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去る者は追わず


 ノール皇子は俺に対して背後から銃を突きつけながら言う。


「動くな。そして声も出すな」


 別に銃を突き付けられたからってなんともないから言うことを聞く必要はないんだけどね。まぁ、皇子の頼み事だし、聞いてやれないことでも無いから、動かないし、声も出さないようにしておきましょう。


「こんなことをするのは心苦しいが、私にも死ねない理由が出来たのでな。脱走させてもらうことにした」


 やめといた方が良いと思うけどな。だって、外は夜だし、雪降ってるし、出歩いたら遭難するんじゃない?

 脱走するにしても日を改めた方が良いと思うけどな。


「随分と衝動的だな。もう少し計画を練るべきだったとは思わないか?」


「声を出すなと言ったんだがな。まぁ、黙れと言って聞くような奴ではないだろうというのは、ここ数日の付き合いで把握しているので驚きはしないが」


 左様ですか。それほそれとして、俺の質問の答えはどうなんでしょうかね。


「計画を練るべきだったとは思うが、練ったところで実際に行うタイミングなければどうにもならん。今が最良とは思えないし、最悪に近いだろうが、それでもタイミングは今しかないだろうと思って行動しているだけだ」


 良く喋るもんだね。少し大人しくしておいた方が良いんじゃないかな。微妙に息が上がってるみたいだしさ。根本的な部分で体力不足ってのがさっきの戦いで良く分かったよ。戦えるのは戦えるけれども鍛え方が足りないんだろうね。

 そんな体力じゃ逃げるのも無理なんじゃないかね。


「銃声が響いただろうから、ほどなく人が集まるだろうが、それは構わないのか?」


「それは思うが、まだ大丈夫だろう。そちらの兵の動きくらいはこの数日で粗方把握しているし、どこに詰めているかや、見回りの配置なども理解はしているつもりだ」


「それはご苦労なことだな。言ってくれれば、調べずとも俺の方から教えてやったのだがな」


 そういうつまらないことを調べるのが趣味の人なら、俺が教えてやったんだけどな。別に兵士が何してようがどうでもいいし。

 つーか、逃げたいなら言ってくれれば逃がしてやったんだけど。わざわざ、こんなことする必要あるとは思えないんだけどな。だって、ノール皇子が逃げてどこに行こうが俺は困らんし、困る人もいるんだろうけど、その困る人が思い当たらないんだよな。


「では、次は正直に言って教えてもらおうとしよう。次があるかは分からないがな」


 ノール皇子が俺の背後から徐々に動いているのが気配で分かるけども、どうしたもんかね。撃ってきそうな感じは無いし、このまま逃げ出すつもりなんだろうけど、逃げられるのかしら?

 ああ、あと気づいたんだけど――


「あの異国人はどうするんだ?」


 俺が腕を斬りおとしたせいで生死の境を彷徨っていたようだけど、ようやく容体が安定してきたらしいね。まぁ、俺は名前しか知らない異国人の命なんかはどうでもいいんだけどね。


「連れていくさ。オワリの知識は私にとっては必要不可欠な物なのでな」


 やめといた方が良いと思うなぁ。外は夜で雪も降ってる。そんな状況で怪我人を抱えて逃げるんだろ?俺だったら絶対にやりたくないね。


「やめておいた方が良いな。できれば日を改めた方が良い」


「それが出来るならするんだがな。もはや事を起こしてしまった以上どうしようもない」


 いやぁ、どうしようもないってことは無いんじゃないかな。だってさ、俺がその銃を奪い取れば、とりあえず終了だろ?


 そういうわけなんで、俺は皇子の方に振り向くと同時に皇子に向かって飛びかかる。

 俺の咄嗟の動きに皇子が思わず引き金を引くが、遅い。

 皇子が引き金を引くよりも速く、その銃身を叩き、銃口の向く先を変えると放たれた銃弾は全く見当違いの方向へと飛んで行った。

 そして俺は即座に皇子の持つ銃の銃身を掴むと、それを力任せに奪い取った。筋力が違うせいでこの程度は簡単だ。


「形勢逆転のようだが、どうするんだ?」


 俺は奪い取った銃を放り捨てながら皇子に言う。これで終わりだと思うだけど、どうすんだろうね。武器を突きつけて、俺を脅してなんとか逃げるって話だったと思うけど、こっからどうすんでしょ?


「どうしようもない、お手上げだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」


 皇子はそう言って肩を竦めたけれども、諦め早いなぁ。まぁ、良いんだけどさ。

 おっと、こんなやり取りをしている内に俺の手下の兵士がやってきましたね。


「閣下、銃声が――」


 部屋に入るなり手下が目を丸くして言葉も無いような有様になりました。まぁ部屋に入るなり死体がいっぱいだから驚くのかね。つっても、死体なんて最近じゃ見飽きるくらい見てるだろうにな、驚きすぎだぜ。


「閣下、これは何が?」


「何でもない。お前らは死体を片づけ、部屋を掃除でもしていろ」


 俺がそう言うと手下の兵士は何も言わずに片づけます。

 俺の手下の間じゃ、俺が何も無いって言えば、何があっても何も無いってことになるからね。まぁ、実際何もなかったけどさ。

 武器持ったアホに襲われることは良くあることだし、何かあったと言う程特別でもない。そいつらをぶっ殺して死体の山にするのも良くあることだしさ。

 それに囚われの皇子が脱走しようとしたのも別に特別なことじゃないし、だって捕まってる奴は脱走しようとするものだろ。

 俺は脱走するんじゃないのかなぁ、なんて思って過ごしてたから別に特別なことじゃないから、何が起こったと言う程でもないな。


「俺達は部屋を出ている。俺が戻ってくるまでに部屋を綺麗にしておけ」


 兵士が死体を片づけている間に俺とノール皇子はちょっと出かけてきますね。


「どういうつもりだ?」


 どういうつもりって言われてもなぁ。逃げたいって言っているのは、そっちだろうに、自分のやりたいことも忘れてしまったんかね。


「逃げたいと言ったのはそちらだろう。だから逃がしてやるというだけだ」


「私が言うのもなんだが、それをして大丈夫なのか?」


「俺は困らんな」


 実際、皇子が逃げ出したとして、俺が困ることとか何一つないと思うんだよな。

 よくよく考えてみたら、皇子を処刑するから捕まえておけって誰にも頼まれてないしな。そもそも、帝国のお偉いさんだから処刑するだろってのも確実なことじゃないよな。つーか、俺に直接頼んでないってことは自分たちで何とかできるってことなんじゃないかな。


「お前は困らなくとも困る奴は大勢出そうだが……いや、そもそも私を逃がして何の得があるというのだ?」


「そこそこに仲の良い奴が死なずに済む」


 友達と言えるほど仲良いかは知らんけどね。まぁ、順番つけると俺の知り合いでは上の方に位置する程度には仲良いから、生かしておいても良いと思うだよな。

 ノール皇子の命とそこらの有象無象が困るかどうかを考えたら、ノール皇子を生かしておいた方が俺の気持ち的には良いんだよね。

 俺には何事も平等公平とか無理だし、優先順位をつけて贔屓でも何でもしていくほうが気楽だし悩むことが無くて楽なんだよなぁ。

 だから、皇子は生かしておいて逃がしてやるというわけです。まぁ、文句がある人がいるなら、その人も好きにやれば良いんじゃないかな? 俺は好きにやるから、そっちもどうぞってことで、だからまぁ、あれだね。


「俺は逃がしてやるが、他の奴もそういう気持ちかどうかは知らんのでな。城を抜け出しても、その後に捕まったら俺は知らんぞ」


 俺は見逃すけど、別の人が皇子を捕まえたら、その人の都合優先てことで諦めてくださいってことを伝えて、俺は皇子を連れて歩く。


 向かう先はオワリの眠る病室で、皇子はベッドに横たわるオワリを背負い、その状態で逃げ出す準備をする。準備と言っても、俺が適当に食糧が詰まった袋を渡し、皇子が自分の白馬を連れてきたというくらいで、それらはすぐに済んだ。


「愛する二頭を引き離すのはどうかと思ったのだがな」


 皇子の乗る白馬はドラウギースに散々犯されていた雌馬なのだけれども、愛し合っているというより性欲処理にだけ使われていたようにしか見えないんだけど、これは俺の目が曇っているのかな?

 まぁ、それはどうでも良いか。ウチのドラウギース君の下半身事情が寂しくなっても、俺には関係ないな。そんなことより、皇子がこれから城を脱走するということの方が重要だな。


「それで逃げられるのか?」


 皇子の装備はかなり軽装で争いになったらどうにもならなそうなんだよなぁ。持ってる武器はウチの銃とオワリの使っていた拳銃くらいか。


「問題はあるかもしれないが、まぁやってみるとしよう。捕まったら、その時こそ諦めるさ」


 そういや、聞いてなかったことがあるんだよな。つーか、最初に聞いておくべきだったような気もするんだけど。


「どうして帝国に帰ろうと思った? 俺に捕まった当初は死を受け入れていたようだったが」


「最初はな。だが、私を嵌める画を描いた奴がいるのなら、そいつに思い知らせてやるまでは死にたくないと思っただけだ」


 うーん、なんだか色々と思う所があるもんだね。俺は罠に嵌った記憶とかすぐに忘れるから復讐しようとか思わんのだけど。気にする奴はいるんだね。

 まぁ、頑張ってみたいな感じかな。面識のない奴が死のうが、俺は構わんので皇子には復讐でもなんでも勝手にしてくれって思うよ。


「貴公には色々と感謝している。この恩は必ず返そう」


「生きてたら返してくれ。死んだ時は踏み倒されたと思って諦めるがな」


「ああ、そうだな。まぁ、貴公も困ったら帝国に来るといい。私が生きて帰れたら歓迎するぞ」


 帝国ねぇ。あんまり見知らぬ土地には行きたくないんだよなぁ。


「この国の居心地が悪くなったら帝国に行くのも悪くはないだろうがな。現状ではその必要はないんでな」


 そりゃ、この国にいても嫌な思いしかしなくなったら、さっさと逃げ出しますよ。まぁ、そんなことにはならんと思うけどね。だって、俺が頑張ったから戦に勝ったみたいだし、俺って実は英雄らしいのよね。英雄の待遇とか悪くはしないだろうから大丈夫でしょう。駄目だったら、帝国にでも行くけどさ。


「もう良いだろう。さっさと行くと良い。人に見つかると面倒なんでな」


「ああ、そうさせてもらおう。だが、忘れないでくれ、私は生きている限り、貴公への恩は忘れない。そして、それを返すこともな」


 じゃあ、死なないと良いね。帝国に帰ったら殺されたりとか笑えないしさ。だったら、いっそアレだね。


「ならば、皇帝にでもなってもらいたいものだな。そうすれば、お返しも期待できるだろう」


 皇帝になれば殺されなさそうだし、なってもらった方が俺は得じゃないかな? ついでに皇帝にでもなって貰えば、お返しもたっぷり貰えそうだしね。


「貴公がそれを望むのであれば努力はしよう。いや、それが一番良いかもしれないな」


 なんだろうかね。なんか納得するようなところでもあったのかしら?

 まぁ上を目指すのは良い事だし、頑張ってもらいたいもんだ。俺は頑張りたくないから、上は目指さないけどさ。


「流石にいつまでも、こうして話しているわけにもいかんな。私は行こう」


 そう言って皇子はオワリを荷物のように載せた馬に跨った。

 ようやく出発のようだけれども、雪が降っている真夜中に移動とは大変なこった。


「では、また会おう」


「ああ、またな」


 皇子は俺の返事を聞くと、馬の腹を蹴って走らせる。

 雪が降る中を走る皇子と俺の距離は瞬く間に広がり、すぐに見えなくなった。

 今後はどうなるかは知らんけど、たぶん逃げ切るだろう。

 しかし、また・・か、思わず言ってしまったけど、次に会うことになるんかね? まぁ、先の事は誰にも分らんし、また会うこともあるかもな。それがいつになるかは分からんし気にすることでも無いんで忘れるけどさ。


 さて、ウーゼル殿下も近いうちに此処に来るだろうし、ノール皇子が逃げ出したって報告しなきゃならんね。

 いや、それよりもノール皇子が逃げ出したって他の奴らに言わなきゃならんのかね。まぁ、オリアスさんとグレアムさんが近くで覗き見しているのは気配で分かるから、あの二人には何も言わんでも良いだろ。しかし、他の面子がなぁ。

 逃がしといて今更だけど、逃がさなきゃ面倒が少なかったって気づいちゃったよ。まぁ連れ帰るってのも格好が悪いからやらないけどさ。だけども、話すの面倒なんだよなぁ。


 さて、これからどうすっかね。

 とりあえず、ウーゼル殿下が来たら、ノール皇子に逃げられましたって言っておけば良いか。

 まぁ、許してもらえるだろ。だって学友だし、そんくらいは大丈夫じゃないかな?




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