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幕引きは強引に

「申し訳ありませんが、少し気分が優れないので退室させていただきます」


 急に若い人が体調を崩して出ていってしまいました。お大事に。

 俺も体調悪くなりたいぜ。そうしてさっさと退散を決め込んでしまいたいんだけどなぁ。

 しかし、あの人、部屋を出るときに俺に対して何か意味ありげな視線を向けてきてたけど、なんだろうね? 意味が分からんよ。つーか、どう見ても仮病くさいんだけど、誰もそういうのって気にしないわけ?


「――陛下、たしかにアロルド殿の日頃の言動には問題があるようにも思いますが、これ以上の罰を与える必要性があるかどうかは疑問が残ります」


 おや、議長さんが俺を庇ってくれているように見えますね。

 でも、そういうのは俺にを見る怯え混じりの視線を無くしてからにしようよ。

 そりゃ、状況が良く分かんないのに責められてたら面白くはないけど、その程度で暴れたりしませんから。俺だって多少は物事を考えていますよ。流石にこの場で陛下をぶっ殺すような気力はないしさ。

 いやまぁ、その気力も陛下があんまり俺のことを怒るようだったら、どうなるかは分かんないけどさ。俺だって嫌な思いはしたくないし、俺の精神衛生を維持するためなら陛下をっちゃう選択肢もあるにはあるけど。


「卿が余に意見するのか? 卿はアロルドの過ちを追及しておるだけでよい」


 俺の人生なんて過ちばっかりだから、追及されてたら日が暮れちまうぜ。例えばアレだ。えーと、なんだっけ?

 思い出せないから、もしかしたら俺は過ちを犯していないのかもね。となると、なんだ?

 なんで俺はこんなわけのわからない場に拘束されてるんだ?

 思い出せないだけで何か悪いことしたかもしれないけど、思い出せないってことはたいしたことじゃないとも俺は思うね。そうなると俺はたいしたことでもないのに、時間を取られてるの?

 あ、なんだか腹が立ってきたぞ。


「陛下は俺が嫌いと見えるな」


 だって、そうじゃない? せっかく終わりそうだったのに、わざわざ長引かせてるしさ。

 でもまぁ、いいよ。俺は陛下が嫌いって程でもないし、それに俺のことを好きな人はいっぱいいるから陛下から嫌われても大丈夫。陛下の隣に座っているウーゼル殿下は心ここにあらずって感じだけど、まぁ俺のことは嫌いじゃないはずだしさ。


「民衆は俺のことを好きなようだが、陛下には嫌われているというのは悲しいことだ。戦で必死に戦い、勝利を勝ち取ってきた俺が陛下からいじめられていると知れば、人々はどう思うんだろうな」


 マジで、どう思うんだろうね。自分で言ってみたけど、どうなのか分かんないんだよね。

 でもまぁ、俺の方が好かれてる雰囲気もあるから俺の味方になってくれそうな気配もしない?

 それにたぶんアレだよ。俺の他の知り合いも俺が困ってると知れば俺の味方になってくれそう。

 えーと、西部の馬鹿兄弟は味方確定だろ? コーネリウスさんも味方になってくれるはずで、ケイネンハイムさんも味方になってくれるんじゃない? ああ、あと兄上もかな? 味方になってくれないならぶっ殺すぞって言えば大概の奴は味方になってくれそうな気もするけど、乱暴なのはちょっと……。

 でも、ちょっとなので、いざとなったら乱暴な手段に出るよ。目を合わせて理解してくれなかったりしたら、ぶっ殺すぞって言うことにしようかな?


「余を脅すつもりか?」


「そんなつもりは毛頭ございません。俺には味方が多いということだけを口にしただけですので」


 何言ってんだろうね。俺が陛下を脅すわけないじゃんね。

 俺としては単に、俺のことをいじめると怖い人がいっぱい出てくるよってことを言いたかっただけなのにさ。だいたいさぁ――


「仮に俺が脅していたとなると、陛下は爵位も何も持ってない若造に脅されたということになる。そんな相手に舐められようでは王としての資質が疑われるので俺は陛下を脅すなんて真似はしませんよ」


 おや、なんだか陛下の顔色がにわかに赤くなってきましたね。熱でもあるんだったら、早く帰って寝た方が良いよ。そうしてくれたら俺も熱でたって言って帰るからさ。


「アロルド殿は言葉が過ぎる」


 議長さんが俺を窘めるような口ぶりで話しかけてきたけど、俺は特にひどいことは言っていないと思うんだがな。

 しかし、議長さんも顔色が悪いね。もう顔面が真っ青だよ。あの若い人みたく、さっさと出て行った方が良いんじゃない?


「では気をつけよう」


 気をつけるだけで努力はしないけどさ。だって、俺だけ努力するの不公平じゃん。

 相手だって、俺が言いすぎないように殊勝な態度でいる努力をしているように見えないしのに、俺だけ言葉に気をつけなきゃならないのなんて変じゃない? 変じゃないなら謝るけどさ。


「気をつける前に貴様は口を閉じよ! 余が良いというまで口を開くな!」


 おっと、陛下が怒ってしまいましたよ。

 見物している人らもビビってますしやめてくださいって言いたいけど、黙ってろって言われたみたいだし黙っていよう。

 しかし、アレだね。若造相手にみっともなくキレる王様ってどうなんだろうね。俺は別にいいけど、世間の人的には良いのかな? なんか格好悪くない? 貴族的には自分たちの頭に当たる人が、そんな感じだと白けそうだよね。


「口を閉じても良いが、それだと見物に来ている奴らはつまらんでしょう。もっとも、コイツラは俺がいじめられている所を見たかったのかもしれないですが」


 一応ね、せっかく時間を取って来てくれている人たちなんだからサービスしようぜ。

 見物の目的が良く分からんかったけど、たぶんこの流れだと俺がいじめられるのを見て楽しみたかったところだろうからさ。しかし、そういう人たちの期待を裏切るのは心苦しいのだけれど、俺も嫌な思いをしたくないのね。まぁ、つまんないものを見せたお詫びはするから我慢してくださいって感じです。


「ここにいる奴らの顔はこれから頑張って憶えることにしよう。つまらないものを見せた時にはお詫びに行きたいのでな」


 おや、何人かが急いで立ち上がって出て行っていますよ。なんだよ、そんなにつまんなかったか?


「急いで出ていく奴には、色々と話を聞きにいかないとな」


 今後のサービスの改善のために至らぬ点はなんだったかを聞かないとね。どうすれば面白くなったかっていう意見をお伺いしないと。でもまぁ、至らぬ点があっても、それを改善するのが大変だったら、テメェが我慢しろって感じで、その人の趣味を矯正させるけどさ。

 でもまぁ、そういうことする必要はないかもね。なんだか良く分かんないけど、出ていこうとした奴らの動きが止まってしまいました。別に無理して残ってなくても良いのにね。


「思ったよりも残ってくれたようで助かるよ。まぁ、俺がいじめられる所をみたいというだけなのかもしれないが」


「低俗な物言いは止めよ。これは貴様の行い糾弾する正当な行いである」


「そうか、では糾弾とやらをしてもらいましょう。衆人環視の中で寄ってたかって俺をなぶりものにするのが正当な行いなのかは理解しがたいので、それについても俺が理解できるように説明してくれると助かるのですがね」


 だって、マジで理解できないもん。

 そりゃ俺だって悪いことしてないわけじゃないよ。思い出せないからあやふやだけどさ。

 そもそも陛下が俺に怒っている理由が分からんのだよなぁ。俺ってそんなに悪いことしたかな?


 えーと、ウーゼル殿下の婚約披露パーティーにはちゃんと参加したよな。

 うーん、陛下に言われた通り戦に行ってきたよな。

 んーと、ウーゼル殿下が敗けそうになった時に颯爽と救出したよな。

 むーん、でもって戦に勝ったよな。

 むむむ、戦に勝ったけど、ノール皇子には逃げられたよな。

 んんん、南部での戦の後始末もつけてきたよな。

 ぬぬぬ、で、帰ってきたよな。その時に派手な凱旋をしたよな。


 ぐぐぐ、やっぱり何も悪いことをしていない気がするぞ。

 むしろ、俺ってちゃんとやってない? 人間だしミスもするから完璧は無いと思うけど、完璧に近いんじゃなかろうか? 完璧に近いと完璧は俺にとっては同じものなので完璧ということにしておこう。

 考えてみると完璧な俺が責められるのはおかしいね。おかしいと伝えておこう。


「俺に非はないと思うが、そちらはどういう理由で俺を責めるのだ?」


「本当に無いと申すか?」


 陛下はなんか意味ありげな目で議長さんを見ます。

 議長さんはというと陛下の顔と俺の顔を見比べていますね。別に俺の顔なんか見ても面白くないだろうし、変な人だなぁ。


「わ、我々としてはこれ以上、ことを荒立てる必要はないかと思います。アロルド殿には過失もありますが、此度の戦の功績は間違いないものでして、それに加えアロルド殿は地方貴族の信頼も篤く、アロルド殿にこれ以上の咎を負わすとなれば人々の不満は避けられず――。罰を与えねば面目が立たないとおっしゃるならば、我々の方としては先ほどの挙げられた処罰だけでも十分に面目は立つと思い――」


 なんか議長さんが必死だね。俺の方を見て『殺さないで』って感じなのは気になるし、だんだんと『家族の命だけは』って感じで目力が弱くなっていくのも気になるね。まぁ、議長さんだけでなく、この部屋にいる人のだいたいがそんな感じなんだけどさ。

 まったく俺をなんだと思ってるんだ。俺は理由がないと殺しなんか、あまりしないぞ。必要が少しでもあったりすれば殺すけどさ。


「卿の意見はどうでもよい。余はこのままアロルドを放っておけば、王家の威信が損なわれると危惧しておるのだ。このような無法者を放置しておくこと自体が面目を損なうことなのだぞ」


 無法者って……まぁ、法律知らんから無法者って言われても仕方ないかな。

 議長さんも陛下の言葉には逆らえないのか、渋々といった様子で俺に向き直ると、手元にあった資料に目を落とす。


「えー、先の戦にあってアロルド・アークスは一軍の将として不適切な行動を数多くとっていたという情報があり、それについての真偽を問いただす。情報が真実であった場合、査問会の場において処罰を決定し、それを執行する」


 さようですか。まぁ、さっきも罰金払うような感じだったし、大差ないっしょ。

 お金払うだけだったら悪いことは悪いと認めても良いよ。借金まみれらしいけど俺はお金には困ってないしさ。


「まずは兵を使い捨てにしたという点だが、これについては何か申し開きすべきとはあるか?」


「使い捨てたというのが分からないな」


「報告によると、敵を引き付けるために味方の部隊を碌な装備もないままに敵の前に晒したとある。どのような身分であれ、王国民の命はその所有者である王国と王家の財産であるから、それをみだりに失うことは許されることではない」


 はぁ、そうなんすか。でも、それって負けてたら言えないセリフだよね。

 いや、負けてても言えるのか? まぁ、それにしたってそんなに命が大事なら戦争なんてしなけりゃいーんでない? 負けを認めて靴とか尻でもなめえ命乞いしてたら死人は少なかったかもよ。俺としては今更それを言われてもねぇ。


「死人を少なくするのは俺の仕事ではない。俺の仕事は戦に勝つことであって手段は何も言われていない。問題があるとしたら、そのこと予め指示として出していなかった奴らだ。そもそも、そうやって俺が捨て駒にでも何でもしたから、ここにいる奴らは生き残っているのであって、俺の行いを否定するのはお前らの今の命も否定することだと思うがな。仮に問題があったとしても、お前らにそれを言う資格はないだろう。資格のない輩が問題を提起すること自体が間違っているので、その訴えは無効だ」


「貴公は言われていないことは出来ないというのか?」


「出来ないな。そんなことも分からなかったのか? そんなことも分からずに俺を将軍に任命したというのは全く見る目がないとしか言いようがない。俺に責任を取らせても良いが、その場合には俺のような奴に大役を任せた奴にも責任を取らせるべきだ」


 やっぱり俺だけ嫌な思いをするのは嫌なんで。他の奴も巻き添えにしてしまいましょう。

 なんだか、部屋の中の人みんなが陛下を見ていますが、なんででしょうね。陛下と俺の言葉に何か関係はあったかしら?


「う、うむ。この件に関する貴公の言い分は分かった。次にだが、貴公が南部の諸都市を襲撃し、各都市の資産を略奪したという情報あるが、これに関しての真偽は?」


「戦のために必要だっただけだ。金が無いと戦はできないんでな、資産は没収して有効に活用させてもらった。一応、借りたということにして戦後に返済はしたので問題になるとは思えないが」


「一部を横領し、私的に利用したという噂もあるが、それはどうだ?」


「それも戦に勝つために必要だったからだ。俺の気分が優れないと戦を指揮するのに問題が生じるだろう? 俺の精神状態を良くするために金を使うのも勝つための必要経費だ」


 お金とかいっぱいあったし、ちょっとくらい使っても大丈夫だと思ったんだよね。

 俺の精神状態が良い方が勝てる可能性高くなるとも思ったし、必要なことなんじゃないかな?


「そんな言い分が通ると思っているのか!」


 おっと、なんか急に怒る人が出てきましたよ。


「通らないわけがないな。俺の精神状態が良くなったから戦に勝ったのは事実だろう? 南部の民から集めた金を俺が自分のために使った結果、戦に勝った。そう考えると必要経費で何も問題ないはずだ」


「それが本当に必要だったと言えるのか! 貴様が自分のために金を使ったことで結果が変わったと断言できるはずもないだろう!」


「変わらなかったとも断言できないだろう? 俺が集めた金を自分のために使ったから、精神状態が良くなって良い考えが浮かび、軍を上手く指揮できて戦に勝てたとも考えられるし、別に何もしなくとも勝てたとも言える。しかし、現実には自分のために金を使ったので勝ったのが現実だ。その現実に目を向けずに使わなくても勝てたという、仮定を重視する理由が分からないな」


「不必要な血税の流用だ」


「結果だけ見れば必要だった。ここは結果ではなく仮定を重視する場なのか? 現実では必要だった、仮定では必要なかった。それを調べる手段がないのが困るな。いっそ、もう一度帝国にでも攻めてきてもらうか? 今度は俺も自分のために金を使わずに粛々と仕事をこなすとしよう。その結果、王国が敗けたら、俺が自分のために金を使うのが正しかったということだな」


「そんな無茶な話があるか!」


「そういう無茶なことをしなければ検証のしようがないことを言ったのはそっちだろうが。検証のしようがなく、正誤を確実に判断できない事柄を問題にしてんじゃねぇよ、黙ってろ。略奪した金で私腹を肥やしたから戦に勝った、それが事実だ」


 いやまぁ、実際は俺が良い思いしたいから横領してたんですけどね。でも、俺だけが悪いわけじゃないと思うの。基本的に『俺は悪くねぇ!悪いのはお前らだ!』っていう精神で行くのがよいよね。

 絶対に非を認めないスタンスです。だけど、じゃあ誰が悪いのってなるから、その時に自分に矛先が向かないように他の奴が悪いってことにします。何があってもしますよ。


「連れの女性に貴金属を与えるなども必要だったと胸を張って言えるのかね?」


 ああ? なんだよ、急にアホみたいなこと言いやがって、そんなこと聞かなくても分からないか?

 えーと、確か横領したお金でエリアナさんに宝石とか色々と買ってあげたんだよな。エリアナさん的には、そういう公私混同が平気でできる面の皮の厚さが素敵とか言われたような記憶があるようなないような。

 まぁ、実際にあったことかは置いといて、ただ一つ確実なことがあるよ。


「胸を張る必要もなく俺は平然と言えるな。必要だったと」


 エリアナさんに限らずカタリナとかキリエちゃんに贅沢させるのは俺には必要なことよ。


「美しい女性が着飾っているのを見ると心が豊かになるのだから俺には必要なことだ。俺が贈り物をすることで彼女たちが喜ぶ姿を見て癒されるというのも俺が戦を行う上で不可欠なことなのだから問題はないだろう」


「私利私欲にまみれすぎている……」


 なんか声がしたけど気にしません。

 俺は綺麗だったり可愛い女の子が幸せに暮らしてほしいので贅沢をさせているだけなんです。

 貧乏な中で一緒に頑張るというのもいいかもしれないけど、それってただの美談だしさ。

 俺たちって美談という虚飾と空虚の混ざった非現実世界に生きているわけじゃないんで、美談的な世界観で生きるのは苦痛なだけだと思うの。美談的な生活で由来不明の精神的充足よりも現実的な生活で物質的充足からくる精神的充足を目指した方が楽だよね。


「貴公は私腹を肥やす自身を恥ずかしいと思わないのか!?」


「思わない」


「貴公に富を預けていた南部の民の想いを踏みにじっていたと思わないのか!?」


「思わない」


「ふざけるな! 貴公は南部の民に申し訳ないと思わないのか! すべては民の金だぞ! それを自分の懐に収め自分のためだけに使うなど、恥を知れ!」


 なんか熱くなっている人がいるけど、なんなんだろうね。興奮するんだったら一人でやってくれませんかって思うよ。そもそも、俺がいつ自分のためだけに使ったって言ったよ。


「感情的になっているところ悪いが、確証の無いことをさも真実のように語るのはやめてくれないか? お前はまるで自分が南部の人間の代表のように気持ちを代弁して語っているようだが、それは全員の意見なのか定かなのか分からない。何割が俺に対して怒りを持っているか、きちんと調べて言っているのか? 俺が聞く限りではお前の言葉は事実ではなくお前自身の正義感に基づいた発言のようにも聞こえるのだが」


「それがどうした」


「結構な問題だと思うがな。ここは感情的な物言いをすることが正しい場なのか? この場において事実を正確に述べることよりも感情に訴えかける方が正しいとは俺は思えない。仮に、それが許されるとなると事実関係を感情論で塗りつぶすことが正しいとなってしまうが、それでいいのか?」


 俺はダメだと思います。だって俺に都合が悪いし。


「事実を捻じ曲げるという、この会のあり方を否定する。もしくは趣旨そのもの理解していないような輩が開催側にいるという状況で開かれている今の状況は本当に適切なのか? 俺は適切と思えないので一度開催側の人間を刷新してからもう一度行うべきだと思うがな」


 俺は悪くねぇ、お前が悪い精神で攻めていきます。

 強気の相手に対して弱気になったら、そこで御終いだからどんな状況からでも常に自分が優位に立って相手を見下せるような状況にしないとね。


「貴公が何を言おうと私利私欲にまみれた振る舞いをしたのは事実だろう。南部の民が怒りを抱く可能性がある以上、正しく処罰を受けなければならん」


「果たして本当にそうか?」


 そりゃあ、俺は自分ために金使いました。ついでに人の金も自分の物として扱いましたよ。でも、そんなに文句を言われるとは思えないんだよな。


「俺は懐に入った金は自分のためにも使ったが、その恩恵にあずかった奴は何人もいるはずだ。南部の貴族には金を融通したりもしているし、平民にも衣食住の提供はしてやった。すべて身内で消費するようなセコイ真似はしない」


 俺は他人に施しをするのが結構好きだから、躊躇なく人から貰ったお金でも自分のお金として施しに使いますよ。他人に施しをするのは、自分が偉くなったみたいで気分良いし、俺の精神衛生にも繋がるからね。まぁ、施しは施しだから自分のために使う金の方が多いけどさ。高いお酒買ったり、良い服買ったりした記憶があるようなないような。まぁ、飢えて苦しんでた平民にも肉とスープ付き食事を三食出してたし、全員に毛布を配ったりもしたから許されるだろ。自分のために使ったのは俺へのご褒美ってやつだし、許されるだろ。


「それが事実だという証拠はあるのか?」


「俺が南部の民を完全に蔑ろにしていたという証拠はあるのか?」


 質問に質問で返しちゃいました。

 だって、ムカつかない? 俺ばっか証拠を要求されんだぜ? 俺の方から要求したって良いじゃんねぇ?

 俺が質問で返したら、イマイチ証拠になるものは持っていないのか、黙りこくってしまいましたよ。

 あの若い人がいないと話がスムーズで良いね。


「だが、貴公が南部の民の富を略奪し、我が物としたのは事実であり――」


「戦の時は金を出さなかったくせして、終わってから俺の金の使い方に文句をつけるとは良いご身分だな。後で文句を言うくらいなら、その時にキッチリと監査でもなんでもすれば良かっただろうが。俺を責めるよりも先に当時、そのことに気付かなかった自分たちの能力の低さを何とかしてから出直せよ」


 絶対に俺は悪くない! 絶対にお前らが悪いからな!

 身を護ると書いて護身。これこそが俺の護身スタイル。自分の身を護るために相手を攻撃する積極的護身だ。


「――戯言はそこまでだ」


 おや、黙っていた陛下が口を開きましたね。


「アロルドよ、貴様が王家の許可も得ずに南部貴族の襲爵の手続きを行っていたことについては、どう弁明するつもりだ? 貴様が後見人となった家の者たちは実質的には貴様の家臣のような扱いだと聞いているぞ」


 そういや親が死んだとかで、なんかゴチャゴチャしてた坊ちゃん嬢ちゃんの面倒見てるんだったっけ。

 確か領内の統治に関して俺が口出ししても良かったり、俺の冒険者ギルドの営利活動には税の減免が適用されるとかだっけ? あと適当に領内の特産品があれば、俺に貢げよとかもあったような、なかったような。で、俺のために色々としてくれたら、そのお礼として怖い人とか出たら俺がぶっ殺してやるよって約束したんだったような。

 うーん、これって家臣なのかな? 俺には良く分かんないや。


「彼らが成長するまで面倒を見ているだけでございます」


 たぶん、こんな感じだと思う。で、大きくなったら今まで面倒見てたぶんのお返しを一括で払ってもらおうかなって感じです。


「よくもまぁ抜け抜けとそのような戯言を吐けるものだ。余の目から見れば貴様は新たに自分の王国を築こうとする野心家にしか見えぬ」


「随分とまぁ恐ろしいことおっしゃる。俺は陛下に忠誠を誓っているというのに」


「黙れ! 貴様の振る舞いを見て忠誠心があるなどと思う奴がおるか! 王家を嘲笑い蔑ろにする貴様がどの口で忠誠を口にするか!」


 ひえぇ、マジで怒っていらっしゃる。いったいどうしたんでしょうかね。

 大人しくしてるウーゼル殿下も引いてますよ。しかし殿下も変だね。いつものキレがないみたいだけど、どうしたのかしら?


「複数の貴族を自身の支配下に置くなど謀反を起こす下準備にしか見えぬ! 今この場でそのことについての弁明をすると期待していたが口から出てくるのは世迷言ばかり! 謀反を企てているという疑いだけで捕らえることも出来たというのに、それをしなかった余の好意も無下にしたのだぞ!」


 陛下は叫び終えると、疲れ切ったように椅子に身を預け、静かな口調で話し出す。 


「幼い頃は良かった。賢く強くウーゼルと仲も良く王となるウーゼルを支えてくれると思っていた。だが、長ずるにつれ振る舞いは荒れに荒れた。だが、それでもいつか心を入れ替えて、ウーゼルに忠誠を尽くしてくれると思っていた……。貴様の両親が貴様を見捨てても余は貴様を見捨てるつもりはなく、心を入れ替えすれば手を貸すことも考えていたのだ、それは偏に貴様の才覚を信じるが故のことで――」


 陛下が喋りながらだんだんと震えてきますね。寒いんですかね。

 そんなことを思っていたら陛下の目が見開きました。


「――なのにこの様はなんだ!? 勘当されて心を入れ替えたと思えば厄介ごとばかりではないか! そんなに王家が憎いか! ウーゼルが憎いか! 確かにウーゼルにも問題はあったかもしれんが、ここまでするほどか!? 幼い頃を知っているからこそ、なおのこと余は辛いのだ。どうしてこうなったと叫びだしたいほどだ!」


 えーと、これは謝った方が良い流れかな? ごめんなさい行っとく?

 でもなぁ、陛下疲れ切ってるし、そっとしておいた方が良いような気もするんだけど、どうしようかな。


「――このままではウーゼル、王家、そして王国の災いとなるとしか考えられぬ。……もうよい、捕らえよ。英雄だなんだと知ったことか、もはや貴様は謀反を企てた罪人に他ならぬ。この場で殊勝な態度を取っておれば余も多少の罰で良いと思っていたが、もはやそのような寛大な心を持つことも不可能だ」


 えーと、なにそれ?

 今までやってきたのは何だったの? 議長さんとかも訳が分からないという顔してるぜ。

 なんか部屋の外に重装備の奴らが集まってる気配がしているし、どうしたもんかね。


「せめて、この場で謝罪の言葉でも聞ければ余も……。いや、今更言っても詮無きことか……。アロルドよ牢獄の中で己の過ちを悔いるがよい。余も貴様に期待し続けていたという過ちを悔いるとしよう」


 議場の扉が蹴破るような勢いで開かれた。

 話の流れからすると俺を捕らえるっていう奴らが入ってくるはずだけれども――


「その決定は無効である!」


 その声は聞き覚えのあるものだった。

 つい昨日聞いた声であり、俺は声の方を見て、その主を確認する。

 そしてその先にいたのは俺の兄上――


「セイリオス・アークス……!」


 人々が兄上の名を呼び、その姿に釘付けになった。

 兄上はその後ろに純白の鎧を着こんだ集団を引き連れ、議場へと乱入する。


「国王陛下のご意思は尊重されるものとは重々承知ではありますが、その決定に意義を挟むことをお許しください」


「ならぬ!」


「拒否するというのなら強硬手段に出る他ございませんが、それでよろしいのですか? 私の後ろにいる者たちの素性はご存知でしょう?」


 誰なんでしょうかね? 白い鎧は俺の趣味に合わないから嫌いだな。

 でもまぁ、鎧の趣味は悪いけど、なんだか強そうな連中だね。


「聖神教会の聖騎士達であろう。まさか貴様に教会との繋がりがあったとは」


 聖騎士ねぇ。カタリナがなんかやばい人達だって言っていたような言っていなかったような。

 全員が高位の魔物殺しとか言っていたような。でも、頭おかしすぎて人間同士の争いとかには興味ないみたいな話も小耳に挟んだよな。


「繋がりはございません。ただ、私は敬虔な聖神教徒として彼らにあることを伝えただけです」


 なんか嫌な予感がしません?

 俺はしませんけど、他の人にとっての嫌な予感という奴です。


「――イーリス・エルレンシアが邪法に関わる魔族であるという可能性が高いということをね」


「馬鹿なっ!?」


 心ここにあらずという様子だったウーゼル殿下が飛び起き、声を上げる。

 なんか切羽詰まっている状況で悪いんだけど魔族ってなんでしたっけ? いつものことだけど俺だけ話についていけてないぞ。


「私の言葉を疑う前に調べてみましょうか?」


 兄上がそう言うと、聖騎士の一人が殿下に向かって魔法を放つ。放たれたのは光の玉だが、それ自体に攻撃力がないと感じられる。しかし、その魔法が殿下に当たるとガラスが割れるような音が響き渡った。


「精神を汚染する類の魔法にかかっていましたが、解除しました」


 聖騎士の一人がその言葉を口にすると、続けて兄上はこの場の全員に向かって呼びかける。


「皆様はおかしいとは思いませんでしたか? 田舎の貧乏貴族の小娘が殿下や国家の要職に就く者たちの子弟を侍らすことができるなど。これがその真実です! イーリス・エルレンシアは怪しげな魔法を使い殿下達の精神を蝕んでいたのです!」


「馬鹿な! そんなはずはない! 私とイーリスは確かに愛し合っていた!」


「御可哀想に……。いまだ魔法の効果が抜けていない様子。ですが、それもじきに良くなることでしょう」 


 兄上は再び呼びかける。


「此度の査問会は悪女イーリスによって正気を失っていたウーゼル殿下の訴えによるものです。訴えを出した物の正気が疑われる以上、その人物の言動には正当性がなく、正当性がない人物の言葉によって開かれた査問会にも正当性があるかどうかは疑わしい。よって、正当性に疑問が残る査問会の結果は無効となるべきです」


「だが、それとアロルドを捕らえることは関係がない」


 陛下が口を挟むけど、目に狼狽えが見えるんだよなぁ。今は兄上に関わらない方が良いと思うぜ。


「陛下……。このようなことを申し上げるのは心苦しいのですが、陛下もまた殿下と同じようにイーリスの魔法によって心を乱されている可能性がございます。そうでなければ先ほどのアロルドに対しての乱心したかのような物言いはしないはずです」


 ……なんで兄上は部屋にいなかったのに、陛下の様子とか分かったんだろうか?

 つっても、別にたいしたことでもないし、まぁどうでもいいかな。


「余が狂っておると申すか!」


「その可能性があると申し上げているだけでございます。ここは時を置き、アロルドに対する処分はご再考ください。陛下の御心に何も問題なく冷静な判断であったということが明らかになりさえすれば、アロルドも甘んじて罰を受けることでしょう」


 兄上はそう言うと俺の方に向き直り、微笑みかけてくる。


『僕に任せておけ。すべてなんとかしてやろう』


 声はしなかったけれども表情がそう物語っていた。

 まぁ、任せろってことなら任せるけど、全部が全部いきなりすぎてついていけないし、なにがなんだかって感じなんだけど、いったいどうなることやら。








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