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288:ダイヤモンド遺跡の場所

 ――翌日のことだ。俺は皆を家の中へ招集した。


「本日集まってもらったのは他でもない」


 一度言ってみたいセリフだった。ちょっと嬉しかったりする。


「昨日起動させた《サーチペーパー》から連絡が入った」


 皆の顔がハッとなる。昨日の今日で結果が出ると思っていなかったのかもしれない。しかしそこはマッハ3以上で飛行することができる紙飛行機だ。さすがといえよう。


 まああのあと、人海戦術の方が効率が良いと思い、オズに何十枚も《サーチペーパー》を書かせて飛ばさせたからこその迅速さだろうが。そのあとグッタリしているオズは見物だった。


「マスター、それはどちらの……だ?」


 ヨーフェルの質問は、ドワーツの拠点か【ダイヤモンド遺跡】か、であろう。


「ドワーツの拠点はまだだ」


 俺の言葉に期待の眼差しを向けていたオズが分かりやすくガックリとした。


「見つかったのは幻と言われる【ダイヤモンド遺跡】だ。意外にもここからそう離れていない場所にあった……だが」

「だが……どうしたんでござるか、大将? 何やら問題がありそうな様子で」

「カザの言う通り、少々厄介な場所にあることが判明したんだよ。ていうかオズの書いた情報を見ておくべきだった」


 昨日、彼女が書いた情報に目を通さずに、そのまま飛ばしていたのだ。だからその場所が分かった瞬間に度肝を抜かれた。


「も、ももももしかしてボクが変なこと書いちゃったん!?」

「いや、オズが悪いわけじゃねえ。俺の早とちりだっただけだ」


 そう、先入観に囚われていただけだ。

 まさか俺たちが求めていた遺跡が――あんな場所にあるなんて。


「遺跡は日本から南東にある【マリアナ海溝】と呼ばれる海底で発見された」

「海……海の底ということですかな?」


 シキの言葉に俺は「ああ」と頷くと、次にイズが「なるほど。それは盲点でしたわ」と、彼女もまた予想していなかったような言葉を漏らした。


 そうなのだ。俺も勝手に陸地にあると思い込んでいた。どこかの洞窟とか、地下遺跡とかを想像していたのだ。

 それがまさか海底だとは、その可能性を考慮していなかった。実際サーチペーパーには海中と書かれていたので、それを見れば一目瞭然だったのだが。


「しかし大将、海底なら何故厄介なんでござるかな? ……は! もしや大将は泳げないのでござるか!?」

「違えよ! 誰がカナヅチだ! 俺はちゃんと泳げる。そうじゃなくてだな……あー、まあお前らにまずは【マリアナ海溝】の説明をしねえといけなかったな」


 そこは日本人でも知っている人が多い場所だし、どんな場所か知らなくても名前くらいは聞いたことがあるほどのネームバリューを持っている。

 俺は咳払いをしてから続けた。


「【マリアナ海溝】ってのは、この地球で最も深い海溝を持つ場所だって言われてんだよ」

「ふむ。距離にしてどれくらいでござろうか?」

「確か最深部は1万メートルを超えてたはずだ」


 さすがにその深さにギョッとする面々。イオルやソルなんかはピンときていない様子だが。故に真っ先に疑問を口にしてきた。


「ねえご主人、深かったらダメなんですか?」

「このおバカさんはまったく……いいですか、ソル」


 溜息交じりに物知りなイズが説明をし始める。


「水深が深くなるにつれて水圧が上昇するのは御存じかしら?」

「すいあつ? それおいしいのです? だったら食べてみたいのですぅ!」

「主様、お手上げですわ」


 早いよ! 諦めが早い! まあ気持ちは分かるけども!


「あーそうだな。ソル、圧力だよ圧力。例えばだな……」


 俺がソルをギュッと腕の中で抱きしめる。


「ぷぅ~! あったかいのですぅ! ご主じ~ん!」

「な、何て羨ま……おほん! ……そんな羨ましいこと許しませんよソル!」


 言い直したのに変わってないだと!? ……って、そんな茶番は置いておいて。

 俺は徐々に抱きしめる力を強くしていく。


「……っ、ご、ご主人……ちょっと強いのですぅ」


 だがまだまだ強めていく。


「ぷっ……ぷぅぅぅ~……く、苦しいのですよぉ~」


 そこで俺はパッと離してやると、ホッとした様子でソルは俺を見上げてくる。


「今のが圧力だぞソル」

「ほえ?」

「身体が押し潰されそうだったろ?」

「はいなのです」

「その力が圧力。そして水の中にいれば、今のような圧力が常に身体を襲うんだ」

「? で、でもお風呂に潜っても全然アツリョクなんて感じませんですよ?」

「そりゃまだまだ弱いからだよ。……イズ」

「はいですわ。いいかしら、ソル。先程も申し上げましたが、水深が深くなるにつれて水圧……圧力が強まります。しかしそれは水深十メートルごとなのです」

「十メートルごと……」

「そう、今あなたは主様に押し潰されそうになっていましたが、あの力がどんどん強まっていくのです。そして徐々に押し潰されていき最後には――――バンッ!」


 わざとホラーっぽく言っているから、ソルが「ひぃ!?」と怖がっている。


「例えば主様を例に取りましょうか。主様のような人間には肺という臓器があり、それは水圧の影響を受けやすいのですわ。そのため強力な水圧を受けてしまうと、肺が潰れてしまうのです」

「そ、それは大変なのですぅ! ご主人、海の中はとっても危険なのですよぉ! ご主人がペチャンコになるなんて嫌なのですぅぅぅ! それに最後にはバンッて! バンッてぇぇぇぇ~!」


 何を想像したのか、ソルは泣きながら俺の胸の中に飛び込んできた。俺はそんなソルを「はいはい」と言いながら撫でてやる。


「人間が耐えられる水圧なんてタカが知れてますわ。水深でいっても200~300メートル程度でしょうね」


 イズの言う通りだろう。生身の人間は、たったそれっぽっちしか潜ることはできない。

 つまりは200メートルから深海と言われているが、その入口程度しか身体が耐えられないということだ。


 しかし【マリアナ海溝】の最深部は1万メートル。さすがに《パーフェクトリング》で強化している俺でも耐えられないだろう。





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