさんがやってきて、やたら喋りかけてくるんだけど、なんなんだろうかコイツ。調子が悪いの見て分かるだろうに、気づかいが出来ねぇ奴だな。自分の屋敷を使わせてるんだからって、ちょっと調子に乗ってねぇかな?
別にヤーグさんの了承を得なくても、ヤーグさんの屋敷を使うことだって出来るんだぜ?
「ヤーグ殿、少しうるさいぞ」
ベッドサイドで俺の看病をしてくれるヒルダさんがヤーグさんを叱ってくれました。まぁ、ヒルダさんもうるさいんで何処かに行ってくれると嬉しいんですがね。
「アロルド殿、果物はどうだ? 私が切ってみたんだが」
食べたいけどさぁ、俺が聞いた話だと、レブナントとか人間とか魔物とか斬った剣で果物を切ったとか聞いたんですけど。まぁ、でも別に問題ないか。俺は口を開けてヒルダさんに果物を口に入れてもらう。
「わぁ、羨ましい。私も昔はこういうことをしてもらっていたなぁ」
「ヤーグ殿、いい加減どこかに行ってくれ」
ヒルダさんは俺の口の中に果物を運びつつ、ヤーグさんを邪魔者扱いする。なんで、こんなにヒルダさんがヤーグさんに対して当たりが強いかというと、俺がユリアスと戦っている際に真っ先に逃げ出したからだとかなんとか。その時に俺は絶対に殺されてるから助けに行く必要が無いとか言ったんだってさ。酷いよね。
「いい加減、許してくれないか? まさか奴と戦える人間がいるとは思わなかったんだからさ」
「勝てる勝てないを別として、まずは助けに行くのが人の道であり、騎士の道だろう。それなのに貴公は自らの保身のために逃げ出したのだ、貴公も騎士の家に生まれたのならば、恥を知れ」
結構、ガチな感じでヒルダさんが怒っているので俺は何も言わないことにします。
「いや、でも私は魔法使いだし、文官だしな」
「そうなのか? では、うーん、どうなんだろうか? 逃げても問題ないのか?」
魔法使いでも何でもいいから、帰ってくんないかな。うるさくて頭に響くんだけど。俺がそんな感じにウンザリしていると、ドアが開いてグレアムさんが部屋の中に入ってくる。
「やぁ、戻ったよ。」
俺が動けないので、グレアムさんにはエリアナさん達の所に戻って、色々とヴェルマー王国領に関しての情報を伝えて来てもらったわけなんだけど、どんな報告が貰えるんだろうね。
「これ、お土産ね」
グレアムさんはお酒が入った瓶とベーコンをヒルダに渡す。最近、碌なものを食べたりしてないんで非常にありがたいです。それを持ってきてくれただけで充分な仕事をしたんで、グレアムさんはもう帰って良いよ。ここに居られるとうるさくなりそうだし。
「それで、エリアナ達だけど、一気にここまで来るのは難しいから、ヴェルマー王国側の山脈の麓に拠点を築くとかいう話になったよ。それで俺達もそっちに合流ってことになった」
「そうか」
マジかぁって感じ。文句言うのは良くないから平然とした顔をしてるけど、本当はすごく嫌。正直、もうベッドから出たくない。だって、この状態の方が楽だしね。
「というわけなんで、もう何日か待機したら、出発しようか」
「わかった」
もう出発することは確定なのか。じゃあ我慢して行くしかないな。はぁ、憂鬱だ。何が憂鬱かって、ヴェルマー王国にいたらユリアスと鉢合わせする可能性があるっていうのが、憂鬱だ。
「――ところで、あのユリアス・アークスっていうレブナントと戦ってどうだった? エリアナ達が奴の情報も知りたがっているんだけど、実際の所、勝ち目ってありそうかい?」
こっちが憂鬱な気分だってのに、どうして、その原因のことを聞くかなぁ。マジで人の気持ちとか分からないんだろうか? まぁ、俺も分からないんで、おあいこですけど。
「一対一なら絶対に無理だ」
嘘をついても仕方ないので、正直に答えました。俺の答えに部屋の中にまだ居たヤーグさんが当然だと頷いているのが、なんだかムカつくんですが。
「どうしてだい?」
「単純に力が強く、動きが速い、そのうえ魔法やら何やらで器用な攻撃をしてくる」
「それはアロルド君でもどうにもならないくらいかい?」
「そうだ」
実際、ボコボコにされましたからね。途中、何回か反撃はしていたけど、俺の攻撃は効いてない感じだったし、アレを倒すのは無理でしょう。
「うーん、アロルド君がそう言うなら、本当に無理なんだろうねぇ。じゃあ、奴とは関わらない方向性で行ったほうが良いとエリアナ達にも伝えてこようか」
「それは、どういう方向性なのだ?」
俺に食べさせる果物が無くなり手持ち無沙汰になったヒルダさんがグレアムさんに尋ねる。できれば、ヒルダさんは俺の看病係なんだから、お土産のお酒を入れるコップと持ってくるのと、ベーコンを切り分けてきてほしいんだけど、まぁいいや。
「ヴェルマー王国の中央までは征服せず、この周辺で妥協して、この地を発展させるとか、そういう方向性らしい」
なるほどね。絶対に王都を手に入れる必要があるわけじゃないし、この辺りの土地で満足しても問題はないよな。そうすりゃユリアスのいる王都に行かなくても良いわけだし――
「いや、それは無理だろう」
俺達の良い考えを否定する奴がいました。それは誰でしょうか? この部屋の中で否定的な意見を言うのは一人しかいません。そう、ヤーグさんです。
「なぜだい?」
当然、グレアムさんも理由を聞きたがりますよね。俺も聞きたいです。たいした理由じゃなかったら、首を落としてやりましょう。ただ、俺は体が痛いのでグレアムさん、殺っちゃってください。
「なぜと言われてもね。普通に考えれば分かると思うんですが、突然やってきた余所者が、自分たちの領土を占領したら許さないでしょう? 貴方たちはヴェルマー王国にとっては侵略者なわけで、そんな奴らを国王陛下が見逃すわけがない」
「国王陛下?」
そりゃまぁヴェルマー王国なんだからいるとは思うけど、国王が何をするんでしょうかね。
「そう、国王陛下です。ヴェルマー王国をこんな状態にした元凶で、今はレブナントの王」
「それが命令でもするのかい?」
「その通り、国王陛下はヴェルマー王国の全てのレブナントにどこに居ようとも命令をすることの可能な唯一の存在です。その国王陛下が、貴方たちを殲滅するように王国全土のレブナントに命を下す可能性があるので、何も考えずにこの辺りに手を出すのは危険だと私は思いますね」
そっか、じゃあヴェルマー王国は諦めてアドラ王国に帰りますか。それはそうと、この国の王様がレブナントに指示を出せるなら、ヤーグさんはどうなんだろうかと思うんだけど、もしかしたらこの場で始末をしておいた方が良いかな?
「何を考えているのか想像がつくので言っておきますが、私やユリアスのような自我を持つレブナントは操れませんよ。陛下が出来るのは、そこらにいる自我の弱い、もしくは自我の無いレブナントを操ることです」
「では、ユリアスが誰かの命令で俺達を攻撃することは無いのか?」
ユリアスに命令できないって言うなら、なんか大丈夫そうな気がするんだよね。正直、一万のレブナント軍勢より、一人のユリアスの方が怖いし。だって、一万のレブナントとかは、こっちも軍勢を集めれば正面から対処できるけど、ユリアスの方は何処から攻めてくるか分からんから対処の仕様が無いしさ。
「まぁ、あの男が今の状況で陛下の命令を聞くとは思えないので、陛下の指示で貴方たちを攻撃することは無いでしょう。ただし、貴方たちがヴェルマー王国の一部を占領したら、奴は間違いなく個人的な感情で貴方たちを攻撃するでしょうね」
「個人的な感情とは?」
「奴は自分が舐められてると感じたら殺しに掛かってくるんです。『最強の俺を舐めるなんて許せねぇな、ぶっ殺す!』ってそんな感じです。嫌になりますよね」
それはマジで嫌になるね。ヤーグさんの言葉からも本当にウンザリしている感が伝わってくるのが俺でも分かるし、なんとなくだけど、ユリアスに苦労させられてるってのも俺ですら理解できるくらいだ。
「ついでに、奴の気分次第でもあるんですが『最強の俺がいる国に対して舐めた真似をしているとか、遠回しに俺の最強っぷりを甘く見てるんだよな? ぶっ殺す!』ってなる場合もあるので、貴方たちの行動は危ないと思いますよ」
ヒエーっ、頭おかしい人じゃんか。俺は頭おかしい人とは関わりたくないんだよね。でも、最近、頭おかしい人と関わっている気がするな、例えばセイリオス・アークス、そしてユリアス・アークス、関係ないけど、俺はアロルド・アークス。なんだか、共通点があるような気がするけど、気のせいだな。だって、俺はおかしくないし。
「というわけで、この辺りに拠点を作ってノンビリと発展させるというのはお勧めしませんね」
ヤーグさんが、そう締めくくると部屋の中はシーンとなる。ようやく静かになってくれたので、俺は嬉しい。このまま、黙って解散してくれれば、俺はお昼寝タイムに入れるんですがね。
「……ところでさぁ、ヤーグ殿は随分とユリアスに詳しいようだけど、奴とはどういう関係なのかねぇ」
沈黙状態なのが嫌だったのか、グレアムさんがヤーグさんに質問しました。俺としてはお昼寝をしたい気分なので、どっか別の所でやってもらえると嬉しい。
「それは私も気になるな。もしもヤーグ殿とユリアスが親しい関係ならば、我々の仲間のふりをして奴に情報を流しているかもしれない」
ヒルダさんが珍しく頭を使った発言をしました。つーか、ヒルダさんってヤーグさんのことを嫌い過ぎじゃないかな。普段はそんな人を疑うようなことを言う子じゃないでしょ貴方。
俺は悲しい。人が人を疑うなど! でもヤーグさんはレブナントだし、人間じゃないから別に良いか。怪しいので殺ってしまってください、グレアムさん、ヒルダさん。
「待て、待て! 確かに奴とは長い付き合いだが、親しいわけじゃない! 知っているのは奴の経歴と能力と人となりくらいだ!」
お、必死になりやがりましたよ。疑わしい奴は何をやっても疑わしいんだよなぁ。必死に弁解しても胡散臭いし、シレっとした態度で平然と関係を否定しても怪しいんだよな。
「うーむ、その程度ならば、親しいとは言えないのか? 良く分からないな」
ヒルダさんは首を傾げているけれど、グレアムさんはヤーグさんの発言に対して興味深いと言いたげな顔をしている。俺は? 俺はどうでも良いです。
「それだけ知っているなら、せっかくだしユリアス・アークスについて教えてくれないかい? 奴じゃなく、俺達の側につくなら、それくらいは良いだろう?」
「まぁ、それは構わないですよ。最初から話そうと思っていたことですしね」
なんだよ、まだ話があるの? 内容はユリアス・アークスについて?
もう帰ってくれませんかね、俺はお昼寝をしたいし、寝る前にあの野郎の話なんて聞いたら、夢の中にあの野郎が出てきそうで嫌なんですが、そういう配慮はできないんですかね?




