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エリアナという少女2

 アロルドくんは思ったより、いい感じだった。

 顔は怖いけど、造りは自体は良いし、そこまで嫌悪感を抱くようなことは無い。私の前を歩くアロルドくんの態度は無愛想だったけど、アロルドくんが無愛想だというのは、学園にいた頃から知っていたので、それに関して私が、どうこう思うこともないわ。まぁ人付き合いが苦手な人くらいの印象かしら。


 でも意外だったのは、アロルドくんが街の人々に親しげに声をかけられていること。家から追い出されたのは数日前だと聞いていたけど、何故か長年の友人のように街の人には好かれているようだし、どういうことかしらね?

 慕われているとは言っても、下町でスラム一歩手前って感じの所だけど。まぁ、私はあまり気にならないわね。こういう貧民かつ愚民て、ちょっと優しくすると、すぐに崇拝してくれるのも多いから、良い人材よね。まぁ、優しくしているとつけあがるのもいるでしょうけど、そういう輩も頭の程度が低いわけだし、処理も楽だから、人材としての使いやすさはアリね。

 アロルドくんを、上手くたらしこめば、この街の人材を取り込めそうな感じ? それって素晴らしくないかしら。百人も人を動かせれば、今の社会体制なんか、ぐっちゃぐちゃに出来るわ。後の混乱に目をつぶれば、当座の金を稼ぐのなんて余裕ね。うん、これはアロルドくんを上手くたらしこまなきゃいけないわ。


 そう思って、アロルドくんが泊まっているという宿屋についたのだけれど、案の定というかなんというか、とても質の低い宿屋。

 こんな宿に泊まるとはどういうことなのだろうかと思ったのだけれど、アロルドくんは、そんな安そうな宿屋に泊まるのに、金貨を何枚か出したわけで、これには私も驚愕したわ。

 どういう理由で、そんな額を払っているのか、全く分からないのだもの、何か計画があるということかしら、この宿屋に泊まっていることを口外しないようにするための口止め料かと思ったわ。

 なかなか色々と画策してそうな感じで、私的にはゾクゾク。私って白馬の王子様よりも、陰謀を張り巡らす悪の皇帝の方がタイプだったから、これは結構アリだと、この時思ったの。それに、すっごくお金持ってそうだっていうのも、ポイントが高いわね。

 これはもう、抱かせてあげるしかないでしょう。なっていうかこう、私の凄まじいテクニックでメロメロにさせてやるわ。私は処女だけど、大丈夫、楽勝よ。こういう時のために、四十八手とか調べてるし、知識は完璧、後は実戦だけだけど、私は本番に強いから、余裕ね。

 アロルドくんを上手く垂らしこんで、王子達と私の実家への復讐するための尖兵にしてやるわ。ぁ、尖兵じゃなくて私の後ろ盾でも良いんだけどね。場合によっては、旦那様にして上げてもいいし。やっぱり初めてを捧げるんだから、多少は責任を取ってもらいたいじゃない? まぁ、私とアロルドくんじゃ、私の方が格が勝ちすぎてて、アロルドくんが可哀想なことになるかもしれないけどね。


 そういうわけで、私はその夜に速攻で夜這いに行きました。宿の娘さんが余計な気を回したせいで、私とアロルドくんは別の部屋に泊まることになってしまったので、余計な手間がかかることになり、そのせいで面倒が起きたの。


 何があったってアロルドくんの部屋の前に宿屋の娘さんがいたのよ。これはあれね、夜這いね。きっとアロルドくんの寝込みを襲って既成事実を作るつもりなんでしょう、アロルドくんがお金持ちに見えただろうし、この娘は欲に目がくらんだってことね。

 色々と思惑はあったのだろうけど、好き勝手されると私の方に問題が生じるから、後から音もなく忍び寄って、キュッと絞め落としたわ。私って深窓の令嬢だし、悪い男の人に絡まれやすそうだから、身を守れるように一通りの武術は修めているの。

 美人で賢く、その上、腕っぷしもあるなんて、私って天才ね。オーホッホッホッ! ちなみに、宿屋の娘さんは、意識を失っているだけなので、私が担ぎ上げて、部屋まで届けたわ。


 私と戦うには十年は早かったわね。でも十年後だったら、私もパワーアップしているわけだし、きっと貴方が追い付くことは無いわね。貴方は適当にそこら辺にいる、真面目だけが取り柄の冴えない男と、結婚して貧しいながらも、家族の仲が良い幸せな家庭を築いて、最後は子供や孫に看取られながら、老衰で死ぬのが、お似合いよ。


 そういうわけで、完全勝利した私はアロルドくんの部屋の前に来たわけだけど、どうしてか急に調子が悪くなってきたわけで、脚がガクガクと震えるけれど、武者震いってやつね。なんだか、気持ち悪くなるほど鼓動が早まっているけど、これは、決戦前ということで興奮しているだけ。断じて、ビビッてないわ!


 なので、私は思い切って、ドアを開けてアロルドくんの部屋に入ったわけなのだけれど……ごめん、無理です。

 急にお腹が痛くなってきました。お部屋帰りたい……。これ、明日ってことじゃダメですか? ちょっと調子悪くなっちゃって……という感じになりました。ええ、体調が悪くなったら仕方ないわよね。断じて臆したわけじゃないわ。


 そんな風に急に調子が悪くなってしまった私に対してアロルドくんはというと。ベッドに横になったまま「そんなつもりはない」とか言いやがりました。

 グヌヌ、青少年の癖に私のような美少女に欲情しないとは、思ったより手ごわい。顔は怖い癖に中々の紳士っぷりは高評価だけれど。

 まぁ、私も急に調子が悪くなっちゃったし、ここは帰るのがベスト。でも、あっさり帰るのも、状況的に微妙なので、『やむにやまれず夜這いに来た哀れな令嬢風』を装って帰ったわ。そして、部屋に帰るとお腹は痛くなくなったのだけれど、疲れていたので寝たわ。


 で、翌朝だけど、昨日の一件があったので、私は普段通りに猫を被り、『やむにやまれず夜這いに来た令嬢風』を装って、『貴方に助けていただいた恩を返すには身体で払うしかないと思い、やすやすと身体を差し出そうとする、はしたない女など、貴方は軽蔑するでしょうね』という意味を込めて、


「私のことを、はしたない女だと、お思いなのでしょうね」


 と言っておいたわ。常識ある男なら、絶対にそうは思いませんとか言うものなので。こう言っておけば大丈夫だと思ったわけ。そうしたら、アロルドくんは、


「貴方に非は無い。少し冷静になって状況を考えてみた方が良いと俺は思う」


 思ったよりも、紳士的な物言いで、ちょっと拍子抜けしたわ。もう少し、感情的に言うのかと思っていたのだけれど、案外冷静な感じだったので、ちょっと驚き。それに、


「一人で考える時間が必要だ。ゆっくり休んでくれ」


 なんだか、思ったよりも優しい扱いだったわ。これってアレかしらね。もしかして、私のこと好きだったりとか?

 困るわ。アロルドくんは外見的には、私の好みにドンピシャだし、口調はぶっきらぼうだけど、紳士的かつ優雅な態度も悪くないし、お金持ちそうだし、顔は怖いけど、困っている私を助けてくれたりする優しいところも、いい感じだし、好きか嫌いかで言えば、好きなほうかしら?

 まぁ、私には釣り合わないだろうか、今後に期待だけど! でも、どうしてもというなら、私に釣り合う男になるための努力に手を貸しても良いわね。

 そんな事を思っていた時には、既にアロルドくんはいなかったけど。


 アロルドくんが、どっか行っちゃったので、することもない私は、宿屋の仕事を手伝ったわ。私にかかれば余裕ね。とりあえず、宿屋の娘さんに、ちゃんとした帳簿の付け方とか、この店が抱えている借金の不当な利子について、明らかにしておいたわ。しかるべきところに、このことを伝えので、借金の総額から金貨三枚分が引かれることになって、金貸し以外は幸せってところかしら。


 夜にはアロルドくんが、帰ってきて、それに合わせるように色んな人がやって来たわ。ほとんどが魔物を狩ることで日銭を稼ぐような食い詰め者たちだったけど、アロルドくんは妙に慕われていたわね。まぁ、そうやってアロルドくんが皆に囲まれて話したことは、中々に興味深いものだったわ。アロルドくんが教会の人間と仲が良いって話は特にね。

 アロルドくんが聖神教会守旧派と接触していて、それも清廉潔白かつ、民衆への奉仕を第一に考える守旧派のシンボルのような役割である聖女カタリナと関係が深いらしく。どうやら、アロルドくんは教会の派閥争いに関わるつもりだというのが分かったわ。

 悪くないわね。なんだかんだ言っても宗教は強い力があるし、人々の意識の誘導には宗教なんかは使いやすい道具だし、味方になっておくのも悪くは無いわ。アロルドくんが最終的にどういう方向性を目指すのかは分からないけど、権力者になるには宗教関係とは、上手く付き合っていく必要があるわ。

 いっそ聖女様を孕ませるなりして、しっかりと関係を強めた方が良いのだろうけど、難しいかしらね。私が読んでいた本の『淫乱シスター夜の懺悔室』的な展開もアリだと思うのだけれど、どうかしら?


 その後も、アロルドくんは酔ったのか、とりとめもなく話していた。その中で、私はアロルドくんの言う『冒険者』という言葉が気になったの。

 雑用から魔物狩りまで、様々な頼みごとをこなす代わりに、お金を貰う。アロルドくんは、深く考えず、そう言ったけど悪くないわ。むしろ、良い考えかもしれない。

 人を派遣してお金を得るとか、そういう組織を作ってみるの。色々な人からの依頼を集積し、依頼に見合った、もしくはその依頼に関心がある人間を派遣する。当然、依頼料は貰うし、仲介料も貰うけど、でもそれくらいは良いわよね。

今までは、道端で声をかけて人を雇おうなんて効率の悪いことをしていたのを、こっちが代わりにやってあげるのだから、良いわよね。

 それに魔物を狩るのだって、これまでは得体のしれない食い詰め者を雇うしかなかったのが、こちらが身分を保証している食い詰め者になるのだから、多少は安心に思うはずね。

 後、報酬に関しては、こっちが管理するので後で揉めることがないから、安心できるはず。相場もこっちで決定するから、払い過ぎたりせずに済むわね。まぁ、相場ぶん払えない人たちも出るでしょうけど、そこら辺は代わりの物で何とかしてもらうから良いでしょ。

 で、こういう人たちを何と呼ぶかといえば、それはやっぱりアロルドくんが言った『冒険者』というのが良いかしらね。傭兵や用心棒なんかよりは自由な感じがして良い響きだわ。実際は何でも屋の食い詰め者だけど。

 あと、組織名も決めなきゃね、これはシンプルに組合組織を意味するギルドって言葉を使って、『冒険者ギルド』ってのが良いわね、ギルドの仕事内容は冒険者の身分保証と、依頼の取りまとめ、冒険者への依頼の斡旋かしら、現状はこれぐらいしか思いつかないけれど、そのうち色々な方面に手を出したいものだわ。

 アロルドくんが守旧派の人達と仲良くなってくれれば、守旧派の治癒術士なんかも、冒険者ギルドに引き込めると思うんだけど、どうかしらね。

 まぁ、それは後々の課題ということで、当座は上手く人を集めましょう。ギルドの運営が上手く行って、冒険者というものが定着すれば、ギルドの影響力は大きくなるだろうし、冒険者という手駒も得られるわ。それがあれば、王子たちをギャフン言わせられそうね。


 ギルドの代表はアロルドくんが良いかしらね。冒険者になりそうな人たちに好かれているし、彼らもアロルドくんの言うことなら聞くでしょ。資金はアロルドくんから借りよう。動き出すなら早い方が良いし、明日からしよう。

 まずは色んな人に顔を繋いでおくのが大事ね、どこがどういう利権を持っているのか分からないし、厄介ごとは御免だもの。ちょうどいいことに、アロルドくんをアニキとか言って慕っている下町の顔役っていう人がいるわけだし、その人に、有力者の何人かと顔を繋いでおこう。当面は下町なんかをメインに活動していくから、下町の有力者だけで良いわよね。困ったらアロルドくんの名前を出せば良いし、気が楽ね。

 うん、なんだか色々と考えていると、楽しくなってきたわ。明日からが楽しみね。色々とやって行ことにしようっと。


 そんな風に、私の冒険者ギルド創設計画は始まり、下町の顔役という人を連れて、色んな人と顔を繋いだわ。それで、ようやく宿に帰ってきた私。

 とりあえず、アロルドくんに諸々の報告をしようと思ったのだけれど、なんだか微妙に宿の中の空気が重いのはどういうことかしらね。とりあえず、夜も遅いし、アロルドくんに報告するのも時間が遅いから、明日にしましょう。というわけで、おやすみなさい。


 ふふ、明日が楽しみだわ。アロルドくんから許可を貰えれば、冒険者ギルドの起ち上げが出来るわ。そんな期待に胸を膨らませて、私は眠りに落ちたの。その時の私は疲れていたせいか、状況の把握を怠っていたみたい、私があずかり知らぬところで、中々に大事件が起きていたということも知らずに、すやすやと眠っていて、何が起きていたか理解したのは翌日。


 そして、今、私と同じテーブルには難しい顔をした人たちが座ってアロルドくんを待っているわけだけど、これって大丈夫なのかしら?なんだか、凄く心配なのだけれど。







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