帰りたくても帰れない
はぁ、うっぜぇなぁ……。
「逃げられたとはどういうことだ!?」
ウーゼル殿下がセーレウム城に到着してから、ずっとこんな調子で俺の事を怒ってるんだけど何が気に入らんのかね?
帝国の残党をチマチマと潰してたせいで時間がかかったみたいだけど、それに関しては俺の知ったことじゃないね。まぁ、残党とはいえ武装した兵士を問題なく討伐できる程度には殿下も優秀だから凄いよね。
「どういうことも何も逃げられたというだけの話だろう」
「私はそれを問題にしているのだ!」
逃げられたっていうのはノール皇子のことだよね。でも、それって問題なんかね? 俺は問題ないと思うんだけどさ。
「私は知っているのだぞ、アロルド! 貴様がノール皇子と親しいということ、そしてノール皇子が城から脱走する直前に貴様と一緒にいたということを!」
「それが何か問題か?」
話が冗長で困るぜ。俺は気分を変えるために、お酒でも飲みますけど殿下はいらないかな。いらないなら俺だけ飲んでますよ。グビグビってね。
「何が問題かだと……! 貴様が皇子の脱走を手引きした可能性があると疑われても問題ないと言えるのか!」
「問題ないな」
別に疑われても言えるんだよなぁ。つーか、疑われただけで喋れなくなる奴とか精神弱すぎじゃないかね。
「なんだと……!?」
なんだろうね。俺の言葉に一々驚きすぎだと思うんだけど、サプライズに対する耐性が低すぎると思うんですが。
まぁ、俺も最近賢くなってきたから、面と向かって殿下の駄目なところを挙げるつもりはありませんよ。
「俺が問題ないと思うのだから問題ない。それが全てだろう?」
「どういう意味だ?」
えー説明するのかよ。面倒くせぇなぁ。
別に構わんけどさ。まぁ、何が言いたいかというと、話は簡単だ。
「ノール皇子の身柄に関しては俺が管理していた。殿下はノール皇子の身柄の保護に関しては部外者。管理していた俺が良いと言えば、部外者の殿下が何かを言う権利は無いと俺は思うがね」
あるかもしれないけど、これ以上は文句を言われたくないのでないということにしておきます。
そんな気持ちで言ったのだけれども、俺の思いは届かず、殿下の顔は真っ赤になりました。
嫌だなぁ、俺って怒られるのとか嫌なんだよ。世の中には好きな人もいるかもしれんけど、俺は嫌いだね。
「そんな言い分が通るとでも思っているのか!」
そんなことを言われてもねぇ。通らなかったら通すだけなんだけど。
まぁ、それはそれとして、あんまり大声は出さないでくれますかね。お部屋の隅で関係各所に送る手紙を代筆してくれているエイジ君が怯えてしまいますから。
殿下が来るって聞いたら部屋から出ていこうとしたけど、それをされると俺が仕事を監督できないので部屋の隅で手紙を代筆させているエイジ君なんだけど、あまり仕事が捗っていないようだね。
殿下が来るからってんで退室しようとした所も含めて良く分からん奴だぜ。身分がどうとか言ってたけど、そんなに気にすることでも無いと思うんだがね。殿下と言ったって、王様の息子で次の王様になる可能性が一番高いってだけの人なんだしさ。殺せば死ぬ人間を必要以上に恐れる気持ちが俺には分からないなぁ。
でもまぁ、そういうのが気になる人もいるってことを俺は最近学んで何も言いません。
そういう人は偉い人の機嫌を損ねたら無礼討ちにされるのを怖がってるんだろうから、エイジ君が無礼討ちでもされそうになったら、人の部屋で勝手なことしてるんじゃねぇって感じで俺が殿下を無礼討ちにすっから気にしないでほしいもんだ。殿下が学友とはいえ親しき中にも礼儀ありなわけだし。
「だいたい、なんだ! その異国人は!?」
おや、エイジ君に矛先が向いてきましたね。いやぁ、凄く慌てています。顔が真っ青になってますね。
「ノール皇子の側近にも異国人がいたと私は聞いている。貴様も異国人を抱えている以上、ノール皇子と何か関係があったと疑われても当然だ!」
おお、そういや、オワリとエイジ君は同郷っぽいね。言われて思い出したわ。
しかし、オワリとエイジ君って繋がっていたのか? もしかして間諜とかそういう類かな? まぁ、違うと思うけど。
でも、エイジ君のせいで、俺まで難癖つけられるのはなぁ。俺としても色々と思う所があるね。
「では、そいつを殺し、身の潔白を証明するのはどうだ?」
思う所があるので提案してみました。
俺の提案に関して、部屋の中にいる奴は誰も何も言いません。よかったよかった、了承してもらえたようで何よりだね。
俺は杖を突きながら椅子から立ち上がり、部屋の隅で手紙を代筆してくれていたエイジ君の所に向かいます。
エイジ君は状況を理解できていなようだし、殿下も良く分かって無さそうなんで、殺す理由を説明しておくことにした。
「要は俺が帝国との関係が無いと証明すれば良いだけの話だ。ノール皇子の側近の異国人とこいつが繋がっているとして、こいつを容赦なく殺せれば、ノール皇子の側近との繋がりもなかったことを示せるのではないか?」
「ちょ、ちょっと待って、その理屈はおかしい!」
エイジ君が何か言っているけど気にしない方向性で行こう。可哀想だと思うけど、俺の身の潔白を証明するにはこれしかないんだ。他にもありそうな気がするけど、それは後で考えましょう。
エイジ君は腰を抜かしたのか、椅子に座ったまま立ち上がれない様子。俺は、そんな彼に近づき、杖を振り上げ――
振り下ろさずに戻した。
「まぁ、殺さんがな。黄色い肌の猿のような風貌だが、こう見えてこいつはそれなりに役に立つのでな」
杖を振り上げた瞬間まではぶっ殺そうと思っていたわけだけど、よくよく考えるとこいつの代わりがいないんだよなぁ。
エイジ君は生まれた国の文化のせいなのか時候の挨拶とか整った丁寧な手紙を書いてくれるし、字も割と綺麗なので代筆にはこれ以上の人材が無いんだよな。
殿下は文句あるかもしれないけど、俺の便利不便の都合を考えて貰いたいもんだね。
でもまぁ、そんなこと気にする必要は無かったみたいだけど。
「う、うむ。敵国と繋がっている可能性があるとはいえ、みだりに命を奪うのは感心できんな」
お優しいことだね。俺は面倒だったら殺して片づけたくなるんだけどな。
「しかし、貴様への疑いは消えたわけでは無いぞ。貴様が帝国と繋がっていたのではないかという可能性は未だに残っている」
「それは困ったな。弁解の余地はないのか?」
じゃあ、やっぱり殺しとこうか。
そう思って俺が杖を振り上げると殿下がそれを遮って言う。
「待て! 今殺せば、貴様が口封じに殺したようにしか見えん。その異国人に関しての調査が何一つ済んでいないのだぞ!」
「じゃあ、どうするんだ?」
「どうするもこうするもない。貴様を王都で詮議にかけるだけだ。陛下も含め主だった者達の前で、ノール皇子の脱走を許したことについての申し開きをするがいい」
王都に帰れるなら、願ってもないことだから帰るけどさ。でも、気づいたんだけど、捕虜とかどうすんのかね? いや、それ以外にも諸々と処理しないといけないことあるよね?
「南部の管理はどうするんだ?」
「南部の貴族に任せれば良いだろう。元々、この土地は彼らの治めていた土地だ」
殿下はそう言ったものの、言い終えると同時に何かに気付いたようです。俺は何も気づかないんだけどね。
「いや、無理だな。……彼らにはそんな余力は無いだろう。確か、当主が戦死した家が十数あり、一族郎党消息不明も同じくらいはあったはず……。新しい家を興す必要もあるだろうが、跡継ぎ問題も噴出する。その間、帝国兵の捕虜は……」
なんか色々と考えることがあるようで大変だね。
俺は帰れるみたいだから関係ないけど――
「アロルド・アークスよ。貴様が王都へ帰るのはまだ先だ。南部を安定させてから王都へ帰還せよ」
おっと、突然だけど殿下が方針を変えてしまいましたよ。
さっきまでの話だと俺は帰れるんじゃないのかね?
「私は中央の貴族を引き連れ、王都へ一足先に戻る。現状では食糧には困ってはいないが、そう長く軍を養えるほどの備蓄は無いのでな。長居すれば兵に食わせる糧食で南部の民に行きわたる食料に問題が発生しかねん。貴様も理解できるだろう?」
「理解できんな」
今は帰らない方が良いと思うよ。
兵隊に食わせるために食糧を回すと南部の人らは腹を空かせるかもしれんけど、そう急いで動くと今度は兵の方が不満に思うんじゃないかね? 数日くらいは休ませてやっても良いと思うんだけどな。
「理解できんというなら、貴様はその程度の男ということだ。民を思いやる心が無い者は民の上に立てん」
勝ち誇った顔で殿下が何か言ってるけど、どこに勝ち誇る要素があるのか分からんね。
殿下は民の上に立つとか何とか言ってたけど、俺としては別に立とうとも思わないけどな。俺が立つのは手下の上だけど良いし、場合によっちゃ兵士の上だしな。
「私は兵をまとめ、引き上げる準備があるので失礼する。貴様も南部を落ち着かせたら王都に戻って来い。逃げようものなら、地の果てまで王国は貴様を追うぞ」
殿下はそう言い残して足早に部屋から出ていきました。部屋に残ったのは俺とエイジ君だけになった。
「……俺を殺そうとしてたのはおふざけですよね?」
エイジ君が質問してきたけど、言っている意味が良く分からんので回答はせずに肩を竦めておきました。
俺としては、そんな質問をする暇があったら早く手紙を書きあげて欲しいんだけど、そういうのは察してくれないのかね?
まぁ、しばらく南部にいなきゃならんみたいだし、焦ることも無いと思うんだけどさ。




