門出を見届けて
今日はエリアナさんとお出かけです。
つっても、そんなに面白い所に行くわけじゃないんだけどさ。
何処に行くかっていうと学園ですよ、学園。
エリアナさんの実家に行ってから少ししたある日、エリアナさんに誘われたんです。
なんでも卒業式があるとかなんとかで、俺達も一応在籍していたんで冷やかしにいくんだとか。
「一年くらいではそんなに変わりはないわね」
学園に到着するなり、エリアナさんはそんなことを言いました。そういや、春の半ばに家を追い出されて学園も退学になったんだよな。今は冬が終わって春になるくらいだから、もうすぐ一年になるね。
学園に関しては俺も通学していたんだけど、変わっているかどうかの記憶が曖昧なんだよなぁ。
基本的に何の目的もなく父上に言われるまま来てたから、特に印象深いことがあったわけでもないし、基本的に教室の隅っこに居座って大人しめで人畜無害な学生だったんだからなぁ。
「あら、アロルド君が壊した銅像が直っているわね」
エリアナさんが指差したので、その示す方向を見ると初代学長の像と題が書かれている銅像がありました。
そういや壊した記憶があるなぁ。なんか汚れているように見えたから真面目な学生として掃除しようとしたら、うっかり腕を折っちゃったんだっけ?
「飼育小屋の動物も買いなおした様ね」
情操教育だとかなんとかで学園内に動物が入った飼育小屋があるんだよね。
なんか美味しそうだったから、とっ捕まえて学園内の食堂で捌いてもらって食べたんだよな。たいして美味くなかったけどお腹は膨れた記憶はある。
うーん、なんか言われてみると色んな思い出があるなぁ。
学食行ったら、俺のメシだけ用意できないとか言われたから、いろんな人に頼んで分けてもらったり、テーブルに置いてある皿から貰ったりしたな。みんな、優しくて俺が困った表情で見ると、何も言わずに許してくれたんだよな。
あとは剣術の授業に熱中したりもしたなぁ。でも、すぐに冷めたけど。
授業中に他の生徒が五対一で剣術の練習しようぜとか言ってきたんで、ちょっと本気でやったら、誰も俺と組んでくれなくなったんでつまらなくなっちゃったんだよな。俺は手足の二三本をへし折っただけなのに、何が良くなかったんだろうか。真剣にやらないと授業の意味がないから真面目にやったのに嫌がられるとか、真面目キャラは嫌われる宿命なのかな。
よくよく考えれば、俺はイジメられていたのかもしれないぞ。
俺が教室にいると、みんな無視するどころか、我先にと教室から逃げ出していたし、これってかなり酷いイジメじゃないか?
俺が話しかけると、みんな顔を青くして目を逸らすし、逃げ出そうとするしさ。一体、俺が何をしたっていうんだろうな?
俺が学園内にはびこるイジメという闇に憤りながら学内をエリアナさんと歩く。
時折、俺の姿を見て卒倒する生徒が何人もいて、ここの生徒は大丈夫か心配になるな。
退学となったが、過去にこの学園に在籍していた者としては母校の生徒の状態は気になるし、一度学長にこの学園は生徒にどんな教育をしているんだと話を聞きに行くべきかもしれないな。
「ア、アロルドにエリアナか!?」
おや、さっそく先生がいらっしゃいました。
なんの授業の先生だったかは忘れたけど、俺とかスゲー怒られてた記憶があるんだよな。
クズだとかゴミだとか言われてた記憶もあるし、なんか木剣で殴られていた記憶もあるぞ。
でも痛くなかったんで、先生の持っていた木剣を借りて、木剣のちゃんとした使い方を先生に体で覚えてもらったんだよな。
泣いて謝っても生徒のことを許さない先生だったから、俺もそれに倣って、先生が泣いて謝り、失禁しても許さずに、きちんと木剣の使い方を教えてやったんだっけか?
今思うと先生のおかげでジーク君を鍛えられたんだよな。これは感謝しておいた方が良いのかな?
「お、お前らがどうしてここにいるんだ!」
何を狼狽していらっしゃるんでしょうね。
あと、どうしてと言われても困るんだよな。俺はエリアナさんに言われてついてきただけだし。
「お前らはないと思いますわ、先生? 社会的な地位ですとアロルド君が上ですので、公共の場でそのような態度を取るのは無礼にあたりますわ」
エリアナさんがニコニコではなくニヤニヤしながら先生に向かって言う。
「先生のようなとても規律に厳しい方が、そんな無礼な振る舞いをするはずがないとは思いますがお気を付けくださいね。とある女生徒の悪事の証拠をどこからともなく集めてきて、退学に追い込む手助けをするよりは言葉遣いに気を付ける方が楽でしょうし、簡単でしょう?」
先生の顔色が悪くなっているがどうしたんだろうね。
つーか、悪いことをしていた奴の悪事の証拠を集めるとか良い事じゃん。もっと胸張ってろよ。
「いや、それはだな。あれはイーリス様が困っていたからで……すまん、卒業式の準備があるので失礼する」
なんでイーリスの名前が出てくるのか分からないけど、それを説明することなく先生は逃げるように俺たちの前から去っていってしまいました。
「エリアナ様!?」
今度は女生徒が俺たちの姿を見て声を上げました。
一体何なんだろうね、俺たちはそんなにおかしなことをしているんだろうか?
「お久しぶりですわね」
エリアナさんがにこやかに話しかけるけど、なんかキレ気味に見えます。
こういう雰囲気の時はカタリナ辺りがエリアナさんを連れて、そっとその場を離れたりするんだけれど、残念ながら、この場にカタリナはいないので誰もエリアナさんを抑える人はいません。
「は、はい、エリアナ様もお変わりなく……」
ガタガタと震えているのが可哀想だね。顔色も段々悪くなってるし。
「ええ、お陰様で、何の変わりありませんわ」
「わ、私たちもエリアナ様がどうしていらっしゃるのか心配で――」
「だったら、謝りに来なさいよ」
あ、素が出ました。
「私がアロルド君の所にいるというのは承知でしょうに、心配だったら会いに来るくらい良いとは思わない? ヒルダは会いにきて私に謝ったわ。私が苦境にある時に助けられなくて済まないって謝ったから、ヒルダは許すことにしたのだけれど――」
「でしたら私たちも謝りますので、どうかお許しくださ――」
「イーリスに協力して私を陥れて、その後でイーリスに取り巻きに収まった奴らを許せるわけがないでしょうが」
あーこれ怒ってるわ。俺知らねぇ。
女生徒たちが震えあがってるんで可哀想だけど、庇ったりしてエリアナさんの機嫌は損ねたくないので無視します。
「あなたたちも今日で学園を卒業でしょう? 正式に貴族社会の仲間入りをすることになるけれど、今後が楽しみね。後で私と仲良くしておけば良かったと後悔しても遅いわよ?」
エリアナさんはそう言うと女生徒たちに向かって優雅な一礼をし、その場を歩き去ろうとするので俺も遅れないようについていく。
女生徒たちは青い顔で固まっていたけれども、これから卒業式なのにあんな調子で大丈夫なんだろうかね?
「今や時の人であるアロルド君の婚約者になった私は人生の勝利者ね。アロルド君のお嫁さんてだけで大きい顔が出来て楽しいわ」
そりゃ良かった。エリアナさんが楽しいようで何よりです。
「これでアロルド君と上手くいかなかったりしたら大恥かいちゃうわ。だから私のことは捨てちゃ嫌よ?」
「お前より綺麗な女がいたらどうなるかは分からないんで約束はできないな」
「あら、それなら大丈夫ね。だって、私がこの世で一番綺麗なんだし」
すげー自信ですね。
まぁ、その通りのような気もするから否定する気は起きないし、俺に向かって笑いかけているエリアナさんは実際に綺麗だからなぁ。
「世界一の美人が相手なら、捨てられるのは俺かもしれないな」
「それなら心配はいらないわよ。私が選んだアロルド君だって世界で一番素敵なんだから」
本音で言っているかは分かんないけど評価されるのは嬉しいね。
「ほら、もうすぐ式が始まるみたいだし冷やかしついでに圧力を掛けに行きましょう?」
エリアナさんは表情をクルクルと変えると俺の側に寄り添い俺と腕を組む。
俺は式がどこで行われるのかも知らないんだけど、とりあえず上機嫌のエリアナさんに合わせて歩き出した。
そうして、辿り着いたのは学園にある大ホールだった。
ホール内は卒業する学園の生徒と生徒の関係者、そして教員が規則正しく並べられた椅子に座っていた。
俺とエリアナさんも座る必要があるんだけど、俺たちの席は来賓席だった。エリアナさんが言うには学園に脅しをかけたら、簡単に用意してもらえたんだとか。
来賓席から見える卒業生たちには見た記憶があるような顔もチラホラとあるけど、確か同級生だったかな?
退学になっていなかったら俺もエリアナさんもあの中に混じって式に参加していたんだよな。
でも、それが今じゃどういうわけか、同期の生徒を来賓席から眺めているわけで、人生ってのは本当に何が起こるか分かんないもんだなぁ。
俺が人生の不思議さに思いを馳せている中、卒業式は進行されていく。
正直な所、内容に関しては興味が無いからどうでもいいかな。俺は卒業生ってわけでもないし特に何も思わないんだよな。でも、卒業生は自分たちの式なんだから、もうちょっと気持ちを入れた方が良いと思うんだよな。なんか俺とエリアナさんの方にばかり視線が集中してる気がするし、もっと集中して真面目にやって欲しいもんだ。
「あそこには本当は私が立つはずだったのにムカつくわね。繰り上げで選ばれたくせに何を格好つけてるんだか」
エリアナさんの呟きが聞こえたのでホールの壇上を見るとウーゼル殿下が卒業生の代表挨拶をしていた。まぁ、同期なんだし、俺が卒業するはずだった歳に殿下が卒業するのも当然かな。
しかし学生と言っても、王族としての公務があるから学生というよりは立派な社会人だよな殿下も。学生の身の上で戦にも駆り出されていたし、大変そうで頭が下がるよ。
殿下は挨拶の中で堂々と自信に溢れた様子で未来への希望と卒業生の今後の活躍を期待して欲しいみたいなことを言っていたので、立派なことを言っているなぁと思って拍手をしておいた。
正直な所、半分くらいしか聞いてなくて、さらにその半分の内の半分は理解する気が無かったので、殆ど内容は理解できていないけど、立派なことを言っているような雰囲気と皆が拍手をしていたので、流れで拍手した感も強い。
代表挨拶が終わると殿下は壇上を下りると、卒業生席のイーリスの隣に腰かけた。
話を聞く限りでは、イーリスが魔族であるという疑いは晴れて無事に日常生活に戻れたらしい。
殿下にはイーリスが魔族であるっていうことを教えていないので二人の仲は相も変わらず仲睦まじい。
言ったところで誰も幸せにはならないだろうという結論に達したので黙っていることにしたんだけれども、仲の良いウーゼル殿下とイーリスの様子を見れば、これで正解で良いんじゃないかな?
イーリスの《魅了》の力で殿下はイーリスに対する好意を強められているらしいけど、殿下は幸せそうだし、その幸せを壊すのも忍びないよね。
でも、イーリスの《魅了》は好意を向けてくれない人には効果が無いらしいから、今の状況まで持ってこれたのはイーリスの努力による部分が大きいみたいなんだよな。みんなに好意を持ってもらうために必死で優等生を演じてきたわけだし、そういう努力を認めてあげて殿下と結ばれたことは許してやっても良いようにも思うんだよな。
ちなみにエリアナさんはイーリスに対して、次に調子に乗ったら全てを暴露して破滅させるって脅してました。これによってエリアナさんとイーリスの間で明確な上下関係が構築されたらしく、それが出来ただけでもエリアナさんは満足のようです。
そういや、キリエから聞いたけど殿下にもセイリオスの幻惑の魔法がかかっていた痕があるんだとか。
なんか殿下の様子がおかしかったことは無いかとキリエから聞かれたけども、記憶にないんで良く分からないって答えときました。
俺が王城で色んな人に責められてた時にボーっとしていたように見えたのは体調が少し悪かっただけだから関係ないよね。聖騎士の人たちが殿下に魔法を撃った後は元気になって喋っていたしさ。
エリアナさんとかキリエが言うには他にもセイリオスの魔法がかかっている可能性のある奴らはいるらしいけど、判別は難しいらしくてお手上げ。キリエが言うには解けて初めて分かる類の魔法らしいから見つけられないんだとか。
このことは一応、陛下にも伝えておいたけど、陛下はセイリオスには手を出し難いとかで及び腰なんだよな。
セイリオスの野郎はいつの間にか若手の貴族の中で確固たる地位を築いているらしくて人望も厚いとか。そんな奴に下手に手を出すと若手貴族からの反発を避けられないし、それで内乱にでもなったら目も当てられないとか言ってセイリオスには手を出したくないみたい。
ウーゼル殿下とエリアナさんも交えて話をしたけど、そこでも結論は様子見って感じになったんで、俺も様子見することにしました。
まぁ、なんか今の状況でセイリオスに手を出すのはマズいって予感がするので他の人が何とかしようと思っても俺は何もしないつもりだったけどさ。
なんにせよ、今回の件はそんな感じで終わり。
セイリオスは実家に戻って謹慎で終了。これ以上はちょっと手を出し難いから、セイリオスが動き出すまでこちらからも手出しはしないってことで方針は決まったわけだ。
「以上をもって、卒業記念式典を終了とします」
どうやら、考え事をしているうちに卒業式は終わってしまったみたいだ。
卒業式が終わったってことは、学園を卒業した生徒は人生の一区切りがついたってことかな。中央の貴族じゃ学園生活ってのは人生において結構な重みを持つらしいしさ。
俺の方は事件の一区切りがついただけだけども、まぁ似たようなもんだよな。ここでの区切りはついても、これから先、大変なことはあるってところがさ。
まぁ、なんにせよ、新しい門出ってやつだ。
この先に何があるにしても、色々と気分を変えて新しい一歩を踏み出すには良い機会なんじゃないかな?
学園に残っていたら俺も卒業して新しい生活に移っていったんだろうし、来賓としてだけど卒業式に参加して学生としてのあれこれには区切りがついた気がするし、俺もこれを機に気持ちを切り替えるとするべきかもなぁ。
まぁ、そういうのは追々考えていくとして、とりあえず今はさっさと旅行の行く先を決める方が大切かな。
出来れば、少し体を鍛えられる所が良いんだけど、どこかに良い所はないもんかね?




