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和やかな話

 

 しばらくぶりにノンビリ気分で茶が飲めて有り難いね。


 ジーク君はあまり面白くなさそうな顔で茶を淹れて、さっさと帰ってしまいましたけど、まぁいいかな。

 話し相手にはノール皇子がいるわけだし、退屈はしないと思うからさ。しかし、退屈しないとは言っても、男と二人きりで茶ってのも華がないよな。

 やっぱり綺麗な女の子を見てる方が精神的に良いと思うんだけど、綺麗な女の子はいないから諦めるしかないのがなぁ。早くエリアナさんとか来てくれないもんかしら。セーレウム城を落としたから、こっちに合流するみたいな話になってるはずなんだけどな。


「まさか、こうして貴公と茶を酌み交わすことになるとはな」


「酌み交わすなら酒の方が良いがな」


 昼間だし、なんだか偉いっぽいらしいノール皇子の前だから自重してるけど、せっかく一仕事終えて暇になったんだから昼間っから酒でもかっくらってお昼寝とかしたいんだけどな。


「私は酒でも一向に構わんがな。どうせ長くはない身の上だ。好きなように振る舞うのも良いと思えてきたのでな」


 ああ、そうっすか。じゃあ、俺もお酒でいいかな。

 つっても、お酒はこの場にはないから、持ってきてもらわないといけないんだけどさ。

 そういうわけで、テーブルの上に置いてある呼び鈴を鳴らす。俺も結構な立場になったので、呼び鈴を鳴らせば、部屋の外に待機している兵士が俺の為に馳せ参じてくれる。


「お呼びでしょうか、閣下」


「酒を持ってきてくれ。種類はなんでも良いが、ノール皇子も飲むのだから、なるべくならば帝国の物が良いだろう」


 帝国の奴らから接収した物資の中にお酒もあっただろうから、それを飲みましょう。

 皇子も帝国に帰れないかもしれないし、最後に自分の国の味でも口にしておいた方が良いんじゃなかろうか?


「気遣い感謝する」


 兵士が出ていくなり、皇子が感謝の言葉を述べてきた。別に良いんだけどね。俺も飲むからさ。


「酒が届くまでは茶でも飲んでいよう。せっかく、ジークが淹れたのだから一杯も飲まないというのもな」


「あの少年が淹れたのなら、私の方には毒が入っていそうだな」


「既に毒は吐き終わってるだろうから、毒に関しては心配はいらんだろう」


 結構、ノール皇子に対して強い口調で物言ったし納まってるんじゃないかしらね。まぁ、実際に入ってたら悪いけど、俺にはどうしようもないし知らんぷりするけどさ。

 そんなことを考えながら、お茶をズズーっといただきます。うーん、普通かな。まぁ、俺の周りには茶を淹れるのが上手い人はいっぱいいるから、そういう人と比較するとジーク君はイマイチだよな。


「実を言うと私は茶が苦手なのだ」


 思いっきり飲んでからノール皇子がぶっちゃけやがった。飲む前に言えよって思う俺はおかしいんだろうか?


「帝国にも茶はあるが主流はコーヒーだ。貴族やらは気取って茶を飲むが、私はコーヒー派なんでな。茶を有り難がって飲む奴らの気が知れないな」

 有


「コーヒーという飲み物は飲んだことがないな。王国にはないものだ」


「ならば機会があれば私が淹れてやろう。私はミルクと砂糖を大量に淹れるのが好みだし、コーヒーの飲み方としてはこれこそが王道だ。貴公も一口飲めばコーヒーの美味さは分かるはずだ」


「そういえば、帝国は砂糖の栽培も盛んだとか聞いたな」


「ああ、帝国の南は高温多湿でサトウキビの栽培に適しているので大量にあるぞ。王国は砂糖大根だったと思うが、他国の砂糖の事情まで知っているとは驚きだな」


 そういや、なんで俺は知ってんだろうね。どっかで聞いたような気がするんだけど、誰が言ったんだっけか? エリアナさんが言っていたような気もするけど、いつ言っていたんだっけ?


「しかし、淹れてやるとは言ったものの豆が無いのでは難しいな」


「残っているかもしれんから、兵に探すように言っておこう」


 美味いらしいから飲んでみたいし、俺の為に兵士諸君には働いてもらうとしよう。

 そういや、兵と言えば帝国の兵士は捕虜にして労働させてるんだったよな。処遇に関してはどうするか、そのうち決めるんだろうかね。まぁ、俺には関係なさそうだし、どうでもいいけど。


「こうなってみると、良い思い出が多いわけでもないが帝国が恋しくなるものだな」


 おや、皇子が茶をすすりながら、物思いにふけっているようです。

 なんか気になるんで聞いてみましょうか。


「俺は知らんのだが、帝国とはどういう土地なんだ?」


「別にたいした土地ではない。王国とさほど変わらんよ。ただ、こちらよりは遥かに暖かいがな。特に南に行けば行くほど高温多湿になり、樹木が鬱蒼と生い茂る大森林地帯となる。その辺りになると王国の夏が、帝国の春くらいの気温になるだろうな」


「暮らしにくそうだな」


「そうでもない。緑が豊かであり、大地の恵みも豊かな土地だからな。生きていくこと自体は苦労しないだろう。生きていくこと自体という注意がつくだろうがな」


 なんだろうかね。問題でもあるんかしら。


「生きていくのには苦労しないだろうが、文明的な生活を送れる場所は少ないのが帝国という土地でもある。森に入れば食うのに困りはしないだろうが、食うのに困らないというだけで、生活するには不向きな場所が多すぎるのだよ。切り拓くにも困難な大森林ばかりだからな。結果として帝国という国の版図自体は大きいが、人が住んでいるのは僅か。そして、その僅かに大量の人間が密集している。これで食糧でも不足してくれていれば、適切な数に落ち着くのだろうが、少し森に入れば食うのに困らない環境であるので、飢えることは無く人が死ぬことも少ない。よって、人は増えるばかりで住む場所は減るばかりということだ」


 こっちに比べりゃ天国みたいな気もするけどね。食うに困らないとか良くないですか?

 まぁ、俺は文化人だから森に囲まれた暮らしとか嫌だけどね。人間らしく生きるには鉄とか石に囲まれてないとな。


「まぁ、そんな事情もあって帝国は王国を侵略しようと企んだというわけだ。開拓するより他人様の土地を奪うことを選び、その結果が今の有様だがな」


 敗けて大変ってことかな。その割にはノール皇子は平気そうだけどさ。


「もっとも、大量に死んだおかげで、帝国側の土地にも余裕が出来るだろうから、今の結果にしても帝国が抱える問題を解決する一助にはなっただろうさ」


「勝っても敗けても、良い結果が出るのは良い事だな」


「全くだ。これで私の末路も安泰ならば言うことは無いのだがな。国交が無い国に侵略しておいて、そういうわけにもいかんだろう。民に示しがつかないだろうからな」


 示しがつかないってのは良く分からないけど、まぁ、調子こいて攻めてきた奴の首くらいは一面に並べとかないと溜飲が下がらないような気もするよね。

 ついでに、戦争に勝ったから下々の奴らが調子に乗るかもしれんし、偉そうな口を叩く可能性もあるから、ここらで一発、自分たちの支配者がどれだけ怖いかを分からせておいたほうが良さそうねってのはあるよ。


 つっても面倒だからやらんけどね。処刑に関してはウーゼル殿下がやってくれるんじゃないかな。

 俺は別にノール皇子のことはそんなに嫌いじゃないし、積極的に処刑したい感じでもないんだよなぁ。まぁ、積極的に処刑を止めようって程、好きでもないから放っておくけど。


「あまり暗い話をするのも茶が不味くなるな」


 そりゃそうね。まぁ、俺はいつどんな時に何食っても味が違ったって感覚は無いんだけどもさ。



 ――そういうわけで、茶が上手くなるように俺とノール皇子は楽しくノンビリお話しをしました。

 話した内容は、俺のこれまでの冒険譚みたいなものなんだけどね。それでも楽しんでもらえて何よりかな。


「貴公らの乗っている馬は見事だと思ったが、いやまさか、そんな風に手に入れていたとはな」


 以外と馬もお好きな様子なノール皇子。

 そういうことが分かったのでオレイバルガス大公領で馬をいっぱい手に入れた話をしてやりました。あの辺りは馬の名産地らしいし、俺とオレイバルガス大公家の人達は仲良しなんで頼めばいくらでも融通してくれます。


「私の母方の家も馬の名産地でな。これでも、それなりには馬に詳しいつもりだったが、貴公の持つ騎兵の馬は素晴らしいな。そのオレイバルガス大公領の環境のせいか臆病さが欠片も無いというのは軍馬にするには最高だな。もっとも、真に最高なのは貴公の馬だがな」


「ドラウギースのことか?」


「ああ、そうだ。あれを馬と言うのにはいささか抵抗が無いわけでもないが、それでも素晴らしい」


 ああ、うん。素晴らしいって言ってくれるのは良いんだけどさ……。

 ごめんなさい。ウチのドラウギース君、皇子の馬を犯してました。

 ノール皇子の馬って気品ありそうなお姫様って見た目の牝の白馬だと思ったけど、それと俺の馬が盛んに交尾してます。動物に強姦とう概念があるのかは分からないけど、同意があるように見えないんだよなぁ。いや、もしかしたら嫌よ嫌よも好きのうちって可能性があるかもしれないけど。

 なんにせよ、黙っていた方が良いかな。


「いったい、あれほどの馬をどこで手に入れたのだ?」


「手に入れたというわけではないな。勝手についてきたといって良いかもしれん、まぁ何があったかと話すとだな――」


 マジで大した話じゃないんだよな。

 あれは、ええとオレイバルガス大公領での一件が片付いた後で……


「休暇も兼ねて少し遠出をした折に出会ったというくらいだな。遠出した先で立ち寄った村で頼まれごとされてな。野生の暴れ馬をなんとかして欲しいと頼まれ、その暴れ馬がドラウギースだったという話だ。最初は俺の護衛についていた兵士たちとジークフリートが何とか捕えようとしたが、全く歯が立たなかった。兵が槍を突き出しても躱して、兵を蹴飛ばし、ジークが斬りかかってもその刃を歯で掴み投げ飛ばすというような始末だった」


 いやぁ、思いだしても結構笑えるな。見事にジーク君投げ飛ばされてたしさ。


「最終的に俺が出てドラウギースと一騎打ちで屈服させ、事なきを得たという話だ」


 いやぁ、結構強かったよ。人生で数少ない力負けの経験だったしな。

 ドラウギースが突進してきたのを受け止めたら吹っ飛ばされたし、最後には全力で殴らざるをえなかったし、まぁそれでも俺の拳を何発も耐えてたけどね。そこらの馬じゃ、俺が本気で殴ると簡単に死んでしまうからさ。


「俺が勝った後、奴はよろよろと起き上がり俺についてきた。野生動物の本能なのか強い奴には従うようでな。せっかくなので、俺の馬にしたというわけだ」


「ふむ、その話を聞く限りでは、とてもではないが私にはアレを手に入れることは不可能だな」


 頑張ればいけるんじゃないかとも思うけどね。


 そんな風に和やかに話をしていると、ようやくお酒が届きました。

 結構時間がかかったようだけれども許してやろう。楽しくお話ししてて、ちょっと寛容な気分なんで。

 えーと、お酒はラム酒かな? まぁ、飲めれば何でもいいから気にしないけどな。


「まったくもって、ため息が出るな。何を思って、そんなものを持ってきたのか」


 ノール皇子が届けられたお酒を見て、そんなことを言いました。

 こっちが好意で用意したのに何が気に入らねぇんだよ、ぶち殺すぞ。


「いや、すまない。酒自体は良いものなのだが、その良い物であるというのがおかしいことでな」


 何がおかしいのかね?

 俺も見たことある奴だと思うんだけどな。これって、そんなに良いのかね。


「先程、話したオレイバルガス大公家で出された酒と同じ物に見えるが良い物なのか?」


 良く分からんので聞いてみましたけど、俺の質問で皇子の表情が一気に険しくなりました。

 なんか文句でもあるのかしら。あるんだったら、表に出ろって言うしかないんだけどな。外は雪降ってて寒そうだから、あんまり表には出たくないのだけどなぁ。


「それこそおかしな話だな。その酒は皇室御用達の品で一般には出回らない。一応、有力貴族なら手に入れることは不可能ではないが、普通に入手するのはまず不可能だ。贈り物にすること自体は不思議ではないが、それにしても他国の貴族への贈り物としては似つかわしくない。それは希少価値を理解している帝国人に渡してこそ価値があるものだからな。だが、そもそも、私としては何故、そしてどうやって帝国の人間が、それを贈り物として渡したのかが気になるんだがな」


 なんかヤバい気配を出し始めてるんだけど皇子殿下さん。まぁ、放っておきましょう。


「侵略のための足掛かりに接近した? それもおかしいと思うだろう?」


 俺に聞いてんの?

 おかしいって思うならおかしいんじゃないかね。俺は興味ないなぁ。


「私はそんな話は一言も聞いていないぞ」


 話す必要が無かったからじゃないかな。


「私は帝国が王国へ侵攻する第一陣だと聞いていた。だが、私より先に王国へと潜入していた者達がいるだと? ならば、なぜそれを私に言わない。大貴族に接近する伝手を持っている帝国の人間が王国にいるということを知っていたなら、私はいくらでも取れる手段があったぞ。味方が何をしているのか何も知らずに勝てるものか」


 そうやって皇子に頑張られると困っちゃうからじゃないかな。

 まぁ、俺的にも皇子に頑張られると敗けちゃいそうだから、皇子が頑張れなかったのは結果的に良かったように思います。


「王国に入り込んでいるなら、土地の情報も何もかも仕入れられただろうに。何を考えていたのだ、土地勘が無いというのが、どれほど大変なことか分からないでもないだろうが」


 なんか怒ってますね。

 まぁ色々と終わってから後出しで役に立つ物を渡されてもねぇ。物語とかで最後の敵を倒した後で、最強の武器とか貰っても今更感が漂うのを現実でやられると困るのは分かるよ。


「……なるほどな。どこかの誰かが、別の画を描いていて、私はまんまとそれに乗せられていたわけか。本当の敵は身内であったということだろうな……」


 なんだかノール皇子がヤバい方向に落ち着いてきてるように見えるけど、大丈夫なんでしょうかね。

 まぁ、俺に害は無さそうだから、大丈夫といえば大丈夫なんだろうけど。


「すまないが、酒を一杯貰えるか。お互いに話し合う必要があると思うのだが――」


 俺は別に話すことはないけれども皇子に酒を渡した。

 さて、なんだか面倒くさくなりそうな気配だぞ。できれば俺に関係のないところでやって欲しいんだけどな。

 そもそも、皇子は処刑されるだろうに色々考えても無駄だと思うんだけど、どうすんだろうね。まぁ、どうしても脱走したいなら手伝ってやらんでもないけどさ。皇子に関しては特に思うところは無いしね。



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