ヴェルマー王国
「このガルデナ山脈の西に我々の国であるヴェルマー王国は存在していました」
モーディウスさんの話の始まりはそんな感じだった。
俺としては「はぁ、そうですか」って感じなんだけど、エリアナさんは真面目に聞いているようなんで俺も真面目に聞いているフリをしておきます。
「それなりに栄えた国でして、ガルデナ山脈の西に興り、東を征し、南に覇を唱えておりました」
「ちょっと待って、南ってことはイグニス帝国も領土だったということなの?」
そういえばそんな国もあったね。前に戦をしたノール皇子の国だっけか?
そういや、皇子に手紙でも出そうかね、一応友達だし。でも、届ける手段が思いつかないんだよなぁ。
「イグニスの名があるということはイグニス家の人間が興した国でしょうから、おそらくはその地も我らの領土でしょう。言っているのがコーネリウス回廊を越えた土地であるならばですが」
そういや、コーネリウスさんとも連絡とってないね。
しかし、モーディウスさんと話してると色々と懐かしい名前が出てくるなぁ。
「なんだか色々と分からないことが多いんだけれども、話から察するにイグニス帝国の皇家も、コーネリウス大公家も元はヴェルマー王国の臣下であったということでいいのかしら」
「名前が同じというだけでないならば、そうでしょうな。イグニス家もコーネリウス家もヴェルマー王国においては多少は有力であったものの一貴族だったと記憶しております」
その割にはヴェルマー王国の名前なんか何処にもないけどな。
まぁ、昔は誰かの子分だったんですとかいう話があると、偉い人もカッコ悪く見えるし黙ってるのかもしんないね。
王都で落ちこぼれて地元に帰ってきたとして、地元でデカい顔するためには王都の話とかしないようにするだろうし、そんなのと似た感じかな。
それに大昔の話っぽいから忘れられることだってあんのかもしんないね。俺だって一昨日のこととか記憶があやふやになるしさ。
「しかし、イグニス家とコーネリウス家の栄達を聞くに、やはり長い時が過ぎたのだと実感しますな。アドラ家が王を名乗るなどは納得できませんが」
そこはもう我慢するべきだと思うよ。
実際、王様になってるわけだし、それなりに苦労もしたんだろうから頭ごなしに否定するんじゃなくて柔軟に行こうぜ。
俺はいまいち正当性とか分かんないし、今の王家で困ったりなんかはしてないから王家に不満があるわけでもないんで、今の王家で良いと思うしさ。
「恨み言を聞きに来たわけではないんで、要点だけさっさと話してくれないか?」
エリアナさんは聞きたそうにしているけど、俺としては正直、興味がないんでさっさと終わりにして欲しいもんだ。
「確かにそうですな。今の時代に思いを馳せるのはまたの機会にするとして、我々について話を続けましょう。どこまで話しましたかな?」
「それなりに栄えていたという所までは聞いた」
「では、どうして我々の国が滅んだのかを話すべきでしょうな」
最初から、それを話してくれていればよろしかったんではないでしょうかね?
いやまぁ、俺は何を話されても興味はないんだけども。
「あれは何時の頃だったでしょうか。確か殿下が軍を率いての丁度十回目の遠征の時だったでしょうか」
殿下って誰だよ。
どこの殿下? 俺の知っている殿下だと、ウーゼル殿下とノール殿下しかいないんだけども、その二人ってわけじゃないだろうしなぁ。そうなると知らない人なわけだし、どこの誰だか知らない人がなんか頑張ってましたってだけの話だろうし、どうでもいいや。
「当時、王国は近隣の地を征服し、領土を急速に拡大したために、王国の支配に反感を持つ者たちによる反乱が頻発しておりました。殿下も軍を率いて反乱を鎮圧していました。反乱といっても所詮は敗者の群れが起こしたものであり鎮圧は容易、実際に殿下も鎮圧には何度も成功しておりました。ですが、十回目のその時――」
「しくじって死んだか」
俺が言うとモーディウスさんが頷く。
肝心なところを取ってしまって悪いけども、何を言うかはだいたい想像がついたし先に言ってやった方が面倒がなくて済むよね。
話の内容はあんまり理解してないけど、生きてたら深刻そうに話さないから死んでいる以外に無いと思ったけど、大当たりで何よりだね。外してたら恥ずかしくて帰らざるをえなかった所だぜ。
「ある時、偶然に流れ矢が殿下に当たり、そして更に運の悪いことに矢は急所に当たり、あえなく命を落とした次第であります」
「こう言うのは酷いかもしれないけど、王子の一人や二人死んだところで大勢に影響はないんじゃないかしら? だって他にも王子はいるわけだし、王子の一人が死んだくらいのことがそんなに大事かしら?」
エリアナさんがそう言うとモーディウスさんは首を横に振る。
つまりは大事だったってことだね。そりゃあ大変だ、でもまぁ既に過去の話だし現代を生きている俺ら的にはそんなに大変なことでもないね。
「男子は亡くなられた殿下唯一人だったのです」
それはそれでいいんじゃなかろうか。
俺の家なんか、男二人だけど一人はセイリオスだぜ。二人いた所で良いことなんか無いって。
「跡継ぎを失った陛下は大層嘆き悲しみました。そして、悲嘆に暮れて日々を過ごしつつ、政への意欲失うい、やがて怪しげな魔術の研究へと没頭し始めたのです。それが、王国の終わりの始まりでした」
怪しいことはせずに真面目に暮らそうってことだね。
もう、そういう結論で終わりにしませんか?
……終わりにしませんか、そうですか、じゃあ話を続けていてください。
良く分かんないけど、王様が怪しげな儀式をやったら大変なことが起きて、国が大変なことになって、色々と大変で、大変なことに国が滅んだとかそういうことだろ? いやぁ大変だなぁ。何が大変なのか俺には全く理解できないけどさ。
「陛下は政に無関心となり、邪法の研究に夢中になりました。それは死者を生き返らせるための術であり、亡くなられた殿下を蘇らせるため物でした。陛下はそのために王国の財を湯水の如く使い、実験のために民の命を弄びました」
湯水が如くって言うけど、俺の実家のある辺りだとそれって大事に扱うって意味になるんだよね。あんまり水源の具合がよろしくなかったみたいだしさ。
王都とかだと逆の意味になるらしいけど。で、何の話をしてたんだっけ?
「そしてある日のことです。未だにどのような儀式を行ったのか定かではありませんが、あの日の陛下は極めて上機嫌であったことを憶えております。殿下を生き返らせる方法を見つけたと嬉々として語っておりま――」
「で、儀式が失敗したということか」
「それは定かではありませんな。陛下の研究は殿下を生き返らせることから永遠の命を得ることに変わっていた節もあるため、その研究であればある意味では成功したといってもよいでしょう。我々がこうしてここに存在しているのですから」
いやぁ、生きてるんだか死んでるんだか分かんないような状態を永遠の命が手に入ったというのかね?
良く分かんないけど、半分死んでるわけだし、完璧だったら十割生きてるわけでしょ?
一枚の肉焼いてて半分焦がして、半分完璧に焼けてるのを成功って言わないだろうし、普通の感性の持ち主だったら失敗って言うよね? つまりは、失敗じゃね?
「もっとも、私は最後まで儀式を見届けなかったのでハッキリと何が起きたのかは分からないのですが。なにぶん、別件があり、城から離れていたもので」
「それは貴方がこんな場所にいることと関係があるの」
「ええ、それはありますとも。更に言えば、おそらくは貴方とも関りがあることでしょうな。とはいえ、そのことについて確信を得るためには一つ貴方に聞かなければいけないことがあるのですが」
そう言ってモーディウスさんはエリアナさんを見ながら尋ねる。
どうやら、俺のことは眼中にないようです。まぁ、俺もモーディウスさんのことはどうでもいいんで、どんな風に思われようが構わないんで、別に構わないんですけどね。
「貴女のお名前を窺ってもよろしいですかな?」
「エリアナ・イスターシャよ」
エリアナさんの答えにモーディウスさんは納得したように頷く。
俺は良く分からんし、エリアナさんもモーディウスさんが何を考えているのか良く分かっていない感じ。
こういう自分だけ何か分かってるような感じ出す奴って腹立つよね。正直、ぶん殴りたいんだけど、俺もいい加減、大人になって慎みというものを覚えてきたので、そういうことはしません。
「イスターシャ家であるならば、やはり関りがあるでしょう。私の別件の結果が、この場に貴女がいるということに繋がるのですからな」
よし、残り十分くらいな。
あと十分くらいして話が終わんなかったら、モーディウスさんと野営地にいる奴らをぶち殺して帰るわ。
こんだけ頑張って待ったんだから、俺って充分に慎み深いし分別のある大人ってことは証明できたしわけだし、もうキレても良い頃だと思うんだ。
大人だってキレる時はキレる。俺の父上だって良くキレていたし、大人はキレるもんなんだと思う。
とりあえず、あと五分したら俺が話を強制的に終了させるんで、モーディウスさんは後三分くらいで話を終わらせてください、よろしくお願いします。つーか、マジな話トイレにも行きたくなってきたんで何とかしてください、お願いします。




