新天地へ
「――というわけで征服するぞ」
とりあえず俺は宣言しました。
モーディウスさんの所から帰ってきた俺とエリアナさんは、そこで聞いた話を他の奴らにも伝え、その上で本来はエリアナさんの物になるみたいな話の土地を手に入れに行くことを宣言しました。諸々の説明はエリアナさんがしてくれたので問題は無いでしょう。代わりに話してくれる人がいると俺は口を動かさずに済むから楽でいいね。
「質問いいですか?」
エイジ君が俺や他の奴らの言葉を書き記しつつ手を挙げた。会議をやってるわけでもないし、司会進行もいないので、とりあえず俺が許可を出す。
「話せ」
「えーと、これから向かうことになる旧ヴェルマー王国はエリアナさんの物になるんですよね? そうなると、それってエリアナさんの御実家の公爵家の物になるとかで自分たちには何の得もないとかそんなことになりませんか?」
それの何が悪いわけ? 別にいいじゃん。エリアナさんがお金持ちになれば、将来の夫の俺は養ってもらえるんだぜ? なんの問題があるんだよ。
「ならないわね」
エリアナさんがエイジ君の疑問に答えました。そうかならないのかって俺も理解しました。……何で? エイジ君以外のみんなもエリアナさんを見ます。
「土地の所有権が私にあるという証明の仕様が無いもの。文書で残っているわけでもないし、証拠は何百年前かも分からないほど昔に生きていたアンデッドが言った、昔の王女に顔が似ていたとかそういう程度の物。これで私に正当性があると証明できるわけがないわ」
みんながそれもそうだなと頷く。俺はそんなことないと思うけど、とりあえず頷く。しかし、そうなるとヴェルマー王国って誰の土地になるわけ?
住人は全員アンデッドみたいな感じらしいし、アンデッドって土地とか資産を持っていていいのかね? ちょっと聞いてみましょうか。
「では、誰の物だ?」
「誰の物でもないわ。アンデッドは死んでないけど生きてもいないのだから、土地の所有権なんてないわ。少なくともアドラ王国の法ではね」
そうかぁ。じゃあ、俺たちの前には誰の物でも無い土地が転がっているわけだ。……これは手に入れちゃっても問題ないんじゃない? 別に悪いことじゃないよね。だって、元の持ち主はアンデッドなわけだし、そんな奴らが持っているってのは宝の持ち腐れじゃない?
「では、やはり征服だな」
みんなが俺を見る。別におかしなことは言っていないと思うんだけどな。とりあえず、手に入れてエリアナさんの物にして、俺はエリアナさんに養ってもらえると助かる。
「俺達の前には誰の支配下にもない新天地がある。昔の奴らのことなど知ったことか。死人どもではなく生きている俺達が手に入れ、有効に活用するべきだ」
俺の言葉に対して、エリアナさんとグレアムさんにオリアスさんが頷く。他はまぁ、曖昧な感じだけど、なんだかんだで手伝ってくれるだろう。
「そうね。いい加減、アロルド君にも領地と言えるような物が必要だし、山を越えた先の土地がどれくらいかは分からないけれど、そこなら誰からの横槍も入れられずにアロルド君の物にできるわ」
「いいねぇ。いきなり大領主になるとか男の夢って奴だねぇ。色々と厄介ごともありそうで楽しそうだ」
「まぁ、俺はアロルドに従うだけだから、どうでも良いわな。アロルドの立場が安定すりゃ俺も安定するしな」
――というのが、俺の考えに肯定してくれる人たちの意見です。否定する人の意見は? 別に聞いたって仕方ねぇよ。エリアナさんとグレアムさんとオリアスさんが同意見なら、みんながそれに従うしかないしな。
「まぁ、俺も反対ではないですけど。どんな場所か分からないのに期待するのもどうかと思いますよ」
エイジ君が水を差してくるのがウザい。みんなで盛り上がっている……か分からないけれど、なんとなくいい感じの目標が出来てきたのに、そういうこという奴は嫌だね。
とはいえ、言われてみるとエイジ君の言い分も当然だな。思ったより大した場所じゃなかった時とか、はしゃいでる俺が恥ずかしい感じになるじゃん。そういうの凄く嫌なんだけど。となると、アレだな。
「それならば、本隊とは別よに数名が先行して偵察するべきか」
誰かが様子見してきて、駄目そうだったら帰るという方向性でいこうね。到着したら期待外れででガッカリとかしないように、なんというかこう、気を遣った報告をするようにとかそういう感じでさ。
「場合によっては山越えをせずに帰るのも悪くは無いだろう」
目的も無く山越えをしようとしてたわけだし、別にこのまま進んでも当初の予定通りなんだけど、越えた先に何もないとなると進みたくないな。なんだか凄い徒労感があるしさ。
「えーと、モーディウスとか言う人に頼まれたんですよね」
「それがどうした?」
何を言っているんですかねエイジ君は。
「俺達には奴の頼みに応えてやる義理がそもそも無い。何百年も前の話をされたところで今の俺達には関係がないのだから、頼みごとを聞いてやるのは俺の善意という気まぐれによるものだ。契約や報酬に縛られているわけではないのだから、奴の頼みに絶対に応えるべきだという必要性を感じない」
頼み事は聞いてあげたいし、なんとかするために頑張ってあげることも吝かではないけれど、そういうのを強制されるのは嫌なんだよな。契約とか報酬があるなら話は別だけど、その時の気分で了承したことを絶対にやらないといけないことみたいにされるのはなんか嫌だ。
「別に積極的に拒否をするつもりはない。奴の頼みを聞いてやることが結果的に俺達にとって魅力的な結果をもたらす。もしくは俺たちに不利益をもたらすわけではないというなら、喜んで奴の頼みに対して応えてやろうじゃないか。だが、そのためには偵察に行って、情報を得てきてもらわないとな」
まぁ、俺が困ったり嫌な思いをしたりしないのであれば、モーディウスさんの頼みを聞いても良いという俺の結論です。
「じゃあ、誰が行くのか。どれくらいの人数で行くのかを決めないとねぇ」
グレアムさんが提案する。こういうのは言い出しっぺが考えるべきだと思うので、グレアムさんに全部任せる方向性で行こう。ただし――
「俺が行くのは確定だ」
そう俺が行きますよ。だって退屈だし、良い土地かどうかは俺も判断したいしさ。他の人にはガッカリでも俺にとってはワクワクかもしれないわけで、誰かがガッカリな土地とか報告して、それを俺の目で確認せず納得したら良くないわけで、そういうことが無いように自分の目で確認して評価しないとね。
――――数日後。
「とりあえず、俺とアロルド君にヒルダ、その他に冒険者の精鋭三十名。これで先行して山越えをしよう」
俺とグレアムさんとヒルダさん、それと冒険者三十人が本隊から離れて行動を開始する。一応、山道らしきものはあるので、そこを通ってガルデナ山脈を越えてヴェルマー王国領まで向かうことになった。
可能な限り荷物や装備は少なくして行軍速度を上げるというグレアムさんの提案に従って、俺は鎧を着けずに腰に剣を帯びている程度の装備。グレアムさんとか他の冒険者はそれに加えて、銃を担いでいた。
移動手段に関してはギリギリ馬が走れるくらいには山道が整備されているので、馬を使うことにした。ただし、俺の愛馬のドラウギースに関しては速度に関して申し分は無いものの、馬体が大きすぎて邪魔だし、メシも食いすぎるので連れて行かないことになった。
ちなみに、諸々の手配とかはグレアムさんにやってもらいました。俺は出来ないから仕方ないね。こういうのは出来る人がやるのが一番だよ。
あと、ついでの情報なんだけど、オリアスさんは本隊に残ることになったとかなんとか。なんでも、エリアナさんがオリアスさんとキリエちゃんにやってもらいたいことがあるとかで残ることになりました。キリエちゃんの方は研究者タイプだから、偵察にはあまり必要じゃないけど、オリアスさんは超武闘派だから一緒に来てもらっても良かったような気がするんだけどね。まぁ、その代わりと言ってはなんだけど――
「古の王国か。ワクワクする話だと思わないか、アロルド殿」
ヒルダさんがついてくることになりました。本人は知らないものの、エリアナさん曰く『正直、ここに居ても役に立たないから連れて行ってあげて』という厄介払いに近い感じで俺達との同行が決定したわけです。まぁ、実際ヒルダさんは戦うくらいしか出来ないんで、それも仕方ないかと俺も思うわけです。なんだか、優しくしてあげようって気持ちになりますね。
「ああ、そうだな」
俺は同意し、ヒルダと並びながら馬を走らせる。
実際、どんな所なんだろうね、ヴェルマー王国ってのはさ。まぁ、俺の想像力だと考えた所で無駄だし、そんなことを考えるより、スピードを上げてさっさと到着を目指しましょうかね。




