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行列をなして

 

「ねぇ、ちょっと待って。これって大丈夫なの?」


 玉座のような椅子が乗った輿の上でエリアナさんが何か言っているけど無視。

 まぁ、大丈夫かどうかで言えば俺は大丈夫だと思うよ。どこがどう大丈夫なのか根拠みたいなのは全くないけどさ。ただまぁ、座り心地だけは良いんじゃないかな?


「いやぁ、見世物みたいだねぇ」


「顔だけは良いからな。そのままずっとそこに座っていてもらいもんだぜ」


 グレアムさんとオリアスさんがニヤニヤとした笑みを浮かべている。この二人とエリアナさんは仲が良くていいね。


「お前ら、憶えてろよ。後で絶対に嫌な思いをさせてやる」


「既にだいぶ嫌な思いを味わっているんだけどねぇ。俺たちの装備に対する予算が減らされてるしさぁ」


「こっちも戦闘が出来る魔法使いを後方業務に回されてて人材不足なんだがよ、そのことに対して何か言うことはねぇのかよ?」


 仲が良い三人は放っておきつつ、俺は改めてエリアナさんが乗っている輿を眺める。エリアナさんを人質にするとか言った後で突貫工事で作りあげた物だ。

 造りはそれほどたいしたもんじゃない。なんか良く分からんけど高級そうに見える台座に担ぐための持ち手を付け、その上で台座の上に玉座というかなんというか、これまた高級そうに見える椅子を置く。

 そんでもって、エリアナさんが椅子に座って偉そうにしているのを、台座に付いた持ち手を掴んで担ぎ上げるっていう感じ。


「はぁ、アロルド君が言うから仕方なく付き合ってあげるけど、危ないことにはならないわよね? それだけが心配なんだけど」


「心配するなら後ろから刺されないかどうか心配しろよ」


「少なくとも俺たちは後ろから刺してやりたい気持ちはあるんだけどねぇ」


「やってみなさいよ。絶対に復讐するわよ」


 話してても良いんだけどさ。そろそろ出発したいんだよね。

 なので、俺は三人に声をかけることにした。


「そろそろ出るぞ。エリアナは座っていろ」


 俺が声をかけると、グレアムさんとオリアスさんはエリアナさんを見ながら舌打ちをして、自分の持ち場に戻っていった。で、残されたエリアナさんはというと――


「アロルド君を疑うわけじゃないけど、これ危なくないかしら? 私って深窓の令嬢だから、こういう荒っぽい空間にいるのはちょっと辛いんだけど」


「心配するな、何があっても俺が守ってやる。俺がここまで言って尚、それでも危ないと思うか?」


 だって、エリアナさんがいないと予定が狂うし、そういうのは嫌だから守らないとね。

 まぁ、それ以前に俺のお嫁さんになる予定の人なんだから、当然危ないことにならないようにはしないといけないってことくらいは俺でも分かるよ。

 まぁ、そんなことを考えるなら、そもそもこんなことをさせなければ良いような気もするような、しないような。


「アロルド君がそう言ってくれるなら、まぁ……」


「では、行くとしよう。なに大船に乗ったつもりで悠々としていればいい」


 俺はエリアナさんに、そう言った後で全員に出発を伝える。

 数百人の冒険者からなる、大行列がエリアナさんを先頭に動き出す。

 これで、ようやく足止めされていた状態から解放される。なんだか良く分からない奴らが襲ってくるせいで、進めなかったけども、これからは大丈夫なはずだ。


「お頭、奴らが近づいてきますぜ」


 冒険者の一人が俺に報告してくる。

 奴らって誰だよって思うが、それで通じるくらい広まっている呼び名なら分からないと恥ずかしいので分かっているフリをしておく。


「ねぇ、本当に大丈夫なの?」


 冒険者たち輿を担がれ、運ばれているエリアナさんが輿の上の玉座から俺に話しかけてくる。


「心配するな、大丈夫だ」


 何が大丈夫なのかは良く分かんないけど、とりあえず大丈夫だって言っておく。

 駄目だったらその時はその時でどうにかすればいいだけなんだけど――


「ボス、奴が来ました!」


 いい加減、俺の呼び名を統一してもらえないかね。

 ボスだったり、お頭だったり、大将だったり、ギルドマスターだったり、ギルマスだったりで良く分かんないんだよね。たまに俺が呼ばれてるのかも分かんなくなるしさ。

 まぁ、今はそういうのはいいか。それよりも、なんか来るって話だけど……うん、見えてきたね。


 俺たちの進む先に、いつもの襲撃者たちが立ち並んでいる。

 対策がない状態であったら、面倒くさいことになっていただろうけど、今の俺達にはこいつらに対する切り札があるわけで――


「では、行くとしようか」


 エリアナを乗せた輿が真っ直ぐ襲撃者たちの前へと進んでいく。

 輿を運ぶ冒険者たちの顔色は良くないが、まぁ大丈夫だろう。襲われたときに身を守る手段が無いことにビビっているんだろうが、その心配は無いと思う。

 俺の思った通り、襲撃者たちは俺たちの姿を確認しても、突っ込んでくるようなことはせずに立ち尽くしたままなわけだしさ。


「ねぇ、このまま進むの? ちょっと怖いんだけど」


「ああ、このまま進むぞ」


 俺の返答を聞くなり、エリアナさんは大きくため息を吐くと、次の瞬間には覚悟を決めた表情になっていた。


 ほどなくして、俺達は襲撃者たちの前に姿を晒す。

 距離的にはエリアナさんの顔がハッキリと分かる距離だ。


「お頭、そろそろヤバいですって!」


 冒険者たちが悲鳴を上げ始めるが、大丈夫だ。なぜなら――


「見てみろ、あいつらのどこがヤバい?」


 ――俺たちの目の前の襲撃者は全員が跪いていた。

 エリアナさんの顔をハッキリと視認した瞬間に、これまで俺達を襲ってきた奴らは一斉に跪き、俺たちに道を開けたのだった。


 まぁ、予想通りってやつだ。

 だってこいつら、エリアナさんを誰かと間違えてるって話だし、そのエリアナさんと間違えている偉い人の手下みたいなもんだっていう感じだから、エリアナさんの姿を見せれば勘違いして道を開けてくれると思ったんだよね。


「ここまでは上手くいってるみたいだけど、これからは先は?」


「このまま進むだけだ」


「バレたりした大変そうね」


 それに関しては大丈夫なんじゃないかな。

 こいつらって殆どが頭悪そうだし、気づかないんじゃない?

 ――と、余裕をぶっこいていた矢先だった。


「ぁあぁぁああくすぅぅぅううう」


 エリアナさんに跪いていたうちの一匹というか一人?が俺に向かって突っ込んできた。

 どういう理由で突っ込んできたのかは分からないけれども、武器を持っていたので俺は咄嗟に剣を抜いて、そいつの首を刎ねる。


「……まぁ仕方ないとは思うけど、そんなことをして大丈夫なの? 仲間が殺されたらこいつらだって……」


 エリアナさんは何か心配しているようだけれど問題はないと思う。だって、仲間が死んでも跪いた姿勢のまま動こうとしないしさ。いやまぁ、何匹か動こうとしているようだけども、理性的っていうよりは本能的な感じだね。


「グレアム」


 俺が呼ぶとグレアムさんが動き出そうとしていた奴を斬り捨てる。

 そうしても、こいつらは動く気配を見せない。


「どうやら、頭の出来に個体差があるみたいね」


 エリアナさんがその様子を見て何かを理解したのか口を開く。


「私に向かって跪いたまま動かない奴、どういうわけかアロルド君を殺したい奴とか、ある程度パターンはあるにして、それぞれ反応に差があるわ」


 なんで俺を殺そうとするんだろうね。

 まぁ、人間なんて生きてりゃ自然と恨みを買うもんだから仕方ないか。

 全く人から嫌われない人間なんていないわけだし、俺が嫌われるってこともあるよな。


「動く奴は始末していいぞ。ああ、ついでに動かない奴も何人か殺してみてくれ」


 動き出す奴を殺しても特に反応がないようだから大丈夫だと思って俺は命令を出す。

 それと、エリアナさんに向かって跪いたままの奴らも、攻撃されたらどういう反応をするのか見てみたいので実験の意味も兼ねて、冒険者たちに何人?何匹? まぁどっちでもいいけど始末させる。


「本当に不気味な奴らね」


 そうして実験をした結果、こいつらに仲間意識とか状況判断能力は無いことが分かった。

 跪いている奴の首を刎ねても、その隣にいる奴は全く反応を示さず、ただエリアナさんに向かって頭を下げるということだけを優先していた。


「まぁ、そうでない奴らもいるようだがな」


 エリアナさんの乗った輿が止まり、俺は前方を見る。

 そこにいたのは、道を開けて跪いている奴らと同じ格好をした集団。だが、そいつらは跪かずに武器を構えている。


「どうやら、こちらが何者か分かっている奴らもいるようね」


 いや、それはどうだろうか。

 あいつらが殺気を向けているのは、俺達だけでエリアナさんには向かっていないんだよな。

 とりあえず、どういうつもりか聞いてみるとしよう。


「何か用か?」


 俺が尋ねると集団から俺に向かって凄まじい殺気が飛んでくる。

 まぁ、そんなもんを向けられても俺より弱い奴らだし、怖くもなんともないんだけどさ。


「キサマらは……ナニをしている……」


 何だろうな。すげぇ聞き取りづらい声だ。

 一応は聞き取れるけど掠れた声で耳障りだな。


「何といわれてもな。姫様の護衛だ」


 姫様で通ってるみたいだし、俺もエリアナさんを姫様ということにして話を合わせてみた。

 まぁ、俺のお姫様みたいなもんだし、そう呼ぶことに抵抗は無い。


「ヒメさまのゴエいはワレらのニンムで……ある。キサマらのこうどうはぐんきにイハンシテいる。いま……ここで、いはんしゃにはバツをあたえて……シヲもってつぐなってもらう」


 言っていることが良く分かんないけど、どうやら俺達を殺すつもりのようだ。

 相手の数は三十くらいだから、真正面からやっても勝てるだろうけども、危ないのは嫌だから楽な方法を取ってみようかな。


「俺たちに危害を加えるつもりのようだが、そんなことをすればどうなるか分かっているのか?」


 俺は剣を抜き放つと、その刃をエリアナさんの首筋に近づける。


「俺たちの何かしようとすれば大事な姫様の首が飛ぶぞ?」


 俺がそうやって脅すと俺達の前に立つ集団の動きが止まる。

 やっぱり、エリアナさんというかエリアナさんの顔をした人間はこいつらにとって極めて重要な存在のようだ。

 まぁ、そう予想していたからエリアナさんを人質にしたわけなんだけどさ。


「ヒキョウナ……」


「とりあえず武器を捨てるんだな。そうすれば悪いようにはしない」


 俺の将来のお嫁さんってことになってるから最初から酷いことをするつもりはないし、そもそも俺の側の人間なんだから、傷つけるつもりなんか無いんだよな。


「本当に人質になったわね」


 エリアナさんが小声で話しかけてくる。

 俺達を襲ってきた奴らはエリアナさんが大事なようだし、エリアナさんを傷つけるって言えば何もできなくなるとは思ったんだけど、まさかこんなに上手くいくとはなぁ。

 やっぱ、こいつらスゲー馬鹿だわ。


「少し試してみたいことがあるんだけど良いかしら?」


 尋ねられて俺は頷く。

 すると、エリアナさんは大きく息を吸い、そして――


「あの者たちは我が意に反する不忠者どもである! 皆のもの、奴らの首を刎ねよ!」


 エリアナさんは大声で命令を発する。

 急にそんなことを言われても冒険者連中は動けないが、その命令をしっかりと聞き届けていた者たちがいた。

 それは、エリアナさんに向かって跪く奴らで、エリアナさんの命令を聞いた瞬間に立ち上がると武器を抜き放って、俺達の前にいた集団に襲い掛かった。


「どうやら命令に従う以外は殆ど知能は無いようね」


 俺がエリアナさんの首筋に剣を当てているのにも関わらず、さっきまで跪いていた奴らは俺になんかは気にも留めずに、俺達の前方の集団へと向かって行った。


「話が通じるなら色々と聞きたかったけど、あの程度の頭ではちょっとね」


 集団はエリアナさんの言葉に従った奴らに呑みこまれ、すぐに死体へと変わって俺達の前に転がっていた。

 誰と勘違いしているかは分からないけれど、エリアナさんの命令を聞いてくれるなら何よりだ。


「どうなることやらと思ったけど、これなら問題は無さそうね」


 エリアナさんは一安心といった感じに大きく息を吐くと輿を進ませ、俺もそれについていく。

 どうやら、これから先は多少は楽な道のりになりそうだ。






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