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縁を結んで

ストーリー配分を本気でミスった

 

 今日も今日とて俺は暇です。

 いつの間に改築したのか、デカくなっていた冒険者ギルドの一室に引きこもって、やる気のあるフリです。

 部屋の外ではみんなが忙しそうに働いているけど、それでお金を稼いでいるんだから忙しいのも仕方ないね。

 俺は座っていればお金が入ってくる身分だから忙しく働かなくてもいいんだよな。


 なんで俺は座っていればお金が入ってくるのか分かんないし、なんで彼らは忙しく働かなきゃお金が貰えないんだろう。世の中は不公平だなぁ。

 でも、俺は利益を享受できる立場なので不公平の是正はしたくないから、不公平は放っておきます。


 そんな風に世の中の不条理を感じつつも、すぐに別にいいやと思考放棄をして、俺は机の上に置かれた書類に判子を押す。

 内容なんかは読んでも分かんないから読みません。別に俺が読まなくても他の奴が読んでくれてるだろうから、俺の所にくるような書類には間違いとか無いと思うしさ。

 まぁ、間違っていたらその時はその時で、俺は怒られるのが嫌だから適当に誰かのせいにしようっと。


 俺が無心で判子を押していると不意に部屋の扉がノックされた。

 ドアの外の気配からするとノックしたのは老人だろう。俺みたいな若者に老人の知り合いとかいたかなと思いつつ、俺は入室を許可する。


「入れ」


 俺がそう言うとドアは静かに開けられ、どこかで見たことのある爺さんが姿を現した。

 どこの爺さんだっけ? なんか司祭っぽい服を着ているけど、俺に坊さんの知り合いとかいたかな?

 いたような気がするけど、思い出せないんで憶えているフリをしよう。


「こうして直に顔を合わせるのは久しぶりですな。アロルド殿」


「そうだな」


 すいません、誰だか憶えていません。

 でも、これって俺が悪いのか? 俺の記憶に残らない印象の薄い爺さんの方にも問題があるんじゃないか?

 もしかすると俺は悪くないんじゃね? むしろ悪いのは爺さんのほうだったりしないか?


「随分とご活躍されているようでなによりですな。本当ならばもっと早くに伺いたかったのですが、どうにも都合が合わず、遅れに遅れて申し訳ない」


「別に気にはしていないさ」


 いやぁ、本当に誰だったっけ?

 司祭さんで知り合いっていうか、教会の関係者で知り合いっていうと誰だ?

 カタリナくらいしかいなくね?


「カタリナの働きは如何ですかな? ご迷惑などかけてはいませんか?」


「良くやってくれている」


 なんでカタリナの名前が出てくるかは分からないけど、腕とかカタリナに治してもらっているし実際ありがたいと思うよ。


「それは何よりですな。我が孫ながらカタリナは昔から優秀でしてな。きっとお役に立つと思っておりましたとも」


 孫とか言ってるし、この爺さんはカタリナの御祖父さんですかね?

 そういや、かなり前に会ったことがあるような、ないような……。


「ところでアロルド殿はエリアナ殿と正式に御婚約されたそうですが、それは事実ですかな?」


「そうだが、それがどうかしたか?」


 なんでカタリナの御祖父さんとそんな話をしなきゃなんねぇんだろうか、結婚式の式場に御祖父さんの教会は選ばないって決まってるから。

 エリアナさんは王都にある大聖堂で式を挙げたいとか言っていたし、たぶんそこで決定だろうな。


「いえいえ、どうかしたということもなく、めでたいことだと思いまして。まさか、アロルド殿とエリアナ殿が御婚約されるとは思わず――」


 なんだろうね、そんなにそれって重要な話かな?

 そういう世間話は俺的にはどうでも良いんで、何か用があるなら言ってもらいたいんだけど。


「――で、それはともかくとして、我が孫のことはどうなされるおつもりか?」


 カタリナの御祖父さんが急に鋭い目つきで俺を睨んできた。

 孫ってカタリナのことだよな? カタリナがどうかしたんだろうか?


「話が分からないな」


「とぼけられては困りますな。エリアナ殿とのご関係をハッキリさせた以上、カタリナとの関係もハッキリさせてもらいたい」


 関係をハッキリさせろと言われても、俺とカタリナってどういう関係だよ。そこがすでに分からねぇんだけど。


「まさかと思いますが、これまで散々連れまわしておいて、今更知らん顔が許されるとお思いではないでしょうな?」


「安心しろ、そんなつもりはない」


 知らんって言うと怒られそうな感じでしたので分かってるフリをしてしまいました。


「改めていうことではないと思いますが、若い娘が男の側にいれば周囲は邪推するものです。無論、私はアロルド殿が誠実な方であるとは理解しておりますので、間違いなどは無いとは信じております。ですが、周りは既にそうは思っておらず、カタリナは既にアロルド殿と関係を持っていると思っており――」


 うーん、何を言っているか分からないぞ。

 関係はあるけど、関係を持っているという言い回しが良く分かんないな。

 とりあえず俺を誠実な人間だって褒めているっていうのだけは分かったから良いや。

 もっと、俺を褒めたたえると良いと思うぞ。


「このままですとカタリナは傷物と思われて嫁ぎ先が無くなってしまうのです。結婚することが女性の幸せとは申しませんが、その選択肢すらなくなってしまいかねない状況はいかがなものかと思っている次第で――」


 別に傷物だと思われても良いんじゃない?

 俺はカタリナだったら傷物でもお嫁さんにしたいと思うよ。綺麗だしおっぱいデカい優しいしさ。


「つきましてはアロルド殿に責任を取ってもらいたいのです」


 え、嫌だよ。

 俺は責任を取るって言葉が嫌いなんだ。つーか、俺が嫌な思いをするのが嫌なだけなんだけど。


「責任ね。俺にどう責任を取れと言うんだ?」


「簡単なことです。カタリナを貰ってやってください」


 貰ってやるってどういうことなんでしょうかね。

 人を物みたいに扱うのは良くないと思いますよ。


「言っている意味が分からないな」


「でしたらハッキリと言わせてもらいましょう。私の孫のカタリナを妻の一人としていただきたい」


 あ、それなら良いです。

 なんだよ、責任取らなきゃいけないとか言っていたから、嫌なことされるのかと思ったら、そんなことですか? 別にカタリナと結婚することとか嫌なことでも何でもないし、問題なくね?

 でも、あれ?

 俺はエリアナさんと婚約しているし、エリアナさんとの結婚はどうなるんだろうな?

 エリアナさんとの結婚が無しとかなったら、エリアナさん泣きそうな気がするんだけど大丈夫なのかしら?


「その話はエリアナにはしたのか?」


「ええ、お話ししたところ、望むところとおっしゃっておりました。むしろ私が言わなければエリアナ殿が強引に側室に引き込んでいたとも。ただし、妻としての序列は自分が一番上というのは譲れないとも言っておられましたな。私としてもそれは当然のことと思っていたので何も問題はございません」


 まぁ、エリアナさんはカタリナ大好きだからなぁ。しょっちゅう、胸とか尻とか触ってるしさ。

 エリアナさん曰く日々の癒しらしいよ。できれば、俺も触ってみたいもんだ、癒しが欲しいし。


「エリアナが良いというなら、俺は構わないと思うが、カタリナ自身の気持ちはどうなんだ?」


 俺のことを好きとか言っていた気もするけど、それってちょっと前だから良く分かんないよね。

 もしかしたら、今は嫌いになっているかもしれないし、嫌いな相手と結婚させられるのって可哀想じゃない?


「それについては何の問題もないでしょうな。カタリナはアロルド殿に好意を抱いておりますし、側にいたいと思っております。本人は妻という立場は自分には不相応と考えているでしょうが」


 別に不相応ってこともないと思うんだけどね。


「むしろ問題なのはアロルド殿のお気持ちかと。アロルド殿はカタリナをどのように思っておられるのですかな?」


「嫌いではないし、気に入ってはいる」


 美人だし、胸デカいし、性格も優しいし。

 つーか、嫌いになる要素がないんだよな。常日頃から回復魔法で助けてもらってるし、それで嫌いになるとか人間としておかしいよね?


「でしたら、何の問題もありませんな。アロルド殿への気持ちを押し隠して仕えている孫が不憫で不憫で仕方なかったのですが、アロルド殿もカタリナを憎からず思っているなら、これはアロルド殿にも悪い話ではありますまい」


 ホントにそれで良いのかね?

 まぁ、俺より賢い人たちが色々と考えた結果だから否定する気はないけどさ。

 別にカタリナが嫌いってわけじゃないし、俺としては綺麗な奥さんが増えるのは良いけどさ。

 でもなぁ、奥さん二人っていうのはなぁ。俺に養えるのか不安だね。


「なに、それほど深く考える必要はありますまい。これからも冒険者ギルドが続いていくならば、アロルド殿と教会の関係は深めていく必要があるのです。その相手に見知ったカタリナが選ばれたと考えれば、これはこれで良かったではありませんか」


 別にそっちの方は深く考えてるわけではないんだけどな。

 なんか確定事項みたいだから俺が今更考えても仕方ないし、それよりもちゃんと贅沢させてやれるのかが不安でさ。


「まぁ、別に構わないか」


「おお、この話を受けてくださるので?」


 いや、何の話だよ。

 俺は俺が贅沢させてやれなくても、あの二人なら何となく上手くやりそうだし深く考える必要もないかなって思ったから、別に結婚しても構わないんじゃないかって思っただけだぞ。


「そうと決まれば善は急げ。関係各所に話を通しておきましょう。なに、アロルド殿は何もせずとも結構、老体といえども孫の幸せの為とあらば粉骨砕身、身を粉にして働きましょう。では失礼します」


 そう言ってカタリナの御祖父さんは、俺の部屋を急いで出て行ってしまいました。

 なんか最近、俺が置いてけぼりのことが多くねぇ? まぁ、ついていけたことがそもそも無いんですけどね。だいたいの人とか、俺が理解できていない間にどんどんと話を進めて行っちゃうから常に置いてけぼりのような気もするしさ。


 俺はカタリナの御祖父さんがいなくなったので判子を押す仕事に戻る。

 別に俺が押さなくても判子は判子だから別に構わないようにも思うんだけど、エリアナさんが言うには俺が押しているのに意味があるみたいな。

 そもそも冒険者ギルドがやっていけるのは俺があちこちに睨みを効かせたりしていて俺の影響力が強すぎて誰もちょっかいを掛けられないかららしいけど、俺は生まれてこの方、人を睨んだこと憶えなんかないんで濡れ衣だと思うけどな。


 そんな風なことを考えつつ内容など全く確認せずに書類に判子を押していると、また部屋の扉がノックされた。


「入れ」


 俺がそう言うと扉が開かれ、オリアスさんが顔を出した。


「ちょっと邪魔するぜ」


 オリアスさんはそういうと部屋のソファーに腰かけくつろぎだす。

 別にいられても気にならないんで、用件を聞いて急かせるようなことはしません。

 だけども、オリアスさんの方は用事があるようで、すぐに口を開いた。


「エリアナと婚約したんだって?」


「ああ」


 なんか噂になってるなぁ。

 まぁエリアナさんが色んな人に言いふらしているから、今となっては知らない人の方が珍しいけどさ。


「お前も物好きだよなぁ。見た目以外はどうしようもなくタチ悪いってのに、女の趣味が悪いのか?」


「お前には言われたくないな」


 グレアムさんから聞いたけど、オリアスさんって小さい女の子じゃないと駄目らしいから趣味としては最悪だよね。

 自分が小さい頃にした初恋の幻影でも追いかけてんだろうか。満たされなかった想いを未だに引きずっているんだとしたら、この人も大概だよな。


「まぁ、女の趣味は俺も人のことは言えねぇのは自覚してるから、これ以上は言わねぇよ」


 俺は自分の趣味は悪くないとは思うけどね。

 エリアナさんとか超美人じゃん。それが分かるだけで俺の趣味は一般の範疇に収まると思うんだけどな。

 オリアスさんは性格も含めて言っているみたいだけど、俺はどんな人とも相性良いから大丈夫。

 なんだか良く分かんないけど、大概の人が最初は俺のことを嫌っていても最後には俺に合わせてくれるようになるし、きっと俺はどんな人とでも仲良くなれる才能があるんだと思う。途中で殴り合いになっても最後は相手が泣いて謝って和解してくれるしさ。


「そんなことよりもアレだ。エリアナと結婚するのは良いんだが、キリエのことはどうするつもりだ?」


 どうするって何の話だよ。


「これだけ一緒にいて、エリアナと結婚するから、キリエとはサヨナラっていうのが通ると思ってんのか? 責任を取るべきなんじゃねぇの?」


 そうは言っても、俺はキリエには何もしていないし、ただ一緒の屋敷に住んでいるだけのような。それを言ったらエリアナさんやカタリナとも一緒に住んでいるわけで、そうなると二人に対しても責任を取らないといけないんじゃない?

 あ、でも、二人とは結婚するって約束してるから責任は取れてるのか? でも二人の例に合わせて責任を取るとなるとキリエとも結婚の約束をしなきゃいけないわけで。


「俺にどうしろと?」


「簡単な話だ。キリエとも結婚しろ」


 あ、やっぱりその流れか。

 カタリナの御祖父さんと同じ話じゃねぇかよ。これだったら、いっそ二人一緒に来てくれた方が面倒がなくて良かったな。


「キリエはお前に惚れてるから問題はねぇ。ついでに魔法使い連中もキリエを代表にしてお前と関係が深まるから望むところ。つーわけで、みんながみんな文句なしの大団円ってやつだ」


「俺の意思が無視されているのと、エリアナが何と言うかが気になる点だが」


「それに関しても問題はねぇよ。さっき話したがあの女は了承したぞ。ついでにカタリナの祖父さんの方も問題はねぇとさ。で、お前に意思に関しては無視だから問題はねぇ。あんだけ一緒にいた女を放り出すような無責任な真似はしねぇだろうしなあ? お前に捨てられたらキリエは悲しみのあまり死を選ぶかもしれねぇってことは当然だが分かっているだろうし、それを思えばキリエを貰ってやるくらいはしてくれるよな?」


 エリアナさんが良いって言ってんなら別に良いような気がするな。つーか、エリアナさんが断るとは思えないんだよな。エリアナさんはキリエのことも大好きだし、良くキリエに頬ずりしてるしさ。

 それに自殺するのは可哀想だよな。キリエが死なないようにするには俺が貰ってやるしかないみたいだし、俺が貰ってやるべきかな。

 まぁ、別に貰って困るものでもないし、既に二人貰うことが確定しているから、三人だって変わらないよな。むしろキリエは可愛いし、俺にとって悪い話ではないんじゃない?


「まぁ、俺は構わないが」


「じゃあ決まりだ。お前はキリエと結婚するということで決定な。いやぁ、あいつの相手が見つかって何よりだぜ。これで天国のステラにも顔向けできるってもんだ」


 ステラさんが誰だか分からないんですけど、人の部屋で故人を偲ぶのはやめてくれませんかね? 俺の部屋が辛気臭くなるんで。


 しかし、いきなりお嫁さんが三人とか何が起きているんだろうね。

 お金持ちとか偉い人は女の人をいっぱい囲ってるらしいけど、俺もそういう立場になったってことかな?

 でもなぁ、俺の場合は頼まれたから了承しているだけのようで何か違う気もするんだよな。

 世間一般の結婚てこんなもんなんだろうか? もっとこう情熱的なイメージがあるけど、俺の場合は打算的なんだよな。

 でも、打算的でもなんでも、オリアスさんが色々としてくれなかったら俺はカタリナとかキリエのこととか全く気にしていなかったし、二人は大変な人生になっていたかもしれないんだろ?

 あの二人は控えめだし、ずっと黙ってそうだったから、何らかの打算があっても結果的にオリアスさん達に色々とお膳立てをしてもらったのは良かったのかな?


 でもなぁ、結婚するにしたって俺は恋とか愛ってのが良く分からないから愛してるって確信を持てないし、そんな奴と結婚するってのはホントに幸せなんだろうか?

 そりゃあ、三人とも好きは好きだぜ? 見た目は良いし、性格も合うから一緒にいて疲れないし、一緒にいると気分が良かったりするけど、その程度の気持ちで良いんだろうかね?

 まぁ、相手として俺を選んでくれたなら、その期待に応えて幸せにするための努力はするつもりだけど、この程度の気持ちでいいのかね? 良く分かんねぇや。


 こういうのを悩まずに普通に好きだ嫌いだ愛してるってやれる人はスゲェよなぁ。俺なんかは頭の出来が悪いせいなのか、いくら考えても答えが出ねぇから参るぜ。

 でもまぁ、こんな風に考えていても明日の朝には、公然とエロい事を出来る相手が三人になったんだから、これはこれで良かったんじゃないって結論に達するんだろうけどさ。


 まぁ、そんな感じだし、俺なんかはいくら考えても仕方ないよな。

 俺が余計なことを考えてもどうしようもないし、そんなことを考えるよりも俺のお嫁さんになるらしい三人を幸せにできるように頑張っていこうと心に決めることの方が生産的だ。


 俺はそんな風に心の中で方針を決めながら書類に判子を押す作業を飽きるまで続ける。

 十分で飽きて早退してしまったけれど、充分仕事をしたような気がするから問題はないだろ。


 明日もこの調子で頑張ろう。

 過程はどうであれ、俺は三人のお嫁さんの旦那さんになるわけだし、甲斐性なしと言われるのは嫌だから頑張らなきゃな。


 





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