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遭遇戦

 随分とまぁ物騒だ。

 なんで、そんな風に思うのかというと修道院内でどっかの誰かが人を殺しまくってるからなんだけどさ。

 一体どこの気違いどもが、そんな乱暴狼藉をやらかしてんだろうね。


「とりあえず、ここから離れるとするか」


 俺たちまで巻き添えはくいたくないし、頭のおかしい人らとは関わり合いになりたくないのです。

 えーと、一緒に行く人はエリアナさん、カタリナ、キリエ、ヒルダさん、イーリスで四人かな。


「イーリスはどうするんだ?」


 ヒルダさんが訳の分からないことを言っています。

 イーリスはここにいるに決まってるじゃんね。だから、五人名前を挙げたけど一緒に行く人は四人なのよ。

 だって連れてったら、さっきイーリスが逃げ出すのを止めた意味がなくなるじゃない。まったく、今の今までヒルダさんは何を見ていたんだろうかって言いたくなるぜ。


「当然、連れてくわ。訳の分からない連中に殺されたらマズいもの」


 まるで訳の分かる連中なら良いみたいな言い方だね。


「こんな状況で死なれたら誰にとっても迷惑になるんだから、イーリスには無事でいてもらわないと。誰に殺されたか分からないとなると下手な勘繰りをいれる輩も出てきて、トカゲの尻尾切りで王家がイーリスを始末したとか、教会が碌に調べもせずイーリスを殺したとかなんとでも言えるわ」


 そうなったら、困るのかな?

 まぁ、お互いに何で勝手に殺してんだって相手に対して不満を抱くことになるよね。

 不満を抱いたら喧嘩になるかもしれないし、王家と教会で喧嘩になると騒ぎが大きくなりそうだなぁ。

 俺がそういうのを気にする必要はないと思うんだけど、何かあって俺にまで飛び火してくるのは嫌だから、イーリスが死なないように気を付けましょうか。


「では、イーリスを連れて行こう」


 とはいっても、建物の中に武器を持った頭のおかしい人たちがいっぱいいるし、エリアナさん達が一緒だと危ないような気がするんだよね。


「私が先行して安全を確保してこよう」


 ヒルダさんがそんなこと言いました。

 なるほど、その手があったかと思うので俺も一緒に行って手伝いましょう。

 とりあえず、立ちはだかる奴らを皆殺しにしていきゃいいんだろ。

 わりかし、俺の得意分野だから任せてほしいな。


「俺も同行しよう。敵は多いのだから背中を守る奴くらいは必要だろう」


 本音を言うとヒルダさんだけじゃ駄目だと思うんだよね。でも、そんなことを言うと拗ねちゃう人かもしれないし、気を遣ってあげました。


「ちょっと待って、それじゃ私たちはどうなるの? 戦いに関しては私は丸腰の相手を素手で殴る程度しか能がないわよ」


 なんか言い回しが凄いけど、要は剣が使えないということだろうね。魔法を使っているところも見たこと無いし、エリアナさんは性格はともかく能力的には全く戦闘に向いてないから仕方ないね。


「……私がいる」


「私もいますよ、エリアナさん」


 でもまぁ、キリエとカタリナがいるから、どこかに立てこもってれば速攻で殺されることは無いと思うよ。


「えーと、あたしは全く戦えないんだけど。できれば、すぐに連れ出してもらえると気持ち的に凄い楽なんだけど……」


 魔族なのにイーリスは情けないなぁ。でも、すぐに連れ出すってのはどうなんだろうね。


「それは無理だ」


 ヒルダさんがにべもない調子で言う。

 まぁ、実際無理だけどさ。俺とヒルダさんだけじゃ、移動しながら全員を守るのは無理。

 カタリナとキリエの援護があるにしても、二人とも攻撃力が低いから敵の処理ができんのよ。

 オリアスさんとグレアムさんがいれば、攻撃も守りも完璧でなんとかなるんだけどね。ついでに、探知一号がいれば索敵もできて尚良いけど、そういうのは無理だからしょうがない。

 諦めて、敵の数を減らしてから進むとしましょう。


「敵の数は?」


 俺は〈探知〉の魔法が使えるキリエに聞いてみます。

 使えるって言っても、本当に使えるだけのキリエにはそこまで多くのことは期待してないので、数だけ教えてくれればいいです。これが探知一号だったら、人相とか装備に体調や敵の会話も教えてくれるんだけど、そういうのはキリエには無理なので、そこまでは要求しません。


「……鎧を着ている人が三十人くらい……」


 思ったよりも少ないね。


「その人数でここを制圧できるの?」


「この修道院に今いるのはイーリスの世話をするだけの人員であるから数は少ない。不可能ではないだろう」


 たぶん、修道院にいる人間のほとんどが非武装だから仕方ないか。

 助けてやろうっていう気が無いわけじゃないけど、こっちも立て込んでるから無理だろうし、見捨てるしかないね。


「……待って、数が減ってる。……誰かが減らしてる……?」


 なんだろうね、味方だろうか? だったら、ありがたいね。

 働かなくて済むなら、そっちの方が良いし、その人らに任せておきたいけど、どうしましょうか?


「それは好機だな。それに乗じて、我々も脱出経路を切り開こう」


 あ、待機はなしですか、そうですか。まぁいいけどさ。


「エリアナ達はどこかに隠れていろ。状況が良くなれば呼びに行く」


 俺は行きますし、ヒルダさんも行くけど隠れているだけなら大丈夫だろ。

 一緒に行く方が危ない気がするしさ。


「では、行ってくる」


「気をつけてね。こんな誰の得にもならなそうなことを画策する奴は頭がおかしいに決まってるんだから、何をしてくるかは分からないわ」


 最後の最後で不安になることを言わないでほしいなぁ、エリアナさん。まぁ、俺は気にしないけどもね。





 ――そんなこんなで俺は安全な脱出経路を確保するために、エリアナさん達と離れ、ヒルダさんと修道院の中を歩いています。


 敵がどこからか襲ってくるんじゃないかと思って、多少は周囲を気にしながら歩く俺達ですが、不意にヒルダさんが口を開きました。


「……その、なんだ、私を連れてきてくれて感謝する」


 ヒルダさんは、なんだか気恥ずかしそうな様子だけど、どうしたんでしょうかね。


「危険な仕事を押し付けたのに感謝するようなことがあるのか?」


「私にとってはそれが感謝するべきことなんだ。普段から女としか見られず、侮られてきた身としては、その、背中を預けるに足る相手だと多少なりとも評価されたのがう嬉しくてだな」


「俺は腕前を見て充分と思っただけだ」


「私にとってはそれが嬉しいんだ。どれだけ鍛えても女というだけで相手にされなかったが、アロルド殿は私を認めてくれた」


「他にいなかっただけでもあるがな。他に腕の立つ奴がいたら、そちらを選んだ可能性もある」


 オリアスさんとかグレアムさんね。

 どっちか片方でもいたら、ヒルダさんはお留守番していてくださいとしかならなかったよ。

 だってあの二人に比べたらハッキリ劣るし、わざわざ劣る奴を選ぶ必要もないからね。


「そういう公平さが私には好ましいんだ。誰も彼もが私を色眼鏡で見て、私自身を評価することは稀だから」


「色眼鏡で見ないというのは難しいだろう。キミは強く美しいという天から二物を与えられているのだからな」


 おや、なんだかヒルダさんの顔が赤くなってきましたね。


「き、貴公は口が上手いのだな。う、うむ、そういう所も好ましいと思うぞ」


 そりゃあね、小さい頃から父上に貴族風の口の利き方を習ったし、セーレウム城でノール皇子と遊んでいた時に暇だからって理由で女の人の口説き方の練習を一緒にしたからね。まぁ、どっちも内容は忘れ気味なんだけどさ。


「……なんというか、貴公は本当に変わったな」


 おや、どうしたんですかヒルダさん、真面目な顔になって。


「学園にいた頃にアロルド殿の姿を遠巻きに見ていたが、あの時のアロルド殿と今のアロルド殿では全く別人だ」


 いやぁ、俺はたいして変わっていないと思うよ。


「なんというか、以前のアロルド殿は恐ろしかった。何を考えているのか分からず、何をしでかすのか分からない怖さがあった。だが、今は柔らかさを感じるんだ、何を考えているかは分からないが、自分の周りの人間をむやみやたらと傷つけるようには思えない」


 そりゃあ、俺も苦労しましたからね。やっぱり苦労は他人を磨くんだよ。

 俺がどんな苦労をしたかというとだな――――うん、苦労した記憶がない。

 まぁ、なんか色々とあった気がするけど、そんなに嫌なことは無かったかな。あっても、我慢できる範囲内だったような。単に忘れてるだけかもしんないけど、忘れられる程度なら別にたいしたことでもないような気がするね。

 つまりは苦労といえる苦労をしてないってことだ。それならそれで、心穏やかに過ごした日々が俺を磨いたってことだね。やっぱり人間、辛い思いをすることが重なると心が荒んで駄目になるってことだ。その点、俺は問題ないな。


「私は今のアロルド殿の方が良いと思うぞ。うん、今の方が人としても男性としても好ましい」


 そんなことを言っているけど、全部ヒルダさんの目が節穴の可能性もあるから真面目に受け取らないでおきましょう。

 おっと、ヒルダさんの俺からするとイマイチ要領をえない話を聞いているうちに――


「敵だな」


 曲がり角の先から人の気配がします。

 まぁ、気配じゃなくても向こうが鎧を着ているせいで音で分かるんだけどもね。

 こっちは鎧の類を身に着けてないから、音はしないので向こうからは気づかれていないでしょう。

 ならば、先手を取ることは容易いわけで――


 俺はヒルダさんをその場に待たせて少し先を歩く。

 そして、向こうが曲がり角に差し掛かる、その瞬間に俺も曲がり角に姿を出す。

 向こうも曲がろうとしていた瞬間だったので、至近距離で向き合う状態になったわけだが、こっちは曲がってくる相手が分かっていて、向こうは分かっていなかったので、俺と向き合っても準備ができていないため、咄嗟の反応が遅れる。


 その遅れた瞬間が致命的なわけで、俺は慌てて動こうとするそいつの頭を掴んで、壁に全力で叩きつけた。

 壁は石造で相手は兜を被っていなかったため、それだけで頭蓋骨が砕けて脳味噌まで陥没したはずだ。


 一人は倒したが、一緒に行動していたのか残り二人ほどいる。とはいっても、急な出来事に全く対応できていない様子なので問題はない。

 俺は最も近くにいた相手に向けて剣を振り、その首を斬り落とした。予想外のことに気が動転しているのか反応が鈍く、たぶん自分が死んだことにも気づいていないだろう。

 そうしてもう一人を始末したところで、ようやく最後の一人が動き出すが、それも遅い。俺に向かって剣を構えた瞬間、横合いからヒルダさんに首を剣で貫かれた。


「見事だな」


 ヒルダさんが俺を褒めてくれますが、相手がたいしたことないだけだと思うよ。

 装備はマシだけど素人に毛が生えた程度っていうのかな。腕前だけ言うなら、戦の時に見た帝国の雑兵とかと同じくらいっていうか、そのまんまかな。

 まぁ、弱いにこしたことはないから、ありがたいくらいだね。


「さっさと進もう」


 褒められてもたいして嬉しい気持ちにならなかったんで、俺たちは先に進みます。

 とりあえず、脱出できるような経路の安全だけを確保すりゃ良いはずなんだけど――


「いたぞ、生き残りだ!」


 歩いていたら見つかってしまいました。

 生き残りって言われるとなんか違う気がするんだけど、それって訂正した方が良いことかしら?

 生き残りと言っても、それは修道院の関係者の生き残りであって、俺は部外者だから別グループになるし、敵さんの目的としている相手じゃないと思うんだけどな。

 まぁ、攻撃されそうになっている現状で色々と考えても仕方ないかな。とりあえず始末しよう。


 敵の数は五人だった。

 俺はとりあえず一番近くにいた奴に向かって一気に距離を詰め、剣を振り下ろす。相手の反応が遅いのか、振り下ろした剣は防がれることもなく頭を粉砕する。

 そして続けざまに、その側にいた相手を剣で薙ごうとしたが、その相手は咄嗟に剣を盾に身を庇う。だが、無意味だ。俺の剣は、それを防ごうとした相手の剣を叩き折り、剣を持った相手の腕もへし折って、その身体を薙ぎ払って命を奪う。


「女だ! 女を狙え!」


 そんな卑怯なセリフを吐いた奴が近くにいたので、そいつの足を払って転ばせ、頭を踏みつけて頭蓋骨を砕く。だが、そのセリフを指示と受け取ったのか既に残った二人がヒルダさんの方に向かっていた。

 俺がどうしたものかと思う間もなく、ヒルダさんも動いていた、斬りかかってきた相手の剣を細剣で受け流し、そこから流れるような動きで相手の膝を突き転ばせると、もう一人の方に向き直り、剣を突き出す。

 放たれた突きを慌てて防ごうとする相手は俺に対して背中を晒していたので、俺は後ろから近づき、ヒルダさんの突きを防いだ直後にそいつの首を斬り落とす。

 ――で、あと一人、転んだ奴が残っていたが、起き上がれないそいつをヒルダさんが首に剣を突き立て始末した。


 五人いても二人に歯が立たないとか、やっぱりたいしたことがない連中だ。

 でもまぁ、たいしたことは無くても、問題は数が多いことで――


「何者だ、貴様ら!」


 更に三人ほどやってきてしまいました。

 いやぁ、俺の方が『貴様ら、何者だ!』って言ってやりたいんだけど、そういう俺の気持ちは汲んでくれないのかな?  まぁ、気遣いが出来る連中でもないと思うんで期待しませんがね。

 とりあえず、こいつらを始末しなけりゃ脱出経路の安全は確保できないだろうから始末しなきゃな。まぁ、たいした相手でもないんで余裕だから別に困らんけど。


 敵が険しい表情で俺を見ている。対して、俺は余裕の感じで向き合っていた。

 その状況にすぐに敵はしびれを切らし、動き出そうとする。俺の方はと言えば適当に対応すれば済むと思い迎え撃とうとしたわけだが――



 その瞬間、敵の腹から剣が突き出た。

 そして、続けざまに残り二人が首を剣で斬り落とされ、メイスで頭を叩き潰され息絶える。


 俺の敵として立ちはだかっていた三人は一瞬で死体となり倒れ伏した。

 そして、その三人を踏み越え、新たな二人が俺の前に姿を現す。


 その二人が身にまとうのは、どこかで見たような真っ白い鎧。

 しかし、鎧の大部分が赤い血で覆われていて、ここに来るまでに相当な数を殺してきているのが想像できる。


「聖騎士……」


 ヒルダさんの呟きが聞こえ、俺はようやく理解した。

 なるほど、どこかで見たような気がするわけだ。ついこの間、城で見たんだからな。

 そして本物の聖騎士だと言われても、俺はおかしいと思わないな。発している気配がヤバすぎるし。

 でもまぁ、そういうのは置いといて、この人たちは俺たちの味方なんでしょうかね? 気配は気にしないようにするにしても、それは気になるんだよな。俺としては味方であると助かると思うんだけど――


 聖騎士二人は俺とヒルダさんの姿を確認すると、一切の躊躇なく武器を構える。


 ――残念、俺の願いは露と消えました。


「待ってくれ! まずは話し合おう!」


 ヒルダさんはそう言うけれども、それは無理だと思うな。

 話が通じる奴らに見えないし、そのうえ敵意満々だしで、向こうがその気な以上、こっちもやるしかなさそうなんだよな。


 さて、どうしたんもんかね。





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