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女騎士の事情

「ねぇ、もう一度言ってみて」


 エリアナさんがニコニコと笑っています。楽しそうでいいね。

 でも、お茶を顔面にぶっかけられるのはちょっと嫌かも。


「いや、その、だな……」


 メイドから渡されたタオルで顔を拭きながら、ヒルダさんも困っているようだけど、もう一度って言っているからもう一度言ってあげた方が良いんじゃない?

 たぶん言ったら、もう一回お茶をかけられるだろうけどさ。ちなみにそのお茶は俺のになるだろうからやめてほしいなぁって思ったり思わなかったり。


「……はぁ、もういいわよ。どうせ理由があるんでしょう? 本気で怒るのは聞いてからでも良いから、理由を言ってちょうだい」


 うーん、これでも本気で怒っていなかったようです。女の子って複雑だね。

 見た感じだとエリアナさんが先にキレたせいでヒルダさんがビビって委縮しちゃってるし、完全にエリアナさん優位だね。


「えーと、その、うー」


 本当に駄目だな、この人ヒルダって人は。話せって言ってんだから話せばいいじゃない。

 言われたことも出来ないとか人としてイマイチだと思うよ。俺も言われたことはできないけど、俺の場合は言われたことを忘れるだけで、仕方ないのよ。


「貴女もイーリスに婚約者を取られてるのに、よくもまぁイーリスに肩入れできるものね。私はその理由が聞きたいだけなのだけれど」


 おや、そうなんですか? なんだか衝撃の事実を聞いてしまったぞ。

 しかし、この人とイーリスを比べてイーリスを取るのか。まぁ、美人ではあるけど凛々しい感じだし好みが分かれるのかもしれんね。俺としてはイーリスよりヒルダさんの顔の方が好みだけどさ。

 俺は性格で女の人を判断するようなことはせず、見た目で判断しますんで顔の良い方が好きですし。だって、性格の良い悪いとか俺には分からんしー、性格ってのは合う合わないだろ? 自分に合わない性格の人間は俺からすると性格悪く見えるぜ。


「取られてはいないぞ! あいつは騎士として未来の王妃を御側でお守りしているだけで……」


 自分で言ってて悲しくなってきたのかヒルダさんの目に涙が浮かんできましたね。


「……私ってそんなに魅力ないのかな……別に父上が決めた縁談だから、そんなに乗り気ではなかったけど……相手にされないとなると、なんだか自分が情けなくなって……」


 そんなことは無いと思うので慰めておきましょう。


「俺は貴女を美しいと思うがな。きっと、その相手も貴女の魅力に遠からず気付くだろう。俺が貴女の姿を見て目を奪われたようにな」


 俺の美的感覚が悪い可能性も無いとは言えず、相手の男の方が見る目があるかもしれないので、男の方を貶めるのはやめておきました。


「そ、そうかなぁ。そんなことを面と向かって言ってくれるのはアロルド殿だけだからなぁ……」


「人は真に美しいものを目にした時、怖気づくものだ。貴女に賞賛の言葉をかけられない者たちは貴女の美しさに尻込みし、賞賛の言葉をかけられないのだろう。俺は恐れを知らぬ愚者だから、貴女の美を讃える言葉を口にできたという、それだけのことだ」


 エリアナさんが呆れた目で俺を見ているんだけれども、どうしたんでしょうね。

 ヒルダさんも照れているし良く分からんね。お世辞なんだから、もっと普通に受け取って欲しいんだけどな。


「ところでヒルダ嬢の婚約者とは誰だ?」


 知っている体で話してたけど、良く考えたら知らねぇや。でも知らなくても人生で一度も困らなかったし、たいしたことじゃないと思う。


「近衛騎士団長の息子さん。よくウーゼル殿下と一緒にいるわね」


 エリアナさんが教えてくれました。ああ、うん、なんかそんな奴もいたようないなかったような。婚約披露パーティーの時に見たような見てないような。俺に向かってピーチクパーチクうるさかったような。それは王国騎士団長代理だっけ? うーん記憶がない。


「学園にいた頃、剣術の授業中アロルド殿に両手足の骨をへし折られていた者だ」


「ああ、あいつか」


 俺はヒルダさんの言葉に合わせて頷きます。

 なんか知っている風な感じで話が進んでいたため、知らないと言うと馬鹿だと思われそうなんで知っているふりをしましたけど、実は全く知りません。今まで一度だって思い出したこと無いと思うから、俺としても初めて聞く感じなので驚きです。


「その婚約者が自分のもとから離れて別の女に夢中。それなのに自分の男を取った女のために何をしようとしているのかしら、伺いたいものだわ」


 ああ、うん、そういう話だったよね。

 なんだっけ、イーリスを守ってほしいだっけか?


「それは、その……話はエリアナが学園を去った直後に遡ってだな……」


 長くなりそうならいいや。

 どうせ憶える気もないし、憶えたとしても忘れちゃうし、聞く意味がないよね。

 まぁ、エリアナさんが聞きたがっているから止めるようなことはしないけど。


「実は私はイーリスの護衛を務める騎士になったんだ。ウーゼル殿下がイーリスの身を護る必要があると言い出し、私がその任に選ばれた。まぁ、理由は女だからという、それだけなんだがな」


 そりゃあ、女の人を男に護衛をさせるのもねぇ。護衛となると割と一緒にいなきゃならんしさ。俺も護衛の人が女だと鬱陶しいなぁって気分になるよ。便所行ったときに男の護衛だったらナニを見せて俺のデカいだろって自慢できるけど、女の人だとできないしさ。あとエロい事してるとか誤解されると嫌だよね。


「へぇー、そう随分と出世してたのねぇ」


 エリアナさんの視線が俺のお茶に向かいます。

 危ない予感がするので飲み干しておきましょう。まぁ中身が無いなら無いで、カップで頭を殴りつけるくらいしそうだから意味ない気もするけどね。


「わ、私だって、ちょっと躊躇したんだぞ。でも、その騎士になれると聞いてだな。悩んだ末に、その……」


「もういいわよ、済んだことだもの。良いわよねぇ騎士、かっこいいし憧れだったものねぇ。友達を陥れた相手に尻尾振ってもなりたいわよねぇ。普通は女の子はなれないし、どんなチャンスに縋り付いてでもなりたいわよねぇ」


 ヒルダさんがシュンと落ち込んでいます。

 エリアナさんは色々と言っているけど、許してはいるような気配もするし気にしなけりゃいいのにね。

 そんなことより、さっさと早く話を進めて話を終わらせてくれませんかね。


「あなたがイーリスに媚びを売って騎士になったのは分かったわ。騎士としては主君には様をつけないといけないものね。で、結局の所、あなたは私たちに何を頼みたいのかしら?」


「それは、イーリス様の護衛で……」


「あなたがいるじゃない」


「私一人ではどうにもならない状況で……」


「へぇ、どんな状況なの?」


「教会の聖騎士がイーリス様の身を改めると言っていて、聖騎士がどんな手段に出るかは分からないから、その……。私一人では何かあっても守り切れないし、みんな魔族という疑いのあるイーリス様と関わり合いになりたくはないらしくて、実力的にも頼りにできそうなのはアロルド殿くらいしかおらず……」


 へぇ、聖騎士の人たちが何かすんのか。

 なんかヤバい雰囲気してる人たちだったし、基本的に全員が全員プッツンしてるオリアスさんとグレアムさん並に問答無用っぽくもあったんだよな。ああいう人たちと関わるとなると何か問題があったらイーリス殺されちゃうかもね。


「私たちに聖騎士からイーリスを守ってほしいってこと? ないわ、絶対にない。なんで今まで教会とは大きな面倒を起こさずに来たのに、ここにきて揉めなきゃならないの? 私たちは関わってないから良いけど、教会派と反協会派で貴族同士も裏では揉めてるのに、その中に関われっていうの?」


 へぇ、初耳です。

 まぁ、揉めるよね。教会の人も結構な特権階級みたいだし、同じ特権階級の貴族の人とは揉めそう。なんで揉めるのかは分からないけど色々あるんでしょう。


「そもそもなんで、イーリスを庇ってあげようっていうのか理解できないわね。あなただって彼女に対しては良い感情は抱いていないはずよ。婚約者を取られて惨めな思いだってしているのでしょう?」


 確かにそこん所はどうなんだろうね。

 俺もウーゼル殿下にイーリスって婚約者を取られて辛い思いを――――してませんでした。

 俺はしてないからヒルダさんもしてないかもね。辛い思いをしているヒルダさんがいなくてよかったよかった。


「それは、その……私だってイーリスに対しては思うところがある。だけど、今の私は彼女の騎士だから彼女を守らないと……。私が憧れた物語の騎士たちならばそうするし、私もそうしたい。それが私の騎士道でもあるから」


 物語に憧れたって夢見る乙女かよ。

 あんまり物語に傾倒するとアホだと思われるよ。空想の話に現を抜かしてると馬鹿になるとか言われるし、実際読んでいた俺も頭悪いしさ。

 つっても、そんなこと言われる前は演劇なんか見てるとろくでなしになるとか言われてたみたいだから、何か楽しいことに興じていると人間て馬鹿になるってことらしいね。きっとこれから先、楽しいものはもっと増えるし、その度に馬鹿になるとか言う人が出るんだろうね。

 実際、馬鹿になるかは知らんし、そこまで実害は無さそうだから物語に現を抜かしていても別にいいような気もするけどさ。


「それ以前に私はイーリスを好きではなくても、死んでも構わないと思っているほど嫌ってもいないし、彼女がもしも殺されでもすれば心が痛むと思う。エリアナだってそうだろう?」


 だそうです、エリアナさんはどうですかね。

 エリアナさんはわずかに考えるような仕草を見せると大きく息を吐きます。結構な量の息を吐いたので悶々とした気持ちも一緒に出たんじゃないですかね。


「――そうね、確かに嫌いだけれども、死んでほしいと思うほど憎んではいないわ。なんだかんだ言っても一緒に過ごした時期があるもの、多少の情もあるわ。でも、それは私の気持ちであってアロルド君の気持ちじゃないわ。あなたは私だけではなくアロルド君にも聞くべきじゃない?」


 エリアナさんとヒルダさんが俺を見ます。なんか俺に話せっての? 俺は気分的には野次馬なんだけどな。

 エリアナさんもヒルダさんも俺に対して申し訳なさそうな顔をしているけど何か俺にしたのかな?


「アロルド殿……その、なんというべきか分からないが、どうかイーリスの身を守ることに手を貸してほしい。水に流せと言えるような身ではないが、どうか頼む。過去に何があったとしても、今の彼女は私の主君で私は彼女の騎士なんだ。自分勝手は承知の上だが私の騎士としての矜持を守るためでもある。だから、そのすまないが手を貸してもらえないだろうか、もちろん礼はするので……」


 別に俺は何でもいいんだけどね。状況が良く分かってないし、分かろうとする努力も面倒くさいからしてないけど、ヒルダさんが手を貸してほしいってことは分かるよ。だから、答えは一つです。


「……分かった。手を貸してやろう」


 何に手を貸せばいいのかイマイチ分かってないけど、女の子が頭を下げて頼んできたし聞いてやっても良いんじゃないかな。基本はイーリスを守れって話だし、悪いことしろって話でもないから、まぁ良いんじゃない。







 俺がイーリスの護衛をしてやることを了承するとヒルダさんはホッとした様子で帰っていきました。

 ヒルダさんが去った部屋で俺とエリアナさんはお茶を飲んでいます。


「いいの?」


 エリアナさんが尋ねてきますけど主語がないと良く分からんね。


「いいんじゃないか?」


 何のことかわかんないけど、とりあえず返事をしておきます。


「あの子のせいで馬鹿にされたこともあっただろうし、あの子に対しては面白くない感情を持っていると思っていたわ。婚約者を寝取られた情けない男だとか言われて悔しくなかったの? 男の人ってそういうのを気にしそうだと思ったけれど」


「気にしたことはないな」


 だって自分じゃ分かってないけど、俺って情けない男かもしれないし、もし真実を言っているんだったら、あんまり怒るのもおかしくない?


「そう、私は結構気にしたわ。だって私の築き上げてきたものが全部台無しになったんですもの、本音を言えば憎いわね」


「そうか」


「でも死んで良いとまでは思えないわ。嫌いは嫌いだけれどもね」


「そうか」


「いつまでもあの子に対しての憎しみに囚われているのは生産性が無いってのも理解はしてるの。だから、いい加減断ち切りたいとも思うわ」


「そうか」


「ちょうどいい機会だとも思うの。最後にイーリスに恩を売り、勝ち誇った表情を見せつけてサヨウナラ。それで私はもう十分だわ。あの子に対して囚われている思いはきれいさっぱり断ち切り忘れられる。命を助ければ、一生イーリスは私に頭が上がらないだろうし、最後に決定的差をつけれるっていうおまけ付きでね」


 エリアナさんが良いなら良いんじゃない?

 俺は何のことか良く分かんないし分かろうともしてないけど、エリアナさんが幸せな気分になれるならそれでいいと思うよ。


「でも、そのため色んな人に迷惑をかけるのが心苦しくないわけじゃないのよ? アロルド君にお願いするのだって多少は抵抗があるし」


 それ言ったら常日頃から迷惑をかけまくっているような気がしていても、たいして気にしてない俺はどうなるんでしょうかね。でもまぁ、人間なんて誰しも迷惑をかけてるものだし今更だよねって開き直っても良いような良くないような。


「別に俺は気にしないさ」


 そもそも何をすりゃいいかも良く分かってないしさ。

 イーリスの身を守ろうとすると聖騎士の人らと揉めることになるんだろ? そうなると教会の人とも揉めることになるのかな。でもまぁ、仕方ないか。


 敵を作らない生き方とかしてないからなぁ。

 でも敵が出来るってのは良いことでもあるんじゃないかな?

 敵がいるってことは戦いになるし、戦いになれば勝敗がつく、勝敗がつけば優劣がつき、優劣がつけば相手の顔色を気にせず従わせることが出来るぜ。ついでに苦手な敵だったら逃げても戦略的撤退だって言い張れるぞ。

 周りに敵を作らず、周りと戦わないで、周りと勝ち負けを決めず、周りと優劣を決めず、相手の顔色を気にして仲良しこよしも疲れるし、敵じゃない人間から逃げると頭おかしく見られそうだから、嫌でも関わらないといけないから嫌だよね。


 まぁ、そういうわけなんで俺は教会が敵になっても別に気にならないかなって思うね。気になる人はいるかもしれないけど我慢してください。残念ながら俺の視界にはそういうの気になる人が入らないかもしれないから気づけない可能性があるんで。


「気にしないと言われても私は少し気になるけどね。でも、ありがとう、アロルド君」


 綺麗な人からお願いされたらね。まぁ、しょうがないよ。

 そもそも俺は頼み事とかそんなに断んないしさ。困っている人は可哀想だから助けるべきって常識くらいは身に着けてますからね。何を以って可哀想かはさっぱりわからんけども、とにかく困ってたら可哀想ってことだから、助けりゃいいでしょ。


 つーわけで、イーリスを聖騎士から守ってあげるとしようかね。

 どうやって守れば良いか聞いてないし、そもそもイーリスが今どうしてるかもヒルダさんから聞いてないけどさ。つーか、あの人肝心なこと何も言ってないよね。

 まぁ、でも何とかなるかな。

 俺としては元婚約者と顔を合わせるのは少しだけ気まずいような気もするけども、そこは我慢するとしましょうか。









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