刃弾交差
結論から言えば、オワリはどこで戦ったか忘れたけど前に戦ったドラゴンだったような、そうじゃなかったような良く思いだせない何かよりは強いんじゃないかなとも思う。そのドラゴンっぽかった奴はデカいだけだったしさ。
まぁデカいってのは強いんで一概に否定する気は無いけど、俺が戦ったドラゴンっぽい奴は本当にただデカいだけだったからなぁ。デカいから威力はあるんだろうけど、当たらないから怖くもなんともなかったし。
その点、オワリは小さいけど俺に攻撃を当てられるから手強いね。体は小さいけど、俺を殺せる武器を持ってるわけだしさ。まぁ、手強いってだけで負ける気はしないけど。
さて、余計なことを考えるのはここまでにしてオワリを探すとしようかね。
オワリが通った回転扉はどういうわけか俺には開かなかったし、壁をぶち破ろうにも思ったより壁が厚くて時間がかかりそうだったから、普通に虱潰しに探そうと思います。まぁ、探そうにも迷ってしまっているんだけどね。
でもまぁ、放っておけば、俺のことをぶっ殺したいらしいオワリは出てくるだろうから、ここは待ちの構えでも、良いと思うんだけど――
「おっと」
そんなことを考えていると気配がしたので横に転がる。
直後に銃声が鳴り響き、一瞬前まで俺が立っていた場所に弾痕が出来た。
すぐさま銃弾が飛んできた方向を振り向くと、その先には案の定というかなんというか、オワリが立っており、俺に対して銃口を向けている。しかしズルっこい銃だな。さっきから弾込めしてる所を見てないんだが、弾が無限なんだろうか?
俺はオワリの方に向き直ると、自分の体に〈強化〉の魔法をかけて一気に距離を詰めるために走り出す。だが、オワリが俺が向かっていくのを見るやいなや、近くにあった部屋の中に飛び込んだ。
今度は隠し通路ではなく普通の部屋のようなので、俺も急いで追いかけ部屋の中に入ることにする。
よくよく考えてみると、俺はこの城の事を何も知らないんだよね。対してオワリは時間は短いながらも、この城の住んでいたみたいだし、城の構造とか把握しているわけだから、まぁ色々とできるよね。で、そんな俺の考えは当たっており、俺がオワリが入った部屋に入ると――
部屋が爆発して、俺が吹っ飛んだ。
いや、そんなにダメージは食らってないよ。
ぶっちゃけ怖いのは拳銃だけだしさ。ちょっとした爆発くらいじゃ俺はビクともしないんだよね。それが部屋の中が滅茶苦茶になるくらいの爆発で、その勢いで俺が部屋から吹っ飛ばされても、俺には傷一つありません。ちょっと皮膚がチリチリするのと耳が変な感じくらいかな。後は爆発の影響で部屋の中の物に火が着いて変な臭いがしているせいで少し鼻が駄目になってるくらい?
とりあえず、俺は体が大丈夫そうなんで吹き飛ばされて背中を壁に打ち付け、床に倒れた状態から起き上がることにする。だけど、そういうのを見逃す奴じゃないよね。
俺は寝転んだ状態のまま、おぼろげに気配を感じ取って首を振り、飛んできた銃弾を躱す。オワリが俺を殺すには頭を狙うしかないって分かってるから、狙いは予測できるんで躱すこと自体は出来ないわけじゃない。
つっても、それはオワリが何処にいるか分かってないと無理だと思うけど。流石に俺もどこから撃ってきてるか分からない銃弾を躱すのは難しい。
なんかオワリの気配を察知するのが大変になってきているような気もするし、もしかしたら当たっちゃうかもしんないは怖いね。しかし、なんでオワリを見つけるのが大変になってんだろうか?
まぁ、そんなことを考えていても仕方ない。とりあえず、オワリはまだ居るだろうか、ちょっと近づいてなんとかしないとな。そんなことを考えながら俺は起き上がろうとし、そしてスッ転んだ。
あれ?
なんか上手く立てねぇぞ。いや、立つまでは出来んだけど二足歩行のバランスが取れない感じ? めっちゃグラグラしてるんだけど、何これ? なんていうか、こう、耳の奥が爆発の衝撃くらったせいで揺れてる感じがするのが原因か。
あ、ヤバい。オワリがこっちに近づいてきてる。
この野郎、俺が調子悪いっての知ってて殺しに来てるな。なんていうかこう、相手が万全の状態になるのを待つような精神はないものか。まぁ、俺はないんだけどね。
とりあえず、立ち上がりづらいんで、近づいてくるオワリに向かって〈弱化〉の魔法をかけておきましょう。
いつの間にか出来るようになっていた古式魔法だけど、最近使ってないからヤバいかもしれないけど、まぁ行けるだろう。とりあえず、オワリの手の辺りにでもかけておこう。
「死ね」
「それは無理な話だ」
オワリに死ねと言われたが、死ねと言われて死ぬ奴はいないと思うんで常識に則って答える。
直後にオワリが拳銃の引き金を引く。
引き金を引く力は残ってるだろうけど撃った衝撃に耐えられるほどキミの手は頑丈だろうか?
銃声が鳴り響くが、俺の頭を狙っていたオワリの拳銃の銃口は発砲と同時に跳ね上がり、銃弾は全く見当違いの方向に飛んで行った。
〈弱化〉の魔法で手を脆くしておいたことにより、発砲の反動から生じる手が衝撃に耐えられなかったし、反動を抑えきれなかったってことなんだろうね。
衝撃に耐えられなかったせいで手から銃を落として手を抑えてるし、反動を抑えきれなかったから発砲の瞬間に狙いがズレたんじゃなかろうか。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。重要なのはオワリが手を抑えてよろめいてることなんだし、今の内に頑張って起きよう。まぁ頑張る必要も無く、俺は元気になったから、余裕で起き上がれるんだけどね。
そういうわけで起き上がったわけだけど、俺が起き上がるのと同時にオワリも復帰し、落とした銃を拾い上げて走り去ろうとしている。
逃げられると厄介なんで、オワリの脚に〈弱化〉の魔法をかけて走れなくしようとしたけど、上手く行かなかった。練習不足のせいか走ってる奴に当てられるほど〈弱化〉の精度は良くない。
「仕方がないな」
追っかけて斬るとすっか。
たぶん利き腕を痛めたからマトモに銃は撃てないだろうけど、念には念を入れておいた方が良いような気がするし。
というわけで、追いかけっこを再開する俺だけども、なんだか調子が悪い。
鼻が駄目なままだし、耳も少しおかしいままだからだろうか、感覚がいつもと違って変な感じがするせいだと思うけども。まぁ、そこまで問題があるわけではないから気にしない方が良いかもしれないな。
そんな風に、あんまり調子が良くない体のまま、俺は適当に周囲を捜索してみる。
城だけあって部屋はいくつもあるので、それぞれの部屋のドアを蹴破って中を確かめるのだが、いくら探してもオワリが見つからない。
もしかしたらいるのかもしれないけど、調子が悪いせいで見つけられてないのかも。耳と鼻が駄目なだけで、こんなに調子が悪くなるとは思わなかったな。普段から色んな感覚を総合して使ってるってことなんだろうか。
そんなことを考えながら俺が次のドアを開けた、その時だった。
開けるというより蹴破るという感じでドアを開いた瞬間、部屋の奥からオワリが飛びかかってきた。
反応が遅れるが、俺は辛うじて飛びかかってきたオワリを剣で弾き飛ばす。
剣と剣がぶつかる甲高い音が鳴り響き、弾き飛んだオワリを床を転がるが、すぐさま立ち上がり構える。
立ち上がったオワリは変な短剣を持っているけど、なんだっけアレ?
えーと、どっかで見たような……確か脇差だっけ、小太刀のような気もするし、大脇差って言っていいような長さの気もするけど、まぁどっちでもいいか。確か夢の中で聞いたような気がするよう、しないような。まぁ、なんにしても夢で知った知識をそのまま口にするのは頭のおかしい人のすることなので黙っていよう。
重要なのはオワリが剣を持って俺の前に立っているってことだよな。
銃が使えないコイツに負けるかな? もしかしたら負けそうだし気をつけた方が良いような……。
ってなことを考えているとオワリが俺に向かって球を投げてきた。なんか嫌な予感がしたので、俺がそれを避けると同時にオワリが俺の方に突っ込んでくる。
短剣を銃を持っていた方の手とは逆の方に持ち、俺に向かってくるが、たいして速くは無いので突っ込んできたオワリに向けて俺は剣を横薙ぎに振るう。
真正面から突っ込んでくるオワリは避ける様子もなく、短剣で俺の剣を受け止めるが、俺の方が力があるので受け止めたオワリは力負けし、吹っ飛んでいった。だが――
「いってぇ!」
吹き飛ばされる直前のオワリが最初に投げてきたのと同じ球を至近距離で炸裂させた。炸裂させたと言ってもそれ自体の威力は殆ど無かったわけだけども厄介な状況になった。
炸裂すると同時に球からは煙が一気に広がり、それが俺の視界を覆い、それに加えて、その煙が目に染みるのなんの。そのせいで凄まじく目が痛くて、目が開けられないくらいだ。
「殺ったぞ、アロルド・アークス!」
オワリの声がするが目が開けられなくて見えない。
煙は晴れてると思うけども、俺の目は未だに痛いままで開かない。どうしてこう正攻法で来られないもんかね。こんなことされると、俺が不利だからやめて欲しいんだけど。つうか、普段だったら見えなくても気配とか分かるんだけど、鼻と耳が調子悪いせいで気配を読むのが駄目になってるのがマズい。
どうすっかな、これ。このままだとヤバいし、仕方ないよな。オワリが何処にいるのか分からないんじゃしょうがない。やりたくないけど、やるしかないわけで――
俺は自分の片目に指を突っ込んだ。
痛いけど我慢する他ないな。
そして、俺は目に突っ込んだ指を引き抜くと同時に目に回復魔法をかけて状態を元に戻す。
これで多少視力は駄目になったが、概ね元通りだ。
俺のもとに突っ込んでくるオワリの姿も見える。
相当に驚いた顔をしているが知ったことじゃない。このまま叩き斬ってやろう。
俺は剣を上段に構えて一気に振り下ろす。振り下ろした刃は一直線にオワリの頭に向かうが、オワリはそれを短剣で防ごうと構える。だけども、力が違うので無駄だ。
俺の剣はオワリの短剣をへし折り、その勢いのままに剣を振り抜く。
――が、浅かった。俺の剣はオワリの額一センチ程度を割るだけで、オワリを殺しきれていなかった。
オワリは不敵な笑みを浮かべると、俺に額を割られた勢いに身を任せて地面に倒れるなり即座に俺の脚元に転がり、俺の脚に組みつき床に転がせようとする。
ちょっと予想外だったというか、調子が悪いせいだったというか、俺はオワリの動きに反応が遅れてされるがまま床に転がされそうになり、咄嗟に頑張って耐えようとした。だが、それが失敗で耐えようとした俺の膝裏に激痛が走ることになった。
当然、オワリが何かしたわけだが、この野郎、俺の脚に組みついた状態で俺の膝裏に折れた短剣をぶっ刺しやがった。
基本的にどんな攻撃も通さないくらい頑丈な俺の鎧だけれども、関節部分は動きを妨げないためだとかで若干薄い。そこを突かれたことで、予想外にアッサリ貫通し、俺の膝裏に折れた短剣が突き刺さったというわけだ。
俺はちょっと焦って脚に組みついたオワリを引きはがそうとするが、俺が引き剥がすまでもなく、オワリは俺の脚から離れている。で、離れたオワリが何をしているかと言えば。
「殺ったと言っただろう」
俺の額に銃口を突きつけていた。
その手に持つ銃は包帯で砕けた右手に無理矢理くくりつけている。俺を仕留められそうな武器がそれしかないからと言って随分と必死なこった。まぁ、その必死が実ったのかね。
俺も油断していたわけじゃないんだけどな。どうにも上手くいかない結果、こうしてピンチになっているわけだが――
「それは無理だと言っただろう」
額に突きつけられた銃の引き金が引かれようとした、その瞬間、俺は銃口に額を叩きつける。
俺の頭突きの衝撃で銃口の先は俺の額からズレ、直後に放たれた弾丸は額ではなく俺の頬を掠めた。まぁこれでも痛いから文句は言いたい。
「大人しくしろ!」
オワリは倒れた俺に馬乗りの状態で俺に対して左の拳を振るうが、その拳にも頭突きを叩き込み、拳を粉砕してやる。
俺は拳が壊れて痛そうな顔をしているオワリを下から蹴り飛ばし、馬乗りされていた状態から脱出するが、膝の裏に短剣が刺さっているせいで上手く立てない。だが、上手く立てないだけで、よろよろとは立ちあがれる。そんな俺に対してオワリも流石に疲れてきたのか動きが鈍い様子だ。
俺は普段とは比べ物にならないくらいの遅さでオワリに近づく。
オワリの方も砕けた右手にくくりつけた銃の引き金を引き、俺に向かって銃弾を放つ。
脚は駄目だが、腕の方は問題ない俺は銃弾を弾きながらオワリに向かって距離を詰める。銃弾を弾く度に剣を通して尋常ではない衝撃が俺の腕を伝わるが、それでも耐えてオワリに近づく。
オワリに逃げる様子は無い。
逃げたとしても無駄だということが分かっているんだろう。両手が砕かれていては逃げた所でどうしようもないわけだしさ。俺の方は今この場を乗り切れば脚の傷は回復魔法で治せるわけだから、オワリの方が不利だ。
それを悟ったのか、オワリが俺を仕留めるために距離を詰めてくる。
至近距離で確実に仕留めようってんだろうけど近づいてくれりゃ有り難い。
俺は力が入らない脚を引きずりながら踏み込み、剣で薙ぎ払う。
それを躱すと同時にオワリが発砲するが、俺の方もギリギリでそれを躱す。脚が良くないので、そう何度も躱せないが、どうせこれで終わりだ。
俺は躱した勢いのままにオワリに剣を振る。その一撃に対してオワリは躱さずに右手で持った銃身で受け止める。
腕力では勝っていると思ったが、なかなかどうして変な力が作用しているのか、この瞬間に限り俺の腕力とオワリの腕力は拮抗しているようだった。とはいえ、得物の重さが違うのだから、それを活かせば押し切れる。そう思った瞬間、顔面を殴られた。
オワリは砕けた左手を俺の顔面に叩きつけたようだ。予想外の衝撃に身体がよろめくと同時に俺の剣を抑えるオワリの力が増し、俺の剣を押し返した。
たたらを踏み、後ろに下がる俺に対して向けられる銃口。距離的には躱しようが無い。だったらやるべきなのは――
俺が即座に判断し実行すると同時に銃声が響く。
しかし、その銃弾は俺から外れて飛んで行った。
必中の自信があったのだろう、驚愕の表情をしているオワリ。すぐに俺が何かしたと理解し、再び銃口を向けてくるが、遅い。
俺がやったのは正解だ。とはいっても別にたいしたことはしちゃいない。オワリの脚に〈弱化〉の魔法をかけて、脚の力が抜けるようにしただけだしな。まぁ、そのせいで体のバランスが崩れて狙いが外れたわけだけど。
俺だって、これはあんまりやりたくなかったんだけどな。なにせ、これをやると回復魔法に回す魔力が無くなるか膝裏を治せないわけだし、色々と問題があるんだよな。まぁ、そういう問題を棚上げにしても、オワリをなんとかするのが優先だったってことになるんだろうけどさ。
「今度は俺が言うぞ。殺ったとな」
俺の言葉に対して、オワリが拳銃の引き金を引き、銃声が響く。
重ねて言うが、それはもう遅い。
俺は傷を負った脚にも力を入れ、オワリの懐に向けて一気に飛び込む。放たれた弾丸は俺の耳を削るが、それを気にしているような暇はない。
すでに至近距離、ゆっくりと狙っていては返って当たらないだろう。即座に判断して、即座に撃つ。それに失敗したオワリは俺に対して完全に出遅れている。
オワリが発砲したのとほぼ同時に俺はオワリの懐に辿り着き、そして剣を振る。
咄嗟に後ろに下がろうとするオワリだが、俺の剣はそれよりも遥かに速い。
放った俺の剣は下がるオワリに追いつき、肩口目がけて走るとオワリの右腕の肩からを下を斬り飛ばす。
オワリの腕は銃を持ったまま宙を舞い、それが床に落ちると同時に失った右腕の傷口から大量の血を流し、オワリは崩れ落ちる。
これが俺とオワリの決着だ。




