先客の行方
さすがに二週間なにもなしはマズイと思ったので
「ぶち殺せぇ!」
うーん、なんだか凄いことになってきたぞ。
今日も今日とて、山の中に道を通す工事の最前線に俺はいるわけだけど、とうとうと言うか何と言うか魔物がいっぱい襲ってきました。
どいうわけか種類はまちまちでゴブリンがいたりオークとかオーガがいたり、虫とか鳥とか犬とかの姿をした魔物もいるわと大変なことになっているわけだけど、どういうわけか種類が違うのに統率が取れてんのよね。
まぁ、統率が取れていても所詮は魔物だし、そんなには怖くないけどさ。今だってグレアムさんが滅茶苦茶に殺しまわってるわけだし。とまぁ、そんなわけで俺たちは山道で戦闘中というわけです。
「いやぁ、大変だなぁ」
そうは言いながらもグレアムさんの顔は笑ってる。
全身が返り血塗れだってのによく笑えるもんだ。俺としては汚いから近寄らないでって思うよ。
グレアムさんは両手に剣を一本ずつ持ち、右の剣でオークの腹を斬り裂いて仕留めると、襲い掛かってきた犬型の魔物の頭に左の剣を突き立て、地面に縫い止める。続けて鳥型の魔物が上空から降下してくるけれども、それを右の剣を投げつけて撃墜する。
いつも思うが、遠距離を攻撃する手段がないからと言って剣をぶん投げるのはどうなんだろうね? まぁ当たるから良いけども外したら間抜けだよな。
そんなことを考えていたら、俺の方に赤くてデカいトカゲが突っ込んできた。
護衛として俺のそばに張り付いていた冒険者たちが盾になるが、トカゲの突進の勢いに負けて弾き飛ばされる。
身を守るものが無くなったんで、どうしたもんかと考えているとトカゲが口から火を吹いて来た。
まぁ、避けなくても大丈夫だろう。
俺に向かってきた火は近くにいた魔法使いが発動した〈障壁〉の魔法で防がれて俺まで届かないわけだし。
とはいえ、始末まではしてくれないから俺が何とかしないといけないわけで。
俺は剣を抜き、トカゲに向かって一気に距離を詰めると剣を振り下ろして頭を叩き潰す。
感触としては鋼の兜より少し硬い程度か? まぁ、その程度の硬さならスパッと斬れなくてもどうとでもなるわけで、俺の剣はトカゲの頭を斬ることは出来ないものの、その頭蓋を叩き割り、脳味噌を粉砕して即死させる。
俺は大トカゲの始末を終え、グレアムさんの方を見るとグレアムさんはグレアムさんで寄ってくる魔物を切り伏せていた。
右手に持っていた剣は投げつけた後なので左手の剣を右手に持ち替え、雄たけびをあげて近づいてくるゴブリンの首を一瞬で斬り飛ばし、その死体を続けて襲い掛かってくるゴブリンの集団に向けて蹴り飛ばす。
二匹ほどが飛んできた死体の直撃を食らい、死体に押しつぶされるとグレアムさんは近くに落ちていた槍を拾い上げ、死体と合わせて三匹のゴブリンの体をその槍で貫き仕留める。
「漫然と戦うなよー。とにかく一か所に押し込んでけぇ」
背後に近寄り棍棒を振り下ろしてきたオーガの手首を斬り飛ばし、続けて五メートルはありそうな巨体を駆け上がりオーガの首を落としつつグレアムさんは周囲に指示を出す。
冒険者は――まぁ、多少は死んでるがそんなにたいした数じゃないので問題はないだろう。死んだ奴はどうだったかは知らないが、生きている奴らの大半は魔物より強いわけで、グレアムさんに言われた通りに出来る余力はある。
盾を持っている冒険者が列を作り、魔物の集団に一斉に体当たりを仕掛けて一気に押し込んでいく。盾が無い奴は無い奴で武器を振り回すなりして魔物の後退を誘い、グレアムさんの言うとおりに一か所に押し込んでいく。
俺はというと、そこら辺にいたオークの足を斬り飛ばして、地面に転がすとそいつを思いっきり蹴っ飛ばし、それに小物な魔物を巻き込んで一か所に吹っ飛ばしていく。
そうして魔物たちを押し込んだ場所は山の中腹付近の割と開けた場所であり、そこに魔物たちを押し込んだ後は――
「じゃあ、俺らの出番だな」
オリアスさんが魔法使いやら銃兵やらを率いて魔物たちが集められた場所に狙いを定めていた。
「出し惜しみをせずに……放てっ!」
その号令の下、一か所に押し込められた魔物たちに対して魔法や銃弾が雨の様に降り注ぐ。
一匹一匹始末するよりはこうして一か所に集めた方が楽に始末できて良いよね。
ほどなくして一か所に集められた魔物たちは銃弾で全身を貫かれたり、魔法で焼かれたりといった死に様を晒しながら壊滅する。
「残りも片付けるとしますかねぇ」
チラホラと集めきれなかった魔物が近くで冒険者と散発的な戦闘を繰り返しているが、気配からすると既に逃げ腰なんで、それほど苦労はしないだろうと思い、俺も残りの魔物を始末するために動き出した。
「いやぁ、壮観だねぇ」
一通り魔物を魔物を始末し終えると、グレアムさんが通ってきた道を振り返り、そんなことを言う。
俺も気になったので振り返ってみると、グレアムさんの言うとおり確かに壮観であると感じる。
なにせ、辺り一面死体の山なわけだし、なかなか見るのは出来ない光景だよね。俺らが頑張って道を造ってきた山道に人間やら魔物の死体が転がっているのは何とも言えない感じ。
「死体を片付けろ」
邪魔だし、汚いから死体は適切に処理しなきゃいけないと思うのでそこら辺にいる冒険者に頼んでおきます。
どういう風にやれとかの指示は無し。そういう面倒くさいことは俺の考えることじゃないですし、そもそも考えてもイマイチ思いつかないしさ。
「そんじゃあ、俺は拠点設営か。はぁ、面倒くせぇ」
オリアスさんは何も言わずに動いてくれるから楽チンだね。
とりあえず、ようやくたどり着いた感のある山の中腹あたりのこの場所は死体の山さえどかせば、それなりの広さもある広場みたいな土地なんで、ここら辺に寝る場所とかを用意してもらうのは良いんじゃないですかね。
それに見晴らしも良いし、ちょっと本格的に観光を施設を建てても良いんじゃないかな? 辺りは岩だらけだけど、遠くを見れば樹海の緑やら、遠くのツヴェル村も見えるしさ。
「俺は荷物を見てこようかねぇ」
オリアスさんがいなくなったのでグレアムさんもどっかに行くようだ。
そういえば荷物はどうなってんだろうかね? 馬車で山を登るのは大変みたいな話をしてたけど――
そんなことを考えつつ、俺はすることもないので切り立った崖の端に立ち、下界を眺めることにした。
最近はこういうことをしていると、どこからともなく人がやってきて俺の姿をデッサンし始めるのでそういう人のために、真面目で意味深な感じの大物っぽさを出すのも忘れない。
「いやぁ、閣下は絵になりますなぁ」
商人に紛れてやってきた絵描きがそんなことを言っていたので、どうやら俺はモデルの才能があるらしい。
才能があるなら、それを活かさないのは世間に対する罪のような気がするので、頑張って格好つけてモデルをやっているわけです。
そうしてしばらく下界を眺めていると、広場に人の声と馬のいななきが聞こえてくる。
なんだか、俺のことをデッサンしている人の気配があるけれど、俺はモデルの才能は無いような気がするので、同じポーズのままじっとしているモデルとかはやってられません。なので、デッサンしている人は無視して、声が聞こえてくる方に向かうことにする。
「お頭。お待たせしやした」
誰だったか忘れたけれども、冒険者が俺に向かって大声で声をかけてきた。
その声の方を見ると、声をかけてきたらしい男は馬車の御者席にいた。
男の方はどこかで見たことがあるような無いような。だが、馬車の方は確実に見たことがない代物であり、男の方はどうでもいいが、俺は馬車が気になる。
どういう馬車かというと、とにかく長い。
正確には荷台を何台も連結して長くしており、そのうえで連結した荷台を十数頭の馬を縦長の二列で牽引しているので、馬と荷台を合わせてとんでもない長さになっている。
それに加えて、どういうわけか馬車の車輪が地面の上に置かれたレール上に置いてある。ついでに良く分からないがレールの下の地面だけわざわざ柔らかい土を積んであるのも良く分からん。
「名前を付けるなら軌道馬車って感じですかね」
御者席にいた男が俺のそばまで近づいてきて説明を始めだした。
ぶっちゃけ、そこまで気になるわけでもないんだけどね。つーか、初めて見るもんだなぁっていう程度の感心だから、もう興味はなくなったんだけど。
「地面を走らせると滑るし、車輪が引っかかることもあるんで、車輪を軌道上で回転させることで無駄な力を使わずに済むようにしたんすよ。んでもって、車輪とそれをつなぎ止める車軸を改造して、馬車の進行方向以外に進もうとすると、レールに車輪が引っかかって止まるって仕組みを作りやした。これで、斜面を進んでも荷台が後ろに行くってこたぁ無いと思いやすぜ。実際、ここまで馬車を運転してきて一度も荷台が後ろに引きずられるということはありやせんでした」
「そうか」
「そんでもってレールと馬車が歩く人間の邪魔にならないように道の左端を馬車専用道として整備もしてありやす。もちろん馬車の道の方は土を敷いてもらって馬が走りやすいようになってやすんでご心配なく。レールに関しては現状は魔法工兵の皆さんに魔法で石を出してもらって、更にそれを魔法で強化してるんですが、摩耗の問題もあるんで段階的に金属製のレールに換えていこうと考えていやす」
「そうか、ご苦労だったな」
話が長いから途中で聞いていませんでした。
まぁ、なんか良く分かんないけど、最終的にはレールを使った車だけが走る鉄の道を造るってことかな?
とりあえず頑張ってくださいって感じ。俺は面倒くさいのでお金とかは出してやっても良いけど、細かい所には口を出しません。
「今後も励め。何か必要な物があるならば用意してやろう」
「そいつぁ、有難いですね。俺としちゃあ、ちょっとばかりお駄賃が欲しいですが……」
じゃあ、金貨をやろう。
俺は懐から金貨を何枚か取り出すと男に渡す。そういや、この男の名前はなんだっけ?
なんか、メから始まる名前だったような。そんでもって、何かを頼んでいたような気がするけども何を頼んだっけか? うーん、思い出せないし、思い出すのが面倒くさいなぁ。
「へへ、まいど。これからも頑張らせてもらいますぜ」
男はニヤニヤとした笑みを浮かべながら金貨を懐に隠すと、不意に何かを思い出し、口を開く。
「おっと、そういえば、お頭に言伝があったんですが――」
「アロルド、ちょっと良いか?」
男が言葉を遮り、オリアスさんが声をかけてきた。
とりあえず、オリアスさんの方が勢いがあったので、そちらの方が重要そうな気配を感じた俺はオリアスさんの方に顔を向けて尋ねる。
「なんだ?」
「なんかよ、この辺りで魔法が使われた形跡があるんだが。つってもまぁ、最近じゃなくて百年以上前の感じだが、数人規模って感じでもないんで気になったから、一応報告しとくぜ」
ふーん、そうっすか。
大昔の人もここを拠点にしたってことっすかね。しっかし、そんなに大人数で山登りとは大変だね。
一体どこに行こうとしてたんやら俺には謎だぜ。俺もどこに向かっているのか謎だけどよ。
「なんだ、そっちも何か見つけたのかい?」
荷物を見てくるといったグレアムさんが、どういうわけか錆びた剣やら鎧の欠片を持って戻ってきた。
「それは何だ?」
「馬車を迎えに行った帰りに見つけたのさ。見た感じこっちも百年以上前の物だねぇ」
「前にもガルデナ山脈に挑戦した奴らはいるんだから、そういうのがあってもおかしかねぇだろ」
「でもねぇ。なんか王国の物とは様式が違うんだよねぇ」
言いながらグレアムさんが俺に向かって剣と鎧の破片を投げ渡してくる。
行儀が悪すぎてぶっ殺したくなるんだけど、どうしたもんかと思いつつ、俺は渡された剣と鎧の破片を眺めてみる。
「どちらも良いものだな」
魔物の素材を使ってるってのは何となく分かる。
デザイン自体は大量生産品の安物って感じだけれども質自体は王国の武具店に置いてあるものよりも明らかに上なのが錆びていても分かる。
「だろう? どういうわけか俺たちが使っている武具と同じくらいに良いものなんだよねぇ」
昔の人は良い物を使っていたってことだね。
いやぁ、昔の人は凄い。尊敬した!
「王国で魔物の素材を使った武具を使い始めたのは、俺達冒険者ギルドが最初のはずなのに、なんでこいつらは魔物素材の武具なんて持ってるんだろうねぇ」
「王国では俺たちが初めてだったというだけだろう」
俺達こそが起源だなんて自信持つと恥かくってことだね。
実は俺たちの知らない所で誰かが作っていたりとかしてたんじゃねぇの?
「そりゃあ、どういう意味だ?」
オリアスさんが俺に聞いてくるけど、俺に聞いてどうにかなるとでも思ってんでしょうかね
「さぁな」
どういう意味かなんて俺に聞かれても分かんねぇよ。なんとなく、そう思っただけなわけだしさ。
まぁ、色々と山の中にはあるってことなんじゃないかな。
「とにかく何があるかは分からないから気を付けた方が良いねぇ」
グレアムさんがそう締めくくってくれたので、この話は終わり。
とりあえず片方の話は終わったので、もう片方の中断していた話を聞くとしましょうか。
「で、言伝はなんだ?」
「ああ、はい。エリアナ姐さんがここに来るみたいなことを言ってやした」
あ、そっちの方が重要だわ。百年前以上前の良く分かんないものより、現代の美人の方が大事だよね。
オリアスさんとかグレアムさんが言っていたことはどうでもいいので、それよりもエリアナさんを出迎える準備を急ぐとしましょう。
なんか色々とありそうな気配だけど、それは後回しってことで。
今はエリアナさんに不自由が無いようにこの辺りの環境を整えなきゃな。
とにかく魔法工兵には頑張ってもらおうっと。




