表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/273

二人でお出かけ

 

 今日はエリアナさんとお出かけです。

 この間は学園というクソ面白くもない所へ行ってしまったわけですが、今日は違います。

 単純に王都をほっつき歩くだけです。

 ぶっちゃけつまらない。楽しいと思えるのはエリアナさんの顔を近くで見れるくらいで、面白いと思えるかと聞かれると首を傾げてしまいますね。


 世間一般ではこれをデートと言うらしいですが、世の男女はこれのどこが楽しさを覚えるのか、俺には理解できないなぁ。


「他のとの結婚はこれからのために必要だから許してあげたけど、その代わり私を一番大事にしないと許さないわよ」


 エリアナさんは俺と腕を組んで歩きながら、そんなことを言いました。

 常に一番大事ってのは難しいような気もするけど善処しようと思います。


「分かっているさ。お前を蔑ろにしたりはしない。とはいえ、カタリナたちも大事だがな」


「それはそうよ。私が一番だけど、あの娘たちも大事しないと私は怒るわよ」


 怒られるのは嫌だね。

 もっとも、怒られるようなことはしないと思うよ。

 だって大事にしないと可哀想だし。


 俺はオリアスさんが帰ったあの後、カタリナとキリエに話を聞いたんだけど、二人とも寝耳に水って感じだったんだよな。

 なんか勝手に話が進んでいたようで困惑しつつも、別に構わないって感じだったし、俺には女心は分かんないな。結婚とか人生においては結構、重要な出来事のような気がするけど、そんな簡単に決めていいんだろうかね?


 でもまぁ、嫌だと言っても決められたら従う以外ないのかもしれないんだよな。

 やっぱり今の時代、女の人の立場は弱いし、男の人の意見に逆らい難い部分もあるんだろうしさ。

 なんで女の人の方が立場が弱いんだろうか俺には良く分かんないけども、多分だけど、女の人の方が労働力として役に立ってないからかもしんないね。

 なんだかんだ言っても、今の世の中の仕事って体力勝負なわけだし、そうなると男の独壇場なんだよな。で、男の方が役に立つとなると偉い人だって労働力として役に立つ男の方を贔屓したくなりそうだよね。


 女の人の立場が強くなるには体力勝負じゃない仕事が増えることと、後は女の人も労働力として使わないと労働力が不足する状況にならないと駄目かもね。

 女の人も対等に仕事出来るなら女の人に気を遣わないとせっかく有用に使える人材を逃しそうだし、女の人も労働力として動員したい状況だったら対等に扱わないと、ボイコットでもされたりしたら困るわけだし偉い人も大切にしてくれるんじゃないかな。


 ウチなんかは事務職員は女の人の方が多いから、女の人の方を贔屓しないと不満が貯まったり、ギルドで運営している工場も女の人が工員の半分だから女性に対して気を遣わないとマズいことになりそうで、かなり女の人の立場は強いんだけど、世間はそんな段階には到達していないんだよな。


 なので、女の人の立場は弱いし言われたら従わなきゃいけないの世の中の流れとしてあるわけで、カタリナたちだって逆らえないから嫌々ながら結婚するのかもしれないんだよな。

 流石の俺も、そんな身の上の女の子に酷いことは出来ないんで優しくしますよ。

 どうやって優しくすればいいかは分からないけどさ。


「何をぼーっとしているのかしら?」


 おっと、考え事をしていたらエリアナさんに見咎められてしまいました。

 えーっと、どうやって言い訳をしようかな。何か考えていましたって素直に言おうとしても、何を考えていたかは忘れてしまいました。

 たぶん、女性の立場向上についてだったと思うけど、それがカタリナたちと何の関係があるか分からないんだよな。

 もしかして完全に意味のないことを考えていたんだろうか、俺は?

 それだとエリアナさんに考え事をしていたという言い訳をするのは恥ずかしいから――


「お前に見惚れていただけだ」


「あら、そうなの? まぁそれだったら仕方ないわね。私ってば美人だし」


 その通りだね。でも、美人過ぎるのも問題だと思うんだよなぁ。

 綺麗な花って虫が寄ってきやすいみたいな話も聞くし、エリアナさんみたいに最高に綺麗な花だったら、尚更、虫が寄ってくるよな。


「おう、兄さん、綺麗な姉さんを連れてるじゃねぇか」


 王都の路地を歩いていたら浮浪者なのかチンピラなのか分からないけど、社会の最底辺にいるような奴らに絡まれてしまいました。

 でもまぁ、エリアナさんが美人であるってことが分かるなら、最低限の頭は持っているようなので人間として扱ってやっても良いような気がします。


「そうだろう? お前たちのような輩では二度と見る機会が無い美女だ。今だけなら見ることは許してやろう」


「いやぁ、兄さん、気前がいいねぇ。でも、俺たちは見るだけじゃ我慢が出来なくてなぁ」


 チンピラたちが刃物を抜いて俺を取り囲もうと動き出した。

 とはいっても素人なので動きは悪い。

 どうやら、俺たちに対して何か酷いことをしようとしているようなので、当然だが反撃することにした。


「金目のものと女を置いていけ」


 チンピラが刃物を突き付けながら言ってきたけど、俺はそれを無視して、突きつけられた刃物を手で掴んでへし折り、ついでにチンピラの脚を踏みつけるようにしてへし折る。

 俺が反撃してきたことに驚いたのか、他のチンピラの動きが止まったので、俺は他のチンピラに近づき、全員の脚をへし折る。

 どうやらチンピラたちは友達同士のようなので、お揃いが良いだろうと思い、同じ脚をへし折ってやった。


「置いていけではなく恵んでくれとでも言えば良かったな。今の俺にはそれくらいは許してやる寛容さがあったというのにな。もっとも、女の方は恵んでやるわけにはいかなかったが」


 流石にエリアナさんを取られるのはちょっと嫌だね。

 お金の方は多少くらいだったら融通してやっても良かったんだけど、良いっていう前に刃物とか抜いてきたから思わず攻撃してしまったんだよな。

 まぁ、それに関しては俺も悪いと思うので、一応治療費くらいは恵んでやろう。

 俺は銀貨を適当に何枚か地面に放り捨てる。手渡ししてやる義理もないし、チンピラに殴る蹴る以外で接触するとか不潔な感じがするから嫌なんだよね。


「次からは相手を選ぶことだな。俺の様に優しい奴は少ないぞ」


 セイリオスになんて絡んだら話しかけた瞬間に殺されそうだしね。

 まぁ、あの野郎がそこら辺をほっつき歩いているなんてことは無いだろうから、そこら辺のチンピラが関わるってこともないだろうけど。


「今後、痛い目に遭う可能性を減らしたいなら、人から頂くのではなく自分で稼ぐんだな」


 俺だって真面目に働いているフリをしてお金を稼いでるんだから、キミらだけそんな楽な生き方をするのは許せないのよ。苦しい思いをするなら皆でしようぜ? 俺はしたくないから楽するけど。


 俺はチンピラに人として正しい生き方を教えてから立ち去る。

 俺の側にいるエリアナさんが少し不機嫌になってきたので、これ以上チンピラには関わってはいられません。


 しかし、なんでこんなにチンピラに絡まれるのかね?

 王都に来てから、街中を歩くたびに絡まれているような気がするぞ。グレアムさんとかオリアスさんも絡まれたらしいし、一体どうなってんだろうか。

 なんだか王都のあちこちをガラのよろしくない連中がうろついているようだし、どうにも治安が良くない雰囲気なんだよな。


「戦争のせいでしょうね」


「何がだ?」


 エリアナさんが急に訳の分からないことを口走ったので、気になった俺は質問しました。

 俺の周りの人間は俺が理解している体で主語と抜いて話すことがあるから困るんだよなぁ。気を付けてほしいもんだぜ。


「さっきのゴロツキよ。まぁ、さっきのだけじゃなく今の王都全体に溢れてる、ならず者連中のことでもあるけれど」


 俺の隣を歩くエリアナさんは憮然とした表情で語りだす。

 あまり興味のない話なので俺は聞き流す。


「戦争には勝ったけれど、賠償やら何やらを取れるような戦じゃなかったってのが、やっぱり大きいわ。使った費用を賠償なんかで補填しようにも、その相手は南部の遥か向こうで交渉は出来ない。結局、使ったお金は回収できなかったんだから大損だわ」


 まぁ、そうだね。

 でも、お金を使わないと帝国の奴らに敗けていただろうし使わなきゃいけなかったんだよね。使った後で返ってくる見込みがなくてもさ。


「まぁ、潤った人もいるんでしょうけど、最終的には損した人の方が多いんじゃないかしら? 王国内のお金や物は南部にかなり集中したから南部はこれから発展するだろうけど、他の地方からすればお金や物が流れ出ちゃったわけだし、貧乏になってしまった所も多いでしょうね。流れに乗って商売に色気を出して身を滅ぼしている人も多いみたいだし」


 国とか貴族に物を売りつけて儲けようとしたところは大変らしいってのは聞いたね。

 貴族なんかは支払いを戦に貢献したことによる恩賞でなんとかしようと思っていたけど、国は国で貴族への恩賞を帝国からの賠償でなんとかしようとしていたんだよな。

 とてもじゃないけれど、国というか王家は戦で活躍した貴族全員に恩賞を与えるような財の蓄えはないから、帝国から貰うことでなんとかしようとしていたみたい。

 でも、帝国の方は払う気配すら見せてないから、国はあてが外れて貴族への恩賞を与えることはできない、それによって貴族もあてが外れて支払いができない、最後に貴族なんかに物を売っていた人たちもあてが外れて儲けが出ない。

 みんながみんな捕らぬ狸の皮算用をやって大損をこいたってことだろうね。ところで、捕らぬ狸の皮算用ってどこの言葉ですかね? どっかで聞いたんだけど、どこで聞いたかは思い出せないんだよなぁ。


「景気が悪くなったせいで、職を失ったりした食い詰め者たちが王都に集まって来てるから治安が悪くなり、更にその食い詰めを者たちを食い物にしようとする悪い人たちも増えてるせいで更に治安が悪い。これからは更に治安が悪くなるでしょうね」


 そいつは怖い話だなぁ。俺はそういう危ない所には住んでいたくないね。

 都会っ子だから、なるべく都会に住んでいたいけど、場合によっては移住も考えた方が良いかなぁ。


 そうして俺は移住先を考えながらエリアナさんを隣に連れて王都を歩く。

 行先は仕立て屋だったり、宝石店だったりで、基本的には贅沢品の店だ。

 そういう店をエリアナさんと共に歩きながら、俺がエリアナさんに色々と買ってあげたりする。

 買うにしても、値段とか色々と面倒くさいから金貨とか一枚渡して終わり。

 お釣りの計算とか色々と面倒くさいし、たまに足し算とか引き算を俺が間違えるから仕方ないよね。

 でもまぁ、金貨一枚も渡せば、何処の店の人も親切になってくれるから良い、これはこれで良いと思うんだ。

 金貨一枚だとお釣りを用意できないとか、店の品物を全部売ってもまだ余るとかで困っちゃう店の人もいたけど、俺は困っていないので無視します。値切って安く買われるよりはお店の人も嬉しいと思うしさ。

 最終的には俺が今後その店で何かを買う分の前払いってことで話がつくけど、二度と行かないだろうって店もあるし、そういう所は丸儲けだね。


「何かやっているな」


 王都の店を儲けさせながら歩いていると人だかりが見えてきた。

 人々が集まって輪を作っているが、その中心には若い男がいる。


「何故、我々平民は蔑ろにされなければならない!」


 線が細くて神経質そうな男が人々の中心で叫んでいる。


「此度の戦の勝利があったのは王家や貴族たちの力によるものではない! 奴らは我々が作った武器を使い、我々を兵として用い、それで勝利したのだ。この戦の勝利に我々平民の力は必要不可欠であったことは間違いはない! なのに、権力者どもは我々に多少のねぎらいの言葉をかけるのみで、何の褒美も与えなかった! これが許されるのか!? 否、許されない!」


 ひえぇー。ちょっと怖いです。

 眼が血走っているし正気じゃないみたいだから、関わらない方が良いね。

 周りの人も冷静さを欠いているような顔だし、ちょっとヤバい集まりみたいだしさ。


「平民の力がなければ、王も貴族も戦すら満足にできないことは明らかだ! 我々がいなければ戦うことすらままならないというのに、奴らは我々を顧みない! 奴らは我々の働きに見合った相応の権利を与えるべきだというのに平民を見下し、全くの無視! こんな思い上がりが許されるはずはない!」


 なんか雲行きが怪しいね。

 エリアナさんの表情も険しいし、なんかヤバそう。


「我々は立ち上がるべきなのだ! 王侯貴族どもは平民を見下しているのにも関わらず、その平民が作った物を食い、平民が縫った服を身にまとい、平民が建てた屋敷に住む! 奴らの生活は我々がいなければ成り立たないのにも関わらず、奴らは我々を尊重しようとはしない! こんな横暴が許されるわけがない! こんな不条理が許されるわけがないのだ! 我々は今こそ立ち上がり、この横暴と不条理に満ちた体制を正し、真に尊重されるべき者が尊重される社会を作るために行動を起こすべきなのだ!!」


 最後に神経質そうな男が手を高らかに天へと掲げる。

 それに合わせて男の周りにいる人々の内の何人かがが示し合わせたように声を上げた。

 すると、それに釣られて他の人々も声を上げて、場の雰囲気が熱狂に呑まれていく。


「ああいうのが最近流行っているのよね。うちの冒険者も結構な人数がああいう思想に傾倒しているわ」


 思想ねぇ。

 思うに想うで、なんだか煮詰まりそうな言葉だよね。頭の中だけで完結しちゃいそうだ。

 行くに動くの行動とは正反対だし、頭を働かせるのが苦手な俺には縁がないかな。


「まぁ、確かに平民の権利は認めるべきだと思うわ。平民の力がなければ、うちだって工場の生産力は維持できないわけだし、暴動でも起こされたら損害はとてつもないことになるし、多少なりとも機嫌はとる必要があるのだし」


 エリアナさんは険しい表情で言う。

 でも、機嫌を取るだけで済みそうな気配じゃないんだよな。

 見た感じ、自分たちが権力を持つんだって雰囲気があるしさ。


「あいつらが機嫌取りだけで、納得するようには見えないな」


「でしょうね。彼らは貴族中心の世の中を打倒をして平民の世の中を作りたいみたいだし」


 でもなぁ、貴族を倒したとして、それで平民の世が来るとは思えないんだよな。

 仮に倒したとしても、今度は貴族を倒した功労者たちが貴族の立場をそっくり奪いそうな気もするしさ。

 さっきのを見てると、あの神経質そうな男が王様の代わりになりそうな気配がするし、あの男自身もそれを狙いそうな雰囲気がするんだよなぁ。

 平民を尊重しろの次が俺を尊重しろに変わらないって保証は無いわけだしさ。


「もう、行きましょう? 面倒ごとに巻き込まれたくはないわ」


「そうだな」


 貴族ぶっ殺すっていう勢いの人たちの側に明らかに貴族って感じの格好をしている俺たちがいるのはマズいよな。

 まぁ、絡まれたとしても素人が三十人くらいだから問題なく対応は出来るだろうけどさ。でも、だからって、積極的に喧嘩をしたいわけでもないし、ここから離れる方が良いよな。

 というわけで、俺とエリアナさんはこの場を離れようと動き出したわけだけど――


「ん?」


 なんか、人ごみの中にジーク君に似た男の子がいるように見えたけど気のせいかな?


「どうかしたの?」


「いや、なんでもない」


 ジーク君に似た男の子は人ごみを離れて近くにある酒場の中に入っていったし、人違いだな。

 うちのジーク君は真昼間から酒場に入り浸るような性格でもないし、そもそも成人もしていないのに酒場に行くのは俺以外の人が許してないから、言いつけを守る真面目なジーク君が酒場に入るはずはないし、人違いであること間違いはないだろうね。

 似た顔の人間なんてのは世の中に二人くらいはいるらしいし、さっきの男の子もその類じゃないかな。


 俺はジーク君に似た男の子のことは記憶から消し去り、エリアナさんと共にその場から離れる。余計なことを憶えておくと脳が疲れてしまうから仕方がないね。



 熱狂していた人々いる場所から離れて次に向かったのは本屋だった。

 エリアナさんがどうしても買いたい物があるからという理由で連れてこられたのだけれど、俺も本は読むので文句はありません。

 あまり難しい本は読まないし、難しくなくてもすぐに内容を忘れてしまうけれど、暇つぶしとして実家にいる頃は良く読んでいた。特にエロい内容のが多かった記憶があるな。


「いらっしゃいませ」


 本屋の中に入ると店主らしい男が挨拶をしてきた。

 真面目そうで穏やかな顔立ちの若い感じの男だ。どこかで見たことがある顔だけれど、どこで見たかな? 

 どうやら、向こうも俺を知っているようで少し驚いた顔をしている。

 うーむ、どこで会ったんだろうか?


「あの時は失礼しました。私の方も仕事でしたので仕方なく」


「別に気はしていないさ」


 憶えていないんだから気にしようもないんだよなぁ。

 まぁ、憶えていても謝ってくれたから、水に流してあげただろうけどさ。


「あら、知り合いなの?」


「ええ、アロルド殿の査問会の際に多少の縁がありまして」


 俺の査問会ってなんだろうね?

 そんなことがあったような気もするけど、そこで会ったっけか?

 こんな若い感じの人とかいたかな? いたような気もするなぁ。


「いやぁ、流石にあれ以上アロルド殿と事を構えるのは私の将来設計的にマズいと考えて体調不良を訴えて途中退席したら、上司に目をつけられましてクビになってしまいました」


 ああ、ウンコしに行った人だっけ?

 あれ? ウンコしに出て行ったんだっけか?


「官職を解かれてしまった以上、宮廷貴族の私には収入などは殆どないので、生活の糧を得るために仕方なく本屋を再開したというわけです」


「そのおかげで私は貴方の本を買えるわけだけれどね」


 貴方のって何だろうね?

 まるで、この人が書いているみたいな言い方だけど――


「ああ、アロルド殿はご存じないとは思いますが、私はこれでも作家だったのです。官職を得た折に引退していましたが」


 ふーん、そうなんですか。


「この店にある本は私が仕入れたものもあれば、私自身が書いたものもあり、それらを売って私は生計を立てているわけです。ありがたいことにエリアナさんは私の作品の熱心な読者であり購入者ですので彼女には随分と生活を助けてもらっています」


「そうね、私が買ってあげてなかったら、早々に飢え死にしていたでしょうね」


 エリアナさんはそう言うと店内の物色を始める。

 勝手知ったるというかなんというか、自分の庭みたいに歩くね。


「……随分と寛大な処置を承ったと聞き及んでいます」


 店主はスッと目を細め、俺に言う。

 エリアナさんに聞こえないように声は小さい。


「私は貴方の常日頃の言動は問題だと思っていましたが、厳罰に処すのは時期尚早だと思っていたので何よりなことだと思っています」


 さいですか。でも、その言い方だと時期が来たら俺に酷いことするみたいだね。


「今の所、王国内の状況は予断を許しません。何が起きるかは予想がつきませんが、何かが起きるのは間違いないでしょう。そして、事が起きた際にはアロル殿の力が必要となることは間違いないとも私は考えています」


「随分と買われているな」


「ええ、今までの貴方の功績を考えれば当然です。功績に比例して問題も多いですが、それには目を瞑りましょう」


 そいつはありがたいね。まぁ、この人に目を瞑ってもらっても、何とも思わないけどさ。


「まぁ、私自身色々と思う所はありますが、今後はお互いに仲良くやっていきましょう。とりあえず、今日はお近づきの印として、この店の本を一冊差し上げますよ」


「それは助かるな。タダで貰えるなら何よりだ」


「タダより高いものはありませんけどね」


 んなわけねーだろ。馬鹿か、お前?

 タダは無料だから一番安いだろ。なんか意味があって、そう言っているなら俺にも分かるように言えよカス!


「高かろうが踏み倒すから問題はないな」


 後で法外な値段をつけられたとしても絶対に踏み倒すからな? 絶対だからな?

 よし、後で踏み倒すと決めたから、どんなに高そうな物を選んでも大丈夫だ。

 さて、選ぶとしよう。


 タダで貰うにしてもエリアナさんと被らないものが良いよな。

 でもエリアナさんは何を選んでいるんですかね?

 えーと、ここから見える本のタイトルは――


 三冊を重ねて持ってるけど、二冊は難しくて理解ができない。

 でも、その難しい二冊の間に挟んでいるのは見えるな。なんか微妙に隠そうとしている雰囲気があるけど、隠しきれてない。

 えーと、その本のタイトルは――『新妻たちの必須教育~可憐な華は夜に咲く~』かな?


「彼女が持っているのは三冊とも私の本ですね」


 へぇ、そうなんですか。


「一冊はそれなりに自信がある作品です。男性経験の無い貴族の女性が体を開発され、肉の悦びを覚えていくという筋書きの物語で、私の中では以前に書いた聖職者が堕ちていく作品に匹敵する物と自負しています」


 へぇ、でも俺が読んだことのある『淫乱シスター』シリーズには負けると思うぜ。

 この本屋にも置いてあるみたいだから、エリアナさんもそっちを買えば良いのにね。

 俺は前に買ったからいらないけど。


 俺はなるべくエリアナさんの買うものと被らないように本を選ぼうとして、近くのテーブルの上に置いてあった本を手に取る。


「それは少年向けの物語ですね。努力と友情を武器に強大な敵に勝利するという筋書きです」


 店主がそう説明してくれた本のページをパラパラとめくり適当に目を通す。

 良く分からんけど、主人公には倒さなきゃいけない敵がいて、そいつを倒すために修行に行くみたい。

 でも、修行して力をつけても主人公一人の力じゃ敵を倒すことは出来ない。

 やられる寸前の主人公だったけど、最後には仲間と力を合わせることで普段の何倍もの力を発揮するって感じかな?


「少年少女に対して何らかの教訓を与えるために書いたのですが、売れ行きはイマイチでして」


 なるほどなぁ。

 教訓ってことはこれ通りにやれば敵を倒せるってことかな?

 つまりは修行と友情だな。それさえあれば俺にも敵が倒せるってわけか。

 俺の場合だと敵はセイリオスだから、セイリオスを倒すためには修行と友情パワーを手に入れろってことか。


「創作なのであまり本気にしないでほしいと購入者の方には言っているのですが――」


 うーん、修行って言っても何すりゃいいんだろ?

 えーと、本では主人公は山籠もりしてるな。これは俺も山籠もりした方が良いのかな?

 でもなぁ、山籠もりできそうな山とかあったかな? 

 確か、西部の方にデカい山があったような気がするな。後は南部にもあった気がするし、西部か南部に行けばいいのかな?

 とりあえず修行の候補地は南部と西部で良いや。

 でも問題は友情パワーなんだよな。


 俺って友達いたかな?

 オリアスさんとグレアムさんは何か違うような気がするし、コーネリウスさんとはそれなりに仲良いけど、ちょっと友達というには歳の差がありすぎるような。ウーゼル殿下は友達だとは思うけど、向こうが照れて拒否するだろうし。

 そうなると一番ピッタリ来そうなのはノール皇子かな? でもノール皇子は帝国の方にいるし……。


 うーん、友達友達……この際、友達と言わずに、それなりに仲の良い人で良いような気がしてきたぞ。

 でも、仲の良い人となると誰だ? えーと、たぶんオレイバルガスん所の馬鹿兄弟辺りか?

 あの兄弟となら、手紙のやり取りもしてるから、俺と仲良しだと思うからちょうどいいんじゃないか?


 ついでに気付いてしまったんだけど、あの兄弟がいる場所は西部だから、山籠もりに最適な山もあるじゃないか。

 これって一石二鳥ってやつじゃない? 修行しつつ友情パワーも得られるとか、なんだか凄くいい場所だな、西部って。


 そうだ、西部に行こう。


 しばらく王都から離れて旅行しなきゃならないんだけど、行先は西部で良いような気がしてきたぞ。


「それがお気に入りなら差し上げますよ」


 店主がそう言ってくれたので俺はこれを貰うことにした。

 セイリオス対策の攻略本なんだから、俺にとっては必須と言って良いだろう。

 この本のおかげで、俺の旅行の行先も決まったことだし、非常に頼りになる良い本だ。

 内容自体はつまらなそうだけどな。


「あら、貰ったの?」


 エリアナさんは先ほどの三冊を重ねて持ってきていた。やはり、一冊は間に挟んで隠している。

 店主は何も言わずに会計してくれているようだけど、本とか結構高い買い物なんだから題名で確認してくれても良いような気がするけど、これが店主のやり方だって言うなら口を出すのも無粋かな。


「ご購入ありがとうございます。また御越しください」


 エリアナさんが本を買い、俺たちは店主に見送られて本屋を出る。

 本屋を出てからの帰り道エリアナさんは上機嫌だった。


「良い奥さんになるための教科書を手に入れたから、これからはバッチリよ。楽しみにしていて頂戴」


 どの本が教科書なのかは分からないけれど、楽しそうで何よりだ。

 俺の方も攻略本を手に入れたから満足だし。

 最初は割と退屈だとは思ったけど最後に良い収穫もあったしデートってのは意外に良いもんだな。

 今日みたいな収穫があるなら頻繁にデートをしても良いかもしれない。


 俺はそんなことを考えながら、屋敷までの帰り道を進む。

 とりあえず、旅行の行先の候補は決まったから明日から本格的に準備をしないとな。

 まぁ、俺は荷造りとか苦手だから全部他の人にやってもらうんだけど。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ