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険しき道を穏やかに進む

 

 いい加減に男所帯の生活はうんざり。

 綺麗な女の人を見て目の保養と精神衛生の回復を図りたいなぁ。


「焼けましたよ」


 エイジ君が焼いた肉の乗った皿を俺に持ってきたけど、こういう塩と香草やら何やらの香辛料を振りかけて焼いただけの男料理ももう嫌なのよね。まぁ、お腹が空く方が嫌だから食べるけどさ。


 魔法工兵を動員して山を登り始めてから数日が経ち、進み具合は順調だけれども俺の精神状態は順調じゃない。男ばっかりの汗臭い中にずっといるせいで気分が悪くなってきた感じ。ついでに、非文化的環境にずっといるってことも都会っ子の俺にはかなりきつい。

 エリアナさん達を連れてくれば多少は俺の精神状態も改善されるだろうけど、エリアナさん達を風呂も何もない山奥に連れてくるのも躊躇われる。女の子に不自由な思いをさせるのも甲斐性なしっぽいから俺としては避けたいしさ。

 そういうわけでエリアナさん達は今の所キルゲンスに待機中。ジーク君も一緒に待機中なので、まぁ心配はいらないだろう。


 俺は焼けた肉を切り分けて口に運ぶ。

 筋張ってたいして美味くないけれども、まぁ我慢。

 屋外で食っているせいで視線も気になるけれど、それも我慢。

 ついで、悲鳴が聞こえてくるけど、それも我慢して肉を飲みこむ。


「もう少しマトモな物が食いたいが仕方ないか」


 食った肉はゴブリンの肉。

 俺を見てくる視線はゴブリンの物。

 ついでに聞こえてくる悲鳴は生きたまま肉を切り取られているゴブリンの物。


 なんで、ゴブリンの肉を食っているかというと美味いからではなくビビらせるため。

 思いの外、山に住んでいるゴブリンが多かったので、そいつらが俺達を襲ってこないように俺達がとっても怖い奴だと思い知らせるために、ゴブリンを攫って生きたまま肉をそぎ落として焼いて食べてる。

 ちなみに俺達の様子を覗いているゴブリンは俺たちがはおびき寄せた奴らで、俺たちのやっていることの一部始終を見届けさせたうえで、巣に帰ってもらうつもり。

 で、何があったかを巣の仲間にでも伝えてもらって、俺たちの怖さを理解してもらおうって思ってる。

 そんでもって、俺たちと関わると大変なことになるって結論を出してもらって、お互い不干渉って感じになるのが理想。

 まぁ、計算が狂って集団で襲い掛かって来られたらそれはそれで一層すればいいだけだから、問題は無い。困るのはちまちまと攻撃されることで、それをやられると作業が滞るから厄介なんだよな。


 俺が我慢しながら肉を食べ終える頃には俺達の様子を窺っていたゴブリンたちの気配は消えていた。

 逃げる時に発していた気配からすると、たぶん二度と襲ってこないだろう。

 これで心置きなく山を進めるはずだ


 ――そうしてゴブリンたちの襲撃という面倒から解放された俺たちは順調に作業を進め、山林地帯を抜けて岩山地帯に入った。


「とりあえず拠点だな」


 いつも通り、拠点を造るように魔法工兵に指示を出す。

 岩山に入り、足場が悪くなったので建物は建てられないかと思われそうだが、それなら足場自体を造れば良いわけで、たいして問題は無い。

 魔法工兵が石やら土を魔法で生み出して積み上げて、水平な土台を山の斜面に造り上げると、その上にいつもの石造の建物を建てる。その場しのぎの物なので中が空洞の直方体だが、今の所はこれで充分。


 魔法工兵が一通り建造を終えると、麓から休憩所を通って寝具やら何やらの生活用品が届く。

 話を聞く限りでは最初の休憩所付近は魔物の掃討が完全に終わり、危険な野生動物も追い払ったので一般人も気軽に行ける場所になったようだ。

 ついでに、ここが王国の開拓における最前線らしくて、おこぼれにあずかろうと王国中の商人もやってきているようでツヴェルの町周辺はかなり金の周りもいいとか。まぁ、山の中にいる俺にはたいして関係ありませんね。


 山林地帯から岩山に変わる入り口辺りで一泊した俺たちは更に進んでいく。

 やることはたいして変わらない。

 通ろうとする道に岩があれば吹き飛ばして進路を確保し、狭ければ進行方向に点在している岩を吹き飛ばして道を広くし、道になりそうな足場がないなら魔法を使って岩肌から土やら石を生やして足場を造って道にしていく。

 でもって、造っていく道は共通の規格でもってツヴェルの町の西の入り口から道幅が狭くなったり広くなったりしないようにしながら、途切れることがないように気をつけて繋げていく。

 どうしてそんなことをするのか聞かれても特に理由は無い。個人的に俺としてはキッチリとしていて乱れが無い方が気分が落ち着くってだけ。


「山越えっつーか工事じゃねぇ?」


 オリアスさんがそんなことを言ってくる。

 道が無くなってきたので、岩肌に穴をあけて道を通そうかなって感じになって来たのでオリアスさんに魔法を使ってもらおうと、工事現場の最前線に来てもらった。


「それが何か問題か?」


「俺は登山を想定してたんだがなぁ」


 じゃあ、険しくて足場がヤバくて、補給も何も受けられない山を一人で登っててください。

 俺はそういうのは嫌なんで、こうして皆に道を通してもらって、後ろからドンドンと補給を受けて楽に進んでいきたいんです。


「まぁ、文句を言うわけではねぇけどよ。……よし、お前ら離れろ、爆破すんぞ」


 オリアスさんは魔法で岩肌に小さな穴を開けると、そこに筒状の物体をいくつも押し込んでおり、それを終えると成り行きを見守っていた他の奴らに離れるように言うと、その直後に岩肌が大きな爆発を起こした。


「表面を爆発させても岩を削るのは中々面倒くせぇからな。こうやって爆弾で内側からドカンって奴よ」


 はぁ、そうっすか。

 それは良いんすけど、どうやら爆破した先は空洞というか何かの巣みたいなんすけど、どうすんすかね。


「うわぁ、バジリスクだぁ!」


 巣穴だったらしい空洞から全長が十数メートルはありそうな巨大な蛇が現れてきたけれど、まぁ別にって感じ。

 だって、あの蛇、巣をぶっ壊した奴を怒ってるのであって、巣を壊したのは俺じゃなくてオリアスさんだしさ。責任というかなんというか、そういうのはオリアスさんに何とかしてもらいましょう。


「任せた」


「しょうがねぇな」


 すぐに終わるんだから面倒くさいもないと思うけどな。

 まぁ、色々と文句を言いたい年ごろって奴なんでしょうね。オリアスさんは俺よりも年上のはずだけども。


「おら、死んどけ」


 やる気のない口調で言いながらオリアスさんは石礫を魔法で生み出すと、それを蛇の目に向かって魔法の力を使って発射する。

 それは吸い込まれるように蛇の目玉に直撃し、目を潰された蛇はのたうち回る。

 続けてオリアスさんは石の杭を魔法で地面から発生させて、それでのたうち回る蛇を串刺しにすると、さらに蛇の体に刺さっている石の杭を爆発させて、その威力で蛇の体を引き千切る。


「まぁ、こんなもんだろ。おら、作業再開!」


 蛇のバラバラ死体が転がっていて気持ち悪いんだけど、それに関しても責任を取ってもらいたいんだが。



 結局、毒があるみたいで食肉にもできないらしい、あの大きな蛇は放っておくことにしました。

 たまに亡霊が出るっていう騒ぎもあったけれど、まぁちょっとくらい怪談があっても別に良いよね。

 そんでもって蛇が住んでいた巣穴に道を通す計画は、それなりに上手くいきました。巣穴の中にはあの蛇の子供もいたけど、邪魔なんで殺処分。子供の方は肉に毒がなかったので皆で美味しくいただきました。

 蛇の巣穴はそれなりの規模があったので、その中に道を通すことが出来た俺たちは山脈内での行動範囲がそれなりに増えたのも何よりって感じ。

 ただまぁ、それに関しては良いことばかりってわけじゃなくて問題もあって――


「本当に鬱陶しいな」


 俺はオーガの頭を握りつぶす。

 手がベットリと血やら何やらで汚れたのでハンカチで拭いながら辺りを見回すと工事をしている俺たちに向かって魔物の大群が襲ってきている真っただ中であった。

 どうやら、あの蛇は山の魔物たちの中でもそれなりに偉い存在だったらしく、そいつが死んだら山の魔物同士の縄張り争いが激化してついでに俺達も襲われているというわけだ。

 俺からすると何で縄張り争いをしているのかが良く分かんないね。山の仲間同士みんなで仲良くしたらいいじゃん。俺は山の仲間では無いので仲良くしたくないけど。


「どうするんだい」


 さっきまでグリフォンの群れを切り殺して回っていたグレアムさんとオリアスさんが血まみれの姿で俺のそばにやってくる。血生臭いので近寄らないで欲しいけど、それを口にしたら傷つきそうなんで黙ってあげています。


「どうもせずに来るものは拒まず始末するのが一番だろう」


 俺の結論としてはそんな感じです。ぶっちゃけ面倒くさいし、作業が遅れるのが嫌だしさ。

 山の中を走り回って魔物を駆除するのに冒険者を使うのは別に良いんだけど、それをやって作業が遅れるのは俺的に嫌なのよね。なので、作業は続行して道を通すの優先。やってくる魔物は皆殺しの方向性で。


「じゃあ、護衛の冒険者を増やそうかねぇ」


「頼んだ」


 グレアムさんは話が早くて助かるね。オリアスさんも話は早い方だし、この二人に任せておけば問題は無いだろう。

 さて、こんな風に話している間にも魔物は攻めてきているから他の冒険者の加勢に行った方が良いんだろうけど――


「すいやせん、お頭。お忙しい所かと思いますが、ちょっと問題が――」


 俺が魔物を皆殺しにしようと動き出した矢先に呼び止められた。

 呼び止めてきたのはどこかであったような記憶のある冒険者だった。

 どこであったかは思い出せないけど、なんかこの間、馬車がどうとか言ってきた奴だったような違うような――


「本格的に馬車での荷運びが辛くなってきやした。傾斜がキツイわ、地面は岩肌で滑って馬の足は滑るわでどうにもなりやせん。魔法工兵の皆さんが造ってくれた石の道は人間にゃ歩きやすいですが、馬にはどうにも厳しいもんで」


「そうか」


 うーん、確かに道を舗装しても険しい坂は多いしなぁ。

 俺らは最短距離で進むことを重視してたから、険しい坂というか絶壁みたいな場所でも迂回なんかせずに魔法でぶっ飛ばしてギリギリ人間の足で歩いて通れる坂に変えてたけど、そこを車を曳く馬が走るのはきついかな?


「では、何とかする方法をお前が考えろ」


「は?」


「お前の名は?」


「メーゼルですが……」


「では、メーゼルよ、お前に任せた。充分な物資が補給されなければ行動に支障が出る。馬が使えないというならそれ以外の方法で荷を運ぶしかないということは分かるな」


 なんか茫然としているし、分かって無さそうだけど、まぁいいや。

 責任は誰かにおっかぶせるに限るよね。なんか上手くいかなくなった時は俺の失敗だとか言いながらも、メーゼルが頑張ってくれなかったからとか、メーゼルの計画が上手くいってればとか、メーゼルの口車に乗った結果こうなったとか言って責任を分散させるのが俺にとっては良いよね。


「いや、お頭、自分にはそういうのは無理かと思いやすが――」


「それはつまり、俺がお前を選ぶのは失敗だと言いたいのか? 俺がそんなミスをする無能だと言いたいのか? 随分と良い度胸だな、俺にそんな口を利いて生きていた奴はどれくらいいると思っているんだ?」


 殆ど生きているので、別にどんな口を利かれても何かあるということはないっす。良い度胸と言ったのは相手を目の前にして無礼なことを考えているっていう所にだけかかっているわけで、俺以外の人に言ったら大変な目に遭うと思うってのを忠告してあげたわけです。

 俺はそんなに賢い人間っていうわけじゃないのは自覚してるんで、まぁ馬鹿だと言われても特に何も思わないし、たぶん失敗するだろうなぁって思っているし、まぁ何を言われても別にどうとも思わんよね。


「いえ、あっしはそんなつもりはなく――」


 どういうわけか震えているけれども、まぁ別に良いでしょう。

 ただ、気になることがあるんで聞いておきます。


「じゃあ、どういうつもりなんだ?」


「それは、その……ふ、粉骨砕身、お頭の希望に応えるため頑張らせていただく所存でして……」


「そうか、では頑張れ」


 やる気があるようで何よりです。

 とりあえず、輸送に関してはメーゼルに丸投げって方向性で行こう。

 俺が考えた所で良い考えが浮かばないかもしんないし、それだったら時間の無駄だから他の人に考えてもらった方が俺は考える時間を浪費しないで済むから時間の有効活用が出来るね。

 考えることを任せた人が何も思いつかなくても、俺の時間を浪費しているわけじゃないから問題ないわけだし、我ながら中々良い考えだぞ。


 というわけで、色々と面倒くさいことは他の人に頑張ってもらいましょう。

 その間に俺はさして面倒くさくない魔物退治に勤しむとしましょうかね。とりあえず、襲ってくる魔物は皆殺しの方向性で頑張ろうっと。








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