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約束守りの図書館令嬢  作者: 北乃ゆうひ


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46冊目 砂の淑女との情報共有という名の女子会


 まずフィンジア様と共有したい話題は、ティーナさん一行に関して。

 陛下や殿下、ケルシルト様には伝えてあるものの、フィンジア様にはしてないからね。


「そうですか……なかなか複雑なお立場の方々のようですね」

「はい。だからこその諸国漫遊なのかもしれません」

「えーっと、どういうコト?」


 首を傾げるサラに、フィンジア様と私は小さく笑い、解説を口にする。


「簡単に言ってしまえば、国内でのほとぼりが冷めるまでの旅ってコト」

「ティーナ様が貴族籍を失うような事件があった。それに王族である旦那様も関わっているのでしょう。

 平民に知らされぬ事件であれど、貴族の中ではすぐに広まります。だからこそ、ほとぼりが冷めるまで国外で活動をしているのでは……というコトです」

「まぁあくまで私たちの推測だけどね」


 私たちの推察に、サラが目を瞬いている。


「お姉様も、フィン姉様も……推測でそこまで考えられるんだ」

「まぁこういうのは馴れよ馴れ」

「そうね。イスカの言うとおり。馴れてしまえば考えられるようになるわ」


 急がなくて大丈夫――と、サラに言いながら私たちは推測と解説を続けた。


「二大公爵と呼ばれる家が後ろ盾にあるという時点で、ティーナさんも望めば貴族に返り咲けるんだろうな……と考えてるんですけど」

「大いにありえるわね。だからこそ、結婚して無くとも旦那様呼びの可能性があるんじゃないかしら」

「貴族籍が戻りしだい結婚ですか。ありえそうですね」


 向こうの内状は分からないけれど、大きく外れてはいないはずだ。


「……それだと、ティーナさんって人を変に平民として扱うのは悪手、だよね」

「サラの言う通りね。ふつうに王子殿下の奥方として扱うべきでしょう」

「フーシア以外のバカが調子乗らないコトを祈らないとね……」


 正直、予定調和ともいえるフーシアよりも、密約三同盟への過激派アンチの方が怖いんだよねぇ……。


 あとこちらのバカがティーナさん相手に何かやらかした場合、我が国の負担がやばそう。

 貴族としてはフィンジア様やケルシルト様と同じぐらいおっかない人だと思うのよね、ティーナさんって。


 とことんまで搾り取るような和解条件を、飲み込まざる得ない状況を作り出した上で提示されかねない。


「そういえばティーナさんからの伝言で、祖国の箱姫様を馬鹿にするような言動には気をつけるように――って」

「確か、あの国の第二王子殿下の奥方は、元引きこもりの箱入りだそうですね。その方のコトでしょうか?」


 第二王子。ティーナさんの旦那さんも王子であることを考えると、そのご兄弟。


「でも、余所の国の――しかも遠く、東部諸国の王子殿下の奥方がどんな人だろうと、この場にいないならあまり警告する必要もない気がするけど」

「そうね。サラの言う通りではあるんだけど……」


 王子の奥さんが、引きこもりの箱入りっていうのも、大丈夫なのだろうか――となるけれど……うちの国にはそこまで関係のない話にも思う。 


 だけど、ティーナさんがわざわざ警告してきたのだから、そこには何か意味があるのだろう。


「ある意味で、皮肉や嫌味を言う上で突きやすい部分ではあるわよね?」


 フィンジア様の言葉に、私は理解できた――とばかりにうなずいた。


「貴族としてのマウントの取り合いは国同士でもさほど変わらないですものね。分かりやすい(きず)は、突きたくなるというモノですね」


 つまり、その突きやすさこそが罠。


「つまりそれって、調べれば簡単に出てくる分かりやすい弱点のようで、実は一番攻撃してはいけない場所って……コト?」

「ええ。サラの言う通り、むしろ相手からの攻撃を誘うための弱点なのでしょう。

 ちゃんと調べれば手を出すのは危険だと分かるけど、雑な調べ方だと弱点に見える……そういう罠なのだと思うわ。

 それにしても――罠に関してわざわざ警告してくれるなんて、イスカはティーナ様にずいぶんと気に入られているようね」

「そうなのかな?」


 思わず首を傾げてしまうけど、そう言われるとそうかもしれない。


「なんであれ、陛下やアムドウス殿下とも共有しておくわね」

「はい。そうしてください」


 ともあれティーナさん一行の話はこんなもので、もう一つの話をしたい。


「ああ、そうだ。ちょっと魔法についてのお話もしたいんですけど」

「あら? 何かしら?」


 そんなワケで、東部で提唱された魔法の卵に関しての話をする。


「羽化……ですか」

「はい。フィン様の魔法が、『土』から派生して『砂』になるような状態のコトのようです」

「魔法を日常使いしているほど、心の在り方、考え方などの影響を受けて羽化したり進化したりする……確かに心当たりありますね」


 そこから概念属性と、魔法の持つ人格の話をする。


「つまり、母さんも自分(魔法)と向き合えれば目を覚ますかもしれないの?」

「可能性は低いかも知れないけどね」


 サラの言葉に、私はうなずく。


「例え低くともそのような可能性があるというのは大きいですね」


 フィンジア様も、サラを見て何か思うことがあるようだ。

 気遣うような視線を向けている。


 理想としては、フーシアに正気に戻って欲しいところだ。

 もっとも、戻ったところで結末は同じなのだけど……。


 うん。これは私とフィンジア様の自己満足という面が強いかもしれない。


「――とまぁ直接共有したかった情報はこれですかね」

「助かりました。

 魔法に関しては、西部(こちら)ではあまり情報交換をする機会が無いですから。

 それにティーナさんたち一行についても。なんの情報もないまま持て成すのも難しいですもの」


 相手側の情報がないというのも、ホストとしては大変だものね。


「そのうち、密約としてお呼ばれもしそうですね。相手側の情報が少なすぎて」

「そのときはよろしくね。イスカ」

「もちろんです」


 今のうちから、ティーナさんたちの国について調べておくのもありかもなぁ。


 それはそれとして……っと。


「ああ、そうだ。それと――」


 私はエフェに声を掛けて、彼女に預かっていて貰っていたもののを手にする。


「こちらは私個人からフィン様宛へのお礼と謝罪を兼ねたものです」


 差し出したのは何枚かでひとまとめになった紙きれだ。

 それを不思議そうに受け取りながら、フィンジア様は首を傾げる。


「頂けるのなら頂くけれど、お礼や謝罪の必要はあったかしら?」

「我が家が迷惑を掛けたコトへの謝罪。そして協力してくれているコトのお礼です。

 個人的な感情によるモノなので深い意図はありませんが、よろしければ受け取ってください」

「何かのレポート? 中を見ても」

「是非」


 私がうなずき、フィンジア様がそれに目を通し始めると大きく表情が変わっていく。


「お姉様、あれ何?」

「ライブラリアの英知を用いて調べた――まだ世に出てないだろう美容品に関するレシピや、美容に使えそうな素材やヒントをまとめたメモ」

「それはまたとんでもないモノを……」


 サラは呆れてるけど、個人的にはフィンジア様とも仲良くしたいしね。

 アムドウス殿下が王位に就けば、密約などでフィンジア様と接する機会も増えるだろうし。


「……イスカ。打算ありきだとは思うけれど、とんでもないモノをくれたわね」

「ライブラリア家当主として、ラデッサ家と、そしてフィンジア様が経営しているお店との繋がりは欲しいですからね」

「なるほど。賢者の一族だものね。こういう知識も持ってても不思議ではないか……」


 下唇に手を当てて何か考え始めたフィンジア様。

 頭の中では様々な損得が駆け巡っていることだろう。


 その間に、私はサラへと軽く告げる。


「いい、サラ?

 ライブラリアの英知は、ただ貯蔵しておくだけのモノじゃないの。

 こうやって適切な時に適切に使用してこそだと、ちゃんと理解しておいてね」

「はい」


 サラの良い返事を聞きながら、視線をフィンジア様に戻すと、あちらも落ち着いたようだ。


「ラデッサ家としては動けないけど、商人としての私個人としてはイスカと――ライブラリアの当主と取引したいわ」

「では、そのように。詳細は後日で構いませんか?」

「ええ」


 フィンジア様はほくほく顔だ。

 機嫌が良さそうなので、一つお願い事をしてみよう。


「あのフィン様……お願いというか、可能なら――という話なのですけど。

 そのメモにあるハンドクリーム。それを販売するにあたって、平民たちにも手を出しやすいモノも作って貰えませんか?」

「それはどうして?」

「使用人など、炊事洗濯を行う者の手荒れは酷くなりやすいですから。

 貴族は彼らに日常を支えて貰っている以上、より快適に仕事をして貰いたいので」

「なるほど。そういう考え方もあるのね」

「そうでなくとも、水や土をいじるメイドや使用人たちの手も荒れやすいですから。

 私たち当主や淑女よりも、よっぽど必要ではないかと」


 私がそう言うと、フィンジア様は一つうなずく。


「イスカはそういうタイプね。でもそうね。一理あるわ。考えておきます」

「はい。お願いします」


 今日はこんなところかなぁ――などと個人的には思ったんだけど、ちょっと考えが甘かった。


「そうだわイスカ。話題を雑談に戻したいのだけれど」

「はい? なんです?」

「ケルスに泣かされたのよね? 仕返しはした?」

「……え?」


 いや待って。どうしてフィンジア様がその情報を知っているの?

 思わず背後で控えているエフェへと顔を向けると、彼女は必死に首を横に振る。


 エフェではないとなると――エピスタン様かぁ……!


「お姉様。ケルシルト様に泣かされたの?」

「え?」


 そして、どういうワケかサラにも謎の火が灯ってる。


「そうよサラ、聞いて頂戴。

 イスカのコトだから貴女に黙ってたとは思うのだけれどね?」

「あ、あの……!」


 ぷんぷんという様子でフィンジア様がサラに説明しようとするものだから、私が止めようと動く。

 けれど、どこからともなく現れた砂に口を塞がれてしまった。


 こ、ここまでするのかフィンジア様ッ!?


「ケルシルト様……いくら女性の扱いが得意ではないと言ってもさすがにそれはお姉様が可哀想ですッ!」

「そうなのよ! 確かに彼の女性嫌いには同情の余地があるけれど、だからといって扱いがヘタなのは別問題なの!」


 いやあの。

 当人の口を塞いで、外野で盛り上がられても困るんですが?


「殿下がケルス様も叱ってくれてるとは思うのだけど」

「でも、叱られたあとにお姉様へリアクションされてないのですよね?」

「ええ。ケルス様のコトだから、どうして良いか分からないと頭を抱えて動けないだけよ。

 その辺りはエピスタンがフォローしてくれるコトを期待しているのよね」

「エピスタン様ならその辺りしっかりしてそうですものね!」


 なんかフィンジア様もサラも生き生きとしてない?

 あと、エフェやミレーテ……フィンジア様のところの人たちまで、興味深そうに目を輝かせてるのなんなの?


 ……なんていうか、自分の涙を肴に盛り上がられてるのを横で見てるのって、なんかすっごい気まずいしメンタルにくるんだけど……ッ!


「あ、そうだフィン姉様。個人的に相談したいコトがあるんですけど、お姉様の婚約式までのどこかでお時間あります?」

「そうね。それだったら……」


 そんな感じで、サラとフィンジア様が二人で盛り上がっていったので、途中で私のことはだいぶ忘れられているようです。


 ……せめて、魔法の砂で作った猿ぐつわだけは外して欲しいんだけどなー!


 喉渇いたからお茶飲ませてーッ!


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