大開発
共存という言葉がある。
良くは分からんけど、お互いに上手くやっていきましょうって言葉らしい。
で、何で急にこんなことを思ったのかというと、ここ最近、俺に共存を訴えかけてくる人がいるからだ。
その人は別に俺と共存したいというわけではなく、俺に共存してほしいんだとさ。で、その人たちは俺に何と共存してほしいと言ってきたかというと、アレだ――
自然との共存だそうだ。
なんで、そんなことを言われるようになったかというと、その理由は俺の目の前の光景にあるらしい。
「今日の内に三百本は切り倒すぞー」
そんな声を出しながら、ツヴェル村に駐留している冒険者の一団が思い思いの大型武器を手にツヴェル樹海に乗り込んでいく。
ほどなくして感じられる地響きは樹海の木々が切り倒されたことによるものであり、まぁ、要するに冒険者連中は樹海の木の伐採を行っているというわけだ。
どうして、こんなことをやっているかというと……何でやっているんだっけ?
えーと、山脈越えを一回でやるのなんて無理だし何回か往復した方が良いと思ったんだよな。でも、山へ行くのに樹海があると往復が面倒くさいし、樹海の中だと馬車を使って荷物を運ぶってのもやりづらいから、いっそのこと樹海を切り拓いてしまおうとか思って皆に提案したんだったような違ったような。
「じゃあ、今日の整地を始めるぞー」
土木系の魔法使いがそんなことを言いながら、列を作り魔法で地面を平らにしていく。
魔法使いが平らにしている地面はツヴェル村の西の入り口から西へ西へと進み、樹海の方まで伸びていく。
これも山脈に行くまでの道を進みやすくするためにやってるんだよな。
樹海なんかは足元に色々とあるし、そういうの除去しないと馬車も進み辛いし、移動の楽さを考えてツヴェル村から山脈までを一直線に進めるような道を造るためにも整地は必須らしい。
一直線の道を造るのに邪魔なものは全て排除の方向性で、実際にツヴェル村の西の入り口近くにあった小高い丘も魔法を使って完全に削り平地にしたりもしてる。
その丘はツヴェル村の人にとっては憩いの場所で、村長さんが奥さんにプロポーズしたのもその丘だとかいう話を聞いたけど、だから何なんだろうかとしか思えなかったので、気にせずに丘を削って整地した。
後は樹海に入って少し進んだら泉があったんだけど、そこも埋め立ててしまった。水の精が怒るとか村人は言っていたけど、数日経っても何もないし、水の精なんていうのは迷信だろうから気にしないことにする。水源に関しては利用しやすいものを用意する予定だから小さな泉の一つや二つ無くなっても構わないだろうしさ。
とまぁ、こんな風に俺達が動きやすいようにツヴェル村の周辺の環境を変えていたら、ある日、村長さんに文句を言われた。
『我々は自然と共存して生きてきたというのに――』
まぁ、そういうわけで共存という言葉が出てきたんだよな。
でもさぁ、自然と共存って言う割にはアレだよね?
なんか、こっちばっかり気を遣ってない? こっちは自然を大事にしても自然は俺達を大事にはしてくれないよね。
まぁ共存だから、共生と違って共に生きていくっていうわけじゃなく、共に存在していれば良いだけだから、そんなに積極的に大事にしてもらえなくてもいいんだけど、俺にしてみれば、もう少し気を遣ってくれても良いと思うんだよなぁ。
支配者と被支配者という関係じゃないんだしさ、お互いに気を遣って生きていくべきだと思うけど、そういうそぶりは無いし、それだったらこっちも気を遣う必要は無いと思うんだよな。
だから俺は、こうして自然破壊とかを気にせずにガンガン開発してるわけ。
だって自然さんが俺たちの都合良い環境になるように気を遣ってくれないんだもん。それなら、俺の方で環境を整えるしかないじゃん。
そうしないと人間は生きて生きづらいし、人間は自然の奴隷っていうわけじゃないんだから、自然さんが人間に行きやすいように優しくしてくれないなら自分たちで生きやすい環境を作るしかないと思うの。
共存とは言うなら、自然さんの方も俺達に気を遣ってくれって感じ。まず俺たちに優しさを見せてくれないと俺達だって自然さんに気を遣いたくないし、それが出来ないなら俺たちは自然さんと共存するつもりはありません。
『祟りが起きますぞ?』
なんかそんなことを村長さんが言っていたけど、自然さんのそういう態度が俺は気に喰わないんだよなぁ。
自然を大事にしないから祟りを起こすとか勝手過ぎないかな?
それが許されるなら、逆に俺たちに自然が酷いことをされた時は反撃しても良いよな?
まぁ、自然に対しての反撃の仕方が分からないからどうにもならないんだけどさ。
「ヌシが出たぞー!」
樹海の方から冒険者が叫び声を上げて逃げてくる。
逃げる冒険者たちの背を追うのは緑色をした翼の無いドラゴンで、そいつが何人かの冒険者を踏みつぶしながらツヴェル村に向かって突っ込んでくる。
ドラゴンはそれなりの大きさであり、アレが暴れたなら村はすぐに壊滅するだろう。
せっかく村を開発してる最中なのに壊されるのは面白くないので、面倒くさいけれど俺が殺すしかないかな。
「樹海の平穏を乱したせいじゃ、樹海のヌシが怒っているのじゃ」
ヌシとかいう名前のドラゴンのもとに向かう途中、村の老人が震えながらそんなことを口走っていた。
それを言うなら俺も怒っているんだけどな。せっかく、キルゲンスにいるエリアナさん達を迎え入れる準備ができそうだったのに、ヌシが暴れたせいで全部台無しだよ。
「やはり祟りが起きましたな」
村長さんが話しかけてきた。どうにも顔色が悪いけど、心配はしないでほしいな。
村が壊滅するかと思ったけど、俺の手下の冒険者連中が足止めをしてくれているから、とりあえず村への被害は最小限で済むと思う。
「あれが祟りなら、どうということもないな」
もう少し魔法的な何かがあるかと思ったらドラゴンが襲ってきただけだし、別に怖くもなんともないんだよなぁ。
ドラゴンの全長は三十メートルくらいだし、まぁ余裕だろうね。
「頭が来たぞ! 足止めは充分だ! 全員ヌシから離れろ」
俺がヌシに近づいていくのが見えたのか冒険者が声を上げ、俺以外の全員がヌシの側から逃げる。
出来れば君らだけで始末してほしかったんだが、冒険者に無理をさせて死なれると村の開発のための労働力が減るし、それは困るから俺が一人で始末しよう。
「ご機嫌は如何だろうか?」
近づく俺をヌシが見つめてきたので、とりあえず挨拶をしてみた。
機嫌が良かったら帰ってくれと頼むんだけど――
返事はドラゴンブレスだった。
ヌシの口から放たれたブレスは風の魔法に似たもので、衝撃波となって俺に襲い掛かる。
これが炎のブレスとかだったら、俺も避けるんだけど、まぁ衝撃波というか圧縮した風をぶつけてくるようなものだから、受けた時の感覚は基本的には打撃と一緒なんだよな。
なので、まぁ直撃を受けても我慢できる。だから、俺はブレスの直撃を体で受け止めた。
――本当の事を言うと避けるタイミングを逃してしまっただけなんだけどさ。
「セイリオスに殴られた時の方が効いたな」
多少は痛いけど、大騒ぎするほどじゃない。
今のブレスが本気かどうかは分からないけれど、ブレスの直撃を受けた俺を見てヌシの表情に驚愕の色が浮かぶ。
ドラゴンの表情なんて分からないと思うかもしれないが、まぁそれは雰囲気というか気配で判断してると思ってもらえればいい。人間も魔物もドラゴンもビビった時の雰囲気は同じだし。
「嘘だろ……」
野次馬状態の冒険者が唖然としているけど、何をやっているんだろうね、こいつらは?
俺としては、ヌシが出てきたせいで今日の作業が遅れてるんだし、その遅れを取り戻すために頑張ってほしいんだけど――
そんなことを考えていたら、ヌシが爪を振り下ろしてきたので、剣を抜き放ち、その攻撃を弾き飛ばす。
筋力と重量のおかげで一撃のパワーはあるんだろうけど、それはただあるってだけだから何も怖くないんだよなぁ。それに筋力だけだったら俺の方が上みたいだしさ。
「このまま帰って一生俺達の前に姿を見せないというなら見逃してやっても良いぞ?」
言葉は通じてるか分からないけど、一応ヌシに提案してみました。
これ以上やると弱い者いじめになっちゃうんで、それも可哀想かなぁと思ったから提案したんだけど――
ヌシは尻尾を俺に叩きつけた。
剣を使わず《ブースト》の魔法で身体能力を上げたうえで受け止めたんで、尻尾が当たっても俺は何ともなく耐えられた。やっぱり弱いよな、このドラゴン。
「さて、もう一度聞いておくが、このまま帰るか俺に殺されるか、どちらがいい?」
ヌシは後ずさり、既に逃げ腰だ。
どうやら言葉は通じているようでなにより。やっぱり話し合いで済む相手だと楽だよね――
――と思った瞬間、ヌシは後ろに下がって助走をつけて一気に突っ込んできた。
「帰る気がないなら始末するしかないんだがなぁ」
突進してくるヌシに対し、俺も迎え撃つ様に突進し、勢いを乗せてヌシに体当たりを決める。
ヌシの全長は三十メートルあるが、まぁ大きいだけであって俺の方がパワーはある。
なので、俺とヌシが激突した結果はというと、当然だが俺の勝ちだ。
俺に力負けしたヌシは弾き飛ばされて地面に転がる。
巨体が転がったことで地響きが起きるが、まぁだから何だって感じだ。
俺はヌシに向かって歩いて近づき、頭を蹴り飛ばして巨体と比べて小さいであろう脳味噌を揺らして意識を飛ばす。そして、意識を失ったヌシの眉間に剣を突き立て、始末した。
「この程度が祟りなら何も問題は無いな」
俺は解体されて食料やら素材になっていくヌシを眺めながら村長さんと話していた。
村長さんの不安な表情は変わらないけれど、まぁ気にしても仕方ないな。
「このようなことをしても大丈夫なのでしょうか?」
「駄目だったら、その時に応じた対応をすればいいだけだ」
殺っちまったことは仕方ねぇよ。
それで何か起きても後でなんとかすりゃ良いだけだし、そういうことを気にして何もしない方が問題だと思うよ。
――とまぁ、そんな風に考えていたら、すぐに問題が起きました。
「今日も魔物を狩るぞー」
ヌシが死んでから樹海の魔物が一気に増えたんだとさ。
正確には山の方にいた魔物が樹海の方に流れ込んできたとかそういう話らしい。
なんでも、山の魔物は樹海のヌシを恐れて降りてこなかったんだとか。
俺からすると何それって感じ。
あんなクソ弱いドラゴンにビビっている奴とか全くたいしたこと無い連中だと思うし、そんな奴らにあのクソ弱い樹海のヌシよりも俺たちの方が相手しやすいと思っているから、山から下りても大丈夫だと結論を出して樹海まで来ているんだろ?
クソ弱い奴にビビっていた雑魚に舐められるとか面白くないんで、手下の冒険者連中には徹底して魔物を狩るように命令しておきました。
『魔物が恐ろしくないのですか?』
村長さんにそんな質問をされたけど意味が分からんね。
なんで、あんな弱い生き物に恐怖を感じなければいけないのか意味が分からない。
むしろ、魔物の方が俺たち人間に恐怖を感じるべきだと思うんだよな。だって、俺たちの方が強くて、魔物を狩る存在なわけだし。
俺に言わせれば魔物を見かけたら怯えて逃げていたっていう方がおかしいんだって。
そんなことをしてたら、魔物がつけあがるだけだっていうのにさ。
俺の感覚だと力関係からして人間を見かけたら魔物が逃げるのが正しいと思うんだよなぁ。見つかったら狩られるって意識をもって、魔物が恐怖で人間から逃げ惑うって感じにさ。
そんなことを考えていると樹海から俺の愛馬であるドラウギースが荷台を引いて戻ってきた。
荷台の側にいるのはオリアスさんとグレアムさんで、荷台の上にはゴブリンとオークが何匹か積まれている。
山から下りてきた魔物はゴブリンとオークということだろう。
ドラウギースが引いた荷台が村の広場にまでやってくると、広場に待機していた冒険者連中がゴブリンとオークを荷台から引きずり下ろす。
すると、荷台から降ろされたゴブリンとオークは耳障りな鳴き声を発し始める。
うるさいのはイラつくけれども、オリアスさんとグレアムさんは予定通り魔物を生け捕りにしてきたようでなにより。
「うるせぇぞ!」
冒険者連中が棍棒でゴブリンとオークを滅多打ちにして黙らせる。
あまり平和な光景ではないので、ツヴェル村の住人は自分の家に籠って見ないようにしているんだろう。
「じゃあ、やろうか」
そう言ってグレアムさんが動き出す。
何をするかというと拷問だ。
別に情報を引き出すという目的は無くて、ただ単に人間が恐ろしいってことを理解させるための見せしめとして、ひたすらに痛めつける。
そうして、殺さずに生かして返す。帰ってもすぐに死ぬだろうけど、そういうのはどうでもよくて、とにかく人間というのはとてつもなく酷いことをする生き物だということを魔物どもに感覚で理解させる。
――で、理解させるために相当に酷い有様になってもらわなきゃならないんだけど。
「トンカチ持ってきて。あとハサミに煮えた油も欲しいねぇ。――ああ、そこの荷台に乗っている残りの奴にもちゃんと見届けさせてね」
五匹くらい連れてきたのかな?
殺した奴は串刺しにして樹海の中に飾ったり、落とした首を綺麗に並べたりしてるとか言っていたな。
これで人間にビビってくれると楽なんだけど、どうなるかな?
全部殺しつくすのは流石に面倒くさいし、人間を恐れて近寄らなくなってくれると良いんだけど――
「ぐうぅぇぇうぇうえうああああ――!」
うるせぇなぁ、ゴブリン。
人が考え事してるってのになんだっていうんだよ。
お前が襲ったかは知らんけど、お前らの種族はいっぱい人間を襲って好き放題していたくせに自分がやられるのは嫌だって言うのか?
そういう気持ちはすごく良く分かる。でも、お前の気持ちは関係ないから諦めてくれ。
「――ふぅ、とりあえず一匹は終了かねぇ」
途中から悲鳴が聞こえなくなったけれど、グレアムさんは作業を終えたようだ。
見ると、全体的に丸くなったゴブリンが虫の息で転がっていた。丸くなったって言っても性格じゃなく体がだけどさ。ついでに言っておくけれど太ったわけじゃない。
どういう状態と言うのが一番適当かは分からないけれど、体の出っ張ったところを切り落として滑らかにした感じと言えばいいんだろうか。
顔で言うと耳とか鼻は出っ張ってるし、手で言うと指は出っ張ってるよね、股間なんかは説明せずとも出っ張ってる部分は良く分かると思うんだけど、そういう部分を全部切り落としたから、シルエットが丸くなった。
「じゃあ、次行こうか?」
グレアムさんの視線が別の魔物に向かった。
グレアムさんに見られる、それだけで魔物が恐怖のあまり失禁しだす。
こういう恐怖を刻み付けておけば、魔物は人間を恐れて近寄らなくなると思うんだけど、どうなるだろうね。
――ほどなくして、樹海の中の魔物は人間を見ると逃げ惑うようになった。
どうやら、計画通り人間という存在に恐怖心を抱くようになったようだ。
ここで手を緩めると魔物ってのは頭の出来が悪くて忘れっぽいから、すぐに恐怖心を忘れて人間をまた襲うようになるだろう。
そうなっては元も子もないので、頭ではなく体とか本能に人間への恐怖心を植え込む必要があるので、その後も徹底して魔物は虐げる。
そうしていく内に樹海の魔物はいなくなった。
殺しつくしたというわけではなく、人間から逃げるように樹海の奥へ奥へと逃げていったため、俺たちの視界に入らなくなっただけのようだ。
樹海の開拓を邪魔する存在は消え去った。
それによってツヴェル村周辺の開発は順調に進み、そして俺がツヴェル村にやって来てから二か月後――
ツヴェル村はツヴェルの町となっていた。
そしてツヴェル樹海の一部は切り開かれてガルデナ山脈までの行く手を邪魔するものは無くなった。
だが、俺はこの程度では満足できない。俺はツヴェルの町をもっと大きくしたい。なので、次は道路を整備するとしよう。
ツヴェルの村の開発にかまけていたせいで何かを忘れたような気がするけど、まぁ良いだろう。
それが大事な事だったら誰かが何か言うと思うし、誰も何も言ってこないんだから、別に重要なことは何もないんだろう。
何かあったら誰か教えてくれると思うし、それがあるまで俺は楽しく街づくりをするとしましょうかね。




